プロローグ
初投稿作品です。拙い出来ではありますが、楽しんでいただけると幸いです。
女の子の目の前には絶望が広がっていた。
さきほどまで楽しく談笑していたはずの男の子は女の子を庇い血だらけになり倒れている。
しかし、そんなものはおかまいなしに鎌を構えた少女が女の子の前に立つ。
「あーあ邪魔されちゃった……。この子も半分しか刈り取れてないし」
目の前の惨劇を起こした張本人が不機嫌そうに倒れた男の子を一瞥すると、手にした血まみれの鎌を再び振りかぶる。その姿はまさに死神そのものだった。
「させるか……ッ!」
しかしその鎌は振り下ろされる事はなく一人の女性によって阻まれる。
振りかざされた鎌を、手にした刀でいなすと死神に向かって必殺の掌底を放つ。
しかし死神もすぐに反応し、すかさず鎌の柄で防御し、反撃を見舞う。
女性と死神は互いに一歩も退かぬ攻防を繰り広げる。
「ぼやっとするな!こいつの狙いは君だ!私が時間を稼いでるうちに逃げろ!」
刀をもった女性が女の子にむかって叫ぶ。
しかし女の子はいまだに目の前の光景に頭がついていかず体がうまく動かない。
「だ……だって、私をかばって……血がいっぱい出て……本当は……私が守ってあげなきゃいけないのに……」
目の前に倒れている男の子を見てうわごとのように呟く。
本来ならば精霊と契約してない彼を自分が守らなくてはいけないのに、恐怖で何もできない自分の盾になって彼は死神の凶刃に倒れた。
なにかしなくてはいけないと思っても次々に恐怖や後悔、あきらめの気持ちが溢れて行動に移すことができない。
その間にも死神の猛攻は刀の女性を襲う。
「もう邪魔しないでよ姉さん、そんなに焦らなくてもその女の子を刈ったら次は姉さんの魂もいただくからさ」
そういって不敵に笑い、魔法を帯びた鎌で刀ごと女性をはじき飛ばす。
「くっ……言ってくれるじゃないか……」
顔を苦悶にゆがめながら体制を整え再び刀を構える。
最初は均衡していた攻防も、少女を庇いながら相手をしなければならないため徐々に押されてきている。
このままでは押し切られてしまうと判断した女性は恐怖で竦む女の子に叱咤する。
「君はその子の思いを無駄にする気か!大丈夫私を信じろ、かならず君もその子も私が救ってみせる!だから今は全力で逃げるんだ!早く!」
その言葉に少女は歯をくいしばる。
何もできない自分の無力さに激しい後悔を抱きながらも、恐怖を押し殺し震える足に力を込めてその場を背にする。
あふれる涙もそのままに、全力で町へ向かって走り出した。
「行かせるか!」
背後からは死神の魔法が死を誘う手のように這い寄る。
だがその魔法は決して少女に届く事はなかった。
「お前は私がここで討つ。それが私の業であり責任だ、あの子を殺させるわけにはいかない!」
再び死神と女性が対峙し、今度はお互い全力の戦闘がはじまる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
その光景を尻目に少女は全力で走り続けた。無様な自分を罵倒しながら、女性と男の子への謝罪を叫びながら。
そして少女は決意する。もう何も失わないように、大切な者を奪われないように強くなる事を。
目が覚めると、汗で布団も寝間着もびっしょり濡れていた。
久しぶりにみた悪夢に動悸がなかなか収まらない。
一つ大きなため息をつくと、少女は一人静かにかつての決意を呟く。
幼い頃の悪夢を振り払うように、もう一度大きく深呼吸をして顔を上げる。
あの日からずっと強さを求めてここまできた。
何もできず見ている事しかできなかった幼い自分ではない。
今日から始まる新たな地での生活でも、決して気を抜かぬように決意をあらたにして少女はベットを降りた。