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兎は月を墜とす  作者: hal
残夏の蜜罠
51/99

依頼

 今日も残夏の太陽が狂ったように照りつけている。しかし周囲を取り囲む強力な結界に阻まれ、王城を蒸しあげる事は出来ない。

 王城内手当室の小部屋。

 一年中快適な温度に保たれた室内。中が伺えないよう大窓のカーテンはしっかりと閉じられていたが、それでも細い隙間から日差しが入り込み、光の帯が部屋を二分している。


 装具の調整と検査の準備を終えた白竜の魔導師長ザルバは、ベッド横の椅子に座り読みかけの本を広げた。

 馬車を待ちカーテンを睨んでいた王子ミューラーは、ベッドの上、光の帯を挟んで逆側に腰を下ろし呟く。


「遅いな。また妙な格好で来るんじゃないだろうな」


 足の定期検査に来るはずのヘクターが、まだ現れていない。

 独り言だと判断したのかザルバは応えず、ミューラーは語尾を強め言い直した。


「なあ、遅すぎると思わないか?」


 ザルバは顔をあげ壁の時計に視線をやる。確かにいつもの到着時刻よりだいぶ遅い。


「……そうかもな」


 小声でそう言うと、再び本に意識を戻し続きを読み始めた。ミューラーは仰向けになり天井を見上げ、退屈そうに欠伸を放つ。

 二人に弾むような会話は無い。

 第一王子ミューラーの誕生を祝い、王子世代の国の護り手としてザルバが作られた。兄弟のようにまとめて育てられた為か既に互いの事を知り尽くしており、あえて話をしようとは思わない。


 静まり返った室内。時計が規則正しいリズムを刻み、頁の捲れる音が大きく響く。


 と突然、背後から騒がしげな物音が鳴り、沈黙を破る。大部屋に続く扉が勢いよく開かれ、ヘクターが飛び込んで来た。


「っわり。遅くなったか!? 城の中通ろうと思って、鉄柵門の裏で着替えてたらさ、守衛兵に捕まった。ちゃんと仕事してんだな、あいつら」


 本を静かに閉じ、ザルバは目をすがめる。


「何を言っているのか理解し難いのだが。何故、門の裏で着替えた?」

「ザルバは城の結界から出ないから知らないだろうけどな。今は真夏で城下は死ぬほど暑いんだ。マントなんて着て歩いたらぶっ倒れるぞ。だが城の中を楽な格好で歩き回るわけにはいかないだろう? だから結界に入ってすぐ、服を着替えたんだ」

「……お前は極めて適当な格好で歩き回っていただろう? 昔から」


 確かに今日のヘクターは、白の長袖シャツに質の良い革ベスト、その上から黒いマントといった、比較的真っ当な格好をしている。しかしザルバの記憶では狼時代、ヘクターはあまりきちんとした格好で登城するタイプではなかった筈だ。


 まあいいと呟き、ザルバはベッドの上、ミューラーの横を指差す。


「さっさと座れ。今日は馬車を使わず城内を歩いて来たのだな」

「おう。もう装具のお陰で歩けるからな。それに中庭、あんなだし。あんな場所通りたくねーよ」

「……そうだろうな」


 中庭に面する窓を顎で示す。

 カーテン越しに揺れる影。気配は多いというのに、会話は一切聞こえてこない。

 しかし恐ろしい人数に膨れ上がった見学者たちが、馬車の到着を今か今かと待っているのが感じ取れる。

 ミューラーが頭を抱えた。


 ヘクターはベッドに座りながら、ずっしりと重い麻袋をザルバに手渡す。ザルバは袋から酒瓶を引き抜きテーブルに並べた。

 瓶は全部で五本。それぞれに紙が貼られている。


「中身は解毒剤だ。うちの薬師から預かってきた。瓶に貼ってあるのが調合の仕方のメモ。後これな、次に作る薬に足りない材料のメモだ。手に入るか?」

「ああ問題ないだろう。早めに用意しよう」


 見せられた紙を一瞥し頷く。続いて瓶に貼られた調合メモを熱心に読み、困惑の表情を浮かべた。


「……感覚的だったり、解りにくかったりする部分を図説しようとしてくれているのは、有り難いのだが。これは……ワニだろう? 何故、ここにワニが描かれているんだ。ワニを用意しなくてはならないのか?」


 ヘクターも覗き混む。

 ダリアが一晩かけて書き上げたメモには、細かい文字で説明がびっしりと書かれ、僅かな隙間を埋めるように拙いイラストが描き込まれていた。


「……それは多分狼の絵で、俺の事だ。その薬を急速に冷やすとかで『冷却』唱えたからさ。左上に描かれているのが兎で、薬師自身の事だろう。それからこれは猫だろうな。ヤマネコの獣人が根っ子を刻むのを手伝っていたから描いたんじゃないかな。こっちは、アネットのつもりだな。アネットが鍋を混ぜていた」

「……何故、調合手順にそんな事まで描く必要があるんだ?」

「さあ?」


 ザルバは首を傾げ、メモを睨む。


「この『臭いが変わったら』はわかる。が、『調度いい量を』や『いい感じの頃合いで』では、経験則過ぎて全然わからんな。作る所を直接見てみなくては。申請は出しているのだが、全く外出許可がおりないのだ。おい、狗。次回は薬師も連れてこい」

「……無理だ」


 ダリアは城の結界を潜れない。それに王や年配の貴族たちは、サラサの顔を知っている。瓜二つのダリアを連れていけば大変な騒ぎになってしまう。

 ザルバは過去、中庭を破壊し城から逃亡した事がある。許可がおり難いのはその為だろう。


 むう、と唇を尖らせると、ザルバは瓶を一旦机の隅に寄せ、足を出せと仕草で示した。ヘクターは靴を脱ぎ、パンツの裾を折り上げ装具を外す。

 足を掴み調べながらザルバは言った。


「しかし、こんな薬師が身近にいたなら、そう簡単には病死できんな。良かったな、狗」

「そーかもな……?」


 その言葉に、ふと奇妙な何かが引っ掛かる。


 それから暫く、無言のまま足の検査を続け、装具が新しいものに取り替えられる。調整をし具合を見てから、ザルバはいつものように無理をするなと言い、部屋を立ち去った。


 ミューラーと二人きり室内に残され、ヘクターは深刻そうな表情を作り、言う。


「今からミューの執務室に行っていいか? 少し、真面目な話がある」

「別に構わないが、執務室でなければ出来ない話なのか?」


 ヘクターは、ああと応えると俯いて、薄い笑みの浮かぶ口元を隠した。


※※※


 突如、閃光に視界を奪われた。

 目が眩み顔を被おうとしたが、腕がぴくりとも動かない。

 鳥籠のような金の檻がミューラーの全身を囲み、触手状に伸びる光の帯が、腕や足を硬く捕らえている。


「『捕縛』? いつの間にっ!」


 対象の自由を奪う『捕縛』は便利な魔法だが、発動に気付けば簡単に避ける事が出来る。

 しかし、気付かぬうちに構築されていた『捕縛』の、前触れ無い発動に驚き、ミューラーは逃げられなかった。


「んじゃ、これサイン貰ってくるから! また後でな」


 ヘクターは無邪気に笑い、ヒラヒラと依頼書を振りながら部屋を走り出る。


 大きな音をたて扉が閉められると、執務室は急に静まり返った。明滅を繰り返す光に囚われたままミューラーは呆然と呟く。


「……今の、なんなんだ。陣を使っていなかったが」


 陣に魔力を注ぐことなく『捕縛』は発動した。

 発動前、俯いてぶつぶつと呟いていたヘクターを思い出し眉をしかめる。あれは詠唱だったのだろう。

 

 ミューラーは天を仰ぎ見た。


「本っ当に、こういう所は駄目な大人だよな……。あいつは」


※※※


 ほんの少し前。


 ヘクターはミューラーに続き執務室に入ると、窓枠に腰をおろした。ミューラーは椅子を回転させ、ヘクターの方を向いて座る。


「……」


 そのまま口を開こうとしないヘクターに、ミューラーの方から話し掛けた。


「学校から連絡が来ていたぞ。魔法人形を何体も壊し、結界まで破壊したそうだな。授業の一貫として見学させてくれ、だそうだ。……怪しいから何やってんのか見せろって事だろう。本当に、何をやっているんだ?」

「詠唱特訓だって言っただろ。結界を破壊したのはダリアだ。あの結界、魔獣の力に弱いな。改良させた方がいい。次は破らせないように気を付けるよ。人形の方は『神笏』や『雷龍』を使ったら壊れた。俺もあんな疲れる魔法は使いたくないんだが、事情があってな」


 ミューラーは目を細め、呆れた顔で言った。


「何故、そんな魔法を。実戦にそこまでのものは不必要だろうが。それより、さっき言っていた話は何だ?」

「あー、……ええと」


 ヘクターはちらりと室内に控える召使いを見る。ミューラーが召使いを下がらせると、ヘクターはようやく話始めた。


「最近、名前が無くて不便な事があったからさ、少しちゃんとしようかと。足も治ってきた事だし。無色なり赤なり、蛇で構わないから、戻れるように真面目に動こうかと思ってな。詠唱特訓もそのためだ。あの頃よりも地力を上げようかと」

「おおっ! やっとやる気になったか。随分長い間、死んだ魚の目で怠けていたからな。薄ら気味が悪いオカマ言葉の中年として、獣人や屍鬼(アンデッド)たちとジャレ合いながら、腐臭を放ち始めるんじゃないかと心配していたぞ。良かった! うまく戻れたなら私の近衛にまわしてやる」

「……ミュー。お前、俺の事をそんなふうに見てたのか。怠け腐っていたつもりは全く無いし、屍鬼とジャレあっていた訳でもないぞ。ちゃんと毎日のように働いていたじゃないか……」


 嬉しさのあまりつい口を滑らせたのだろう。ミューラーは睨むヘクターから目を反らせる。


「まあいい、話を続けるぞ。それでだ。大きな依頼をどーんとこなして、功績あげて実力を示すのが手っ取り早いだろう? 取り合えず、今あるヤツを見せてくれよ。難しそうなのから貰ってくからさ」


 ヘクターは右手を大きく広げ、差し出した。ミューラーは引き出しを開け、書類の束を机に置きながら言う。


「構わないが、そんな話なら人払いをする必要は無いんじゃないか?」

「俺、照れ屋だからー。ね?」

「そうだったか? まだどこにも依頼されていない分はこっちだ。私としてはこの辺りを頼もうと思っていたのだが。ほら、お前宛の依頼書を作成していたところだ」


 王国の紋章とミューラーの印が刻まれた空欄の依頼書。それを受け取り、ヘクターはさりげなく懐にしまった。

 続いて依頼の束を手に取りパラパラと眺める。一件の依頼に目を止めると口の端を吊り上げて笑い、束から抜き取った。

 ミューラーは慌てたように指を伸ばす。


「やはりお前の分は私が選ぶ。返せ! 何かを企んでいるだろうっ!」

「……これをさっきの紙に書き写して、各所に提出すればいいんだよな? さー、さっさと行ってくるかあっ」

「待てっ! その依頼、見せろっ!」


 ヘクターはミューラーよりも頭半分程度背が高い。高く紙を掲げミューラーの頭を押さえながら、出入口へ向かう。


 『トゥオーロ島領主の捜索依頼』

 紙が翻り、件名が読み取れた。


 依頼内容は、行方不明になった内海の小島、トゥオーロの領主の捜索と調査。


「それはどう考えても単騎むけじゃない! 手のあいた赤か緑の団に、慰労も兼ねて依頼しようと思っていたヤツだ!」

「っち、読まれたか! いいじゃねーか、俺を慰労しろよ! 最近は屍人(ゾンビ)の刻みすぎで心が荒んでんだ! 前回ハーリアにちょっと蟹喰いに行っただけで、狗の癖にって嫌味言われて、自分からは旅行に行きにくいんだよっ。今バカンスしなければ、夏が終わってしまうっ!!」

「やっぱり依頼に託つけて遊ぶつもりだったのかっ! お前、まさか騎士に戻る話も嘘か!?」

「……それは本気だ。ミューは俺をちっとも信頼してないんだな」


 ヘクターが優しく哀しげに笑い、俯いた。

 意表をつかれたミューラーが伸ばした手を引っ込めると、ヘクターが顔を上げる。


 隠しきれない企みに歪む、三日月の唇。


 その直後、閃光と共に魔法が発動した。


※※※


「そうか。ちゃんとした格好で来たのは、サインを貰いに城内を回るためか……」


 『捕縛』の戒めがようやく解けたミューラーは、ヘクターの計画的な犯行に気が付き、倒れ込むようにソファに座る。


「……確かに、ここ最近戦い続けているのだから、多少の慰労も必要かもしれないが」


 そう呟いて、しかし頭を強く左右に振った。


「いや、やはり私から許可は出せない」


 狗に墜ちたヘクターが、元々ミューラーの師であり兄のような立場であった事は、よく知られた事実だ。ミューラーがバカンスのような依頼をヘクターに出せば、公私のわきまえが出来ていないと噂されるに決まっている。

 それにヘクターの騙し討ちのようなやり口は、素直に飲み込むには強引すぎる。だからといって、バカンスに行きたいと正面から説得されても応じられないが。


「もう今頃、依頼を通し終えているかな……」


 大きな溜め息をついた。


 あいつのふざけた独断で、許可し難い依頼を強引に通したなら。……それならば多少は言い訳が立つかもな。

 再度、甘い考えがもたげたが、再び首を振る。


「だめだ、だめだ。後で依頼の取り消し手続きを行おう!」


 そう口に出したその時、執務室の扉がノックされ、返事を待たず開いた。


「ただいま……」


 弱りきった顔で力無く部屋に入るヘクター。その後ろからヘクターの服の端を掴み、見知った顔が覗く。


「説明をしてくれないかしら。ミューにい?

この変態狼について」

「はは。捕まっちゃった」


 苦々しく笑うヘクターの背後には、公爵家の娘で魔導師の卵、アネットがいた。


※※※


「やっぱり、変態は狼だったのね。おかしいとは思ってたのよ。このピアス、ちゃんと陣が刻まれてるんだもの。只の変態バーテンダーが魔導具を手作りするなんて、あり得ないものね」


 アネットは銀の兎型ピアスに触ると一旦話を区切り、紅茶に口を付けた。


「それに、やっぱり外見も似すぎてるし、ミューにいが店に来ているし。気が付かない私が馬鹿だったわ」


 執務室の広く柔らかな来客ソファ。ヘクターとミューラーが並んで座り、その向かいにアネットが座っている。

 テーブルには召使いが用意した紅茶と菓子が並べられていた。


「何でアネットがいるんだ?」


 ミューラーがヘクターに訪ねると、ヘクターは肩をすくめる。


「祖父のヴェルガー公について来たんだってさ。王の間の前で捕まった」

「ね、二人ともちゃんと話聞きなさいよ。……狼、ところでその顔、どうしたの? 五年前はそんな火傷は無かったわよね。それに何でバーで変態やってるの?」

「いろいろあったんだよ。今は狗だ。だから昔と様相を変え、市井で暮らしている。……うちの奴等に言うなよ」

「わかったわ。いろいろあって、変態な狗……変態犬をやってるのね。ふーん。大変なのね」

「その呼び方は不味い! 十二歳の女の子が変態犬なんて言葉使っちゃいけません!」

「でも変態で狗なら変態犬じゃない。認めなさいよ、変態犬」


 ヘクターは酷っと呟き、顔を吊らせた。アネットはその様子を気にもせず、平然と話を続ける。


「で、変態犬は王様に何か用事があったの? まだ済ませてないでしょ」

「もういい、面倒な事になりそうだ。ミュー、用紙は俺が破棄しておくから、また適当に選んで依頼し直してくれ。俺はさっさと帰るぞ」


 ヘクターがソファから立ち上がると、ミューラーは納得がいかない表情で手を差し出した。


「駄目だ。すぐ依頼書を返せ。お前は信用できない」

「……今は返せない。後でな」

「渡せ!」


 ヘクターは渋々座り直し、懐から依頼書類を取り出す。アネットから見え難いようミューラーに手渡したが、アネットは勢いよくミューラーから奪い取った。

 熱心に読み始め、喜色を浮かべたアネットに、ヘクターは溜め息を漏らす。


「内海の小島で調査!? すごーい、面白そう! 私もやりたいっ! これ変態犬が行くの? 私もついて行っていいわよね?」

「アネットが調査のつもりで行くなら連れて行けません。危ない。それにミューから依頼が降りてないから、行けないしな」


 ヘクターがチラリとミューラーを見ると、アネットは不満げな声色を出す。


「えー、嘘だ。王の間に向かってたって事は、あと王様のサインだけなんでしょ?」

「王にサインして貰ったとしても、危ない場所には連れては行けないの」

「そうだ。それに、私は依頼を許可をするつもりはないぞ」


 ミューラーがきっぱりと言った。


「なんでよ。いーじゃない、たまには」

「これは複数人数向けの依頼だ。個人に頼むべき物ではない。それにこいつに美味しい依頼を回せば、公私の切り換えが出来ていないと噂されかねない」

「私も手伝うから、複数よ。それからそんな噂、気にするもんじゃないわ。王族は厚かましい位で丁度いいから。大体今の王様だって、女好き過ぎて愛人に国を売るんじゃないかとか、女で身を滅ぼすだろうとか、最後は絶対フクジョウシ? だとか、散々言われてるのに平気な顔してるんだから。ちょっと変態犬なおっさんを甘やかしているって噂くらいじゃ、何の名誉も傷つかないわよ」


 現在、おかしな噂に悩んでいる真っ只中のミューラーとしては、余計嵐を誘うような噂を立てたくはない。


「ね、アネットちゃん! あなた腹上死とか、そんな言葉いつ覚えたの!? ちゃんと意味解って使ってる? もう外でそんな言葉喋っちゃいけません!」

「おい、オカマ言葉になってるぞ。……だがアネット、その噂は父上のものより不名誉に聞こえるんだがっ!」


 呆気にとられていた二人が慌てて言うと、アネットは足を組み、ニヤリと笑った。


「なら、私の我が儘で依頼を受けたって事にしましょ。今から王様の所で私がサインを貰うから。将来の黒竜の魔女にとっては、その位の奔放な逸話はむしろ誉だもの。その代わり、もちろん同行するけどね」


※※※


 ヘクターとアネットは、広い廻廊を王の間に向かい歩く。

 どこか得意気な顔をしたアネットの額を弾き、ヘクターは言った。


「全く、そんなに気を張るなよ。俺の私欲なんだから、アネットが無理に叶えようとする必要は無いんだぞ。大人に気を使うんじゃない」

「……これ、カクテルコンクールのご褒美のつもりだったんでしょ? 私とダリアちゃんが旅行の話で盛り上がってたから。狗じゃ長い旅行は行けないものね」


 アネットがしたり顔で笑う。


「うわ、面倒なガキ」

「まあ変態犬はダリアちゃんの水着姿が見たいって一心なのかもしれないけど。でも、道理を歪めてまで私たちを旅行に連れて行こうとしてくれたんだから、私も少しは協力してあげようと思ったの。あー、楽しみ。みんなで旅行だなんて!」

「……ヴェルガー公がちゃんと許可して、危ないことには絶対首を突っ込まないって約束するならね」

「はーい。わかってるわ」


 アネットが楽しげに言うと、ヘクターは眉をしかめ笑った。

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