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カミノイタズラ

作者: ohmori

〜プロローグ〜

「高橋〜。

 話さない?」

明らかなブスが俺に話しかけてくる。


「うっせぇな。

 向こう行ってろ。」

全く、ブスにしか話しかけられないとは、俺も堕ちたものだ。

俺の名は高橋悠斗。

自分のルックスに自信はないが、成績は上の下くらいで

少し自信があった。

だが、その中途半端な頭の良さが、ブスを呼び集めているらしい。


「少し…きついんじゃないの?」

誰かが静かに話しかけてきた。


「馬鹿野郎。

 あんなの相手にしてたら気がもたねぇよ。」


「ん…

 そうなんだ…。」

こいつは椎名雫。

俺の幼馴染で顔も悪くないんだけど…

何考えてるわかんねぇ…。

雫に関しては半分諦め気味。


「悠斗…。」

いきなり、雫が俺を見つめて言う。


「な、なんだよ…。」

少し戸惑いながらも俺は応答した。


「…なんでもない…。」

そう言って、雫は俺の隣に席に座る。

本当に何考えてんだか分からなくて俺はほとほと困っていた…。


まぁ、しかし…まさか、あんな形で分かるとはな…。







〜カミノイタズラ〜

数学の先生が教室に入ってきて、静まり返った。


「じゃぁ、授業を始めるぞ。

 そこー!!

 いきなり喋るな!!」

先生の大声がこだまする。

俺は成績はいいが、勉強は大嫌いだった。

こんな学校に行く生活など終わればいいのに…。

それに、ブスが話しかけてくる毎日もイヤだった。








「この問題が分かる奴!!

 いるか!?」

ある程度の生徒が手を上げる。

俺は手を上げるのが面倒で、いつも他の奴に任せていた。

雫はどういう理由で手を上げないかは知らないが、

まぁ…いつもぼぉーっとしていた。

それなのに、成績は悪くないから、世の中どうなってんだと少し疑った。


「おい!

 椎名!

 この問題を解け!」

先生にぼーっとしている事がばれたらしく、雫はあてられた。

雫は静かに立ち上がった。


「…2」

雫はそれだけ言って座った。

先生も生徒も、もちろん俺も唖然とする。

家で猛勉強でもしているのかというくらい、いつもこうやって修羅場を潜り抜けていた。


「ご、ごほん。

 正解だ。」

先生はあえて平静を装っていたが、バレバレだった。








「おいおい、見たかよあの先公の顔よ!

 傑作だぜ!」

友達の南條宏之が俺に言う。


「南條…騒ぎすぎだ…。」

南條は物静かで、近寄れないようなオーラの漂っている俺に

唯一話しかけてくれた奴だ。


「おいおい、テンション低いな。

 んなことじゃ、雫ちゃんに嫌われるぞ?」


「いいから…もう休み時間も終わる、座れ。」

南條のおちょくりを回避して、俺は一息ついた。








気付けば、もう給食の時間だ。

全員に配り終わった後、皆でいただきますと言う。

俺が最も嫌う事柄だ。

中学生がいただきますなどと…。

と文句を言っても、給食委員の奴らに怒鳴られるだけだからな…。


「はぁ〜今日は短縮で助かったぜ…。

 俺もうだめだぁ…。」

そう言って俺は椅子にもたれかかる。


「…早く食べないと…時間なくなるよ…。」

そう言って雫は白ご飯を口に運んだ。


「何言ってんだよ…。

 お前だってほとんど食べてないじゃないか…。」

俺は雫の給食を見て言った。


「私は…あんまり入らない…。

 もう残す…。」

雫はそう言って席を立った。


「お、おいおいおい!!

 いくらなんでも食べなさすぎだろ?!」

雫は黙って食器の食べ物を元に戻している。

相変わらず、何を考えているのか全く分からなかった。


「よっしゃぁ!!

 食い終わった!

 俺が一番だろ?え!?」

南條が持ち前の早食いでもう食べ終わる。

他の生徒もオオーと驚きながら拍手する。


「…ここのクラスの奴らは反応するからいいが…

 下手したら、引かれると思うんだが…。」


「あ?

 そん時はそん時だろ。」

俺は本気で呆れた。

南條は食器を返しに行ったが、ひとつ気付いたらしい。


「ああああああああああああああ!!

 雫ちゃんが一番だったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

教室が笑い声で満たされる。

ここの生徒はいい奴ばかりだなと俺は心底思った。

雫が席に戻ってきた。


「…南条君…。

 なんであんなに叫んでるの…?」

雫が不思議そうな顔をしている。


「いや…まぁ、気にするな。」

苦笑いで俺は返した。

雫は頭に?マークを出していた。

すると、急にサイレンが鳴り出した。


「ななななな、なんだぁ?!」

南條のリアクションは凄かった。

食器をガシャンと落とし、頭を抱えて体をグネグネ動かしていた。

世界の終わりじゃあるまいし…。


「落ち着け、南條。

 避難訓練だろう。」

俺は立ち上がり、南條の肩をポンと叩いて言った。


「何!?

 皆のもの!

 逃げるのだ!!」

南條がビシっと扉を示して言った。


「馬鹿者、まだ逃げるな。」

先生が南條に言う。


「先生〜さっさと逃げないと死んじまうぜ?」

南條が先生を茶化す。


「今は机の下に隠れてろ!!」


「へいへい。」

南條も俺も、仕方なく机の下に隠れる。

俺も、先生に目をつけられるのは御免だ。


『第二理科室から、火災が発生した。

 運動場へ非難せよ。』

アナウンスがそう告げた。


「皆!廊下へ並べ!」

先生がそう言った。

皆は素直に従った。


「…こういうの…面倒くさい…。」

雫がそう呟いた。


「まぁ…適当にこなそうぜ…。」

俺はその言葉に、何も意味を持たない事を知っていたが、雫に何か言わないといけない気がした。


校舎から出た後は、皆が一斉に走り出した。

だが、やはり雫はぼーっとしている。


「おい、雫!

 さっさと行かないとしかられるぞ!」

俺は雫の手を引いて走った。

雫はどう思っているか知らないが、俺は少し赤面している自分に気付いた。








「であるからして…」

校長の無駄に長い話が始まった。

俺はそんなものは聞かずに、雫の手の感触を思い出していた。

そういえば、俺は雫の幼馴染にもかかわらず、一回も手を握っていなかった…。

それは、俺が少し躊躇っていたからだろうか。

俺はその時初めて、自分の雫への想いを知った。

次の瞬間、俺が今まで雫にしてきた事、言ってきた事、

全てが恥ずかしくなった。

その時、ちょうど避難訓練の話が終わったようだ。

皆が校舎へ引き上げて行く。


「悠斗?

 早く行こう?」

雫が俺に手を伸ばす。


「ん…。

 おお…。」

雫の好意を無駄にはできない。

赤面している自分に気付きながらも、雫の手を持った。


「…?

 顔赤いね…。

 熱…あるの…?」

俺はドキッとした。

見事にバレるとは思わなかった。


「い、いや…なんでもないさ。」

俺は平静を装った。

もう、雫の顔を直視できなかった。








色々あったけど、とりあえず、下校の時間にこぎつけた。

俺は靴箱から靴を取り出した。

ちょうど横で、雫が靴を取り出していた。

俺は迷っていた。

幼馴染だけあって、家が近いからほとんど一緒に帰っていた俺達…。

だが…今の俺は何かおかしい。

バレて嫌われてしまうのではないか…。

いや…だが、一緒に帰らなかったら余計嫌われる…。

俺は決断した。

って言っても、いつも自然に一緒に帰ってるから、普通にしていればいいのだが。


俺と雫は、同じタイミングで靴を履いた。

そして自然に隣を歩いていた。


「悠斗…今日の避難訓練の時から…よそよそしいね…。」

少し、悲しそうに雫が言った。

雫はいつもぼーっとしてて、俺など見ていないと思っていたが…


「い、いや…その…。」

俺は何も言えなかった。








しばらく沈黙が続いた。

俺は何かきっかけがないものかと、聞きたかった事を口にした。


「雫…今…気になってる人…いるか?」


「…いるよ。」

俺は愕然とした。

雫に気になっている人がいたなんて…。


「じゃあ…またね…。」

そう言って、家に入っていった雫。

俺はしばらく動けなかった…。








「悠斗〜?

 ご飯よ。」

下の階で、母が呼んでいるのが聞こえる。

母は、仕事のため、今日家にいる事は珍しかった。

なにしろ、父がすでに他界していたからだ。

だが、俺は物など喉に通らない気がした。

雫は、俺以外にしゃべった奴がいるのか…?

それとも…ただただ…片思いなのか…。

俺は深い嫉妬感に襲われた…。


俺はそのまま眠りについた。

宿題をする気にもならなかった。








もう朝だ。

さすがに学校に行かないのはやばい。

俺は学校に行く準備をした。


「おい!

 高橋!

 学校行くぞ!!」

南條は決まって登校時に俺を呼んでくれた。

俺は急いで玄関に向かう。

そして、靴を履いて、扉を開けた。


「よっ、今日も頑張ろうぜ!」

南條が笑顔で迎えてくれた。


「おお。」

俺も笑顔になろうと努めた。


「んだよ。

 元気ねぇな。」

南條にもばれてしまった。


「聞いてくれよ南條…。」

俺は心の友の南條に避難訓練から後のことを話した。


「へぇぇぇ…。

 てか、やっぱりお前雫ちゃんの事好きだったんじゃねぇか。」

俺は照れ隠しした。


「まぁまぁ。

 で?雫ちゃんに気になる人がいるって?」


「おお…。

 まさかあの雫がなぁ…。」

俺は本音を吐いた。


「しょうがねぇだろうよ。

 俺だって雫ちゃんの考えてる事はよくわかんねぇ…。

 こうなったら開き直って、新しい恋見つけなって。」

南條がかなりポジティブなのを忘れていた。


「幼馴染なんだぞ…。

 そう簡単には諦められない…。」


「青春だね〜

 一途だね〜。」

南條がニヤニヤして言う。


「まぁ、ここで立ち話もなんだ。

 早く学校に向かおうぜ…。」

俺は歩き始めた。

いつもは、ここで雫も加わるが、今日は来なかった。

でも、雫に会うのは気が引けた。


「雫ちゃん…風邪かな?

 おい、聞きに行こうぜ。」


「いや…俺はもう電話で聞いたから。

 風邪だよ。風邪。

 早く学校に行こう。」


「そ、そうなのか?

 ならいいんだが…。」

俺は嘘をついた。

今は、雫に会っても何をしゃべればいいか分からないと思ったから。

でも、少し心配にもなったが、ここは心を鬼にした。








「え〜…

 今日はぁ…椎名は風邪で休みだ。」

俺は先生の言葉が信じられなかった。

昨日は、別に熱っぽくもなかったし…。

本当に風邪なのだろうか…。


「雫ちゃん…大丈夫だよな?」

南條が後ろから聞いてくる。


「ああ…大丈夫さ。」

それは南條への言葉ではなく、俺への言葉だったのかも知れない…。


俺はその後、全く授業に集中できなくて先生に叱られているばかりだった。

普段だったら、完全に落ち込んでいただろう。

だが、今はそれどころではなかった。


やっと下校時間になり、俺は急いで靴を履いた。

そして、全速力で雫の家に向かう。


雫の家の呼び出しボタンを押した。


「はぁ…はぁ…」

俺は息を荒くして、待っていた。

だが、全く応答がない。


「ま、まさか…雫!!」

俺は自分の最悪の予想を振り切りながら、扉のノブを握った。

力でこじ開けようとしたが、カギはかかっていなかった。


「雫!!」

俺は自然に大声を出していた。

リビングには…誰もいない…。

雫の部屋は…?!

俺は雫の部屋の扉を開けた。

そこには、泣き崩れた雫がいた…。


「おい、雫!?

 どうしたんだよ?!」

俺は夢中で雫の肩を揺らした。


「お父さんと…お母さん…離婚…するって……。」

雫がここまで泣いた事を俺は見たことがなかった。

あの人達が離婚…?!


「雫は…止められなかったのか!?」


「だめだった…。

 最後には…うるさいって…お父さんに殴られた…。」

雫の目に、また大粒の涙がこぼれる。


「2人はどこへ行った?!」


「離婚届を…。」

俺は大急ぎで2人の後を追った。

学校から、雫の家までかなりの距離があったものだから、

俺の足は本来の力を出せずにいた。

あの人達には本当に良くしてもらった。

俺は無意識に2人の後を追っていたんだ。


「椎名さん!!」

俺は2人を見つけて、呼び止めた。


「…悠斗君…。」

雫の母が悲しそうな顔をする。


「どういうことですか?!」


「…お前には…関係のないことだ…!」

雫の父は俺を凄い形相で睨んでくる。

こんな顔を見るのは初めてだ。


「関係のないことかもしれない…!!

 だが、雫を悲しませるのなら、俺が許さない!!」

俺は何を言っているんだと、自分に言った。

言葉が勝手に出てしまう。


「許さない…?

 戯けが!!」

雫の父が、俺の胸倉を掴んだ。


「大人の事に子供が意見を入れるな!!

 貴様のような薄汚い子供など…!!」

雫の父が手を振り上げた。

雫の母は顔を手で覆っていた。

俺は持ち前の反射神経で雫の父の手を止めた。


「子供に手を上げる大人の方が…

 薄汚いのでは?」

俺は哀れみをこめた表情をした。


「貴様…!!」

雫の父は、俺の腹に膝蹴りをした。


「ぐぁ…!!」

俺は悶え苦しんだ。

もう…何も言えなかった。


「ふん、所詮、子供は子供だ…。」

次の瞬間、何者かが雫の父を殴り飛ばした。


「ぐぉ…!!」


「おお、俺は関係のない部外者だ。

 だがよ…高橋を苦しめるのは、ダチとして許さんぜ…!!」

南條だった。


「なん…じょう…?」

俺は振り絞って言葉を出した。


「おお、安心しな。

 これ以上はやらせねぇ。」

南條は、雫の父を見て、指をボキボキ鳴らしながら言った。


「だ…めだ…。

 俺が…言わなくては…!!」

俺は辛うじて立ち上がった。

椎名夫妻は少し怯えている様子だった。


「なぜ…離婚するのか…。

 訳だけ…教えてください…。」

俺は痛む腹を押さえながら聞いた。


「…お互いに愛想をつかせたんだよ…。」


「それだけで…?!

 それだけの理由で雫を苦しませようというのか…?!」

俺は自然と怒りがこみ上げた。


「あなた達が離婚したら…雫がどんなに苦しいか…知っているのですか?!」


「…。」

2人とも、俺に顔も向けられないようだった。

だが、雫の父が、突然言った。


「ならば!

 お前には私の気持ちは分かるまい!

 会社にリストラされた上に、それで妻にも愛想をつかされた…!!

 これで…離婚しないわけが…!!」


「あなたならやり直せるでしょう!?

 でも、雫はまだ、あなた達がいないといけないんだ!!」


「…。」

今度は本当に何も言えない様子だった。


「どうしてもというのなら…力づくでもとめる…!!」


「…悪かった…。

 雫には…悪い事をしてしまった…。」

雫の父にいつもの笑顔が戻った。


「早く、雫の傍に行ってあげてください…。」


「ああ…。

 ありがとう。悠斗君…。」

雫の両親は家に戻っていった。


「南條…。

 どうしてここが…?」

俺は疑問に思っていたことを言う。


「今日のお前、なんだか思いつめてたからよ。

 尾行させてもらったのさ。」

南條がにやにやして言う。

さすが、俺が心の友と認めるだけのことはある男だ。

改めて、南條こそが最高の親友だと実感した。


「さぁ、帰ろうぜ。」

俺は南條の手を借りて、この件を終わらせた…。







その後、俺はいつものようにパソコンに向かった。

俺のHPは人はあまり来ないが、ある種の人達には更新を楽しみにされているらしい。

まぁ、今日は気力を使い果たしたから、チャットでもしようと思った。

ある程度人がいるチャットに入る。


『こんw』

俺はそう打った。

そしたら、皆、『ちわ〜w』とか『こんちゃw』とか

返事をしてくれた。

まぁ、俺は人に話しかける質じゃないから、あんまり話せずにいるんだけど。

少し、時間が経ったろうか。

『雫』が入ってきた。


『よ。>雫』

俺はそう打った。


『うん。>悠斗』

この調子なら、きっと両親ともうまくいっているんだと思った。

雫とは、たびたびこのチャットで話していた。


『もう、大丈夫か?>雫』


『うん。ありがとう。>悠斗』

ここから後の会話は、他愛もないものだったが、俺はほっとしていた。

しばらく経ったら、『黒』という名の人が入ってきた。

俺は挨拶をした。

雫もした。

だけど、返事は返ってこない。

いきなり、固まっちまってるのかと思っていたら…。

『雫、死ね』

奴は、これだけ打って去っていった。

俺は奴をぶん殴りたい気持ちでいっぱいだったが、

とりあえず、雫に慰めの言葉を打とうとした。

だが、俺のタイピングも間に合わず、雫は去っていってしまった。

俺は心底心配したが、あの両親がついているんだから大丈夫と自分に言い聞かせた。

今俺が行っても邪魔になるだけだ…。

俺はパジャマに着替えて、床についた…。








「高橋!

 今日も頑張ろうぜ!」

南條がいつものように迎えに来てくれた。


「雫は…?」


「雫ちゃんなら、さっきここを通ったぜ。

 俺が呼んでも、全然応答がなくてよ…。

 きっと昨日の傷が癒えてないんだなぁ…。」

確かにそうだ。

だが、離婚の件だけじゃなく、チャットでの出来事が糸を引いているのだろう。

俺は、脳裏をよぎるマイナスな考えを押し殺して学校へ向かった。


案の定、雫は俺に見向きもしなかった。

また、南條がいくら呼びかけても反応しなかった。

一時間目が終わると、雫はそそくさと席を立った。

どうやら、階段を上がっているようだが…。


「…!!

 まさか…!!!」

俺は机を倒す勢いで席を立った。

そして、雫の後を追う。

俺は最悪の予想である「屋上」に行った。


「…!

 雫…!!」


「…悠斗…。」

悲しそうに雫は俺を見る。


「なにやってんだ!

 早くこっちに…!!」

俺はそう言ったが、雫はどんどん奥に向かう。


「ごめんなさい…。」

俺は、その言葉に何の意味があるのか分からなかった。


「…俺の…せいなのか…?」

俺は自然に思ったことを言った。


「…そんなこと…ない…。」

雫が俺のほうを向いて言った。

涙が溢れていた…。


「私がいたから…無理矢理お父さんとお母さんは離婚をやめたんだから…。

 私…いない方が…いいと思って…。」


「無理矢理なんかじゃない…。

 雫のお父さんもお母さんも、雫を想って決めたんだ。

 君がいなくなる理由なんて…。」


「それでも…私がいるから…悠斗にも迷惑がかかるでしょ…?

 私…それは嫌だから…。」

そう言って、雫は踵を返した…。


「俺は…雫がいなくなる方が…迷惑だ…!!」

雫の足が止まった。


「俺を想うのなら…俺の傍にいてくれ…。」


「でも…私…!!」


「好きだ。」


「…!!」


「俺は…雫が好きなことに気付いたんだ…。

 雫がいなくなると思うと…胸が痛い…。」


「だから…だったんだ…。

 私…嫌われたのかと思った…。」

雫は、力が抜けたようにぺたんとしりもちをついた。

俺は雫の傍に行って、優しく抱いた。


「今日は…帰ろうか…。」

雫は黙って頷いた。


その後、俺は先生に雫が帰りたいと言っていると言ったら

先生は黙って承諾してくれた。

きっと、先生は雫の両親のことを知っていたんだ。


「なぁ…

 雫には、気になる人がいたんじゃなかったのか?」

俺は雫に聞きたかったことを聞いた。


「…悠斗の事。」

雫は少し顔を赤らめて言った。


「あぁ…。」

俺は納得した。


とりあえず、俺はさっきあった事を雫の両親に伝えた。

すると、雫の両親は優しく雫を抱いた。

この人達がいれば、きっと雫は大丈夫だと俺は思った。








「おーっす!

 今日はちゃんと最後までいろよぉ!!」

南條の声が聞こえた。

俺は急いで学校に行く支度をする。


今日は、雫も一緒だった。

俺は雫と目を合わせた瞬間、顔が赤くなるのに気付いた。


「…。」

南條が俺たちの様子を伺う。

そして、ある程度、事を読めたようでにやりとした。


「おい…ついに…やっちまったのかよ?」

南條が雫に分からないように言ってきた。


「なにをだよ…。」


「とぼけちゃってぇ。」

そんなわけの分からない話をしながら、俺達は学校に着いた。


これまでと変わらない、日常の日々。

あの時の事がなかったかのように、過ぎていく。

俺は平和をかみしめた。

二時間目が終わり、皆が雑談を楽しんでいる時に、突然それは起こった。


『火災発生!火災発生!』

明らかに慌てた様子のアナウンスだった。


「おいおい、また避難訓練か?」

南條が愚痴る。

俺もまたかとため息をついた。


『警告する!これは訓練ではない!!

 皆、直ちに避難し…』

アナウンスが突然途切れた。


「おいおいおい…。

 こりゃマジっぽいぜ…。」

皆が一斉に教室から飛び出した。

避難訓練の意味がないほどだった。


「おい!

 高橋、ぼーっとしてないで逃げるぞ!」

南條が俺に呼びかける。

俺も急いで運動場に向かった。








「はぁ…はぁ…。

 なんとかなったな…。」

南條が肩で息をしている。

俺も同じようなものだった。


「先生!

 椎名さんが…椎名さんがいません!!」


「なに?!」

学級委員の言葉に、俺は愕然とした。


「あいつ…!!」

俺は思わず走り出した。


「おい!

 高橋!!

 やめろーーーーーーーーー!!」

俺は南條の言葉を聞き入れなかった。

危険は承知だった。

だが、放ってはおけない。


もう、玄関さえも燃えさかっていた。

靴箱が崩れている…。

俺は靴箱を避けて、教室に向かった。


階段にさしかかった頃、何者かが蹲っていた。


「雫!!」

俺は雫を抱きかかえ、玄関に向かった。


「雫…!!

 しっかりしろ!!」

俺は雫の口にハンカチを当てた。


雫を背負ってでの移動は困難を極めた。

焼けた壁が俺に襲い掛かってくる。

そのたびに、俺は自分の腕で防いだ。

腕に激痛が走る。

だが、それでも守りたかった。


やっと玄関に辿り着いた。

しかし、唯一の出口が、炎の壁で閉ざされていた…。


「くそ…!!

 …いちかばちかだ!!」

俺は炎の壁に挑んだ…。








「椎名雫さんは…

 高橋さんに守られていて、かつハンカチを口に当てていたので

 一酸化炭素中毒も免れました…。

 しかし…。」

微かだが、誰かの声がする。


「悠斗君は…?!」


「…皮膚全焼…。

 さらに一酸化炭素中毒…。

 これは…助かる見込みはありません…。」

…そうか…俺は助からないんだな…。


「どうしても悠斗君を助けたいんです!

 どんなに小さな可能性でもいいですから…!!」

雫の父さんの声だ…。


「…ひとつだけ…方法があります…。」


「そ、それはなんですか!?」


「皮膚移植と…肺移植を…同時に行うのです…。

 しかし…成功率は極めて低いでしょう…。」


「それでもいいです!

 どうか、悠斗君を助けてやってください!」


「分かりました…。

 最善を尽くしましょう…。」

何故俺のために…。

くそ…意識が薄れてきやがる…!








「…悠斗…。

 私のせいで…。」

雫が涙を流して言う。


「馬鹿野郎…。

 あいつは雫ちゃんのために命を張ったんだ…。

 そんな考えじゃ、あいつは喜ばないぜ…。」

南條も病院に来ていた。


「悠斗君…。

 雫のために…。」


「僕は…悠斗君にあんな事をしてしまったのに…!!」

椎名夫妻も来てくれていた…。


「だからせめて…手術料は僕たちで出そう…いいね?」


「分かっています…。

 それくらいしないと…悠斗君への償いはできません…。」








五時間に及ぶ、大手術だった…。

扉が開き、主治医が出てきた…。


「先生!

 悠斗君は…!?」

だが…主治医は横に首を振った…。


「失敗…ってことは…高橋は…!!」

南條が声を張り上げた。


「…高橋 悠斗様は…お亡くなりになられました…。」

皆が驚愕した。

俺は…死んだんだ…。


「ゆ…うと………。」

雫は全身の力が抜けたようだった。


「あなた…!!」

椎名夫妻は身を寄せ合っている。


「高橋…!!!」

南條は四つん這いになり、拳を床に打ちつけていた…。








俺の葬式が始まった。

俺の母さん、それに雫に南條。

あと、椎名夫妻も。

後から、バスに乗って俺のクラスの生徒と、先生方も来た。


皆が本当に悲しんでいた。

俺が死んだ事によって、ここまで悲しむ人が出るとは

思ってもみなかった。


「高橋さん…。

 悠斗君は雫を助けようとして…。」

雫の父が俺の母さんに話しかけた。


「はい…。

 先生に聞きました。

 勇敢な…最期だったと…。」


「その通りです…。

 雫のために恐れず火の中へ…。

 真に残念です…。」


「ただ…勇敢でなくてもいいから…

 生きていてほしかったものです…。」

俺は…そこまで母さんに想ってもらっていたのか…。








全てが終わり、俺の体も火葬され、そして骨も骨壷に入れられた…。

俺の墓は、椎名夫妻の協力も得て、かなり質の良いものだった。

皆が、用意された弁当を食べている頃…

俺は、少し変な事に気付いた。

…雫がいない…。

まさか…あいつ…!!


しばらく探したら、雫は俺の墓で祈っていた…。


「悠斗…死んじゃったんだね…。

 まだ…信じられない…。」

霊体の俺だから、言葉が通じないのも、触る事さえできない事も知っていた…。

だが、俺は雫を呼んだ…。


「雫…。」

すると、雫は俺のほうに振り向いた。


「悠斗…?

 悠斗!!」

雫が俺に抱きつく。

驚いた事に、俺は雫に触れる事ができた…。


「私…私…ずっと謝りたくて…!」

雫が大粒の涙を流す。


「お前が謝る事なんて…何もないさ…。」

俺は雫の涙をやさしく拭いた。


「これは、俺が望んでした事なんだ…。

 俺はどうなってもいいから、雫を助けたかったんだよ…。」


「そんなの…だめ…!

 私…悠斗がいないと…!!」

俺は、雫の口に指を当てた。


「俺のことは…忘れるんだ…。

 いや…忘れなくてもいいが…俺の分も幸せになってくれないか…?」


「…!」


「俺は、雫の幸せを願っている。

 ずっと、ずっと上から見ているから…。」

その言葉を最期に、俺の体が消えていく…。


「待って…!!

 悠斗…!!」


「さようなら…雫…。」








「…さようなら…悠斗…。」








〜エピローグ〜

最期に俺が雫に会えたのは…一体どういうことなのか…。

きっと…『カミノイタズラ』だったのかもしれない…。


生きるってどういうことかな。

大切な人を、守るって事?

俺は、そうしてきた。

でも、それだけでも、いいんじゃないかな。

たとえ、ここで終わる事になろうと―。

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