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第06話 幼なじみはパンサラッサの夢を見るか

 ある日、リビングに置いている大型テレビを観ていたときのこと―――。

 我が家に遊びに来ていたワカ(ねえ)は、突然、こんなことをつぶやいた。


 「実際は、高校時代に交際を始めたカップルの3分の2が、一年以内に別れちゃうんだよね〜」


 事実、ある統計によれば、学生時代に交際を始めた62パーセント以上のカップルは、一年以内に関係が破綻し、二年以内に破局を迎える割合は8割以上に登るという(出典:マクロミルアンケート)。

 さらに、高校生で交際を始めたカップルが結婚にまで至る割合は、1割程度に下がるそうだ。

 

 だとすれば、高校時代に、惚れた腫れたという一時の感情に流されるのは、愚かなことなのかも知れない。


 では、学生時代ではなく、もっと幼い頃から親しい関係を築いている男女だったら―――?


 そう、いまだに、人気キャラクターとして名前が上がる国民的野球マンガのメインヒロインに限らず、かつて、少年マンガやテレビゲームに登場する主人公の恋のお相手といえば、幼なじみという属性がお約束だった。


 ・毎年のように劇場公開される小学生探偵が活躍する長寿マンガ

 ・霊界探偵が活躍する大ヒット格闘マンガ

 ・東京五輪開会式にもテーマ曲が使用された国民的ロールプレイングゲーム

 ・発売から30年を迎えた元祖恋愛シミュレーションゲーム


 自分が生まれるより遥か以前の平成時代の前半、いまも名作として語り継がれる少年マンガやゲームのメインヒロインと言えば、幼なじみキャラが絶対的ポジションを確立していた。


 だが、しかし―――。


 21世紀の男性向けアニメやマンガに詳しい知人・友人に、


「やっぱり、ラブコメの王道は、幼なじみキャラとの恋愛だよな?」


と知ったかぶりで言おうものなら、相手に生暖かい目でウンウンとうなずかれながら、時代遅れの遺物か、可哀想な子あつかいを受けるのが関の山である。


 たとえば、オレが生まれるより少し前のこの20年ほどのアニメの話題作を振り返っても、幼なじみのキャラクターは、運命的出会いを果たすヒロインや異界から登場する美少女に、想い相手(主人公)を()(さら)われる人物ばかりだ。


 これではまるで、《幼なじみキャラ (イコール) メインヒロインと主人公の当て馬》と、言わんばかりではないか……。

  

 いったい、どうして……いつから、こんなことになってしまったのか?

 

 21世紀、令和の時代に生きる自分たちは、古い認識をアップデートし、かつて一世を風靡した「幼なじみ = メインヒロイン」という図式に対して、疑問を持たなければならない。


 先に例として挙げた90年代の作品群は、いずれも、複数のエンディングが選択可能なテレビゲームか、もしくは、恋愛を主眼としては描いていない野球マンガや探偵マンガ、格闘マンガなのだ。


 ここで、恋愛を主軸として描くラブコメ作品では、昔から「幼なじみ = メインヒロイン」という図式は成り立っていないのではないかという推論が成立する。

 これは、令和の時代にアニメがリメイクされた、虎柄ビキニの宇宙人が押しかけ女房としてやってくる、あの「国民的認知度を誇るラブコメマンガ」のセーラー服姿の幼なじみキャラが、あっという間に主人公の相手役としての存在感を失ってしまったことからも証明できるだろう。


 また、ラブコメ作品は、「ヒロインレース」と称されることが多いが、主人公との恋の行方をレースに例えた場合、幼馴染という属性は初期設定の段階から主人公と重ねてきた膨大な時間と経験が担保されている。

 そう、幼なじみキャラは、第一話開始時点で莫大なアドバンテージを持ったままスタートしているのだ。

 

 これを実際の競馬のレースの中から類似したものを挙げるとするなら、2022年の秋の天皇賞だろうか?


 レース名を挙げてもピンと来ないヒトには、ぜひ動画サイトなどで検索してもらいたいのだが、このレースで競馬史に残る大逃げをぶちかました逃げ馬パンサラッサが、ヒロインレースにおける幼なじみキャラであるとすれば、後方から猛然と追い込んで来るのイクイノックスとダノンベルーガが、異星人キャラや同級生キャラと言える。


 このレースのように、幼馴染は、後方にいる馬たちが気付いた頃には、もう最後の直線を走っているのだ。だから、ゴール直前まで結果が予想できない好勝負……すなわち、ヒロインレースの盛り上がりを期待するならば、おとぎ話の『ウサギとカメ』のように、先行者には、どうしても()()()()と構えていてもらわなけばならない。


 そうでなければ、はじめから主人公と仲の良い幼なじみキャラクターは、ヒロインレースが始まった途端にゴールテープを切ってしまうため、レースを盛り上げるためには、幼なじみのキャラにはある程度のハンデを背負ってもらわなければならない。


 いわば、物語を盛り上げるために、ある種の縛りプレイを要求されるのが、幼なじみキャラのツラいところでもある。

 

 こうして、圧倒的優位な立場でありながら、彼氏候補(主人公)を他のキャラクターにかすめ取られてしまう幼なじみは、天皇賞で二着に敗れながらもその善戦ぶりを称賛されたパンサラッサと同様、必然的に、他のヒロインに負けることでこそ、輝く存在であると言えるかも知れないのだ。


 客観的な見地から見れば、おそらく、これが、令和の時代に相応しい幼なじみキャラに対する評価だろう。


 だが、しかし―――。

 それでもなお―――。


 いつも利用している喫茶店で、あんなに号泣する場面を見てしまっては、幼なじみ男子にフラれてしまった女子のことを少しは応援したい、という気持ちも湧いてくる。


 それは、行きつけのヨネダ珈琲で、上坂部葉月の話しを聞きながら、自分が幼い頃に離れ離れになってしまった女の子との約束を思い出したでもあった。


「僕も、いつか、()()()()()みたいに、誰かを笑顔に出来るようになるから!」


 リッちゃんと呼んでいた少女との別れ際、そんな決意をした6歳の自分には申し訳ないが、クラスのモブキャラに甘んじている現在のオレは、残念ながら、いまだに、その約束を果たせていない。


 それに、つい半年ほど前にプレイしていたスマホのゲームで、オレの幼なじみキャラの概念を覆すほど魅力的なキャラクターと出会えた、という事情もある。

 

 そんな訳で、ちょっとした偶然から会話を重ねることになったクラスメートのことを考えていると、リビングで、アニメキャラクター総選挙の番組を見ながら、冒頭の言葉を語ったワカ(ねえ)が続けてつぶやいたことが思い浮かんだ。

 

「浅◯南ちゃんって、いつまで、こういうランキングの上位に入るんだろうね?」

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