第53話 偽悪のヒロインと暴かれた彼の性癖
「いや〜、ここに来て、まさか転校生ちゃんと宗重にそんな因縁があったことが判明するとは! しかも、その相手が園児だった宗重の名演技を引き出した黒いケモノを演じてたあのコだったなんて、ミステリー小説も裸足で逃げ出すドンデン返しだね〜? ここまで、ちゃんと伏線が貼られていたのか、内容を振り返ってチェックしないと!」
久々知とリッカの交際に関する真相を聞かされたことで、幼なじみ復縁計画に一定のメドが立ったと判断したオレが、最近おこった一連の事件(?)をワカ姉に説明すると、彼女は、カラカラと笑いながら感想を語った。
―――いや、ミステリーじゃないし、誰も死んでないし!
オレが、そうツッコミを入れると、ワカ姉は、冗談めかした口調で持論を展開する。
「いやいや、でも、私の予測が外れてなくて良かったよ。やっぱり、転校生ちゃんは、サークルクラッシャーじゃなかったんだ」
―――えっと……結果的に、そういうことになるんだけど……もしかして、ワカ姉は、こういう真相だってわかってたの?
「いやいや、さすがに転校生ちゃんが、アンタの幼なじみのリッちゃんだとは思わなかったけどね。ただ、自分で話題にしておいて、ホントに申し訳ないんだけど……宗重の話を聞いていて、転校生ちゃんをサークラ女子と断定するのも危険だと感じてたのは事実だよ」
―――そうなんだ? それで、あの時のワカ姉は、めずらしく歯切れが悪かったのか……それじゃ、聞きたいんだけどリッちゃん……彼女の行動のどの辺りが、サークラっぽく無かったの?
「う〜ん、具体的にどんな行動ってよりもね……前の通話のときにも、サークラ女子の特長を話したけどさ。実際のサークラ女子の一番の特長って、『モテる経験があまりなかった』『プライドが高くて、主導権を握りたがる』『承認欲求が強くて、チヤホヤされたい思いが強い』ことが挙げられるからね。こういう過去の経験や本人の性格が、サークラに進化してしまう条件だと私は思ってるだけど、転校生ちゃんは、その条件には当てはまってないでしょ?」
―――たしかに、「モテる経験がなかった」とか、「承認欲求が強くてチヤホヤされたい」とかは無さそうだよな〜。なんせ、モデルの仕事をしてるくらいだから、いまさら、オレたちの学校で承認されたいなんて思わないだろうしさ(笑)プライドは……ちょっと高そうだけど―――。
「へぇ〜、さすが、幼なじみだねぇ。転校生ちゃんの性格を良くわかってるみたいじゃん? 宗重も色を知る年齢か!」
―――ちょっ……! 格闘マンガに出てくる父親みたいな発言はやめてよ!
「強くなりたくば喰らえ!!」
―――いや、それ女性が言って良いセリフじゃないから!
叔母が言うところの意味を察したオレは、焦りながらも必死にツッコミを入れる。
だが、相手はコチラのドン引きぶりに構うことなく、ご機嫌で語り続ける。
「禁欲の果てにたどり着く境地など、たかが知れたもの……ってね。やっぱり、何事も経験してみないと! 図書館では、せっかく、向こうの方からアプローチしてくれたのに、もったいない……据え膳だったら食っちゃっても良かったのに」
―――だから、そう言う露骨な発言はやめてくれ、って言ってるじゃん? いまは、女性から男性へのセクハラだって成立するんでしょ?
オレが、ちょっとウンザリしながら返答すると、ワカ姉は通話口で「アハハ、ゴメンゴメン!」と笑いながら持論の展開を続ける。
「そうだね、ちょっと調子に乗りすぎちゃったかも。でもね〜、結局サークラ女子に引っ掛からないようにするには、対人関係の経験を積むのが一番の対策なんだよね」
―――そうなの?
「そうだよ! 童貞クンが如何に簡単に、サークラ女子の餌食になってしまうかは、『サークルクラッシャー麻紀』って同人小説を読めば理解できるからね。まあ、それでも学生時代にサークルクラッシャーの被害にあうくらいなら、可愛いもんだよ」
―――いや、それは十分な被害だし、カワイイものでも、笑い事でも無いと思うけど……。
「いやいや、いまは有権者の多くが、サークル・クラッシャーとか、コミュニティ・クラッシャーみたいな自己顕示欲の塊のような政治家に騙される時代だからね。SNSを通じて政治に興味を持つことは悪くないけど……サークルクラッシャーの本質を見抜けないような人間が、盲目的に政治家を推してたら、行き着く先は、国や社会の破滅だよ。『政治的初恋』なんて言われることもあったけど、ロマンス詐欺みたいな甘い言葉に騙されて、口だけ達者で無能な政治家を選ばないように気を着けないとね」
―――そんな大げさな……こんなときに、政治の話をされても困るんだけど?
「あぁ、また話が逸れてしまった……ごめんねごめんね〜」
―――いや、そんなお笑い芸人みたいに言われてもさ……。
「まあ、ともかく、アンタの幼馴染のリッちゃんは、サークルクラッシャーじゃなかったってことだ。それだけじゃなく、サークラとは真逆の貴重な存在かも知れない。その子との関係は、大切にしなよ」
―――それは……! ワカ姉に言われなくても、そんなことくらい、わかってるよ。
「だよね〜。これまでの宗重の宗重の話しを聞いた限りじゃ、アンタの幼馴染のリッちゃんの性格って、あえて辛辣で冷たいな振る舞いや発言をして他人を突き放したり、汚れ役を引き受けたりする偽悪者のキャラクターじゃん? ラノベで例えたら……ってのは言わないでおくけど、どうせ、この前までプレイしていた『ナマガミ』でも、綾辻さんを選んでるでしょ? リッちゃんの性格は、アンタの性癖にドンピシャじゃん(笑)?」
―――ッ!!!! ワカ姉、余計なこと言わなくて良いから!!
オレが反論すると、叔母は、「あぁ、メンゴ! メンゴ!」と、もはや化石にも等しいくらい古臭いしてるフレーズで謝罪しながら、ハハハと笑う。
恋愛シミュレーションゲームの『ナマガミ』をプレイしていることは話したことがあるかも知れないが、どのキャラクターのルートを選択しているかまでを他人に語った。
だが、ワカ姉は、キッパリと言い切る。
「でも、わかっちゃうんだよね~。あのゲームのキャラクターだと、幼なじみの桜田志穂子とか、クール系な後輩キャラの七崎愛ちゃんが人気みたいだけど……これまでの推しキャラの傾向からして、宗重は、仮面優等生で性格に裏表のある綾辻さん一択なんだろうなぁ………ってね」
―――ワカ姉、なんでも言うこと聞くから、それ以上、オレの推しの傾向とか、性癖を分析するのは、やめてくれ……。
最後は、半分くらい涙目になりながら、オレは叔母に懇願した。スマホのスピーカーからは、再びアハハと笑うワカ姉の声が聞こえる。
以前にも感じたことではあるが、二次元キャラクターの好みを完璧に把握している親類とは、こういう時に、本当に話しがしづらい。
たしかに、彼女が言うとおり、オレは性格に難があったり裏表があったりする、口の悪い仮面優等生的なキャラクターに惹かれる傾向がある。
そして、いまにして思えば、オレのそんな趣味嗜好を形作ったのは、保育園の頃に同じクラスだった歯に衣着せぬ物言いをする気の強い女の子なのだ。
だけど――――――。
二次元のキャラクターだったり、白草四葉ちゃんのような、最初から手が届かないと理解っている相手ならば、気軽に推しだったり、憧れだという想いを口にすることは出来る。
だが、同じクラスに所属している相手となると、それはまた別の話なのだ。
自分のような取るに足りない存在のモブキャラが、読者モデルをこなすような同世代の相手に相応しいのか、と考えると、とてもじゃないが、その答えを前向きに予想することなど出来るハズもない。
ましてや、悲しいことにオレは、幼い日に彼女と交わした、
「いつか、リッちゃんみたいに、誰かを笑顔に出来るようになるから!」
という約束を果たせるような存在にはなれていない……。
それは、放課後に二人きりで彼女と語り合ったとき、幼い日を思い出した懐かしさや切なさ以上に、現在の自分の不甲斐なさを感じて、何を話せば良いのかわからず、上手くコミュニケーションを取ることが出来なかったことから、強く自覚させられた。
(きっと、リッちゃんは、いまの自分に幻滅しているんだろうな…………)
と感じると、明日から、どんな顔をして彼女と向き合えば良いのかわからず、ほの暗い感情が胸の奥からこみ上げて来る。
そんなことを考えながら、黙りこんでしまったオレに、ワカ姉は優しく声をかけてきた。
「あ~、悪かったね。ちょっと、イジり過ぎちゃったか……もし、悩んでいることがあるなら、解決することは出来なくても、話しくらいは聞くからさ。これまでみたいに、いつでも話して来なよ」
―――ん? あぁ、ありがとう。じゃあ、そうさせてもらう。
オレが短く返事をすると、「それじゃ、またね!」と明るく言って、ワカ姉は、通話を切った。
叔母との会話を終えて、ベッドに横になりながら、これまでの会話の内容を整理しつつ、オレは考える。
(リッちゃんは、いまのオレに幻滅してるだろうし……もうクラスでは話しかけてくることも無いかもなぁ)
悲しい現実に目を向けながら、またもぼっちの日々が始まるだろう翌日の教室の光景を想像して、切ない感情が押し寄せてくるのを止めることが出来なかった。




