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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
8/46

救済への第一歩

シーノルから増援が到着した。増援の第3部隊を村に残し、残り2つの部隊と聖女一行、そして案内役としてアイラも同行し瘴気の発生源へ向かうことになった。空気がどんどん淀んでいくのが分かる。


「全員防具を着用せよ」


部隊長の指示で団員は次々とマスクをつけ始めた。真由と誠司もスクトゥムからもらったバッグの中をあさり、マスクを見つける。クラノスとアイラがつけるのを手伝ってくれた。


「魔物の気配も近いな…増援部隊から神官も数名つけてもらったから真由の負担は軽減できるが…」


浄化魔法を使える神官は各地の町に配備されている。瘴気の問題が大きくなってから増員を急いでいるが、なり手が少なくエルフ族を雇っている場合もあるようだ。


「エルフ族は全員浄化魔法の適性があるの?」


「いや、全員というわけではないそうだよ。ただ7割ほどのエルフ族は使えるらしい。我々人間と比べると高すぎる確率だけどね。」


誠司の質問に即座にクラノスが答える。本当に何でも知っている優秀な騎士だ。


「そもそも浄化魔法を使える人間自体貴重だからな。魔力が高い貴族でも適正持ちはそこまでいないらしいし。…ガードナー家は魔力より腕力だよなぁ?」


アイラの茶化すような言葉にクラノスはにっこりと笑った。


「もちろん、我が家は代々武力で王家を支えているからね、物理ですべて解決が家訓だよ!」


力こぶしを見せてこの淀んだ空気の中まぶしい輝きを放っているクラノスの笑顔。

アイラと近くで行進している騎士団員が思わず吹き出してしまい部隊長から怒られてしまった。

真由もつられて笑った後そうだとノートに教えてもらったことをメモをした。


「さすが勤勉だね、ちなみに家訓は筋肉は裏切らない、もあるから追記してくれ」


メモを取る真由に気付いたクラノスがさらに付け加える。真由は吹き出してしまいシャープペンシルの芯を折ってしまった。どれだけ筋肉一家なのだろう。誠司も肩をプルプルと震わせている。真由はふと思った、ガードナー家に嫁ぐことが決まっているフローレンスさんとスクトゥムさんの奥さんも筋肉ムキムキなのかと…あの美しいドレスの下は腹筋が割れているのかと…少し想像したがやめておこうとそっとノートを閉じた。

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瘴気の発生源に到着した。ここもクレーターの中に核が見える。

空気はより一層淀んでおり、あたりには夜かと間違えるぐらい黒い霧が漂っていた。ここに来るまで何度か魔物と戦闘があったが、神官たちが浄化を手伝ってくれたおかげで真由の魔力の消費も最低限で納めることができた。


「浄化の間我々が全力でお守りします。聖女様は目の前の核に集中してください。」


「わかりました。よろしくお願いします!」


部隊長の号令で団員が武器を構え真由を守るように陣形を取る。

防具があってもここに長居すると全員の体が危ない。なるべく早めに、でも正確に浄化をしなければならない。真由は深呼吸をして目をつむり集中した。

足元から魔法陣が展開する。光が核へと到達すると少しずつ浄化が始まる。城にいたとき実戦で浄化した核より大きく、何か壁のようなものがあるように感じる。

背後では金属音が聞こえる。きっと魔物が出てきたのだろう。騎士団員と誠司たちが戦っている。真由ははやる心臓を抑え、早く、早くと必死に魔力を注ぎ込んだ。

しかし壁に阻まれうまく浄化できない。だんだん焦りで集中が乱れていった。


(どうしよう、落ち着け、早くしないとみんなが危ない、早く)


上手くできないことへの焦りと苛立ちで真由は完全に集中できなくなってしまった。遠くで団員の悲鳴が聞こえる。まずい、ごめんなさい、どうして、どうしてうまく出来ない!


先ほどから浄化がうまく進んでいない。誠司は武器を構え周りの戦闘に集中しながら背後の真由を見た。息が上がり焦っているのが見える。その時騎士団員の悲鳴が聞こえた。ゴブリンのような魔物に切られたようだ。血が出ているのが見える。ゴブリンは即座に部隊長が切り捨て神官が浄化する。


「衛生兵‼‼」


部隊長の声に衛生兵と神官が駆け寄る。誠司はその光景にぐっと吐きそうになるのを堪えた。

死と隣り合わせの状況に今自分はいるのだ。手が震える。今までこんな状況なんて経験したことがない。するはずもない環境にいたのだ。過去に剣道をやっていたからといってすぐ武勲を上げれるわけもない。生き残れるのか、本当に?前の魔物に構えながら一瞬躊躇してしまった。

反応が遅れた!と焦った瞬間、横からアイラの斧が飛んできて魔物に直撃した。


「ぼさっとすんな‼‼死ぬぞ‼‼‼気合い入れろ‼‼‼」


アイラが斧を回収するため走ってくる。誠司はハッとして斧を回収しやすいよう魔物を切りつけ援護した。


「ごめん、ありがとう‼‼」


神官の魔法で魔物は消えていく。アイラに肩をたたかれ気合いを入れなおした。

前方で戦っていたクラノスも負傷者を抱えてこちらへ走ってきた。先ほどの団員だ。腕を切られたがなんとか命はあるようだ。


「真由を囲うように戦線を下げる。ここの核は思った以上にやっかいだな…!」


クラノスに誠司は同意する。真由も焦っているのか何か障害があるのか、浄化のスピードが遅い。

このまま持久戦に持ち込めるほど、こちらは戦力がそろっているわけでもない。


「…クラノス、アイラさん、ごめん俺真由ちゃんに声かけてきてもいい?」


誠司の提案にクラノスとアイラは一瞬顔を合わせたがすぐにうなづいた。


「行ってこい!いくらでも守ってやるぜ!」


二人に感謝をして誠司は一目散に真由のもとへと走った。



真由は思うように進まない浄化に思考がぐちゃぐちゃになっていた。

どれだけ魔力を込めても壁を突破できない。核を囲うように壁があるのだ。

聞こえる戦闘音は苛烈になっていく。このままだとまずい、どうしよう、自分ではなくもっと優秀な人が聖女だったら…‼‼その時、誰かが真由の肩に手を置いた。


「しっかり、まだみんな戦えるよ‼‼」


この声は誠司である。思わず顔を見る。息が上がって顔に土埃が付いてる。よかった、大きい怪我はしていないようだ。


「何か妨害あった?」


「か、核の周りに壁みたいなのがあって、届かないの…‼‼」


真由は焦りと誠司の顔を見た安堵から悲鳴に近い声で状況を伝えた。

誠司は大丈夫だよと目線を合わせる。


「壁か、核を守っているんだね…360度隙が無い感じ?」


誠司の質問に首を全力で縦に振る。誠司はふむ、と少し考えると驚きの提案をした。


「俺の剣に浄化魔法ってかけれる?これで核の前の壁を攻撃するから、ヒビなり傷なり入ったらそこに一転集中して魔法を打ち込んで!ビームみたいな感じで!」


「え、危ないよ‼‼?核に近づけば体に瘴気がより入ってくるって…‼‼」


二人を守るように構えているクラノスとアイラも驚いてこちらを見てくる。

だが誠司は考えを改めなかった。


「あくまで予想だけど壁は例えば卵の殻なんだろう。今はゆで卵を作るみたいに真由ちゃんは魔力を流している。それだと中身に熱が入るのに時間がかかる。それなら殻を割るときと同じで一か所に攻撃しよう。基本だけじゃだめだ、応用していかないと生き残れないよ」


誠司の言葉に真由はハッとした。言われてみればそうだ。何故気付かなかったのか。後ろでクラノスとアイラもそれだ‼‼‼‼と声を上げる。

もう全員実行しようとしているのだ。危険なのに。


「大丈夫、一緒に帰ろうって約束したでしょ」


真由を落ち着かせるような誠司の言葉に真由は先ほどまでの焦りが消えていくのを感じた。


「二人共、いい作戦だ。でも誠司一人だけだと攻撃が大変だ。」


「アタシ達も一発ぶち込ませろよ、この核には散々苦しませられたからな!」


クラノスとアイラも武器を見せて力強くうなづいてくる。

真由は立ち上がって力強く返し三人の武器に魔法をかけた。


「…ありがとうみんな、よし、やってみよう‼‼‼」


真由の言葉に近くで作戦を聞いていた負傷兵が大声で神官と部隊長を呼び寄せる。

駆け寄った神官と部隊長に素早く説明し、神官が三人の武器に追加で浄化魔法をかけてくれた。


「聖女様のご加護よりは劣りますが、ぜひお役立てください」


「ありがとうございます、助かります‼‼」


誠司はお礼を言って戦線を下げるように伝令している部隊長に声をかけた。


「一気に行きます!援護お願いします!」


「我々の分も一発いいのを頼みますぞ‼‼‼‼‼‼‼」


三人は一斉に武器を構え駆け出した。まずアイラの斧の全力の一撃が叩き込まれる。続いてクラノスの剣がアイラが叩いたところに的確に重い一撃を入れる。壁をはっきり認識できるのは真由だけだが、誠司の予想通り少し傷がついていた。そして最後、誠司の渾身の一発が二人が作ってくれた傷に叩き込まれる。


「真由ちゃん‼‼‼‼‼」


誠司の声に真由は集中していた魔法を発動させた。今までは光の環を包むように当てていた。だがこれではだめだ、そう、誠司が言ったビームのように一転集中させる魔法へと変化をさせた。

凝縮した光線が三人が作った傷に打ち込まれる。


「いっけえええええええええええ‼‼‼‼‼」


真由は足を踏ん張り全力で光線を打ち続けた。途中体勢が崩れそうになるのを駆け寄ったアイラと神官たちが支えてくれる。周りからも応援の声が上がる。真由は声援を受けてより一層魔力を込めた。

次の瞬間、光線が壁を貫き、核へと届いた。それでも真由は魔法の手を緩めなかった。

光線が核を攻撃し続ける。真由はみんなに支えてもらいながら全力を出し続けた。

そしてついに光線が核を貫いた。あたりの黒い霧が一気に光の粒となって輝きだす。騎士団の歓喜の声が響き渡る。やり遂げたのだ。


「ナイスガッツだったぞ真由‼‼最高だ‼‼‼」


アイラが抱きしめてほおずりして褒めてくれる。クラノスも神官たちも、そして誠司もやったと手を取り合い喜んでいた。誠司がこちらに駆け寄る。真由は声をかけようとしたが体にうまく力が入らなかった。アイラがやばい力入れすぎたかと焦って支えてくれる。大丈夫と声を出したかったが声が出ない。


「真由ちゃん!大丈夫⁉」


「魔力切れかと思われます!しばらくお休みください」


そんなやり取りが聞こえる。だが真由はどんどん目を開けられなくなりそのままアイラの腕の中で気絶するように寝てしまった。


---------------------------------------------------------------------------

ふと気が付くと暗闇の中だった。見渡すと足首まで水に浸かっているようだ。

周りには誰もいない。声も思うように出せない。もしかして夢の中か?

自分の頬をつねってみるが夢からは覚めなかった。

おかしいなと首をかしげていると後ろからすすり泣く声が聞こえる。

振り向くと黒い影がしゃがみこんで顔を抑えて泣いていた。

どうしましたかと声をかけたかったが声が出ない。

声の高さ的に自分と同じぐらいの年齢の少女だろうか?

とりあえず近づくと影は顔と思われる部分をこちらに向け言い放った。

『お前もこちらに連れてきてやる』

おどろおどろしい声に思わず後ずさりする。影は手を伸ばしてくる。

目の前に影が迫った瞬間。真由はまた意識を失った。

---------------------------------------------------------------------------

「あ、起きたか。気分はどうだ?」


重い瞼を開けるとアイラが覗き込んできた。大丈夫…とけだるそうに返す。

ほれ水、と体を起こした真由に水を差しだすアイラ。お礼を言って受け取りゆっくり飲んだ。


「そうだ、あれからどうなったの…ですかね⁉」


うっかりため口で話してしまい慌てて変な敬語に直す真由にアイラは笑った。


「敬語なんていらねぇよ、クラノスと同じように接してくれよ。で、あの後だな」


アイラがいうには真由は魔力切れで気絶していたらしい。瘴気を浄化しきった後、騎士団一行は村へと戻った。2部隊はしばらく村とその周辺の警備ということで残り、負傷兵を連れた本隊と真由たちはシーノルへと戻ってきたのだった。


「アイラは村を離れて大丈夫なの?」


「あぁ、しばらく騎士団がいてくれるらしいし、瘴気が綺麗さっぱりなくなったからな、魔物も出てこない。それにシーノルに近いから何かあってもすぐこっちまで逃げてこれるよ」


今朝はたまたまアイラ以外の戦闘員がいなくて教会に避難していたようだった。

また今回も死亡者はおらず、腕を切られた団員も全治数カ月だが治療できるようだ。本当に良かった…と真由は安堵した。


「あとクラノスのやつが旅に一緒に同行してくれって頼んできてさ、報酬も結構いい額なんだ」


続いた言葉に真由は思いっきり顔を上げた。アイラはにっこり笑っている。


「まぁそれよりも個人的に二人が気に入ったんだアタシ、一緒に行かせてくれ」


「アイラ…‼‼嬉しい‼‼‼よろしくね‼‼‼‼‼」


真由は飛び起きてアイラに抱き着いた。アイラはしっかりと受け止め可愛い奴だな~~と歳が離れたまるで妹を最高に可愛がっている。女一人だと何かとクラノスと誠司に気を遣うだろうし、何より戦闘経験が豊富で姉御肌のアイラがいてくれるのがとても嬉しい。女二人できゃっきゃと喜んでいると扉の前でクラノスと誠司、それに部隊長が微笑ましくこちらを見ていた。


「こ、声かけてくださいよ…」


「いやいや、絵画にしたいぐらい素敵な光景でして…」


部隊長がうんうんと何度も頷く。クラノスが笑いながら今後のことを説明してくれた。


「とりあえず体調が戻ったようでよかったよ、明日は一日ゆっくり休んで準備を整えて、明後日次の町に向かおう。南下して港町ヴァランスが次の目的地だ。」


「はい!誠司君も戦闘の時はありがとう、おかげで何とかなったよ…」


「いいんだよ、お互い様だし!本当にみんな無事でよかった!」


誠司の言葉に一同同意する。とりあえず食事にしましょうと部隊長が声をかけお腹ペコペコだった真由は返事の代わりにお腹の音を鳴らした。思わず吹き出す仲間たちにもぉ~~恥ずかしいと言いながらも、真由の表情は晴れ晴れとしていた。



明日は休養日である。旅の荷物の補充をしてせっかくなので町を見て回ろうか。

真由は見ていた不穏な夢のことはいつの間にかすっかり忘れ、ルンルン気分で同室のアイラとおしゃべりを楽しみ夜が更けていった。

ついに第一歩やり遂げました。負傷兵君ナイス伝令★

そしてアイラさん加入。報酬は王の活動費からごっそり出してもらうようです。

次回は散策回の予定です。

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