鉱山の街 コーンヴェル
山道を抜けるとそこには荘厳な街が広がっていた。山肌に出来た洞窟を居住用として改装しているような石造りの建物が目立つここは、亜種連邦経済を支える鉱山の街コーンヴェルだ。ドワーフ族の街でもあり、鉱山からとれる鉱石を用いた加工品や各種武器の生産拠点として栄えている。周りの山々が高いのもあり、空があまり見えず街全体は灯が日中でも灯っている。それも美しい景色を作り出していた。
「すっごい…こんな洞窟建築、日本じゃ見たこともないよ…!」
誠司が目を輝かせてあたりを見回す。これまで多種多様な街を見てきたが、コーンヴェルが一番気に入ったようだ。モノづくりが得意な彼が自然と惹かれるのもあるのだろうか。真由はベンチに腰を掛けながら街灯を見つめている。
「これ…魔晶石だ」
「あぁコーンヴェルの鉱山は魔晶石いっぱい出てくるからね。街の明かりはすべて魔晶石のはずだよ」
ユキが水を飲みながら解説してくれる。やっぱり便利なんだねと同意しながら鉱山の話を思い出していた。
(鉱山で異変が起きてるってロンドリスで聞いたけど…なんだろ、嫌な気配を感じる。鉱山の方角…なのかな?)
真由は周りを見回し気配の出所を探す。特定までは至らなかったがおそらく鉱山なのだろう。質が悪くなっている程度しか聞いていないので詳細は分からないが、放っておくと危ない気がする。
「真由、疲れた?」
ユキに声を掛けられ我に返る。ちょっとねと笑うと市場で情報を聞きに行っていたクラノスが戻ってきた。手には新聞だろうか、紙の束を持っている。
「お帰り。何かあったか?」
「これを見てほしい。…ブルーボ王国大貴族がコーンヴェルの鉱山の一つを買収すると表明したそうだ」
驚きの発言に一斉に新聞に飛びつく。確かに一面にその記事が掲載されていた。
「…ロリング家って王家の親戚だっけか?なんで今になって…」
「ロリング家?」
聞いたことない家だと誠司はクラノスとアイラを見る。二人は少し言いにくそうにしていたが息をつくと口を開いた。
「ロリング家は王家の血筋の一つだ。先々代の王の弟君が起こした家でね、現在王子と同い年の嫡男がいる大貴族だ。今は継承権は王の嫡男、ウィリアム王子だけだが…もしも王子の身に何かあればロリング家に王位が行くんだ。そのぐらいの家だということを覚えておいてくれ」
「今は貴族議員として国政を運営しているぜ。一番発言力が高くてな…今の当主嫌いなんだよな」
アイラが鼻で笑うように肩をすくめた。クラノスの表情からもあまりいい家ではないのだろう。
「国防を担うガードナー家、神事を執り行うエバンス家、国政のロリング家は王国3大貴族なんだ。まぁ王家の血を引いているロリング家が一番権力が高いんだけどね。それにしてもなぜロリング家が…」
クラノスが口に手を当て何かを考え込む。思い当たる節があるのだろうか、そのまま押し黙ってしまった。
「でも外国の鉱山を買収しようなんて、そんな事できるの?連邦からしたら国土買収みたいになるじゃない」
「…基本無理だろうね。だが一つ手はある。ロリング家と鉱山を管理している家の婚姻があれば実質可能だ。記事には連日鉱山を管理するスミス家にロリング家から婚姻の話が来ているそうだ」
ユキの質問にクラノスは記事を指さして見えるようにかがんだ。そこにはスミス家の令嬢に婚儀を申し込んだと記載があった。
「スミス家って族長のお家だよね?そんな事族長が許すはず無いよ」
「だろうな。ドン族長って王国はガードナー家は気に入っているけどそれ以外の家は嫌っているはずだぜ」
真由の心配にカグヤが同意する。え、そうなのかい?と驚くガードナー家をよそにカグヤはうんうんと頷いている。
「…これ王の指示だったらどうする?」
ここでずっと黙っていた誠司がぽつりと呟く。全員が驚くがその線もあるため否定する者はだれもいなかった。
「…確か今鉱山の一つで異変起きてるって話だよね?もしそこに何か王が望むもの…例えば軍事利用できる何かがあるとしたら、自分の親族を置いて支配しようとしているとか。何よりこんな話、王妃が許すはず無いもん」
「そうだな…王妃もそうだが、他の貴族達も戦争回避のために反対するだろう。最近兄上と父上から返事が来ないのはこの件で対応しているからだろうか…」
ルークス邸からロンドリスに向かった後、定期報告を続けているのだがガードナー家からの返事が来なくなっているのだ。検閲だろうかと心配していた。誠司への贈り物も品物と簡単な手紙だけだったのだ。
「ひとまず族長の家行かないか?ここで固まって新聞とにらめっこしてても事態が進まないし」
アイラの言葉に全員同意した。挨拶も兼ねて街の中心部にある族長の家へと足を向ける。
(すごく嫌な予感がする…)
足取りが重い。瘴気だけではない、何か大きな陰謀があるのではと考えると足がさらに重くなる。何かのプレッシャーを感じながら、真由は必死に足を動かした。
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「おぉ皆様!お久しゅうございますなぁ!国内の浄化にご協力いただきまして本当にありがとうございました」
スミス邸に行くとちょうど門のところでドワーフ族長ドン・スミスと再会した。彼はこちらに気付くと満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきてくれた。
「ドンおじ様、お久しぶりです。その…鉱山の件、新聞読みまして…その…」
「やはりご存じでしたか、ユキ、そんな心配しなくてよい。速攻突き返したからな!さ、どうぞ中へお入りください」
ドンはなんて声を掛ければいいのか迷ってしまったユキに豪快に笑いかけ、一行を屋敷へと通す。スミス邸も洞窟をくりぬいて作られた部分と普通の屋敷を廊下で繋いだ造りだった。街の中でも珍しい造りだと紹介してくれる。
「屋外の屋敷は執務エリア、洞窟は居住部分と工房に分けています。そうそう、アルから依頼を受けて皆様の神聖武器を作る用意は万全ですぞ!すぐ取り掛かりましょう」
「お忙しいのにありがとうございます。あの、俺モノづくりに興味あって…工房を見学しても良いですか?」
恐る恐る申し出た誠司にドンはこれまた嬉しそうに笑うと即座に許可を出してくれた。
「近衛騎士殿は手先が大変器用と聞いております。ぜひぜひ御覧なって言ってください。あ、せっかくなら皆さんの武器につける装飾も作ってみませんか?うちの弟子が一緒に作ってみたいと言ってましてな」
「そこまで良いんですか?」
「勿論。仲間の武器の一部を作るのは無事を願う意味もあります。…実はあなたが下げているその刀、昔ここで打った時アルがこっそり装飾を作ったのですよ。その部分はマサノブ公が持っているようですが」
そうだったのかとカグヤと誠司は刀をまじまじと見つめる。どのような装飾だったのかはわからないが、親友を護るために(実は結構不器用な)アルベルトが願いを込めたのだろう。
「いいじゃないか誠司。ぜひ作ってくれ!」
「お前の腕なら安心だしな。あ、斧の収納用具と短剣と…あと防具も作りたいんですよね」
「がっはっはいいでしょう!もう職人たちが今か今かと待ちわびてましてな‼‼すぐ取り掛かりましょう」
長い廊下で豪快に笑い飛ばすとちょうど曲がり角から職人らしき人物が歩いてきた。
「お!族長!もしかして聖女ご一行様ですか‼‼‼?」
「おう!すぐ防具と武器の作成に取り掛かるぞ!炉に火を入れろ‼‼」
若い職人はよっしゃああああと叫ぶとすぐ踵を返して工房へと走っていった。
「すごい活気ですね…これが現場か~」
「鉱山の件でご心配をおかけしたようですが我々は権力には屈しませんよ。いつもの仕事を満足いくまで行うだけです。ささ、早速採寸と…魔晶石はお持ちですか?」
真由は返事をすると懐から魔晶石―ルークス邸に着いた日アルベルトから貰い、それから毎日聖女の祈りを込めた石を取り出した。握りこぶし程度の石は誠司の刀と同じ、淡い水色の光を放っている。
「おぉ良い魔晶石だ。やはり真由殿の純粋な気持ちがこもって良いものになりましたな」
「えへへ…あの、武器の作成、よろしくお願いします。」
「承りました。ドワーフ族総力を挙げて最高の武器をお届けしましょう!」
廊下の先から熱を感じる。炉の火が温まって来たのだろう。職人達の掛け声も聞こえる。先ほどの嫌な予感はどこに行ったのか、今はこの熱が真由の心を温めてくれている。
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「採寸完了です。冬用の防具は外の縫製職人に作らせますのでお時間いただきますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
真由がぺこりと頭を下げると同い年ぐらいの職人の青年はニカっと笑った。珍しく人間の職人だ。仲間達は各々採寸をしてもらい、誠司は先にドンから紹介された職人と一緒にデザインを考えているようだ。戦闘とは違う真剣な横顔が見ていてとても逞しく思う。きっとマンモルでこの髪飾りを作ってくれた時も同じ感じだったのだろう。真由は改めて嬉しくなった。
「それにしても…鉱山の件とかあるのに皆さん全然気にされていないように見えます」
「あぁ婚姻とか買収の件ですか?うちのお嬢…族長の孫娘さんは豪傑でして弱い男なんぞいらん!って使者の前で机たたき割ったんですよ。それで破棄にしたって聞いたんですけど…王国しつこいですよねぇ」
驚きの情報に吹き出しそうになるがそれでもあきらめない王国にやはり何か狙いがあるのだろうか。
「鉱山の異変はどうなんですか?」
「炭鉱夫の友達曰く最近瘴気が出てきたって言ってます。魔物も住み着いていて…今連邦軍が討伐に行っていますよ。魔晶石も瘴気を帯びたものが出てきたんです。いやぁおぞましいっすわ…」
(瘴気…あの賊は亡霊から瘴気を吸い取っているように見えた。もしかして鉱山の異変もあいつが?)
真由はお礼を言うと仲間達の元へ戻る。クラノスが何かを考え込んでいるように新聞を見ていた。
「あぁお帰り」
「鉱山のこと聞いた?今連邦軍が住み着いた魔物を討伐しに行ってるって」
あぁとクラノスが頷く。表情が晴れないのは母国の忠誠を誓っている王家が他国への無礼な姿勢を崩さないことへの嫌悪感からなのか。それとも王の暴挙を止めようと奮闘しているであろう実家や婚約者の家を思っての事だろうか。
「行くつもりか?」
「勿論。完成まで時間かかるし…それに行かなきゃいけない気がする。私だけで行くからみんな休んでて」
カグヤの問いに速攻で返す真由。今回は自分だけで行き仲間達は休んでいて欲しいのも心からの願いだ。だが後ろから何言ってるのと声が聞こえた。
「まったく、一人で無茶しないの。俺もいくよ」
「誠司の言う通りだ。ここは全員で行こう。ユキとアイラも良いかい?」
「うん!ここでじっと待つなんて性分じゃないからね」
「当たり前だ。いっちょ解決してこようぜ」
巻き込みたくなかったがやはりみんな行くと決めていた。心のどこかで絶対みんな来るんだろうなと思っていた真由は気恥ずかしそうに笑った。
「うし‼‼そうしたら今日はもう休んで明日行こうぜ!俺いいホテル知ってるぜ」
「そうだね!今回はどんな宿なのか楽しみだよ!ね、真由!」
ユキに手を取られ真由はうんと頷く。頼もしい仲間達に囲まれて本当に幸せ者だ。初めて入る鉱山に緊張を覚えながらも真由は仲間達と共に工房で指揮を執るドンの元へ歩み寄った。
神聖武器最初は公国で、と思ってましたがこれだとドワーフ族の寂しくない?ということで急遽変更になりました。ちなみにドンの孫娘の身長はドワーフ族の中では大きくアイラ並みの高身長です。机(鉄製)をへし折れる素晴らしい筋肉の持ち主です。王国の使者は泡を吹いて倒れました。




