次の街へ
後半若干虐待の描写があります!苦手な方はスクロールしてください!
「よしみんな忘れ物は無いね?」
2日後。カグヤの傷も癒えたため一行は次の街鉱山の街コーンヴェルを目指すことにした。消耗品は昨日のうちに買い足しておいた。ここからは馬車は使えず徒歩での移動になる。
「それにしても山道が崩れたって…まさか賊の仕業かな」
「かもね…充分注意していこう」
ホテルの部屋に忘れ物が無いかシーツをめくって確認する誠司にクラノスは声を掛けた。ソーンの見舞いに行っていたあの日の夜、山道で魔物の襲撃か何かで道がとても荒れたと報告が入ってきた。現在カイウス指揮の元、復旧作業が続けられているが最短でも一週間以上はかかるという。それならば徒歩で向かおうと一行は話し合った。
「コーンヴェルを越えたらいよいよ公国だな!温泉入ろうぜ」
「楽しみだな~マサノブ公にもご挨拶しなきゃね」
すっかり傷が癒えたカグヤは背伸びをしながら軽い足取りでロビーへと向かう。この旅も終盤に差し掛かっている。賊、おそらく魔王も出てきた。今後も何をしてくるかわからない。気を引き締めなければならないとクラノスはそっと子供たちの背中を見守っている。
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「おぉ皆様!この先足元お気をつけてくださいね」
街を出て半日ほど歩いたところで神殿の前を通りかかった。戦闘時と同じ場所に設置された天幕にはカイウスが陣頭指揮を執っていた。挨拶をと兵士に声を掛け案内してもらう。
「これは聖女ご一行様。もうご出発ですか?充分なお礼とお見送りが出来ず大変申し訳ございません」
「いえ、お気になさらず。それよりもカイウスさんもお休み取れていますか?お体大切にしてくださいね」
真由がカイウスと握手をしながらお互いの無事を祈る。最初は進んで挨拶や握手が出来なかった真由が自ら先陣を切って挨拶をしている。その堂々と成長した姿にアイラとクラノスは心の中でとても喜んでいた。
「お気遣い痛み入ります。それから戦死した者達へお見舞いいただいてありがとうございました。彼らも浮かばれることでしょう」
「…えぇ。皆さんのためにも必ず世界を守って見せます」
今回の浄化作戦では17名が亡くなった。賊の乱入により治療が遅れてしまったため増えたという。亡霊を倒した後、真由が治療していた彼も出血多量で亡くなった。昨日死体安置場へ赴き花を手向けてきた。あの場で真由を責める遺族はだれもいなかった。むしろ悪霊を払い兵士を助けようとしてくれた真由に涙を流し感謝するほどだ。
(責められても誰かが生き返ることは無い。わかっているけど、それでも一人でも多く助かってほしかった)
シーノル、マンモルでは奇跡的に死者は出なかった。ストラスでは一般市民や連邦軍を含め50名近くが亡くなった。その時も出発前墓前に花を手向け祈りをささげた。これぐらいしか真由に出来ることは無いのだ。
「それにしても戦闘で道があれるってどんな大物が出たんですかね」
アイラの声で我に返る。カイウスはうーむと首を捻った。
「ロンドリスで街に入ってきた大きい猪みたいな魔物を覚えていますか?あれに似た魔物の軍団でした。森の中から逃げるように出てきたと兵士から報告を受けています。…森の中で何かあったのでしょうね」
「あぁユキが人ごみに流された時か」
「ちょっとぶり返さないでよ!クラノスのおかげで急行できたくせに!」
カグヤの肘を小突くユキ。ちょいちょいネタにされており毎度カグヤが小突かれているのだ。
「念のため皆様も道中はお気を付けください。そうそう、コーンヴェルで武器職人たちが到着を待ちわびているようですよ。速く神聖武器を打ちたいと職人たちが気合を入れているとドン族長から連絡がありました」
「ふふ、ありがたいお話ですね。確かに賊の戦闘では誠司の刀と浄化魔法以外効いていませんでしたし…我々もパワーアップしていかねばなりません」
「そうだな、ついでに防具も新調したいな。誠司胸当てきつくなってきたんじゃないか?」
確かにと誠司は頷いた。こちらに来てから運動量が増え筋肉がついてきたのだ。実は胸当てや肩の防具がきつく留め金を調整していたのである。良い筋肉に育っていると微笑むクラノスが若干怖いのはここだけの話である。
「そろそろ出ようか。ではカイウス殿、またお会いしましょう」
クラノスに促され一行はカイウスと握手を交わすと天幕を出た。空は快晴だ。久々の徒歩の旅に体力配分など忘れかけていることがあるが、それでも一行は兵士たちの敬礼による見送りを受け神殿を後にした。
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その二日後。一行は荒れた山道を進んでいた。今はあいにくの雨模様だ。山道の途中にある山小屋で休憩をとることにした。
「山小屋なんてあるんだね。助かる…」
「旅人の休憩用の小屋だね。ここは加工したものをヨークスやロンドリスへ運ぶ道でもあるから等間隔で整備されていると聞くよ」
クラノスが外套を干しながら解説してくれる。暖炉で火にあたれるのはとてもありがたい。季節は冬に向かっているという。日に日に寒くなっていく中野宿するのは危険だ。
「公国着くころには雪降るかな~そうなるとコーンヴェルで冬装備揃えておかないとな」
「雪か…どのくらい寒くなるんだろうね」
「うーんなんていえばいいのかな…あ、冷えた日は快晴だと雪が反射して光って見えてきれいなんだぜ!」
ダイヤモンドダストの事だろうか。こちらでも観測できることに驚くとともに神山ぐらい気温が下がるのかと真由と誠司は身構えた。マイナス10度は余裕で行くだろう。こんな時は野営なんてしていられない。旅のペースを考えなければと暖炉に薪をくべる。
「あぁお母さんから聞いたことある!ダイヤモンドダストって言うんでしょ⁉お母さんが産まれた日もそうだったって」
「フユミ様は冬産まれなんだ…それでお名前に冬がつくんだね。…もしかしてユキも?」
「うん!私も冬の日に産まれたんだよ!お母さんの名前から連想してユキ。冬と雪。お父さんの発案らしいよ」
「とても素敵な由来だね。私たちもぜひその光景を見てみたいものだ」
クラノスが優雅に微笑む。誠司は産まれは雪が無い地域だったが確かに神山に引っ越してきて初めてダイヤモンドダストを見たときは感動したものだ。はしゃいで風邪をひいたものだと一人恥ずかしくなっている。
(冬か…物置で寝たときよく凍傷ならずに済んだな)
そんな中真由は一人違うことを思い出していた。両親と暮らし始めて初めての冬。父が出張で不在の日、母が男を家に連れてきた。邪魔だからと物置に押し込まれまだ10歳に満たない真由は一人震えて過ごしていたのだ。たまたまスキーウェアを着ていたのが良かったのか、それともその日はまだ温かい方だったのか。真由は奇跡的に一晩生き延びたのだ。懐かしいなと一人自虐するように笑う。
(最近家の事よく思い出すな…別に思い出なんて無いのだけど)
水源地以降真由はよく横山家での出来事を思い出すようになっていた。どれもこれも一人震えて生き延びる思いでしかないのだが。
「うーん雨やみそうにないな。今日はここで泊まろうぜ」
窓の外を見ていたアイラの提案で今日はここで休むことになった。温かいスープを作り軽く談笑して過ごし、一行は眠りについた。
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「またここだ…」
目を覚ますと真由は見慣れた物置の中にいた。最近よくこの夢を見る。暗い、怖い、寒い。ベッドで眠りたいと泣いている幼い真由をずっと体育座りで見ている夢だ。だが今回は意識ははっきりしている。おまけに泣いている幼い自分がいない。代わりに体を見ると背丈が縮んでいる。
「とりあえず外出てみようか」
建付けの悪い引き戸を無理やりこじ開け外に出る。外は真っ暗だった。すぐ向かいにリビングの灯が窓から漏れている。真由はそっと窓に近づいて中を覗き込む。中では母が見知らぬ男に抱き着いていた。気持ち悪い光景に目を逸らし振り返ると父が立っていた。
「何を見ていた」
抑揚のない声が聞こえる。別にと返そうとしたところで衝撃と共に視界が揺れる。一気に地面が迫ってきた。即座に手をついて受け身を取る。父はそんな真由に気にせず拳を上げた。大声で叫んで近所に知らせてやろうかと喉に力を入れるが声が出ない。再度衝撃が走る。痛い、痛い、痛い!久々の戦闘以外の痛みに涙が出てくる。あぁこれはいつかの追体験なのか。真由は食いしばって頭を護るように丸まった。蹴られないだけまだましだと言い聞かせながら痛みに耐える。また空を切る音が聞こえたが追撃は来なかった。不審に思い恐る恐る顔を上げる。そこには、父の腕をつかんで父をにらみつけている誠司の姿があった―
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「っ!」
真由は勢いよく目を開けた。薄暗い小屋の中に寝息が聞こえる。ここは山小屋だ、物置じゃないと逸る心臓を抑え呼吸を整えた。向きを変えると暖炉の炎の揺らめきが見える。少し火に当たろうとゆっくり体を起こした。
「…真由?大丈夫?」
暖炉の前の人影―誠司が小声で話しかけてくる。今は誠司が見張りの番だったのか。真由は声が出ないまま恐る恐る誠司に近づく。誠司はそっと毛布を広げると真由を抱き寄せる。真由は心地よい体温と安心する心臓の音にゆっくり呼吸を繰り返した。
「…怖い夢でも見た?」
「うん。…でも今日は違った…」
そういつもは適当なところで目が覚める。覚めた後はため息をついて水を飲み、再度さっさと眠りにつくのに。今日はやけに痛みがリアルだった。それに最後、助けに来てくれた近衛騎士がいた。
「お父さんに殴られてたんだけどね、最後に誠司が助けに来てくれたの。…可笑しいよね、願望だったのかな」
「可笑しくなんかない。…これからずっと夢の中でもどこでも助けに行くよ」
そっと真由のおでこに温かく柔らかい感触が触れる。顔を上げるとやってしまったと言わんばかりに顔が真っ赤の誠司がいる。真由は声を出して笑いそうになるが周りの仲間達を起こさないように我慢した。
「うん、ありがとう誠司。…頼りにしているよ騎士様」
「は、恥ずかしいから名前だけでいいよ…」
えへへと真由は笑うとそのまま誠司に抱き着いたままゆっくり目を閉じた。誠司も無理に真由をはがそうとせず静かに背中を摩ってくれる。
(もう大丈夫。もう大丈夫だからね、あの時の私。我慢した分、温かい人達が助けてくれるよ)
そっと昔の自分に言葉を贈る。あぁこちらの世界にきて良かった。聖女として必要とされて、いろんな人に囲まれて、家族の温かみを知って―憧れの人とこうして過ごせて嬉しい。真由はそのまま眠りについた。今度はもう怖い夢は見ないだろう。だって近衛騎士がすぐ助けに来てくれるから。
静かに夜は更けていく。暖炉の中で揺らめく炎が寄り添う聖女と騎士の影を映している。
(真由がうなされて起きたけど大丈夫そうだな)
(ね‼‼‼いやぁ良いもの見れた~~~~~~恋愛小説みたい‼‼‼)
アイラとユキが小声で話しているのに誠司は気づいていた。気恥ずかしいが今は腕の中で爆睡する真由を横にして咳ばらいをしてごまかしている。
(アイラ~~~~~~~~~~~~~~起きてるなら真由を寝床に運んであげて)
(すやああああああああああああ)
誠司の望みも虚しく、少年はその後クラノスが起きてくるまで真由の寝顔を見るしかなかった。
トキメキ★の風が濃くなってきましたねぇ‼‼‼‼
ちなみに全員起きていましたが誠司がいたので寝たふりを決行しそのまま寝ていました。
見張り番交代の時間に起きたクラノスが笑いながら真由を寝床に運んであげ誠司を労っています。
カグヤは笑いを堪えるのに超必死です。




