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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
65/66

疑惑と推理と

神殿にとりついた亡霊―先代獣人族長を浄化した日の夜。一行は獣人族の街ヨークスへと戻ってきた。駐屯地すぐ隣のホテルの部屋で武装を解いてベッドに飛び込む。どっと疲れたと息を吐きだす。正直このまま寝てしまいそうだ。


「…あのさ誠司、旦那。ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど…」


「どうしたんだいカグヤ」


椅子に腰かけたカグヤが少し緊張した面持ちで口を開いた。手には薬草を煎じたお茶が入ったコップを持っている。今回一番負傷したカグヤにもう休んで欲しいところであるが、戦闘後からずっと考えている様子が気になっていた。誠司もクラノスも椅子に腰かけ話の続きを待つ。


「…最初神殿の外で賊と打ち合った時にさ、顔…というより目元が見えたんだよ。靄がかすんで一瞬だったけど」


「顔を…⁉どんな顔してた?」


食い込む誠司をなだめながらクラノスは続きを促した。


「……瞳は誠司と真由と同じ現代人…の瞳と目の形だった。確実にこっちの世界の人の目じゃない」


異世界人と誠司たち現代人の違いの一つは瞳だ。異世界人たちは宝石のような美しい色とりどりの瞳の色を持っている。カグヤも誠司たちに近い目の色をしているが、髪の色と同じく蒼黒の瞳を持っている。


「それだとハイエルフである証拠にならないな…あっごめん続きお願い」


「俺の勘違いであってほしいんだけどさ…あの……ま、真由の目元と瓜二つだったんだ。一瞬真由かと思って動き止まってさ…」


まさかの言葉に誠司とクラノスは驚き口が塞がらなかった。この理由なら先ほど全員がいる前で言わなかったカグヤの気持ちがわかる。突然こんなことを言われたら一番困惑するのは真由だ。だが


「…相手が化けているって可能性はないかい?彼女は一人っ子だろう?それに例えば親戚だとしてもこちらにいると言うことは現代で行方不明になっているのだろう。いくら親戚付き合いがなくても調べられたりするのでは?」


「…戸籍情報とかから警察に話を聞かれる可能性は充分あると思うよ。でも真由本人からそういう話を聞いたこともないし…学校でそんな噂聞いたことも無かったね…」


誠司は思考を進めた。動体視力が誰よりも優れているカグヤの言うことだ。賊=ハイエルフ=魔王という図式が崩れそうになるが、真由そっくりの顔立ちというのは非常に気になる。


「目元だけで判断した俺の間違いかもしれないんだけどさ…」


「いや最初に感じたことは何かしらのカンが働いてそう判断したのだろう。驚くが私たちはカグヤの言うことを信じるよ。ね、誠司」


「勿論。それにあの場で真由に言わなかったことも正しいよ。余計混乱させるからね。…それにしても、仮に真由の親族だとして…俺らより前の転移はフユミ様だったし…親世代の親戚だったりするのかな」


首を捻りながら誠司はノートを広げて考えを整理し始めた。


「時系列から整理しよう。まずは大戦後行方不明になったハイエルフだね」


「神殺しを行って消息を絶ったとほぼ同時に魔王が出現。だがオーロラ様曰くその魔王はハイエルフの姿をしていなかった。面識があるオーロラ様に何も反応が無かったということはハイエルフではなかった」


「そこから同じ魔王がずっと存在し続けて…聖女召喚が始まった…」


最初スクトゥムから受けた魔王出現の情報にオーロラの実体験を重ねる。一つ一つ歴史がつながっていくような感覚だ。


「先代獣人族長が魔王にやられたのはだいたい30年ぐらい前。その後フユミ様の召喚が…1673年、魔王討伐が1676年。今から24年前か」


「魔王出現から討伐まで100年以上ってところか。よく討伐されなかったよなぁ…」


だよねぇと誠司は同意した。この世界の人にとって、魔王討伐を果たした先代聖女一行はどれほどの救世主だったのか。次代の自分達も魔王らしきものと相対している。果たして勝てるのだろうか。


「魔王討伐後は世界は平穏だったんだよね?瘴気の核も無かった?」


「あぁ。フユミ様が亡くなるまで核の発生は確認されていなかった。10年前までの話だね」


「…10年…フユミ様が亡くなって……10年前…??」


ここで誠司はふと顔を上げた。カグヤとクラノスがうかがうように覗き込んでくる。誠司はこちらに来てからの会話を思い出しながら考えを口にする。


「…イノケンティス王の統治がおかしくなったのは10年前から…24代目を召喚失敗したのも、瘴気の核が発生したのも…すべてはフユミ様が亡くなってから始まった…」


「確かに聖女が亡くなってから一気に世界情勢変わったよな…」


もしかして、と誠司は言葉を続ける。


「フユミ様の魂はこの世界にあるって真由言ってたよね、それなら今までの聖女の魂だってあって可笑しくないんだ。じゃあどこに?って話だけど…瘴気の核だ。それに歴代聖女の魂が縛られている。そう考えると今までの浄化作戦の後に真由が追憶を見せられていたのも納得だ」


一度思考を始めると止まらなくなる誠司の悪い癖だ。だが今は話続けさせるしかないとクラノスとカグヤは頷いた。この思考力と想像力の豊かさが彼の何よりの武器でもある。


「フユミ様だけはまともに話せたって言ってたから、彼女は特別な存在でもしかしたら世界の均衡を保てるだけの力があったのかもしれない。だから亡くなった後一気に情勢が変わった」


「なぜ特別だったのか…聖女の選定基準か?召喚の基準はわかっていない…いや何かしらの基準が無いと赤子を召喚だってできるんだ。まず聖女召喚の背景からもう一度考えて…」


「誠司一旦水を飲みなさい、喉がかすれているよ」


流石にぶつぶつ言いすぎた誠司の声がかすれてきた。熱が入った誠司をなだめるようにクラノスが水を差しだす。誠司はお礼を言って受け取ると一気に煽った。冷たい水が喉をゆっくり流れていき少し冷静になれる。


「…ごめん疲れてるときに。先休んでても…」


「いーやここまで来たら俺も付き合うぜ。気になるし。で、聖女召喚の背景だよな?女神の御神託で始まった並行世界からの聖女召喚による世界の救済…ね」


カグヤもクラノスも身を乗り出して会話に加わる。小さい空間に男三人で密集している姿が少しだけ面白くて誠司は思わず口角が上がる。気持ちを切り替え推察を続ける。


「召喚の儀は神事…神…神婚文化……ハイエルフは神界に攻撃を……いや…でも結局真由とそっくりなことの説明がつかないな…」


「誠司?」


クラノスの呼びかけに誠司はえっとね、とペンを持った手で頭を書きながら考えを述べ始める。


「いや仮説なんだけどさ。聖女召喚って女神様の指定で人物を選んでいると思ってさ。さすがにランダムで能力ある人を拝借、なんてことは無理だからさ。召喚されるのはだいたい15~18歳ぐらいの人たちだからそこにまず一定の基準があると思うんだ」


「確かに言われてみれば赤子を召喚した、なんて話は聞かないもんな」


「そう、でそこからどう選別するかなんだけど…もしかして女神様と別の存在が召喚の儀に介入していると思うんだ」


突拍子もない話にクラノスとカグヤはえ?と理解が追いついていない様子だ。誠司は仮説だからね、と言葉を続けた。


「正直フユミ様と真由の召喚で状況が違いすぎるんだ。フユミ様は例えば女神様直々の御指名だったとしたら納得できるんだ。じゃあ真由は?魔王は倒された、でも核は存在している、でも急に滅ぶような状況じゃない。それに王がいきなり召喚をしたんだ。神事なのに神官長が不在の状態で儀式を行ったことも可笑しい。真由は呼ばれた理由は?…俺が思うに真由の召喚は女神様の指名じゃない。もっと別の…魔王、いやハイエルフによる召喚なんじゃないかなって」


「ハイエルフが召喚の儀に介入なんて…それこそ神の…あ、そうか、神婚!」


カグヤが納得いったように手を叩いた。


「そう、この世界で一番神に近い存在はハイエルフだった。それこそ神に攻撃できるような存在だ。そいつが何かしらの目的をもって聖女召喚を邪魔をして聖女を選んでいるのではと思って。それならフユミ様以外の歴代聖女の魂が瘴気の核に囚われていると考えれるしょ?」


「その話だとフユミ様と真由以外の聖女はどうなんだい?」


「人となりを知らないから何とも言えないけど…もしかして女神様とハイエルフが交互に召喚に介入しているんじゃないかな。初代は女神様、次はハイエルフ…とか、女神様が力を溜めた後にフユミ様とか他の聖女を呼んだ、とかね」


確かにそれならとクラノスも頷いた。でもよぉ、とカグヤが手を上げる。


「それが正しいとして、じゃあ誠司が巻き込まれた理由と賊が真由に似ていた理由がつかないんじゃないのか?」


「そう、そこなんだよね…俺は多分完全にその場にいたからだと思う。でもあの賊…ハイエルフだと思われるのが真由に似ている理由がわからないんだ。これはまだ考えないと…」


「ハイエルフと言っても寿命はある…もしかして魂を別の肉体に移した、なんてことはないかい?それだったら真由の親戚に憑依したことも納得いくだろう」


クラノスの考えに二人はそれだ!と声を揃えた。思ったより大きい声を出してしまい慌てて口をふさぐ。そう、隣の客室には女性陣が泊っている。きっともう休んでいるはずだ。


「魂の移し替えか…ぶっちゃけハイエルフならできそうだよな…ユキにそれとなくそんな魔術があるのか聞いてみるか」


「そうだな。それから、しばらく真由に賊と似ていたことは決して話さないように。考えが纏まってからにしよう。…何かあれば責任は私が持つ」


「責任は俺たちで持とうよ。男の秘密ってやつだね」


そうだねと笑いあう三人。夜も更けてきた。ひとまず推察は切り上げて休むことにする。一気に思考を進めてさすがに疲れてしまった。だが思わぬ情報のおかげで少しずつ考察が広がっている。まだ推測の域を出ないが、今後もしっかり推考を続けていかねば。誠司は水をもう一杯流し込むとカグヤと共に風呂場へと足を進めた。

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「…あまり力は得られなかったな」


神殿から離れた森の奥深く。薄暗い洞窟の中で一人の男は手を何度も握っている。今回はしばらく熟成させた瘴気の核に先代獣人族長の怨念を合わせてみた自信作だった。思いのほか簡単に浄化されそうだったため核を回収したが、燃えカス程度のものしか回収できなかった。


「仕方ない、鉱山へと行くか」


各地の瘴気を集め、今度こそ世界と神に復讐する。完全な魔王となり世界の頂点に立つために、そのための聖女―生贄により深く絶望してもらわねばならない。そのための魂も集めた。次は失敗しない―と男は夜の森へと足を踏み出した。


「やぁ。良い夜だな…魔王よ」


聞き覚えのある声が聞こえた。そう、10年前自分を殺したあの声が―


全身で危機を感じ武器に手にかけ構える―前に自分の眼前に夜空に反射する金の髪と、あの憎き翡翠の瞳、そして聖なる輝きを放つ槍の刀身が迫っていた。

女性陣一切出番ありませんでした‼‼‼ごめん‼‼‼

誠司の思考回でした。発想力と思考力が一番の武器ですね!


そんでもって最後に登場したのはあの最強の男。フル装備でぼこぼこにしてやりますよ‼‼‼‼‼‼

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