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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
64/66

乱入

「…う…」


「カグヤ殿、まだ動かないでください!」


意識が戻ったカグヤに気付いた神官が声を掛ける。視界がだんだんはっきりとしてきた。ゆっくり顔を動かすと自分はどうやら気絶して神殿外の天幕へと運ばれたようだ。背中が痛い。


「戦況…どうなってます…?」


「まだ戦闘中です、先代が大暴れしていて…」


「出血量が…!輸血用意‼‼」


会話の途中だが重傷者が次々と運ばれてくる。カグヤは行ってくださいと神官に声を掛けた。神官は一礼すると輸血の用意を始めた。吹き飛ばれた時、とっさに頭を護り、身体全体に強化魔法と簡単な防御魔法をかけたのが功を奏したのか、背中が痛い以外自分は大丈夫そうだ。ベッドを開けるべきだとゆっくり起き上がる。そこへカイウスが走ってきた。


「カグヤ殿、よかった意識が…」


「すんませんベッド開けます、患者ここに」


「ご配慮感謝しますがあなたも怪我をしたのですよ、まだ安静にしていなさい」


カイウスの肉球に押されてカグヤは渋々もう一度横になった。外が騒がしくまだ戦闘は続いている。


(くっそ、先走って気絶するとかかっこ悪すぎる…みんな無事かな)


「族長、また一人…息を引き取りました…」


「そうか…丁寧に安置してくれ、戦闘後弔いする」


悲痛な会話が聞こえてくる。何名亡くなったのだろうか、カグヤは唇を強く噛み締めた。ストラスの時も結構な人数が亡くなっていた。連邦へと出発する前夜、合同墓地に花を手向けたときの真由の悲痛な表情が目に焼き付いている。あの優しい聖女はまた自分を責めるのだろうか。そんなことはさせたくないと誠司と話をしたばかりなのに。


「族長!聖女様の一撃が核を貫いたと報告が!間もなく戦闘終了です!」


「よし、最後まで気を抜くな!街から医療班を大至急派遣するよう伝令だ!」


次はこの天幕がある意味戦場になる。せめてここで役立とうとカグヤは意気込み、痛む背中を庇いながら起き上がった。カイウスは指示のため天幕を出ていった。カグヤもマスクを手に取り外に出るため布に手を掛けたその瞬間、背中が凍るような気配を感じた。


「カイウス殿!警戒しろ!なんか来る!」


外に飛び出しながら大声を出す。この気配は絶対に勘違いではない。カグヤの声に驚いた軍の戦士達が一斉に武器を手に取る。その直後、天幕近くの森から黒い人影が出てきた。手にはレイピアのような先端が鋭く尖ったものが見える。まさか、とカグヤは短刀を手に取りカイウスへと駆け寄る。


「賊だ‼‼‼」


カイウスが叫ぶと同時に賊がカイウスめがけて突撃してくる。寸でのところでカグヤが割り込みレイピアを受け止める。賊―黒い人影は靄に覆われ確かに顔は認識できない。だが骨格は確実に成人男性そのものだ。横から攻撃魔法が飛んできて賊は身を翻してカグヤと距離を取る。


「…邪魔をするな…」


声、なのだろうか。まるで呪詛を吐いているようにも聞こえる音に一同思わず足が止まってしまう。だがここで固まれば確実に死ぬ。それに中で戦っている仲間達が危ない。カグヤは覚悟を決めるとクナイを両手に構え一気に距離を縮めた。賊はまるで笑うかのように息を吐くと軽々とカグヤの攻撃をレイピアでさばいていく。


「っ‼‼‼」


目の前に突き出されたレイピアの剣先を両手のクナイで受け止めた。アルベルト並みに速い攻撃速度だ。鍛錬していなかったら今自分は死んでいただろう。歯を食いしばって相手の情報を取るため顔の部分を凝視した。靄が揺らめいてちょうど目元が見える。種別だけでも判別しようと目を合わせたとき、


「―え、お前―」


強烈な既視感がカグヤを襲った。あの目の形は確実に人間だ。瞳の色は少しだけ茶色が混ざったような黒色。真由と誠司と同じ現代日本人と同じ目をしている。カグヤが驚いたのはそれだけではない、目の前の賊の目元はカグヤがよく知る人物とそっくりだったのだ。彼女の性別が変わった姿、と言えばいいのだろうか。固まってしまったカグヤの腹に蹴りが入る。意識が戻ったカグヤは転がりながら起き上がり口の中の血を吐き出す。黒い人影はゆらゆらと体を揺らしたかと思うと、神殿の中へと駆け出して行った。


「賊だ‼‼‼‼‼‼‼真由を護れ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


直感で真由を狙っていると感じたカグヤは全力で叫んだ。聖女だからという理由だけではない。まるで、家族に会いに行くようなそんなノリに見えた。そう、あの賊の顔立ちは―


(クソ、なんで真由にそっくりなんだよ‼‼)


聖女、横山真由にそっくりだったのである。

---------------------------------------------------------------------------

真由を狙った一撃を刀で防ぐ。レイピアに体を覆う黒い靄、そしてカグヤの警告からカイウス達を襲ったあの賊で間違いないだろう。それにしてもすごい力だ。足を踏ん張って耐える。


「誠司!」


「下がって…‼‼」


治癒している獣人族の戦士を護るように、だがとっさのことでどうしていいのかわからない真由に誠司は下がるよう伝えることしかできない。ユキも真由もかなり魔力を消費した。魔法の援護はほぼ不可とみて良い。


「…貴様、その加護は」


賊が何か言いかけた。だがそこにアイラが下から斧を振りかざしレイピアを弾く。一気に力が抜けた誠司は体勢を崩したがすぐさま整えて背後の真由の無事を確認する。


「捕らえろ‼」


神殿に走ってきたカイウスと数名の連邦軍が賊を捕獲するように攻撃を仕掛ける。だが動きが早い賊に一瞬でも攻撃を当てることができない。


「止まりなさい!」


ユキが拘束魔法で拿捕を試みる。賊は自身の体の周りに浮かんだ光の輪を確認すると、その輪が体を締める前に飛び上がった。そのままユキめがけて空中でレイピアを構え突っ込んでくる。クラノスが盾で受け止める。


「邪魔だ」


賊が開いた手で黒い靄を集めたかと思うとそのままクラノスの盾に押し当て彼を弾き飛ばす。掌底のような技だ。後ろにいたユキは距離を取っていたため巻き込まれていない。


「クラノス!」


怪力な彼が押し負けたことに驚く誠司と真由。アイラがフォローを入れるように飛び込むが賊はひらりと躱し真由と誠司のいる場所―先ほど浄化してまだ消えている途中の先代獣人族長の元へとゆっくり着地した。


「あいつ何を…⁉」


賊はレイピアを先代獣人族長の体へと突き刺した。獣の咆哮が再び神殿に響く。だが先ほどよりも痛みに悶えるような絶叫に真由は思わず耳をふさいでしまった。


「もしかして、瘴気を吸収している⁉」


微かに聞こえた誠司の声にすぐさま顔を上げると賊は突き刺した巨体から瘴気を吸収していた。巨体に蓄積していた瘴気は量が多すぎて完全浄化までに時間がかかっていた。その隙を狙っていたのか、真由は急いで杖を手に取り浄化魔法を展開した。後方からユキも援護してくれる。


(何が何だかわからないけど、こいつに瘴気を集めさせるわけにはいかない…!)


「…ふ、無駄なあがきを」


「離れろ!」


賊が真由を見下ろし鼻で笑う。誠司は刀を構えると身体強化が一気に距離を詰めて切りかかった。神聖武器は瘴気に強い。レイピアの刀身を狙った横なぎはそのまま刀身を真っ二つに切った。賊は一瞬驚いたかのように後ろへ下がる。逃さないと誠司が踏み出そうとしたところで足元の巨体が動き、誠司はそのまま転がり落ちてしまった。真由が駆け寄り誠司を抱き起こす。


「その武器、貴様…いや目的は果たした」


賊は一人でぶつぶつ言葉を発したかと思うとそのまま上昇し教会の窓ガラスを割って外へ飛んで行ってしまった。


「深追いするな!先に負傷者の救護をしろ!」


カイウスの指示が神殿に響く。混乱しきった誠司と真由は息を荒く吐きながらそのまま動けなくなってしまう。いったい何だったのか、誠司の刀以外ほとんど攻撃が効かず、そして瘴気を吸収していく。


「…あの魔力とプレッシャー…まるで…まさか」


「二人共無事か⁉」


クラノスとアイラ、ユキが駆け寄ってくる。誠司は思考を中断すると仲間達を見上げた。各々怪我をしているがひとまず無事のようだ。


「大丈夫、それより巨体が…」


真由が巨体へと目を向けるともう残りわずかに残った顔だけがこちらを見ていた。


『…俺様を打倒した貴様らに…冥土の土産だ…あやつは…魔王だ…俺様の体を持っていった…』


「魔王…⁉…おい、姿はその時のままか⁉」


誠司が問いかけると巨体は消えそうな声でいいやと息を吐いた。


『違うな…だが気配は完全に奴だ…く、二度もやられるとはな……』


(姿が違う魔王…こいつがやられた時はフユミ様召喚より前だ。その時から姿が違うってことは…魔王は復活した、やっぱり…ハイエルフが魔王に変わったのか…⁉でもいつ変わった?説明がつかないぞ)


時系列を整理しながら思案する誠司に巨体はあぁ…と最後の言葉を口にする。


『まぁせいぜいあがくことだな……次世代ども………』


「…おやすみなさい、先代獣人族長。次産まれるときは、他人を思いやる心を持ってね」


先代獣人族長が光の粒となって完全に消えていく。完全に決着はついた。だが予想外の事態に歓声を上げる者はいなかった。やっと静かになった神殿に、沈黙だけが流れている。

---------------------------------------------------------------------------

「カグヤ、生きてる…⁉」


「生きてる生きてる…すまん俺今回役立たずだった…」


「何をおっしゃる、賊の襲撃から私を守ってくださったでしょう。素晴らしい動きでしたよ」


外に出るとカグヤが支えられながら一行を出迎えた。相当痛むのか、腕は力が抜けたようにだらんと下がり、顔はいつもの笑顔が消え痛みでひきつっている。カイウスが励ますがそうかなぁとボヤくことしかできていなかった。


「カイウス殿の言う通りだ、賊の侵入を知らせてくれたから対処できたんだぞ。」


「そうだよそうだよ!とにかく、生きてて良かった…」


うんうんと頷くユキがそっとカグヤの腕を取り治癒を掛ける。へへ、と息を吐くように笑うとゆっくり座った。


「先に皆様を街へ、と言いたいところですが賊のことも気になります。護衛も兼ねて全員で街へ戻りたいためしばらく天幕でお休みください」


「わかりました。真由、ユキ、二人共魔力を使いすぎた。治癒魔法の手伝いは控えておきなさい」


「でも、重傷者がいっぱいで…」


会話の途中でも天幕の中から医療班の声が聞こえる。輸血の用意や縫合など、中は大変なことになっているはずだ。真由はまだやれると立候補するがカイウスは首を横に振った。


「お気持ちは大変ありがたいですが主戦力で戦い続けた皆様は予想以上に疲弊しているのです。帰りにもしも襲撃に会ったときに逃げられるだけの力は回復させてください。…それに我々の誰も、貴方様を責める者などいませんよ」


真由の気持ちを汲み取ったのか、カイウスはそっと肩に手を載せた。ストラスの時から聖女は死んだもの達へ謝罪をしているのを彼もよく知っている。ここでさらに負担を掛けさせたくないのが大人の本音である。


「…わかり、ました」


アイラに促され一行は別の天幕へと入った。中には水桶や簡易食料が用意されていた。衛兵にお礼を言って腰を下ろす。深い沈黙が流れるなか、誠司が口を開いた。


「とりあえずみんな無事でよかったよ、早速で申し訳ないけど賊の件聞いてもらっていい?」


「あぁ。ここで認識を共有しておこう」


「ありがとう。…結論から言ってさっきの賊がハイエルフで、現在の魔王で間違いないと思う」


だよね…と真由は頷いた。先代獣人族長の口ぶりやオーロラから聞いたハイエルフの話からほぼ断定としていいのだろう。でも、とアイラが口を開いた。


「警戒してた呪術使ってこなかったよな?あとなんで今出てきたんだろうな…目的は?」


「呪術使うにも事前用意が必要なんだ。水源地の時のだと事前に呪いをその土地に浸透させないといけないし…あの時は瘴気の核に術式を忍ばせておいたんじゃないかな」


「今になって出てきた目的か…単純に世界にもう一度認められたかった…とかかな。神婚に選ばれるぐらいだったんだもん、相当自信あったかもしれないし…」


確かにね、と真由の意見に同意するクラノスの横でカグヤはじっと真由の顔を見ている。


(見間違いじゃない。真由の顔そっくりだ。でも真由には兄弟はいない。異父兄弟、という可能性もあるけど…それなら真由の召喚前にこっちに来ていないと可笑しいよな)


「…カグヤ、あの、大丈夫…?私何か顔についてる…?」


恥ずかしそうに聞いてくる真由にカグヤはすまんすまんと返した。この話はまだ真由本人にはしない方が良いだろう。カグヤはそう決めると痛む傷口を抑えながら会話を静かに聞いていた。


不穏な空気が一行を囲む。もう一度気合を入れなければならない。真由は一人心を入れ替えていた。


別名カグヤ有能回。実は一番最初に話の構成を考えていた時、カグヤの加入はこの辺りを予定していました。ただここでの加入だとあまり意味がないという理由でユキより早くなりましたが結果オーライだったかと(笑)色々と影のMVPです。

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