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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
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外伝⑫ トキメキ★ハリケーン

※本編とは神殿の話以外ほぼ関係ありません※

トキメキに飢えた少年の話です。なんて?????

神殿の外観はシャルトル大聖堂やノートルダム大聖堂のようなゴシック建築の教会の外観を思い浮かべてください。

ブルーボ聖神殿。それは代々王国が聖女を召喚するときの場所として用いられる神聖な神殿だ。王都から少し離れたのどかな田舎風景に突然現れる荘厳な造りの神殿は、周囲の景色とは調和していない謎の神殿でもある。大戦時、戦争を仕掛けた国の王城だったそうだが、大半の部分は焼け落ち、今は儀式を行う広場程度しか残っていない。そんな由緒正しい神殿の近くの王国騎士団詰め所では多くの騎士が勤務している。


「ヴァア…」


人間の声かと疑うレベルの低く、奇声を発しながら机に項垂れる一人の若手騎士。その名はオックス・ツェクリ。姉はアイラ・ツェクリ。彼女は珍しい女性騎士の中で常に最前線で斧を振るい数々の功績を上げた騎士団の伝説的な存在だ。オックス自身も姉を誇りに思っており、その弟と言うとかなりのプレッシャーを受けるはずなのだが。


「だめだ……心躍る……トキメキがっ…足りないいいいいいいピギチャアアアアアアアアア」


この少年、すでに手遅れなのである。念のため釘を刺しておくが、決して姉のようになれというプレッシャーから壊れている訳ではない。元からこうなのである。


「アヒャウ…だめだ、むさくるしいここでトキメキが得られるわけ無いんだッ‼‼‼ちくしょう姉ちゃん、なんで恋の行方を詳細に書いてくれないんだ‼‼‼‼」


引き出しから取り出したのは現在聖女の旅に同行している姉、アイラから時折送られてくる手紙だ。今は亜種連邦ロンドリス近郊のエルフの集落であの最強の男、アルベルトの自宅でお世話になっているそうだ。大雑把な姉は手紙も簡潔で現在どこにいるかと真由と誠司の様子ぐらいしか書かれていない。オックスが聞きたいのはもっと深い部分なのだ。


「あの日俺のトキメキセンサーはピンと来たんだ、誠司殿は恋をしていると‼‼‼‼‼‼」


「さすがに不敬じゃないのかお前…一応召喚されたお方なんだろ?」


狂人の叫びをなんとも言えない顔で静かに聞いていた同室の同僚が止めに入る。一般の騎士団員は二人部屋で生活している。この同僚は顔合わせ初日から狂人に付き合わされている哀れな男なのだ。


「チッチッチ…甘いぜ、まるで結婚式翌日の朝にお互い気恥ずかしそうに笑って食卓を囲む新婚のように甘いぜ…」


「なんなんだよその例え…」


何度目か忘れたひきつった顔で静かに後ずさりする同僚を横目にオックスは首を横に振る。そう、オックスはあの日―25代目聖女とその従者が召喚された夜、真由の部屋の前で警護に当たっていた。(警護のために)聞き耳を立てていると部屋の中から聞こえる二人の会話に歴戦のトキメキハンターの心拍数は一気に上がった。


「二人の雰囲気…察するに以前交流があったが久々の再開、そんでもって誠司殿の態度から彼は数年間片思い…いやそれに発展する前の一番淡くて切ない感情を抱いているってところだな。何より、部屋を出るときに呼び方を変えたのが一番最高潮だったぜ…誠司殿、俺応援していますぞ★」


もう声も出せない同僚には目もくれずオックスは一冊の本を開いて一心不乱に自身の想像を書き連ね始めた。


「我が同胞フローレンス様の情報から今はちゃん付けが取れて髪飾りを手作りして送ったと…前進したんだな、これだけで一冊書けるぜ…」


この少年、以前エバンス公爵家の令嬢、フローレンス・エバンスに婚約者とのロマンスを話してほしいと土下座しに行ったのである。最初は驚いていた公爵令嬢だったが、彼の(狂気の)熱意と姉があのアイラ・ツェクリであることに大変感心を寄せ公爵家のメイド及び女性騎士と共に食堂で朝まで話をしていたのである。お互い狂いすぎだろと部隊長と神官長が頭を抱えていたことは言うまでもない。勿論彼女も聖女一行の旅のメンバーであるクラノス・ガードナーから諸々の情報を聞いているのだ。


「それにな‼‼‼‼新しいトキメキセンサーの反応があるんだ‼‼‼‼‼」


思いっきり首を横に動かし壁際でおびえている同僚をとらえるオックス。もう人間を辞めている動きだ。


「今聖女一行のメンバーに新しい魔法使いが加入したそうだ‼‼‼なんとハーフエルフなんだと‼‼‼‼異種婚(゜∀゜)キタコレ!!‼‼‼‼‼‼‼‼」


「お、おう…」


興奮から顔を真っ赤にし鼻息を荒げるオックスを、同僚はただひたすら怯えながら見つめるしかなかった。何か理由をつけて部屋を後にしようかと考えている間にも彼の猛攻は止まらない。


「確かにエルフ族は大戦後積極的に婚姻を行い種族の存続のため数を増やしているというのを聞いたことがある。だがわざわざ異種族の人間と結婚するのか‼‼?エルフにとって人間なんて劣等種だろ‼‼?きっと周囲の反対があったのかもしれない、それを乗り越えて結婚した彼女のご両親に最大の敬意を表したい‼‼‼‼‼‼おまけに彼女は両親からたくさん愛情を注いでもらったと発言していたそうだ、ということはつまり‼‼‼‼‼‼ご両親ラブラブハリケーーーーーーーーーーーーーーーーーーンが確定‼‼‼来たあああああああああああああ‼‼‼‼‼‼あああああああ俺も今すぐ亜種連邦に行きたいいいいいいい三日三晩話を聞いてその愛を魂に焼き付けたい‼‼‼‼‼‼‼」


※アイラとクラノスはユキが先代聖女の娘であることを王国サイドに話していません。アルベルトから紹介された優秀なハーフエルフの魔法使いということだけ報告しています。先代聖女一行と王の関係性を考えての配慮です。


「なぁ亜種連邦に行くまでの旅費ってどのくらいかなぁ」


「うわぁ急に冷静になるな気持ち悪い‼‼‼」


床に転がりながら発狂していたかと思えば突然冷静な声で旅費のことを尋ねるオックス。同僚は鳥肌が収まらない。その時、ドアの外で慌ただしい声が聞こえてきた。


「ごきげんようオックス先生‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼吉報を持って参りましたわ‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


「我が同胞フローレンス様‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


ノックとほぼ同時に勢いよく開かれたドアの外では美しい金の髪をなびかせた優雅な女性―そう、フローレンス・エバンス公爵令嬢が立っていたのだ。そういえば今日エバンス家の面々が定期拝礼のため聖神殿に行くと伝令があったことを思い出しながら同僚は敬礼を取った。


「聞いてくださいまし、先生。昨日クラノス様からお手紙をいただきましたの。なんと、誠司様を聖女付き騎士に任命するよう献言したとのことですわ‼‼‼‼」


「なんだってぇ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼ただの昔馴染みから旅を経て近衛になるだと‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼これは…かぐわしいトキメキの香り‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


床から勢いよく飛び上がりフローレンスから手紙を受け取ったオックスは目を極限まで開いて隅々まで目を通す。公爵令嬢にとっていい態度ではないがエバンス家もガードナー家もだいぶ寛容なので許してもらえるのである。


「くっ、俺も叙任式参加したいいいいいいいいいいいいいいいいい、私の騎士様♡って真由殿照れながら誠司殿の手を取ってほしい‼‼‼‼そんでもって誠司殿あのイケメンフェイスで膝まづいたまま真由殿の手に『どこまでも貴方に忠誠を誓います』ってキスしてほしい‼‼‼そんな二人を微笑ましく陽の光と仲間達が祝福するんだ‼‼‼‼‼トキメキの鐘が止まらないぜ‼‼‼‼‼‼‼リンゴンリンゴンリンゴオオオオオオオオオオオオオン‼‼‼‼やだやだやだやだ俺見たい見たい見たい連邦に行きたい行きたい行きたい‼‼‼‼‼‼」


「ですわよねぇ‼‼‼‼私もぜひこの目で拝見したいですわ‼‼‼‼あぁ…なんてロマンティックなんでしょう…想像しただけで心臓がどきどきしますわぁ…さすが先生、瞬時に光景を思いつくとは素晴らしい慧眼ですわね‼‼‼次回作はこのお話にしませんこと‼‼‼?」


もはや収集がつかなくなった二人を横目に同僚はそっと部屋を出る。部屋の出入口ではエバンス家のメイドと女性騎士がなんとも言えない顔をしていた。お互いの表情に気付くとそっと握手を交わし彼は宿舎を後にした。部隊長と公爵家の方にご令嬢がいると報告しないといけないのだ。


本日は晴天、窓から見える神殿は天高く双棟を携え堂々と鎮座している。今日はせっかくの休みでゆっくりしたかったのにと同僚は肩を落としながら廊下を歩いて行った。


「…俺実は彼女いるってあいつに知られたら終わりだ…」


宿舎から響く狂乱の声を背中に彼は身震いが止まらなかった。この数日後、トキメキハンターの餌食になってしまったことは言うまでもない。

作者自認キャラ、オックス君の狂乱でした。これめっちゃやりたかった(笑)

恋愛関係の話を書くときに心に彼を宿しておくとものすごく捗るんですよねぇ…

ルークス夫妻の時とかとても助かってます。これからもトキメキをお届けしたく存じます。え?

ちなみにオックス君は戦闘の才能は微妙です。文章能力が高いので圧倒的に文官タイプですが、文官になるための高等教育を受けれる資金が無かったため騎士団に入っています。トキメキに狂った原因と文章能力をどこで身に着けたのか設定もあります。本編に関係ないので出すかどうかは考え中です(笑)

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