表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
49/53

素敵な朝

窓の外から鮮やかな朝焼けの光が差し込んでくる。真由はゆっくりと目を開けた。隣にはユキが寝息を立ててぐっすりと眠っている。真由とアイラはユキの自室に泊まっている。ユキの部屋は一人部屋にしてはそこそこ広く、人形や色とりどりの花がありとてもかわいらしい部屋だ。真由はユキを起こさないようにそっと布団から出るとダイニングへと向かった。


「お、おはようさん。ゆっくり寝れたか?」


「おはようアイラ~。うん、すごいぐっすり寝れたよ。」


「なら良かったわ、昨日アルベルト殿とクラノスと酒盛りしてたからなぁ…うるさかったか?」


酒盛りの後を片付けていたアイラに真由は大丈夫だったよと笑い返した。とはいえ、遅くまで酒を吞んでいたはずなのにけろっと早く起きれるアイラはさすが酒豪だ。真由は片づけを手伝いアイラと共に朝の空気を堪能するため外へ出る。


「わぁ…!綺麗だね…!」


ユキの家は小高い丘の上に建っており、連なる山の間から登る朝日と、その光を浴びて輝く一面の畑の緑がよく見える。用水路に流れる水の音と、反射する光がさらに美しい光景を作り出している。


「ほんとだな…あぁ~空気が美味いな」


アイラは深呼吸をして感慨深く息を吐いた。アイラの故郷の村もシーノルもここと同じぐらいのどかであり、確かに景色が綺麗だったのだがアイラの言う通り、空気の新鮮さが違う気がする。


「…なんだか王国にいるときよりも空気が綺麗な気がするなぁ……誠司も薬飲む回数減っているし…」


「やっぱそう思うか?なーんか平原中央超えたあたりから呼吸しやすいよなぁ。」


真由はとてつもなく失礼なことを言った気がするが、アイラは気にせずむしろ同意までしている。瘴気の核が連邦では少ないのも影響しているのだろうか。それでも、核を浄化した後の平原も何となく呼吸が浅くなってしまっていた部分がある。


「うーん瘴気の核が発生している差…なのかな?」


真由はストレッチしながらぼやいた。今は王国内では遺跡群以外の瘴気の核は浄化した。これで空気もよくなっていると良いのだが。


「それもあるだろうな、あとは自然の多さ…か?まぁでかい瘴気は真由が浄化したんだし、環境は良くなっているぜ」


アイラはご苦労さん、と笑いながら真由を労った。真由も笑い返すとアイラと組手を始めた。自衛のためでもあり戦闘でしっかりを体を動かすための訓練だ。野営時は夜明けとともに起きることがすっかり定着したため同じく朝早いアイラに頼んでずっとストラス以降稽古をつけてもらっている。今ではだいぶ動けるようになった。元々運動神経は悪い方でもなく、バドミントンをやっていた真由はそれなりに反射神経もフットワークもあったのが幸いだった。


「うし、いい感じだな。」


1時間ほど体を動かした二人は手ぬぐいで汗をぬぐいフユミの墓へと挨拶を済ませ、朝ごはんの支度をするため家の中へと戻っていった。

---------------------------------------------------------------------------

「おはよう二人共。朝から精が出るね。」


ちょうどクラノスがダイニングに顔を出したタイミングで真由とアイラも家に戻った。クラノスにも稽古を!と頼んだことがあるのだが、何より体格差と怪力で真由が吹っ飛ぶ恐れがありクラノスが全力で反対した経緯がある。あの時の首の振り方は今でも思い出して笑ってしまうほどだ。


「おはようクラノス。誠司とカグヤはまだぐっすり?」


「あぁ。歩き詰めだったからね。それに誠司は昨晩古い魔法書を読んでいたようでね…。私が寝室へ入ったときに本を抱えたまま寝落ちしていたよ。」


苦笑しながらクラノスが肩をすくめた。男性陣は客用の寝室で寝泊まりしている。大人組が酒盛りに入る前、風呂から上がった誠司にアルベルトが本を渡しているのを真由は見かけた。きっとそれをウキウキで読み進めていたのだろう。誠司はよく本を読みながら寝落ちする癖がある。何度も旅の中で見てきた光景だ。真由とアイラはまたかぁと笑った。


「家主はまだ寝ているか…。台所自由に使っていいって許可貰ってるし朝飯作るか。真由、一緒に作ってくれるか?」


「勿論!昨日いただいた果物を使ってフルーツサラダとかどう?一回作ってみたかったんだ~」


「ふふ、朝から美しい食事だね。とても楽しみだ。それじゃあ私は薪割をしてくるよ。」


三人はそれぞれ朝の支度にとりかかった。真由とアイラは新鮮な果物を使ってサラダを作り、パンを焼いてスープも作る。こちらの台所―もとい竈の使い方もすっかり身についてしまった。実家はIHコンロで、焚火から料理をすることは炊事遠足でしか経験が無かった真由も、今では火起こしから手早くできるようになった。


(これでまたお母さんに外に出されても野宿余裕だな~魚が釣れれば捌けるし…)


真由はふとそんなことを思いこっそり笑ってしまった。もう若さが消えた母が男を家に連れ込むことは無い。はず。昔は物置で震えていたが、今だと近くの川で自分で火を起こして野宿だってできる気がする。いや普通に通報されるが。


「ふぁ…おはよう二人共…もう、起きたとき誰もいないからびっくりしたじゃん~」


そこへユキが起きてきた。頭のてっぺんから跳ねている寝癖でどれだけ熟睡していたか分かる。真由はごめんごめんと笑いかけるとユキへ水を一杯コップに注いで渡す。


「お客様にご飯の支度させるの申し訳ないな…」


「先に起きたのこっちだしな、あと泊まらせてもらってる身なんだしお互い様さ、あ、このスパイス使ってもいいか?」


アイラが小瓶を開けてユキに尋ねる。ユキはいいよ!と返事をして髪の毛をささっと一本にまとめる。


「昨日遅くまでお父さんと吞んでいたんでしょ?お父さんとどんな話をしていたの?」


「8割ぐらいユキの話だったぞ~昔お母さんが作った薔薇の花弁のジャムが美味しぎてアルベルト殿と取り合いになったとか…」


「すごい想像つくなぁ…ふふふ、私も聞きたかったなぁ」


照れたように頬を掻くユキに笑いながらアイラと真由は食事の支度を進めた。それにしても薔薇の花弁は食べれるのか、さすが農園を営む家だ。と真由は新しい知識を得ることができた。


(家の中にたくさん思い出が詰まっているんだな、本当にユキも、それからフユミ様も。楽しく過ごしてきたんだろうな)


広い家で母が亡くなった後も父娘は思い出を積み重ねてきたのだろう。これも愛の形だと真由は実感した。部屋に差し込む光が強くなる。もうすっかり朝日は登りきって朝食の時間だ。真由はいまだに爆睡している誠司とカグヤ、そして家主アルベルトを起こしにユキとお玉とフライパンをもって寝室へと足を進めた。


その数分後、家に金属音と悲鳴が響き渡った。

---------------------------------------------------------------------------

耳を抑えながら起きてきた男性陣の様子にアイラが爆笑しながら出来上がった朝食を食卓に並べる。真由とユキと入れ違いで戻ってきたクラノスも色々と察してやりすぎないようにね、と二人に微笑んだ。


「さ、いただきましょうか。」


家主アルベルトの言葉で一同お祈りやいただきますと手を合わせて食事を始めた。誠司はスパイスが効いたスープを一口すすり美味しい!と笑顔を浮かべる。もうすっかりアイラと真由の作る料理の虜になってしまった。時折母の作るみそ汁が飲みたくなるが、こちらで真由が作ってくれるみそ汁も美味しいのだ。


「誠司誠司、この桃の甘いのパンにはさめると最高にうまいぞ‼‼‼」


「カグヤ天才か‼‼俺もやってみる‼‼‼」


「お、美味しすぎる…‼‼‼」


カグヤが目を輝かせてロールパンの真ん中にはさんだ桃のコンポートを見せてくる。カスタードクリームも一緒に挟めてまるでフルーツサンドのようだ。向かいでは先ほどお玉とフライパンで爆音を鳴らしてきたユキと真由も嬉しそうに頬張っている。誠司も負けじと試すと口の中が程よい甘さと小麦の香ばしさで幸せになった。朝からこんなにおいしいものを食べれるのも農地直結の醍醐味なのだろう。いい朝だ。


子供たちがはしゃぐ光景をアルベルトはコーヒーを飲みながら静かに見つめていた。ユキがしばらく家を空けていたため、家の中に声が響くのがとても嬉しく感じる。何より、愛娘が笑顔で旅に出てよかった!と昨晩報告してきてくれたことが嬉しかったのだ。


(この光景、君にも見せたかったよ…。ユキがあんなにはしゃいでいる…。)


アルベルトはそっと首から下げているペンダントを握った。中には勿論愛妻の絵が入っている。ユキは母が亡くなってから必死に大人になろうと少し背伸びをしていた。周りには溺愛する大人ばかりだったためまだ幼いところもあるが―。同年代の友人が増えればと25代目聖女一行のパーティーメンバーにと推薦したのは間違いなかった。


「アルベルト殿、コーヒーお代わりいかがですか?」


「えぇ、いただきます。…それにしても、ユキがあんなにすぐ打ち解けるなんて初めて見ましたよ。」


クラノスからコーヒーのお代わりを受け取りアルベルトはゆっくり香りを堪能している。娘の笑っている姿が何よりも愛おしく感じるし、その姿を引き出してくれた彼らにはどれだけ感謝してもしきれない。


「ちょうど同年代で固まっていたのが良かったんでしょうね、あと子供たちで色々教えあったりしていて、水源地の集落着くころにはもう打ち解けてましたよ。」


アイラが空になった皿を集めながらアルベルトに道中の様子を話す。同じ女性として細かいところまでユキを見守っているアイラはまるで母が増えたようだとも笑っていた。


「本当…本当にあなた達にストラスで出会って、娘を託そうと決心して正解でした…」


今まで可愛い可愛い愛娘を旅に出すなんて考えるだけでも胃がねじ切れそうだった。だが才能あふれる、そしてエルフの血を引く長寿の娘を一生この狭い世界に閉じ込めてもいいのだろうか。母の日記を読んでいつか母の故郷に行きたいと涙していた娘の意思を尊重しなくていいのか―。父としてずっと葛藤していた。オーロラやドン、カイウスにマサノブからは護衛をつけるから外の世界を歩かせろ、なんて何百回言われただろう。それでも手放さなかったのは、娘にもしものことが合ったら立ち直れない自分の弱さがあったからだ。


「私たちもユキと旅ができて嬉しいですよ。あの子の魔法の知識と技術の高さを見ていると、どれだけご両親と多くの大人から愛されてきたのかがわかります。」


「ふふふ、クラノス殿は私を喜ばすことがとてもお上手だ。…あぁ、フユミにも聞かせたかった…」


アルベルトはそっと目を拭った。思わず泣きそうになるがここで泣いては父の威厳が無くなってしまう。しっかりしなさい、と背中を叩く妻の姿を思い出しアルベルトは笑って息を吸った。


「さて、食後は村を案内しましょう。今ちょうど果物の収穫期ですのでいい香りがしますよ。」


「すぐお腹空いちゃうだろうなぁ~~~、もうちょっと食べてからでいいですか?」


「私どうやって果物が生っているか間近で見たことないから楽しみ~!」


パンをさらに頬張る誠司とカグヤにウキウキでお茶を飲む真由。そして


「ふっふっふ~~~一押しスポットあるからそこでお昼食べようね!」


楽しそうに真由に寄り掛かり友達同士で笑いあうユキ。そんな幸せな光景を目に焼き付ける。願わくば、この先も娘たちの行く先が幸福に満ちた人生であることを願って幸せな朝のひと時を過ごすのだった。


食卓回でした‼‼‼次回もう少しルークス家を掘り下げようと思ってます。

誠司vsアルベルトに向けて先代の話もちょっとしようかなと。

ちなみに薔薇の花弁のジャムは食用に栽培された花を使ってくださいね。

私も食べたことないのでググりました★本当にあるんですね★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ