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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
47/52

苦味も飲み込んで

「それでは…瘴気の核浄化と呪術解呪成功を祝って…乾杯!」


集落に戻ってきた一行は連邦軍の駐屯地の食堂で祝勝会を開いていた。とは言っても酒や豪華な食事ではなく、瘴気の浄化をしやすくするための公国特性薬草団子とお茶であるが。


「い、いただきます…!」


カグヤの兄、ウズキによれば死ぬほど苦くて悶絶する味だという。真由は別の覚悟を決めると一口分を口に入れる。各々仲間達も口に団子を含んだ。


「う、うぎゃああああああああああああああああああ‼‼‼」


誰かの悲鳴を皮きりに食堂内は阿鼻叫喚の渦に叩き込まれた。聞いて通り薬草の苦味とえぐみと得体の知れない苦さが合わさって口の中が地獄なのだ。正直、色々と呪術に対する策を考えなくともこの団子を口に含んだ状態で戦えばよかったのではと真由は思った。…いや団子を口にした状態で戦うのは大変危険であるが。


「ふむ、独特な味わいだがこれはお茶とあって美味だね。みんなそんな奇声を上げるなんて用意してくれたウズキ殿達に失礼だよ。」


「いや普通のリアクションはあれであってるからね…なんで旦那平気なの?」


一人優雅に食すクラノスにカグヤがやや引いた様子で声を掛ける。クラノスはふふと笑うと遠い目をして答えた。


「…騎士団の訓練では野営地でその場で食材を集めるというものがあってね…これよりも壮絶な味がする食事…いやあれは食事だったのか…」


「あー…なんとなくわかった、わかったから…」


カグヤがお茶を一気にすすり団子を食べ終える。純血の公国人であるためよくこの団子を食べているカグヤはもうおやつ程度の感覚だ。ゆっくり他のメンバーの様子をうかがうことにする。


「…騎士団時代新人が伝説級のクソまず食事作ったって噂流れてきたの…お前らだったんだな…」


今回も最前線で斧を振るっていたアイラも多少顔が歪んでいるが特に問題なく食べ終えれたようだ。大人組はさすがと言えるのか。その隣では


「やだぁ…やだよぉ…私自分で浄化できるもん…」


「ユキだって現代人の血を半分引いているんだからちゃんと食べておきなさい。」


めそめそと泣きべそをかきながら少しずつ食べるユキがいる。黒い髪をぶんぶんと振りながら嫌々と駄々をこねる姿はまるで幼女だ。クラノスに窘められえぐえぐと口に入れる。


「んぎぎぎぎぎぎぎぎぬぬぬぐぐぐう」


「誠司、一気に食おうとするな、聞いたことない声出してるぞ」


ユキの前で悶絶しているのは誠司。この中で一番瘴気の耐性がないため定期的に薬を飲んだり真由に浄化を掛けて過ごしている。今回誠司もアイラと共に最前線にいたため団子は二つ用意されている。普段の彼からは聞けないうめき声ととんでもない顔芸が見れるのは貴重だ。カグヤは笑いながら様子を確かめていた。


「真由は大丈夫か?」


「う、うん…なんとか…」


真由は口を押え速攻お茶で団子を流し込む。苦くまずい料理には慣れているとは道中言っていたが、子供組の中では一番静かに食べれている。呪術を自力で解呪したり単身で最後浄化したりと今回著しい活躍ぶりだった。


「ひ、ひとまずみんな団子を口にできたし…この後はロンドリスに戻る前にユキの家…アルベルトさんのところへ行く…でいいんだよね?」


真由が仲間を見渡し(そのうち二人は顔が死にかけているが)今後の予定を確認する。このままアルベルトとユキの生家に向かう方が道なり的にはとても都合がいいのだ。


「あぁ。そうだね。誠司はそれでいいかい?」


「うん、ユキをしばらくお借りしますってご挨拶しないとね。」


クラノスに尋ねられ誠司は表情を整えると頷いた。そう、ついにストラスでの約束―アルベルトとの決闘が近づいているのだ。


「…本当にお父さんと戦うの?模擬槍で戦うから命は取らないよってお父さん言っていたけど…。」


最強の戦士の娘でもあるユキが誠司に問いかける。ストラスから帰った父から決闘の話を聞いたのだろう。半分信じられない様子で首を傾げている。


「…うん。これは俺の決意をアルベルトさんに証明する戦いだ。勝てる見込みは全くないけどね。」


それでも、と誠司はまっすぐ前を見つめて言葉を続けた。


「アルベルトさんは俺を試しているんだよ。ここから先、世界を救う覚悟があるのかって。真由はとっくにできている。でも俺はどこかあやふやなままここまで来たんだ。それを見抜いていた。…だから決意をもってアルベルトさんに会う。かつてあの方が、聖女を守ると誓った時のような決意を俺が受け継ぐんだ。」


力強い決意のこもった瞳に迷いはない。仲間達は誠司の背中を押すだけだ。


「そっか…。なるほどね…。ふふ、お父さんの弱点教えようか?」


いたずらっぽく笑うユキに誠司はいいやと首を横に振った。


「弱点って例えばユキが結婚します!とか言ったら激しく動揺する、でしょ?」


「すっげぇ想像つくなぁそれ」


カグヤの同意に真由も力強く首を縦に振った。そもそもアルベルトの弱点などあるのか、ストラスで共闘した際には一切見受けられなかったのだが。ユキは二人の言葉に吹き出して笑い出した。


「ある意味正解、そもそもお父さんに弱点なんて無いのよ、そのぐらい最強なんだからね!」


「だろうと思ったよ…まぁ仮に何か弱点があったとしても俺がそこをつけるとは思わないし。」


誠司はゆっくりお茶を飲む。やっと苦味が収まったのか一息付けたようだ。ユキは満足そうに何度も頷いている。父の思惑も勿論知っているのだろう。様子を見るにだいたい合っているのかもしれない。


「ま、最強の男直々に御指名を受けて戦うんだ。貴重な機会だと思って全力でぶつかってきな!」


「あぁ!頑張るよ!」


アイラの鼓舞に誠司は手を握って応えた。真由はそんな従者の顔をまじまじと見つめている。カグヤはそんな様子に一人気付くとにやにやと近づいた。


「なぁんだ?誠司に惚れたのか?」


「ぶっっは‼‼‼‼‼‼‼」


カグヤの不意の一言に聖女は思い切りお茶を吹き出した。喉の奥から団子まで出てくるのではと思うほど噎せ返っている。突然聖女が吹き出し咳き込んだ事態に食堂内の全員に緊張が走る。


(あやべ俺怒られる)


カグヤはそっと両手を上げて降伏の意を示した。誠司が慌てて真由の背中を摩る。真由はゲホゲホと咳を繰り返し何とか息を整えて叫んだ。


「アイラぁ‼‼‼カグヤが意地悪言ってくるぅ!」


カグヤは己の運命を受け入れた。同時に頭に拳骨が降ってくる。痛む頭に涙目になる中、顔を真っ赤にした真由と兄から散々言われた『お調子者は口を慎めよ…』という言葉を思い出していた―

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集落の奥深く、森のさらに奥から黒い禍々しい瘴気を身に纏った人物―のような存在が聖女一行を見つめている。これまで浄化された瘴気の核は4つ。毎度聖女の怨念まで見せたのに、今回の聖女も全くへこたれない。おまけにストラスでは先代聖女の魂が邪魔をしてきた。あの女は一度自分を討っただけではなく、魂だけになっても邪魔をしてくるとは。


『忌々しい…』


この姿になる前に習得した呪術も破られてしまった。可笑しい、()()()()()()()()()()()()()()()()()はずなのにビクともしなかった。


『やはり男の方を狙えばよかったか』


男の方なら家族や望郷の念に駆られている。そこを突けば永遠に目を覚まさなかっただろうし、何より聖女と聖女の血を引く忌まわしいエルフを動揺させて命を奪えただろう。惜しいことをした。自分はまだ日の元に行けるだけの力がない。順調に瘴気を溜めていたのに今はすっかり少なくなってしまった。


『…一度戻るか』


世界に呪いあれ、この私を不要と切り捨てた神々とくだらない見栄と欲望のために戦争を引き起こした人間に呪いあれ。そして、私の偉大なる力を奪い取った異世界の人間に呪いあれ―


人型を取った黒い瘴気の塊は呪詛を吐きながらゆっくりと森の奥深くへと消えていった。

団子を食べて休憩会でした!そして少しずつ世界の事も判明していきます。


ちなみにウズキ兄ちゃんはカグヤの外伝冒頭で出てきたお兄ちゃんです。

今回弟が軽口をたたいて聖女の喉を詰まらせたと聞いて裏で拳骨をかましています★

次回やっとあの最強の男が再登場!の予定です!

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