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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
46/52

打ち砕け悪夢を

「やっと起きたか、今日は随分とねぼすけだな。あまり夜更かしするんじゃないぞ。」


「…はぁい」


真由は食卓に着いた。目の前の父は新聞に再び目を落とす。母からお茶を受け取り真由は箸を手に取った。


「そういえば真由、あんた進路どうするの?」


「進路…」


母から不意にかけられた言葉に真由は首をひねった。進路、そうだ進路を決めないといけない。高校二年生だ、もうどうするか決めて勉強なりしないといけないのだ。第三高校の成績が真ん中あたりの自分でも頑張れば地方の国公立か短大にぎりぎり受かるだろう。


「そうだ、どうしようかな…将来、何をしたいんだっけ…」


真由はぼんやりする頭を押さえながら考えを巡らせる。自分は何を目指していたのか、いまいちはっきりしていない。例えば看護師?建築関係?安定の公務員?それとも会社員?


「…あれ、なんかいまいちしっくりこない…」


「ちょっと、しっかりしなさいよ~ほらお父さんからも何か言ってやって」


「まぁ、女の子なんだし神山短大の経済学部でいいんじゃないのか。数年したら結婚するだろうしな。」


父の言葉に若干イラつきを覚えながら真由は経済学部でも…と少し思い始めた。


(そもそも、私将来のことをどう考えていたんだっけ…なりたいもの…)


よく学校の文集に将来の夢を書くが、果たして自分は何を書いていたのかも思い出せない。強烈な違和感が胸の中で渦巻いている。


(あれ、お父さんとお母さんって話すことあったっけ)


ここでふと目の前の両親を見て真由は首を傾げた。両親は娘の様子に気付かずどこの大学なら学費を出せるなどと会話をしている。なぜ両親が会話をしていることを不思議に思うのだろう。そしてずっと遠くから聞こえる声の方が大切だと思うのか。父がゆっくり真由に顔を向け口を開く。


「真由、できれば国公立か短大にしてくれ。私立はさすがに学費が高すぎる。」


そういえば父はそんな優しい声をしていただろうか、普段は低く吐き捨てるような声しか出していないのに。あとその笑顔が気持ち悪い。それよりも


―真由しっかり!起きろ‼‼‼‼

―すぐに陣形を整えるんだ、真由、引っ張られてはだめだ!

凛々しい声が聞こえる。自分を温かく守って引っ張ってくれた声が。


「そうね、ね、保育士とかどう?お母さんも結婚前まで続けていたのよ~」


段々と意識がはっきりしてくる。そうだ、自分はここよりも帰るべき場所がある。

―どうしようどうしよう、あ、水、水かけるか!風邪ひいたらごめん!

―ごめんなさい私油断してた…!やだ起きて真由!

泣き声が聞こえる。水思いっきり掛けても大丈夫だよ。すぐ涙を拭きに行くからね。


「いいんじゃいか保育士、真由きっと似合うぞ」


―違う


「真由?」


―これは夢だ


真由は勢いよく立ち上がった。椅子がフローリングに倒れる音が聞こえる。両親はいきなり立ち上がった娘に驚きの表情を向けている。


「…いい加減にして、うちの両親はこんな会話をしないわ。」


「どうした、まだ寝ぼけているんじゃ…」


父が手を伸ばしてくる。真由はその手を勢いよく振り払った。


「あのね‼‼‼‼お父さんはお母さんと穏やかに会話なんてしないし、お母さんは料理なんて一切できないのよ‼‼あと、お父さんは私の事、ごくつぶしとか金食い虫とかブスって呼ぶのよ‼‼‼」


真由は一歩下がると手を握りしめ魔力を込める。そう、これは悪夢だ。真由のささやかな夢を体現した悪夢だ。両親と思っていたものはゆらゆらとその輪郭を崩し始め、それと同時に自宅も視界の端から崩れていく。


「そんでもって教えてあげる、私の将来の夢はね―」


頭上から仲間たちの声が聞こえる。大丈夫、もう起きるよ。起きてすぐ浄化するからね。


「―聖女達の思いを受け継いでこの世界を綺麗にする‼‼‼それだけだよ‼‼‼‼」


―起きて‼‼‼真由‼‼‼

ずっとずっと昔から守ってくれた優しい声が聞こえる。髪飾りから心地よい温かさを感じる。

もう、迷わない―


「あなたの無念も私が受け継ぐ、だからどうか安らかに、…いつかの聖女様」


真由は浄化魔法を展開した。なぜ聖女の意識が混ざっていたのかはわからない、ほとんど真由の直感だ。だがあっているようだ。眩しすぎる光が渦となって視界に溢れていく。その向こうで、自分と同い年ぐらいの人影が揺らめいていた。不意を突かれたような、悔しいような、それでも、少しだけ真由に微笑みかけてくれているような気がした―

---------------------------------------------------------------------------

「…‼‼‼‼‼‼‼」


「ま、いったあああああああああ‼‼‼‼‼」


真由は視界が開けたと同時に一気に飛び起きた。おでこに強い衝撃が走る。と同時に誠司の悲鳴が耳に入ってきた。…飛び起きたときに顔をぶつけてしまったようだ…


「だ、大丈夫か誠司…不用意に近づけるから…」


「ごめん誠司、口の中切れてない?」


口を押える誠司にカグヤと真由は顔を覗き込んだ。誠司は大丈夫、と痛みを抑えるように手を当てている。真由はとっさにあたりを見回した。まだ水源地のすぐそばにいる。戻ってきたのだ。


「真由~~~~自力で戻ってきたんだね、すごい、ごめん、ごめんね‼‼‼」


ユキが抱き着いて真由の肩で涙を流す。そうだ、ユキをとっさに庇って呪術にかかったのだ。


「いいんだよユキ、それよりも突き飛ばしてごめんね」


「う゛ん゛」


ずびずびと鼻水を啜りながら泣きじゃくるユキの涙をそっと拭う。泣き顔も可愛いと思ったのもつかの間、真由はまだ浄化が終わっていないと感じ立ち上がった。


「真由、無理はだめだ。浄化したからいったん退却を…」


「ううん、クラノス。まだ終わってない!アイラ、縄持ってる⁉」


「持ってるけど一体どうしたんだ⁉」


混乱しながらも渡してくれたアイラにお礼を言って真由はその縄を自身の腰に巻き始めた。まだ感じる核の気配は―


「水中にまだ残ってる!届かないから潜って浄化してくるね!」


「ま、待ちなさい真由‼‼」


クラノスの静止も聞かず真由は息を止めると水源地の湖に飛び込んだ。思った通り水中にまだ残っている。小さく弱っている核なので真由一人で浄化できそうだ。ユキに頼んで魔法で水面に引っ張り出すことも考えたが、これだけ小さい核を正確に伝えれる自信が無かったのだ。それに今は、これだけは自分自身の手で浄化しなければならないと思っている。


(大丈夫、この世界のことは任せて―)


真由はそっと核を抱きしめた。浄化の光で揺らめく核はどんどんと小さくなっていく。瘴気が光の粒となって泡と共に水面へ上がっていく。まるで涙のようだ。


(そうか今まで見てきた悪夢も…力尽きた聖女達の記憶だったんだね…)


シーノルで、マンモルで見てきたあの夢は聖女達の記憶だったのだろう。浄化作戦以外でも道中不慮の事故で亡くなった聖女もいただろう。そして今回もここで亡くなった聖女の怨念が呪術と瘴気の核と合わさり真由を引き込もうとしたのか。真由は涙を見送りながらふと考える。


(…あれ、そうしたらなんでユキを狙ったの…?)


もしかして呪術をかけた術者はまだ存命で、何か目的があってユキを狙った。聖女の怨念は元々瘴気の核に憑いていたのでは―と思った瞬間、真由の体は水面に向かって引っ張られる。アイラたちが縄を引っ張ってくれているのだろう。真由は続かなくなってきた息の存在を思い出し慌てて泳ぎ始めた。

---------------------------------------------------------------------------

「まったく‼‼‼‼説明も無しにいきなり飛び込むな‼‼‼」


作戦が完全に完了した後、真由はアイラから怒られていた。戦闘とは違う本気の怒鳴り声に真由は思わず萎縮してしまう。


「呪術から自力で戻ってきたのはすごいけど、起きてすぐ水に飛び込む馬鹿がどこにいるんだ‼‼‼」


「ご、ごめんなさい…」


「真由、さすがに今回は擁護できないからね。もしも流されていたらどうするんだ。危ないことはよしなさいと何度言ったらわかるんだ。」


クラノスからも怒られ真由は半泣きで肩を縮めた。確かに自信があったとは言え何も言わずに飛び込むなど馬鹿だったと心の底から反省する。呪術の影響で気が狂ったと思われても仕方ないだろう。


「旦那、周辺確認してきたよ。」


そこへカグヤとユキ、誠司が駆け寄ってくる。三人は兵士と協力して周辺の確認をしていたのだ。


「お帰り。忍者の皆さんもご無事だったかい?」


「うん。呪術にはかかっていなくて、多少魔物との戦いで怪我をしたり瘴気を吸ったりしてるけど軽傷だから大丈夫。兄ちゃんに頼んで団子追加してもらうね。」


「呪術者の姿は結局見えなかったね…うーん、瘴気の核に憑いていただけっていうのもなんか違和感あるしなぁ…。」


すっかりあごの痛みが引いた誠司が首を傾げて考えている。説教に入る前に真由は仲間達にもしかして術者は別にいて核に呪術を掛けたのではと考えを伝えたのだ。ただなぜユキを狙ったのかいまだに不明ではあるが。


「ユキが狙われた理由もなんだろうなぁ…単純に解呪されそうだったから、とかか?」


「まぁこの中で一番魔法に長けているから狙うよなぁ。俺だってそうするよ。」


「ちょっと忍者が言うと余計怖いから…聖女の意識が入っていたとしても真由を狙うもんね…あ」


ここでユキが口に手を当てて何かをひらめいた顔をした。一同言葉の続きを待つ。ユキは注目されたことに若干恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「その…私お母さんと瓜二つなんだって。目の色以外。ロープも杖もお母さんのおさがりを使っているし…きっとお母さんだと思われたのかなって…」


「あ~~~ありそうだなそれ、血縁だし聖女が二人いる!って思ったのかもな。」


アイラがそれだ!と手を叩いて同意する。確かに瓜二つであれば間違えるだろう。ユキを動けなくした後に真由を狙うつもりだったのかと誠司も一つの案だと納得した。


「失礼します皆様。集落から伝令が着まして…昏睡状態だった兵士たちが次々と目を覚ましているとのことです…‼‼」


「良かった…‼‼よかったですね‼‼‼」


連邦軍の兵士が目に涙を浮かべて報告してくれる。真由も嬉しくなって思わずもらい泣きしそうになったほどだ。ひとまず呪術も解呪できたと考えていいだろう。


「本当に…本当にありがとうございます‼‼どれほどお礼を申し上げていいものか…‼‼」


「えぇ、えぇ…!本当に良かったです…!」


兜を取って泣き始めた兵士にそっと誠司が寄り添う。いきなり次々と仲間達が昏睡していき相当参っていただろう。これで事態は解決だ。


「さ、すぐに集落へと戻ろう。ロンドリスへ報告書も書いて報告と医者も派遣してもらわないとね」


「そうだな、帰ったら団子を食べながら説教の続きだからな、真由。」


「は、はぁ~~~い…反省してます…」


そうだあの団子が待っているのだ。死ぬほど苦くて悶絶するという味はどれほどのものなのか。そっと誠司の顔を見るとひきつっている。戦闘に夢中で忘れていたのか。覚悟を決めようね…と真由は心の中で誠司に語り掛けた。


「…そういえばさ、どんな夢見てたか聞いてもいい?」


少し歩いた後、誠司が小声で聞いてくる。真由は全然気にしてないよと笑うと夢の光景を思い出した。人間らしい会話をして意思疎通をする両親、食卓、そして微笑む両親―


「普通の家庭ってあんな感じだったんだろうなぁって。横山家って本当に可笑しいんだなって改めて実感したよ。」


一通り話した後真由は何度も頷いた。きっと状況が違えば自分も両親から愛され普通の家庭で育ち、そして進路どうしようかななどど呑気に考えれたのだろう。それでも真由はもう実の両親に愛を求めることを辞めたのだ。


「あ、でもね、前誠司が言ってたことわかった気がする!」


「え、俺何か言ってたっけ?」


心当たりがない誠司が思い出そうと悩む。真由はそんな姿を見てにっこりと笑うとそれはね、と満面の笑みで誠司に語り掛けた。


「愛のこもった叱りってやつ!さっきアイラとクラノスからしこたま怒られた時にわかったの!」


きっちり怒られたがそれでも真由はその奥の愛情と心配をしっかりと感じ取ることができた。愛情を理解して嬉しそうに笑う真由を誠司は眩しそうに見つめた。薄暗い森の中でひときわ輝く真由。誠司もつられて思わず笑った。


「あぁ、そうだよ、みんな真由の事大切で堪らないんだからね、もうあんな無理しないでよ!」


「えへへ、わかってるよ~」


無邪気に笑う真由にほんとぉ?と返し誠司は目の奥に熱いものを感じていた。彼女は確かに愛情を感じ成長している。どんな逆境であっても耐え忍び、そして今、日の光を浴びて輝き光の方角をまっすぐ向くヒマワリのように成長している。誠司はそんな真由を誇りに思いながら共に集落へと歩みを続けた。




そんな一行を黒く、漆黒よりも黒い人影が恨めしそうに遠くから見つめている人物がいた―

ガンギマリ聖女真由爆誕!もう家のことでうじうじ悩まない、聖女達の思いを受け継ぎ旅は続きます。


ところで真由の親ぼろくそに書きすぎて…(;´・ω・)

作者の家庭環境が酷かった訳ではありません。篠澤家のようなオタク気質一家で育ちました、はい。

真由母のモデルは以前書きましたが、真由父のモデルも高校の同級生です。ふてぶてしくて才能は何もないのに口だけが悪い方向にいっちょ前な屑野郎でしたね。いやぁ高校の同級生ネタの宝庫かな(笑)

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