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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
43/52

戦争の爪痕

あれから一行は水源地を目指して北上していた。ロンドリスを発って四日目、ついに目的地近くの集落へと到着した。深い木々に囲まれたこの集落はエルフ族が住んでいるという。背の高い木々に日差しが遮られ集落の中は昼間でも薄暗く感じる。


「つ、疲れた…足が…」


「道が整備されていないから余計大変だったなぁ…」


宿屋の部屋で真由は思わずベッドに倒れこんだ。ふかふかのマットレスに心地よい眠りにあっという間につけそうだ。アイラもさすがに疲れたのか椅子に腰を深く掛けて項垂れている。


「やっぱり飛行魔法覚えておけばよかった…」


ユキも息を切らして真由と一緒にベッドに倒れこんだ。ユキとアルベルトの自宅がある集落はロンドリスから歩いて二日の距離だそうだ。ここまで来るのはかなり久しぶりとのことらしい。


「でも飛行魔法って魔力の消費激しいんでしょ…?魔物もよく出てきたし逆に危ないんじゃ…」


「た、確かに…!飛んでいる間に襲撃とか怖すぎる…」


この数日で真由とユキは親睦を深めた。魔法のコツを教わり、道中の戦闘では今まで以上に攻撃魔法に磨きがかかった気がする。勿論ユキの魔法の才能が素晴らしく今までより手ごわい魔物が出てきても無事に撃退できたという点もある。


「ひとまず風呂入りに行こうぜ…明日駐屯地行って瘴気の状況聞いてだな」


「はぁ~~い、ここ蒸し風呂もあるんだよ!楽しみ!」


「蒸し風呂…あ、サウナか!私入ったことないから気になる‼‼」


ベッドから勢いよく飛び起きたユキと真由に笑いながらアイラは公衆浴場へと向かう用意をした。一見すると二人はすっかり仲良くなったようにも見えるが、まだ壁があるようにも見える。そう、先代聖女の話になるとユキは少しだけ笑顔が固まるのだ。…母のことで色々と聖女召喚に思うところがあるのだろうか。それでも旅に同行してくれるユキに感謝しなければならない。アイラはそんなことを思いながら二人の後を追った。

---------------------------------------------------------------------------

「あ~~~~~~~生きかえるぅ~~~~~」


公衆浴場の男湯でカグヤと誠司は露天風呂を堪能している。大自然を感じる中入る風呂は疲れ切った体に染み渡る心地よさだ。クラノスも緩み切った笑顔で風呂を堪能していた。


「雪景色の中入る風呂も良いけど、森林見ながら入るのも最高だな」


「ほんとほんと、サウナもあるなんて余計最高だよ、後で入ろ!」


「水分補給を忘れないように…おや」


はしゃぐ二人をクラノスが嗜めようとしたとき、入ってきた人に気付いてクラノスがそっとスペースを開けた。入ってきたのはエルフ族の老人二人だ。二人は会釈をして湯船につかった。


「聖女ご一行様ですな、この度はご協力に感謝します。…風呂場で挨拶など無作法で申し訳ありませんが…。」


「いえ、お気になさらず。こちらこそ快く滞在許可をいただけたことに感謝申し上げます。」


クラノスが礼を言うと二人は穏やかに微笑んだ。オーロラが言っていた通り、すでに伝達が済んでいたのだろう。兵士以外にも自分たちのことが知られているのかと誠司はしみじみと実感した。


「失礼ですがお二人は御高齢と見えますが…年齢をお聞きしても良いですか?」


せっかくなので誠司はずっと気になっていることを聞いてみることにする。年齢を聞かれた二人は勿論構いませんよと返してくれた。


「私達は今年で39...7歳…だったかな」


「いや400越えてたと思うぞ多分、いや何せ我々年齢など感じず過ごしていますからなぁ」


「お、おぉ生きる歴史だ…」


豪快に笑う二人にカグヤが感嘆の声を漏らす。誠司も同意しながら会話を続ける。


「200歳を超えているということは…戦争や浄化の最上位の能力がはく奪された時のこともご存じですよね?良ければ教えてもらえませんか?」


誠司の問いにその場の全員が驚いた。確かにその年齢なら戦争前から生きていたことになる。二人は思い出すように答えてくれた。


「200年前の大戦争は悲惨なものでした…。ブルーボ平原は焼け落ち、自然は破壊され我々のこの森も随分と焼き払われたものです。…ここの水源地も随分と汚染されましてね、当時は多くの同胞が死にました。」


「主戦場は主に平原から今で言うと王国の大神殿がある辺りでした。当時そこにあった小さい国がいきなり連邦と王国に戦争をしかけたんですよ。勝率なんて一切なかったのに。」


召喚された時、スクトゥムが教えてくれた王国の一部になった国は神殿の辺りなのかと誠司は地図を思い浮かべた。当時の国境はわからないが、小国が近隣に大規模な戦争をしかけられるだろうか。


「小国の宣戦布告前からも小競り合いとかもっと前から戦争はたびたびありましたがね。200年前の戦争が何よりも悲惨だったものです。…実はその当時、王国の大神殿のすぐ北側に妖精族が多く住んでいました。小国は妖精族を捕まえて魔法兵器として使用したのです。」


「い、生きている人…妖精を兵器に?」


えぇと老人たちは頷いた。ユキの話では妖精族はエルフ族よりも魔力量が高く、魔力炉も比べ物にならないほど大きいので魔力の回復速度も抜群に速いそうだ。そんな彼らを兵器の燃料として使用したという事実に誠司は言葉を失った。


「妖精族はエルフ族よりも自然に近く、そして神々に近い直属のしもべです。そんなものたちを兵器に利用した人間に神々は激怒したのでしょうね。ある時小国に巨大な雷が落ちました。神罰だったのでしょう、小国は一気に壊滅し、ブルーボ王国に吸収される形で終戦になりました。」


「終戦してから間もなくですね、今まで瘴気の核を浄化できていたあるハイエルフが突然浄化できなくなりました。その時、最上位の浄化能力が神々によってはく奪されたとわかったわけです。」


「むごい話だなぁ…」


少しのぼせてきたカグヤが誠司と共に浴槽部分のふちに腰を掛ける。誠司は最初に聞いた歴史と照らし合わせて納得していた。


「あの、ハイエルフというのは?」


「あぁ、瘴気の核を浄化できた一部のエルフのことを当時ハイエルフと呼んでいました。妖精族が神々のしもべとして監視や自然の調和を保つのが役割で、浄化はハイエルフが行っていましたので。今はもうそんな役割なくなっていますけどね…。」


「…当時のハイエルフの方々は現在何を?」


クラノスがふと尋ねる。確かにエルフ族なら今も存命だろう。できれば話を聞きたいところだ。だが老人たちはゆっくり首を横に振った。


「誰も行方を知りません。聖女召喚を行うまでは核以外の浄化に協力していたのですが…自分たちの存在価値を見出せなくなったのか行方不明になったのです。」


「そもそもハイエルフは10人にも満たない少なさでした。戦争で死んだ者もいましたし…最後は何人いたのかもわかりません。」


「そうだったのか…。話しにくいところまでありがとうございます。」


ひとまず知りたいことは聞くことができた。誠司はお礼と言って頭を下げた。老人たちは構いませんよと笑いその後しばらく談笑に花を咲かせ、共に蒸し風呂で汗を流したのだった。

---------------------------------------------------------------------------

「そうだったんだ…そんなことが…」


風呂上り、男女共用の休憩所で誠司は真由に風呂場で聞いたことを話した。真由は悲惨な戦争の話に言葉を詰まらせた。自分たちは戦争も飢餓も無い日本で過ごしていたのだ。過去の戦争も勿論経験したこともない。学校の授業や高齢者から体験談を聞くぐらいしか知らないのだ。


「……あのさ、俺…」


誠司が真由にずっと考えていたことを話そうと口を開いた。真由が首を傾げて言葉の続きを待ってくれている。誠司が意を決して続けようとしたとき、遠くからアイラが真由を呼ぶ声が聞こえた。


「カグヤとユキがのぼせて具合悪いんだ、治癒掛けてくれるか?」


「大変!すぐ行く!…誠司、またあとでね」


「うん、いってあげて、俺の話はまた今度でいいよ」


蒸し風呂で老人と我慢比べをしていたカグヤにずっと楽しみにしていたユキが入りすぎてのぼせたようだ。真由は誠司に手を振って小走りで駆け寄っていく。誠司はその背中を見送った後窓の外から暗い森を眺めた。クラノスがそっと心配そうに見てくれているのを感じる。


(…これは真由にしか言えない話だ。だって、こんな事をこの世界の人たちに言えない、言えるわけがない)


―誠司は召喚されてから、正直この世界のことを物語の中の世界だと感じていた。だからすぐ現実、いや元の世界に戻れると思っていたし真由を励まし続けた。何も学ばなくても文字の読み書きができる、風呂やサクラ公国と言った日本と通じる文化がある。そしてみんな自分たちに優しい、そんなある意味都合のいい世界を現実だと思いたくなかった点がある。だがこの世界の歴史を知ったり魔法を学んだり、そして仲間達とここまで旅をして、この世界の歴史を肌で感じてやっと覚悟が決まった。ように思える。


(もしかしてアルベルトさん、俺がまだ寝ぼけていることをわかったのかな)


今までの人生で散々本を読んできた。漫画だけではない、偉人たちの伝記や様々な物語を数えきれないほど読んできた。そして自分で絵に描いて本を作ってきた。そんな経験が今の誠司の認識を阻害しているのだろうか。勿論いい経験と知識を得たといういい点もあるが。…きっとアルベルトはそんな誠司を見透かしていたのだろう。だから一対一での対戦を申し込んできたのだ。


(この世界が好きだ、温かい人達がいてみんな一生懸命生きている)


ヴァランスの時点でそう実感できていた真由の方がよっぽど現実を見ている。誠司は今更やっと起きつつある自分が恥ずかしかった。水を一気に飲んで立ち上がる。


(…アルベルトさんには絶対勝ってこない、これだけはわかる。でも俺の思いをぶつけるんだ。きっとあの人もそれを望んでいる。)


誠司はよし、を顔を上げ振り返る。クラノスに声を掛け一緒に項垂れているカグヤとユキ、そして介抱する真由とアイラの元へと向かう。まずは水源地の核を浄化し安心して水を飲めるようにしなければ。

誠司は明日からの戦闘に気持ちを入れ替えた。


―少年の目覚めは近い。

すみません遅くなりました…。switch2が楽しくて…。

戦争と浄化はく奪の補足みたいなお話です。

最初から悩んでいないように見えた誠司ですが、実はずっと考え込んでいました。

ややそれで寝不足というのもあったりなんだり。

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