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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
42/52

対極な存在

ユキが仲間になった次の日。一行は旅の用意を済ませ首都ロンドリスを出発した。目指すは水源地に寄生した瘴気の核だ。ロンドリス北門から出発し整備されていない土道が続く街道を歩いていた。


「ロンドリスから北側は街道が整備されていないと聞いたことがあるが…本当に舗装もされていないんだね。」


「連邦の北はエルフと妖精族が多く住んでますからね、大体飛行魔法か転移魔法使って移動してますし。馬車が走れれば大丈夫と思う程度にしか思ってないそうですよ。」


卓上旅行が趣味のクラノスが足元を見ながら言った言葉にユキが続ける。やはりエルフは長寿なだけにその辺は大雑把なのだろうか、と真由は考えた。


「妖精族もいるんだね。亜種連邦ってどのくらい種族がいるの?」


「んーと、大雑把に分けてドワーフ族、獣人族、エルフ族、妖精族、あとは人間ですね。獣人族はカイウスおじ様達みたいな獣から鳥、馬…あと見たことないですけど魚人までいるそうですよ。一番多いのも獣人族ですね。」


「魚⁉実際に見たらビビりそうだな…」


「まぁ妖精と魚人は数が少ないですし内向的だから滅多に出てきませんよ。おまけに妖精は妖精第一主義で他種族との協調性なんてない傲慢な種族なんですよ~私嫌い!」


「イメージしていた妖精とは真逆の存在なんだね。実に興味深い。」


そんな仲間たちの会話を真由は一歩下がって聞いていた。横にいるアイラが真由のことを気にかけながら歩いてくれている。真由は何となくだがユキと話しにくいと感じている。仲良くしたいしフユミのことを聞きたいのだが、どうしても一歩踏み出すのに勇気がいるのだ。


「…大丈夫か?やっぱ気まずいのか?」


「あー、うん…なんでなのかな、苦手ってことではないんだけど…」


小声でアイラに尋ねられ真由は頬をポリポリと掻いて答える。はつらつと笑うユキは今まで仲良くしてきた友達とは違うタイプでもある。例えば沙奈も明るく社交的だが愛されキャラというよりみんなを引っ張っていくアイラのような姐御キャラだったりする。一緒に私立の文系いこ!とか言ってくれるような存在だ。…何となく沙奈や友達と一緒の大学ライフを送りたい憧れもあり話を合わせて進学と言ってはいるが、実際払えるだけのお金を相続しているのかわかっていないところもあるのはここだけの話だ。


(本当、現代で一緒のクラスだとしても一緒のグループにはなってないだろうな)


まるで雲の上のような一軍女子だろうと一人納得するとアイラにもう一度大丈夫と笑いかけた。


(…自分の人生に自信を持てるって本当にいい家庭で育ったんだな…)


親に愛されない自分と溺愛されて育ったユキ。祝福されて産まれたユキと祝われなかった自分。自分の才能を伸ばしたユキと生きることに必死で得意なこともない自分。そして魔法の能力の差。聖女の最上位の浄化能力が無かったらユキに勝るところなど一つもないのだ。


(羨ましいな)


嫉妬にも近い劣等感に苛まれながら真由は仲間たちの後を歩いた。今はこの世界で自分が求められていることをしなければならない。そうしないとここまで助けてくれた人たちに顔向けできない。真由は木々の木漏れ日を俯いたまま無言で歩き続けた。…そんな様子を誠司が気付かないはずもなく。

---------------------------------------------------------------------------

「よしここで今日は野営をしようか。みんなお疲れ様。」


夕方。歩き続けた一行は野営の用意を始めた。途中の村まで行きたかったが途中何度か魔物との戦闘があり思うように進めなかったのだ。周囲に魔物の気配はないが、念のためいつもより入念に結界を張ることにする。真由はマンモルで学院長から教わった結界魔法の強化版を静かに展開した。


「真由、アイラが今日は料理は自分が作るから休んでていいって。」


息をつくと後ろから誠司が優しく声を掛けてきた。きっとアイラが配慮してくれたのだろう。アイラに感謝しながら真由はわかったと誠司に返した。


「…ね、もしかしてユキのこと結構意識してる?」


「え、あー…やっぱりわかる?」


横に腰かけた誠司に聞かれ真由は正直に答えた。まぁ察しの良い仲間達ならわかってしまうだろう。ユキに申し訳ないと心の中で謝った。


「まぁね。でも自分と対極的な存在が突然仲間になったんだもん。そりゃあ緊張するしどう接していいのかわからないよね。」


「全部バレてるなぁ…。…うん、なんか全部羨ましいなって思っちゃった。」


少し距離を置いてアイラと共に食材を切っているユキを眺めながら真由は誠司に心の内を打ち明けた。

誠司が何かを言おうと口を開いたとき、クラノスが声を掛けてきた。


「二人共、一緒に水と薪を取りに行かないかい?」


「はーい!行く行く!」


真由は立ち上がり水入れを受け取った。誠司も連れて三人は陣地を離れた。…これもきっとクラノスが察して話しやすいようにしてくれたのだろう。


「…ありがとうクラノス、すぐ切り替えるね。」


「いや君が感じている思いは間違っていないよ。無理しなくていい。ね、誠司。」


「勿論。ユキだって事前にアルベルトさんから聞いてわかっていると思うよ。」


やっぱりバレていたかと真由は笑った。薪になりそうな枝を拾いながら真由は思い切って聞いてみることにする。この二人なら納得のいく答えが返ってくるだろうから。


「ねぇ二人共。一番身近な家族から愛されると実感するのってどんな時?誕生日お祝いしてもらった時…とか?」


「…そうだな、私の場合は誕生日のお祝いも勿論あるが、何より日頃から家族からよくやったと、立派だと褒めてもらえる時かな。あとはフローレンスから愛の言葉を聞いた時かな。」


「ロマンチックだなぁ…。うーん俺もそんな感じかなぁ。うちも結構親も爺ちゃんもすぐ褒めてくれるし…。あ、あとはちゃんと分別をつけて叱ってくれる時かな。」


真由はある程度予想していたが、最後の叱ってくれる時、という言葉に驚いた。


「え、誠司も怒られるとき殴られたの?」


「いやいや暴力は無いよ。何ていうのかな、例えば小さい時親の目を盗んで危ないことをしたとするでしょ。車道に飛び出すとか。そうしたら母さん、目に涙を浮かべてだめでしょ‼‼って大きい声で叱るの。…あぁ母さん俺のこと大事にしてくれるから感情爆発して怒って抱きしめてくれるんだなって思うよ。」


「…そっか…うん…愛情のこもった怒りか…きっとおばあちゃんとおじいちゃんもそうしてくれたのかな」


真由は上を向いて目を瞑った。もう祖父母と暮らしていたころの記憶はあやふやで晩年の姿を多く覚えているが、きっと無邪気な自分に色々な方法で愛を注いでくれたのだろう。…せめてそう思いたい。


「そうだとも。ここまで他人を思いやる性格に育ったのは御祖父母の育て方のおかげさ。ご立派な方々だったんだね。ストラスで大勢の前で挨拶できた真由の姿をお見せしたいぐらいだよ。」


優しく微笑むクラノスと頷く誠司。真由はありがとうと消え入りそうな声で返した。


「…正直さ、ユキってご両親から溺愛されて育って、自分の人生にあそこまで胸張って生きていて、すごく羨ましいなって思ったんだ。…お母さんは偉大な聖女だし、その血を引いているユキだって状況が違ったら聖女になっていたんだろうし。」


ゆっくり息を吐いて真由は続けた。


「ほんと…眩しすぎて…私自分が恥ずかしいなって。こっちに来てからみんなに愛情を貰って見守ってもらえて幸福なのにね。…心のどこかで、お父さんとお母さんに愛されてみたいって思っている自分がいるんだ。…贅沢な悩みだよね…。」


思わず流れる涙を乱暴に拭い真由は笑った。話しながら着いた川で勢いよく顔を洗い目元を冷やす。誠司がそっと横にしゃがむと真由を抱きしめる。


「贅沢じゃないよ、親から愛されたいって思うのは人として当然じゃないか。それにちゃんとみんなからの愛情を感じて幸せだって思ってくれているなら俺たちだって嬉しいよ。」


「うん……」


「大丈夫、生きることを諦めなかった、理不尽に耐えたきたことだって恥ずかしい事じゃないんだよ。胸張っていいんだ。…真由は強いよ、そこはだれにも負けないさ。これからもね。」


誠司に優しくなでられて真由は鼻を啜った。少しだけ、ほんの少しだけ泣くと心の中の靄が晴れたような気がしてくる。正直に話してよかったと何度も思った。


「ありがとう、二人共。…あとでアイラとカグヤにもお礼言って、ユキに謝らないとね」


「いいんだよ。謝るよりユキに君たちの世界のことを教えてあげると良い。そっちの方が彼女は喜ぶさ。」


「そうだよそうだよ!俺ジ〇リ作品何から教えようか悩んでるんだよね~やっぱカ〇オ〇ト〇の〇かな」


「え、それジ〇リだったの…⁉」


意外な事実に思わず涙が引っ込み顔を上げる。目が合った誠司はにっこりと笑うと厳密には違うんだけど…と解説を始めた。聞き入る真由の後ろでクラノスが安心したように微笑みながら見守っている。

---------------------------------------------------------------------------

「お帰り~飯もうちょいかかりそうだわ。ユキが野菜焦がしてさぁ」


仲間の元へ戻るとカグヤが伸びをしながら薪を受け取る。え、と真由がユキを見ると罰が悪そうに縮こまっていた。


「ち、ちょっとだけだもん…目離したすきに焦げる玉ねぎが悪い…」


「大丈夫大丈夫、焦げたところ取り除いて食えばいいんだからさ」


アイラが豪快に笑い飛ばす。鍋を除くと確かに焦げた玉ねぎがちらほら姿を見せている。


「アイラの言う通りだよ、ユキ、やけどしてない?」


「う、うん…じゃなかったはい…」


「敬語じゃなくていいのに。ユキ私と誠司より年上じゃない」


真由はユキに優しく笑いかけた。ユキはやっと真由と話せたことが嬉しいのか確かに、と満面の笑みを浮かべている。真由は箸でささっと鍋から器用に焦げたところを取り除くとアイラから追加の食材を受け取り炒め合わせた。


「さ、お皿用意してゆっくり食べようか。…そうだユキ、私とアイラにも敬語は無しでいいからね。好きなように話してくれ。」


「うん、ありがとうみんな。…敬語やめるタイミングつかめなくて…」


「わかる~~~俺と真由も最初クラノスと旅に出たとき押し問答してたよね」


「懐かしいね!ってまだ2カ月ぐらい前の話だけど…。でも年上とか初対面の人に敬語外すの勇気いるよね~」


そんな他愛無い会話をしながら一行は食事の席に着いた。夜は長い、旅はこれから続いていく。きっとすぐユキとも仲良くなれる。真由は先ほどまで抱いていた靄を消し去りながらユキと親交を深めていった。




「で、私が産まれたときお父さんが三日三晩踊りあかしてギックリ腰になっちゃって…お母さんとオーロラ様と、集落の奥様達からお前が体壊してどうする‼‼ってものすごい怒られたことがあって…」


娘に赤裸々にすべてをばらされる最強の戦士アルベルトであった。

娘に親ばかエピソード全部ばらされるアルベルトさんに敬礼。

現代の作品とかはなるべく伏字多めで行きます。怒られたくないので(;´・ω・)

感の良い皆さんなら何の作品かわかると信じています…

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