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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
41/52

もしも世界が違ったら

首都ロンドリスで魔物が侵入した。真由たち一行は総統府から現場へと急行している。


「大物がいる!みんな気を付けて!」


瘴気の気配を感じ取った真由が全員へ伝える。魔物の大きさまでわかるようになったことにこの時の真由は気づいていなかった。すでにカイウス達獣人族の戦士達が応戦し、住民達も続々と避難している。


「真由殿、皆様!援軍助かります、瘴気の対処を!」


「了解!カグヤは錯乱、アイラとカグヤは魔物を弱らせるんだ!」


クラノスの掛け声に一斉に駆け出す。カグヤはクラノスの肩を借りて跳躍すると一気にクナイを魔物達の足元へと投げつける。上空からの奇襲に狼の魔物はカグヤへと視線を向けるがそこへ誠司が切りかかる。弱ったところを真由が浄化する。息の合った連携にカイウスは満足そうに頷いていた。


「おぉ連携がうまくなりましたな!」


「えぇ、子供たちの成長が嬉しい限りですよ!」


魔物を切り捨てながらクラノスがカイウスと笑いあう。マンモルでは誠司を時折図書館から引っ張り出し、真由とカグヤの3人で連携を意識した戦闘訓練を行っていた。それの成果が今出ているのだ。


「飛行型いるぞ!魔法の用意!」


アイラが真由と誠司に声を掛ける。誠司は即座に訓練した火球を打ち出す魔法を展開して迎撃に当たる。真由も一気に何発も同時に打てるようになった光弾を展開した。


「よし良いぞ、その調子だ!誠司魔力切れに気をつけろよ!」


「わかってる!」


誠司は異世界人なので王国のクラノスやアイラよりは魔力が多い。だがそう何発も連発は出来ないのだ。

ここで誠司はふと思った。


「あれ、オーロラ様が言ってた現場に行かせた魔法使いは?」


「え、魔法使いの救援ですか?真由様と誠司様以外この場で魔法を使える戦闘員はいませんが…」


近くで援護してくれている戦士に声を掛けると戦士は不思議そうに盾で身を隠しながら教えてくれる。仮に総督府の近くから先に走っていたと考えてもついてて可笑しくない距離なのだ。


「迷子にでもなったのか??」


「いやさすがにそれは…ありうる…のかな…?」


着地して息を整えるカグヤの軽口に誠司は否定が完全にできない。とそこに一段と大きく咆哮を上げる魔物が突進してくる。ストラスでも見た巨大なイノシシの魔物だ。カグヤは誠司を掴んで軽く避ける。


「‼‼‼そこの君避けて‼‼‼」


誠司が何かに気付いて声を上げる。少し離れていた真由、アイラ、クラノスも顔を向けると猪が突進する先にはロープを被った少女が走ってきていた。クラノスとアイラが即座に走り出して救助に向かう。真由も防御魔法を展開するために魔力を込めた、その瞬間


「心配ご無用です!」


凛とした声が響いた、と思った時には猪を光の杭が貫いていた。いつ魔法を展開したのか、そして見覚えのあるあの魔法はアルベルトがストラスでの戦闘時によく使っていた魔法だ。


「真由、浄化魔法!」


アイラに声を掛けられ真由は我に返ると慌てて浄化魔法を展開し杭に貫かれて苦しそうにもがく魔物へと魔法をかける。瘴気が取れて一気に力が抜けた魔物めがけてクラノスが切りつけとどめを刺した。


「大丈夫かい…って君は…!」


「騎士様、今は魔物の軍団を倒すことに集中しましょ、お話は後で」


駆け寄ったクラノスが驚くのも無理は無かった。強力な魔法を使ったその少女は昨日カグヤと道でぶつかったあの少女だったのだ。少女はフードの下からクラノスに声を掛けると杖を構えた。


「おぉやっと来たかユキ‼‼頼んだぞ」


「勿論ですカイウスおじ様!行きますよぉ~~!」


カイウスにユキと呼ばれた少女は意気揚々と杖を掲げ高速に魔法を展開していき、次々と魔物を倒していく。真由は瘴気を纏っている魔物に浄化魔法をかけていく傍ら、ユキという名前に聞き覚えがることを必死に思い出そうとしていた。

---------------------------------------------------------------------------

「魔物完全消滅を確認しました。総統府より部隊の新規派遣の連絡がありました。」


「ご苦労だったみんな、これより南門の警戒と市内の被害状況の確認は新規部隊に任せて休息をとるように」


カイウスの指示に一同敬礼して力を抜く。真由たちもお互いの無事を確かめると息を吐いた。


「それにしてもこの魔物達って…」


「昨日話した街道に住み着いた魔物ですよ。おそらく一部でしょうけど」


真由のつぶやきに少女が近づいてきて声を掛けてきた。


「昨日は名前も名乗らず失礼しました。オーロラ様より援護に行くよう指示されたものです。」


少女はぺこりと頭を下げるとゆっくりフードを脱いだ。フードの下の素顔を見た瞬間、真由はあまりの可愛さに驚きを隠せなかった。夜空のように深い色をした美しい髪の毛、雪のように白く美しい肌、そしてぱっちりとした翡翠の瞳をした少女が目の前にいるのだ。雑誌で表紙を飾る同年代のモデルより可愛いぐらいである。


「か、可愛い…!」


真由が思わず口走った言葉にカグヤがぶんぶんと首を縦に振っている。ユキは突然の褒め言葉にえへへと照れたように笑った。あまり人の容姿に口を出さない誠司もおぉと声を出している。


「昨日は改めて申し訳なかったレディ。救援も助かったよ。お名前を聞いても?」


「はい騎士様。…私はユキ。ユキ・オノダ・ルークスです。父がストラスでお世話になりました!」


フルネームを聞いて一同驚いた。目の前の少女は最強の戦士アルベルト・ルークスと23代目聖女・小野田冬美の愛娘なのだ。よく見れば美しい翡翠の瞳はアルベルトとそっくりだ。


「アルベルト殿の娘様だったのか、お父様はお元気かい?」


「元気ですよ~いい出会いだったってスキップしながら帰ってきましたし。ずっと魔法書とかを複製していて皆さんが来るの待っていますよ。」


クラノスとユキの会話を聞きながら真由は一つ確信していた。彼女から感じる魔力の多さ、そして浄化魔法を始めとする各種魔法への適性を。何となく直感で感じ取ってしまった。


(あぁ…もしも、もしも女神がこの世界の人から最上位の浄化能力を取り上げなかったら)


スクトゥムから受けた説明を思い出しふとそんなことを思う。


(きっと、彼女がこの世界にとっての救世主だったんだろうな)


仲間達がユキと会話している中、真由はそっと一歩下がりその光景を静かに見つめていた。

---------------------------------------------------------------------------

「じゃあ、アルベルトさんが紹介するって言ってくれた魔法使いってユキのこと?」


「そうです!お父さん私に外の世界を知るいい機会だから行きなさいって言うんですよ。ストラスに救援行く前は旅なんて危ないに決まっているだろ⁉って足に縋り付いて泣いてきたのに。」


可愛い可愛い娘の足に縋り付いて泣くアルベルトを想像して誠司とカグヤは吹き出してしまった。さすが溺愛している男だ。格が違いすぎる。


「確かにユキのような優秀な魔法使いがいてくれるなら助かるが…ユキ自身はどうしたい?」


クラノスに聞かれユキはちらりと真由を見てきた。母が聖女だったためその後輩にはいろいろと思うところがあるのだろうか、真由は今の自分が恥ずかしくなりこそこそとアイラのそばに寄った。


「面白そうなのでいいかなと!それに、聖女に色々と聞きたいことがあるので」


ユキはそういうとつかつかと美しい髪の毛を束ねたポニーテールを揺らしながら真由に近づく。真由は思わず逃げたくなったが頑張って踏みとどまった。どうして自分がここまで逃げ腰なのか少し不思議に思いながら。


「あの、あなた達の世界にいつか私行きたいんです‼‼お母さんと…あなた達の世界のことたっくさん教えてください‼‼‼‼夢の国とかジ〇リとか‼‼‼」


「…え、そっち‼‼‼?」


まさかの言葉に真由は素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。横では誠司が布教チャンスかと指を鳴らす。まて狂人とカグヤが小突く。


「そっちって私が嫌味でもいうのかと思ったんですか~?確かにあなたは色々と凡庸ですけど、産まれてから魔法に触れてきてお父さんとお母さんとオーロラ様っていう最高の魔法の師がいる私と比べたら誰だって劣るに決まっているでしょう?」


「た、確かに…。ごめんなさい、なんか緊張しちゃって…あのフユミ様の娘さんとこんなに早く会えると思ってなかったから…」


「アッハッハッハ真由ずっとドキドキしてたもんな~~良かったな!」


誇らしげに両親と師に教わった人生を語るユキを見て真由は羨ましさを感じた。アイラにガシガシと頭をなでられながら困ったように笑う。……あの家庭環境なら当然のことだが、真由は夢の国もジ〇リも詳しく知らないのだ。確か修学旅行の行き先が夢の国だったはずだが、真由は参加しない予定なのだ。この辺は誠司に話してもらおうとちらりと誠司を見た。誠司は何かを感じ取ったのか任せろと言わんばかりに親指をぐっと立てる。


「とりあえず総統府に戻ろう。落ち着いて今後の方針建てようぜ。」


「そうだね。ここにいては調査の邪魔になるだろうし。カイウス殿に声を掛けてくるよ。」


アイラの提案にクラノスが頷いた。カイウスに声を掛けに小走りで駆け寄る。クラノスの背中を見てカグヤがそうだとユキに声を掛けた。


「そういやさ、なんで俺たちより後に現場到着したんだ?迷子?」


「ロンドリスに何回来ていると思ってるの⁉人混みが思った以上に多くて流されただけだもん!」


ユキが顔を真っ赤にして怒る。怒る顔も可愛いなと真由は思いながらその光景を思い出していた。…確かにバーゲンセールの時のような人混みだった。自分たちはクラノスのたくましい背中の後ろを走っていたので気にせず現場へと急行できたのだ。改めて鍛え抜かれた肉体に感謝していた。

---------------------------------------------------------------------------

「あっはっはっは‼‼‼だからユキ、飛行魔法覚えなさいって言ったでしょう?」


「あれふわふわして苦手なんだもん~~オーロラ様、そんな笑うと化粧落ちますよ?」


総統府に戻った一行は待っていたオーロラとドンに報告していた。小柄なユキが人ごみに流されて到着が遅れたと聞いたオーロラはお腹を抱えながら笑っている。飛行魔法もあるのかいいなーと横で誠司がうらやましそうに聞いている。


「あー笑った笑った。あなた人混みに流されるの三回目なんだから気をつけなさいよ本当。昔お祭りの人混みではぐれたときにアルが泣き叫んだの忘れたの?」


「泣き叫んだのそっちかい‼‼‼」


まさかの情報にカグヤが誰よりも早くツッコミを入れた。さすがの反射神経の速さにドンが吹き出す。


「まぁまぁオーロラ様、あれだけの人混みでしたしユキは小柄です。仕方のない部分もあるでしょう。」


「そうですわね、今後は騎士様の背中に庇ってもらいましょうか。」


呼吸を整えながらオーロラはユキの頭をなでた。クラノスもえぇ勿論ですと優雅に微笑み返した。


「あの過保護なアルが急に娘を旅に出させるのは驚きましたが、きっとあなた方との出会いで考えが変わったのでしょうね。何かと連邦の者がいた方が国内動きやすいでしょうし。」


「そうですな。特にエルフの集落ではユキがいた方が顔も効くでしょう。ユキ、頑張りなさいな」


ドンも孫のように思っているのだろうか、ユキに優しく声を掛ける。ユキは元気よく頷いている。オーロラは美しく立ち上がり一行に向かって優雅に礼をした。


「皆様、ユキには私とアルと…フユミがその生涯をかけて守り魔法を叩き込んできました。旅に出るのは初めてで世間知らずのところもあるでしょうが、皆様との旅路はこの子の長い人生の中で大切な経験と時間になります。…どうぞよろしくお願いいたします。」


「えぇ。必ず素敵な旅路にしてご両親とオーロラ様達の元へ帰すことをお約束します。」


クラノスがオーロラの手を取り騎士の誓いのように膝をつき手の甲にキスをする。


「勿論、色々と聞きたいことも布教…話したいこともあるから!よろしくね、ユキ」


「ふふ、誠司あんまり変なこと教えないでね。私もあえて嬉しいよ、魔法のことたくさん教えてね」


「任せてください!このユキ、両親とオーロラ様と見守ってくれた族長たちの名に懸けて頑張ります!」


少女の明るい声が会議室に響く。新しい仲間を迎え、温かい日差しが彼女を祝福するかのように照らしている。連邦をめぐる旅が、今始まる。

新キャラユキ加入です!


登場人物補足

〇オーロラ

エルフ族の族長。年齢は秘密★エルフ族の中で魔力が一番多く、なおかつ一番美しい。花弁が入浴剤になる商品を10年以上かけて開発した。おしゃれが大好きで化粧やファッションに気を使っている。ユキとフユミの魔法の師匠。ちなみに魔法は派手なものが好きなので爆発系の魔法を好んだりしている一面もある。


〇ドン・スミス

ドワーフ族の族長。御年100歳。ドワーフ族の中でも一番鍛冶の技術が高い。王国騎士団の甲冑もよく注文を受けている。騎士団長が着る鎧も彼お手製のもの。実家にある騎士団長が催事の時着る甲冑も80年ほど前にドンが作ったことをクラノスはこの時知らなかった。真由の髪飾りを見て作った人を弟子にしてもっと育てたいと内心思っているほど気に入っている。お酒大好き♡


〇ユキ・オノダ・ルークス

冬美とアルベルトの愛娘。ハーフエルフで18歳。母親そっくりの容姿と父親と同じ色の瞳を持つ。着ているフード付きのロープと杖は母のおさがり。浄化を含めたほとんどすべての魔法の素質がある天才。自分の出自に誇りを持っており、父に溺愛されて育ったため自尊心は結構高い。ただ精神年齢は真由より低い。(人間とエルフの成長の違いもある)小柄なため父親のような槍使いには適さなかった。一応技術は学んでいるが魔法使った方が早いので基本的に使わない。明るく振舞っているが聖女にはいろいろ複雑な思いがある。

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