王都へ②
セリフの間を空けてみました。少し読みやすくなったかな?
今まで投稿したエピソードも同様に編集しています。
「よくぞ召喚に応じてくださった。感謝申し上げます25代目聖女よ」
荘厳な城にある謁見の間。大陸最大の国と呼ばれるだけあって調度品も豪華だ。
豪華な玉座にだるそうに腰を掛け、小太りの王は髪の毛と同じの小金色の髭を触りながら言葉を発した。
「恐悦至極の極みでございます。イノケンティス陛下。」
真由は棒読みでスクトゥムに教えてもらった通りに返した。
この王、散々人を待たせておいた挙句こちらの顔を見た瞬間鼻で笑ってきた。
確かに私はかわいくも美人でもないけど‼お前だって太ってんだろ‼‼‼と
内心腸が煮えかえるぐらい激怒しているのを必死に抑える。
一人だけなら怒ってもいいのだが、何せ後ろには誠司がいる。
聖女ではない彼をこんなことで危険に曝すわけにはいかないのだ。
「そなたにはこれからこの大陸を回り瘴気を浄化してもらう。
従者殿には…まぁ共に旅に出て助けてやってくれ。」
王は誠司に目を向け吐き捨てるように言った。
もっと丁寧に扱え~~、誠司君のほうが聖人だぞ‼‼と再度真由は怒っていた。
「委細承知いたしました。」
「期待しているぞ。この後のことはベルメールから説明させる。下がりなさい。」
スクトゥムに促され一礼して謁見の間を後にする。
応接室に戻った瞬間、思いっきりため息をついた。
「お二人に不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありません…」
「あはは、僕はいいですけど…予想してましたし。
それより、あのような性格の方がトップだと皆さん苦労されてますね…」
「返す言葉もございません……おっしゃる通りで…」
スクトゥムは身長は180㎝はあるような体格なのに今はとても小さく見える。
大丈夫かこの国…と真由も心配になってきた。そこへノック音の後扉が開いた。
「お初にお目にかかります、ブルーボ王国神官長のベルメールでございます。
この度はわが王の非礼をお詫びを申し上げます…」
言ったそばから‼と真由と誠司は顔を見合わせて慌てて頭を下げ続けるベルメールを止めた。
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「さて、今後のことについてご説明させていただきます。
まず三週間を目安にお二人にはここで訓練を受けていただきます。」
気を取り直してベルメールは話を切り出した。
「午前中はこの世界の事と作法を学びます。午後は真由様は浄化魔法を始めとした魔法を、誠司様は護衛として戦闘訓練を受けていただきます。夜はゆっくりお休みください。」
つまり夜は自習ということだなと真由は察した。
自分は学業は得意ではないので夜もみっちりやらねば無理だと考えたのである。
「誠司様は何か武器の扱いのご経験はありますか?」
「5年ぐらい剣道…えっとこちらの剣術とは違うものですが…
僕たちの国の剣術を学んでいました。やめた後もよく素振りはしています。」
「ふむ…剣道…もしかしてお二人は23代目様と同じ日本の方でしょうか」
ベルメールの言葉に二人は顔を見合わせた。
偉大な功績を残した23代目も日本人だったのである。
「えぇ…日本人です…驚きました、23代目様も日本の方だとは…」
「23代目様だけではございませんよ、歴代の聖女様の中で一番日本人の方が多いのです。聞くところによれば、日本は八百万の神々が御座る国であると。きっと神のご加護が一番強い国なのでしょうね」
ベルメールは優しく微笑んだ。確かに八百万の神々は昔から言い伝えられているが、自分たちは宗教に入っていないしそういう家系でもない。それでも多いのは―
「真由ちゃん、もしかして23代目様って神山で20年ぐらい前に神隠しにあった人かな…」
誠司の言葉に真由はあっと声を上げた。今朝スクトゥムから聞いた話とも年代が合う。
「神山…の方かどうかは私にはわかりかねますが…とにかく剣道を嗜んでおられたのでしたら、武器も剣術を学んでいただきましょう。スクトゥム様手配をお願いできますか?」
「承知いたしました。ふむ、それでしたらサクラ公国出身の教官をつけましょう。
23代目様より自国の剣術に似ているとお言葉をいただいたと聞いております。」
サクラ、日本の象徴である樹だ。まさかここまで共通点があるとは驚きである。
「あのベルメール神官長、このお城に図書館のような場所はありますか?
午前中の授業以外にも夜の時間に学習したいのですが…」
誠司が尋ねた。おそらく神隠し事件と聖女の関係を調べたいのだろう。
「もちろんございます。ですがお二人がメインで過ごされるお部屋より遠い場所にありますし、自由に閲覧できる書物が少ないので、ご要望いただければお部屋にお持ちするようにしますか?」
「ありがとうございます、それでお願いします。早速リクエストしてもいいですか?」
「ほっほっほ、とても勉強熱心なお方ですね。よろしいですよ、承ります。」
ぜひ私のもとで働いてほしいほどですとベルメールは笑った。
真由も少し予習したいので魔法の使い方の本をリクエストした。
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「…さすがに細かい個人情報を書いたものは閲覧権限ないよなぁ…」
夕食後。案内された部屋で誠司は早速届けてもらった本を読んでいた。
リクエストしたのは聖女の行動の記録と世界の歴史の本である。
ベルメールとの会話でおそらく23代目は神山の神隠し事件の被害者であると予想した。
時差の違いがどのくらいかはわからないが、時系列がおおよそ合っているのである。おまけに被害者は女子高生だったという。日本人、女性、これだけで断言するのはやや根拠に欠けるが、誠司はなぜかそうであるとしか思えなかった。
「1673年召喚、フユミ・オノダ様…17歳、俺らと一緒か…冬の時期に呼ばれたのか…それにしても今1700年ってことは318年も昔の世界にいるのか…」
誠司は独り言をつぶやきながらページをめくる。同様に王城で訓練を行い、その後エルフ、サクラ公国の戦士、ドワーフと人間の5人パーティーで旅をしたようだ。
「1676年、アンヴェル遺跡群にて魔王を討伐。王都に帰還後、エルフと共に亜種連邦へ移住。その後も浄化のため定期的に各地を訪問。…1690年病により死亡と亜種連邦より報じられる。」
「…亜種連邦に行けばこっちの家族がいるのかな?」
突然耳元で声が聞こえ誠司は勢いよく振り向いた。そこには真由が立っていた。
もちろん彼女とは別室である。
「ごめん、ノックしたんだけど返事なくて…一応衛兵さんとドア開けたの…」
「全然気づかなかった…こっちこそごめん、驚いただけだから…」
内心ドキドキしながら真由に椅子をすすめた。真由は用意してもらった部屋着に、ケープのような上着を羽織っていた。手には借りた本を持っている。
「女の子が夜薄着で男の部屋来るの危ないからね、衛兵さんいるから安心してるかもだけど」
念のため釘をさしておく。真由は意味を理解していないのかきょとんとしていた。
「夜道?それなら大丈夫だよ、私美人でも可愛くもないから襲われる心配ないし!」
「いや昔から可愛いのに何言ってるのさ、とにかく俺以外には禁止だよ」
ここまで言って誠司は自分のことを殴りそうになった。なぜ自分以外と言ったのか??男なのは自分もだろうが‼‼‼と心の中で鬼の形相をした鬼姉にタコ殴りにされている気分だ。
一方の真由は久々に言われた可愛いという言葉に顔を赤らめていた。
後半はよくわからなかったが取り敢えず夜勉強を共にしていいと言う旨だと理解した。
「えっと、何か23代目様と神隠し事件の関連とかわかりそう?」
「あーっと…さすがに出身がどこみたいな個人情報は載ってなくて…あ、聖女様のお名前はフユミ・オノダ様っていうらしいんだけど、事件の被害者の名前と一致してるかな?」
誠司の問いかけに真由はん~~~~っと考える。
正直神山にずっと暮らしている真由のほうがこの手の話はよく知っていそうだ。
「…おととしぐらいに雑誌で見たとき名前はイニシャルで出てて…確かOさんだったかな」
「Oさん…苗字だったらあってるけど…んーー情報が足りないな」
誠司は伸びをした。亜種連邦にいるご家族に会えれば話が聞けそうだが、まだ身動きが取れない。
「確か誠司君の教官がサクラ公国の人って言っていたよね、面識あるみたいだし聞いてみようよ!」
「そうだね、剣道知っていたのは驚いたし…あとはサクラ公国と現代の関係性も気になる」
歴史の本もざっと読むがサクラ公国は戦争終結後、5代目聖女が召喚された後突然できた国らしい。
独自の文化と門外不出の術を使う武装集団がいるようだ。現在においても大陸の中で一番強いといわれている国、としか書いていない。本としてどうなのだろうかと首をひねる。
「サクラ公国についての詳しい話も聞けたらいいけど、まずは訓練が優先だね。
ところで、何か用事あった?」
「えっと…魔法の本少し読んだけど言葉が難解で…助けてぇ…」
子犬のような瞳でお願いしてくる真由に誠司は思わず吹き出しそうになった。
いいよ、一緒に読もうと返すとぱぁっと明るくなる顔にこちらも笑顔になる。
よかった、一昨日のような辛い表情はしばらく見なくていいようだ。
やはり真由には笑っていて欲しいと誠司はそっと願い二人の時間を過ごした。
「…これ明日先生に用語から聞かない??」
魔法など縁も所縁もない世界にいたのだ。何もわからなくて当然であった。
登場人物補足
〇誠司の家族構成
両親と厳格な祖父、そして鬼のように怖い姉がいる。姉の趣味はコスプレ。誠司はよく衣装づくりを手伝わされている。そのおかげで手芸スキルがどんどん上達していった。
〇ベルメール神官長
ブルーボ王国の神官長。御年70歳。そろそろ隠居したい。王があんなだし…(´;ω;`)
でも後継があまり育っていないのでもう死ぬまで現役だと諦めている。
〇フユミ・オノダ
23代目聖女。魔王を討伐した。討伐後こちらに残り結婚、出産をして家庭を持ったようだ。
10年前に病により死亡。