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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
37/52

外伝⑩ ブルーボ王家

ブルーボ王家のお話です。

ブルーボ王国唯一の皇位継承者であるウィリアム・フォン・ブルーボは物心ついた時から父であるイノケンティス王が嫌いだった。話が通じない、自分のことしか考えない、王としての責任感が無い。母は無理やり王と結婚されられたと臣下達が話しているのを聞いたことがある。確かに両親の間にまともな会話をしているのを聞いたことがないし、母はあまり父と一緒にいようとしない。冷え切った夫婦関係の中、自分の弟妹が産まれることはもちろんない。ウィリアムは嫡子として騎士団の護衛が常に付き、過保護と言えるぐらい厳重な警戒態勢の中育っている。外出も自由には出来ないが、王家に産まれたからには仕方ないと12歳の少年は今日も自室から外の世界を眺めていた。


「王子、真由様と誠司様からお手紙と品物が届いております。」


「ありがとう」


侍女の言葉にウィリアムは目を輝かせて受け取った。聖女一行とヴァランスで別れてからひと月近くが経過した。一行はマンモル、ストラスで瘴気の核を浄化し、現在はマンモルで休養をとりつつ連邦に行く前に鍛錬に励んでいるとアーマルドから報告を受けていた。ウィリアムもマンモルに駆け付けたかったが王がまた思い付きで増税などと言い出したため城に残っていた。


『拝啓 ウィリアム王子

お元気ですか?僕たちはストラスで浄化作戦を完了し、現在マンモルで休養しながら魔法学院で魔法の基礎を教わっています。ジュール学院長の教えが分かりやすくてとても勉強が楽しいです。魔法学院に協力してくれるよう王子からお願いしてもらえたと聞きました。本当にありがとうございます。おかげでますますパワーアップできそうです!残り1週間ほどの滞在の予定ですが、連邦に行く前にゆっくり勉強できてよかったです。

そうそう、王子からいただいた魔装具のおかげで前より格段に魔法を展開できる速度が上がりました。ストラスの浄化作戦の時にも弓矢に炎を纏わせて射る、なんて応用もできました。このお守りが無かったら仲間たちの窮地も救えなかったと思います。王子のお祈りのおかげですね、本当にありがとうございます。

お礼と言えるかわかりませんがマンモルで綺麗な生地のスカーフを見つけました。クラノスに教わって王家の紋章の刺繡を入れてみました。フリージアの刺繡は真由の力作です!気に入ってもらえると嬉しいです。それではまた  敬具 篠澤誠司』


よく整った字からは誠司の人となりが垣間見える。ウィリアムはそっと微笑んだ。あのお守りが彼らの命を救ったことが何よりうれしかったのだ。包みを開けるとそこには青い生地のスカーフが丁寧に包まれていた。巻いたとき手前にになる部分には金の糸で王家の紋章と花の刺繡が施されていた。二人が頑張って針を入れてくれたのだろう、ウィリアムはとても嬉しくなった。


『ウィリアム王子へ

こんにちは、お元気でしょうか。私たちは今マンモルで休養しながら魔法学院のお世話になっています。王子が色々と手配してくださっと聞きました。ありがとうございます。ジュール学院長ともゆっくりお話しできますし、何より誠司君が図書館で一日中過ごせる!なんてはしゃいでいるのを見るのがとても楽しいです。誠司君は図書館に泊まりたい~なんて言って学院長の私室に泊めてもらって夜遅くまで魔法のことを教わっています。本当は私もそうしたいけど、女の子が男の部屋泊まるのだめだよ!ってみんなから止められるので…。悲しいなぁ…。こういう時男だったらっていつも思います。でも夜はアイラに体術を教わったり王妃からいただいた魔法書を読んで過ごしています。誠司君の成長がとても速いので、追いつけることは無いでしょうけどそれでも自分なりに頑張っていこうと思います。

それからストラスに入る前に新しい仲間ができました。カグヤって言って実はあの忍者です。とても器用で判断力が高くて、ストラスの浄化作戦の時にもたくさん助けてくれました。誠司君とクラノスと男子トークですっかり仲良くなって見てて私もとても嬉しいです。あとカグヤのおかげで日本食も食べれるようになりました。こちらでは公国以外馴染みがないとアイラから聞きました。こちらのお料理もおいしいですけど、日本食も美味しいのでいつか王子と王妃と、みんなで一緒に食べたいなって思います。その時まで料理の腕を上げておきますね! それではまた 横山真由

追伸 誠司君と一緒にスカーフに刺繡を入れてみました。誠司君みたいに上手くはないですけど…一応フリージアです。喜んでもらえると嬉しいです。』


女性らしい丸っこい字が特徴的な真由の手紙からは花の香がする。きっと貴族の間でよくある香水を少し忍ばせておくという手紙の習慣なのだろう。リラックスする香にウィリアムは嬉しくなった。真由の手紙はよく仲間たちのことが書いてある。真由本人のことも書いてほしいが恥ずかしいのかあまりないのだ。あまり女性にしつこく尋ねては行けませんよ、と母から言われたウィリアムは教えに従っている。それにしても忍者まで仲間にできるとは、クラノスからの手紙でもあの忍者が…と驚きを隠せない様子だった。きっと誠司も参考資料になる!とはしゃいでいることだろう、ウィリアムは想像して笑ってしまった。


「ウィリアム、入りますよ」


控えなノックと共に聞こえた美しい声にウィリアムは手紙から顔を上げた。母が来たのだ。


「はいお母さま!」


ウィリアムは扉に駆け寄ると侍女を数名引き連れた母であるエレナ王妃を自室へ招きいれた。


「ふふ、楽しそうですねウィリアム。おや、それは綺麗なスカーフですね。」


「お母さま、これは誠司さんと真由さんからいただいた品です!見て下さい、王家の紋章とフリージアの刺繡を入れてくださったんですよ!」


興奮する息子を愛おしく眺めながら王妃は刺繍を見る。複雑な紋章であるのに完璧に仕上がっている。誠司が手先がとても器用とクラノスからの手紙で聞いていたが、これほどとはと素直に感心している。


「まぁ、とても素敵ですね。お花は…そう、フリージアね。こっちは真由様が入れてくださったのかしら」


紋章と比べると不慣れな様子が見て取れるが、一生懸命入れてくれたのだろうと思いを感じ取り胸が熱くなる。瘴気の核を浄化しているだけでも大変なのに、息子にここまで親切にしてくれる二人に王妃は感謝の祈りをささげた。


「ウィリアム、フリージアの花言葉は知っている?」


「いえ、知りませんでした。後で図鑑で調べます!でもお二人のことですから、ちゃんと素敵な意味を込めて選んでくださったと確信しています。」


自信満々の息子の頭をゆっくりと撫で王妃は微笑んだ。ところで、と王子は話をつづけた。


「お城のお庭にも特にフリージアは多く咲いていますよね。お母さまの好きなお花ですか?」


「そうね…。私もフリージアはとても好きよ。でもね」


王妃はそこで会話を切って窓の外を見上げる。


「…私よりフリージアを好んでいた方がいらっしゃったの。そのお方のために今はたくさん植えてもらっているわ。」


「そうなんですね、じゃあこのお花はお母さまとその方の思い出のお花ですね。」


王子がにっこりと笑う。本人は嫌がるだろうが、その無邪気な笑顔には幼き日のとある人の面影が見える。王妃はそんな息子をそっと抱きしめた。腕の中の息子は突然抱きしめられたことに驚いたが、母との抱擁に身を任せている。


(ねぇ、あなた、もう花を愛でる心も残っていないのでしょうか―)




「エレナ、私はフリージアの花が好きなんだ。…男なのにだらしがないと君も笑うだろうか」


「まぁ、男性もお花を愛でたっていいではありませんか。私も好きですよ。それにほら」


幼き日のエレナはそっと黄色の花弁を目の前の男性の頬に添える。金色に輝く髪と相まって大輪の花のような気品が見える。


「ふふ、とてもあなたにお似合いですよ。王子。」


「そうか…ふふ、そうか。」


王子は恥ずかしそうに笑ったあと息を吸い込んだ。王宮の庭の片隅で8歳年上の王子は凛々しい表情を見せた。


「私もあと2年で成人だ。そうすれば城の庭にも色々と口を挟めるだろう。…だからエレナ」


そっとエレナを見つめる王子。エレナは微笑んで続きの言葉を待った。


「君は神官になって城で務めてくれ。私はそれまでこの花をたくさん植えよう。そして、庭いっぱいに咲くフリージアの花畑で君に会いたい」


「えぇ王子。…約束、忘れないでくださいね」


穏やかな日差しと風が吹き抜け花弁が舞う。その時は純粋に王と臣下として国を支えあっていくと信じていた。でも、現実は違ったしその約束は守られていない。エレナはただ悲しかった。いつからか人が変わったように狂い始めた前王。それに付随する形で狂っていったイノケンティス王。一番近くにいるのに止めることができず、困窮する国民からの悲鳴を聞き毎日涙で枕を濡らしていた。せめてもの謝罪として自身の発言力と権力を上げ、救済処置を取ったり自らの足で国を回り問題点を見つけ、改善策を臣下達と協力して打ち出してきた。だがそれでも王となった夫の暴走は止まらない。いつしかあの庭も目もくれず家族の声も届かなくなってしまった。


(いつか国が限界に来た時、私が取る最後の手段は一つ。それでも、ウィリアムが真っ当に育つまで時間を稼がねばなりません。)


ある覚悟を固めた王妃は、臣下にも言えない作戦を抱えている。それを実行する日が来ないことを願いつつ、愛する息子は正しく国を導いてくれることを願い、今日も思い出の花と共に美しく咲いている。

ブルーボ王家のお話でした!というよりほぼ王妃の話でしたけど(;´・ω・)

王子視点の話もどこかで書きたいです…。

王妃の最後の手段ですが意外とウィリアムも察しています。なのでウィリアムも早くよき王になろうとお勉強を日々頑張ったり母について国を回ったりしているというちょっとした設定です。


だいたい外伝は一通り書いたのでそろそろ連邦に向けて動いていきます!

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