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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
35/53

外伝⑧ カグヤ・ウメミヤのきまぐれ

カグヤのお話です!

「ウメミヤ家に産まれた者は忍者となり公家を影よりお支えする」


それがウメミヤ家の家訓だ。サクラ公国ができてからそこそこ年月が経っているし、最近は純血の家が少なくなり純血同士の婚姻も難しくなっているというのに。自分たちはいつまでこの家訓に付き合わなければいけないのか。15歳を迎えたばかりのカグヤは木の上でそんなことを思っていた。


「おーいカグヤ~~飯だぞ~~~」


3歳年上の兄が声をかけてきた。兄弟の中で一番性格が穏やかな兄だ。歳も一番近く長男や次男にからかわれたり好物を取られるカグヤのことを気にかけてくれた存在でもある。カグヤは木から素早く降りて兄の後を追う。


「そうだ聞いたか?王国で聖女が召喚されたんだってさ」


「まじで⁉やっぱ平原の核のせいで大陸の食料供給量落ちているから?」


「それが王が思い付きで召喚したらしいぞ。何を考えているんだか…」


呆れたように笑う兄の横でカグヤも同意した。これで食料事情解決のため召喚した、などと嘘でも宣言すればいいものを。やはりブルーボ国王は狂っているのだ。王国で活動している仲間からも小さい村の住民は貧困で苦しんでいると報告をずっと受けている。王妃が頑張っているようだが、権限が高い王のせいで上手く救済できていないと。


「…王の暗殺任務もそろそろかなぁ…」


「ばっか、思っても口にするなって散々言われているだろ?」


思わずぼやいたカグヤの頭を兄が小突いた。カグヤはまだ未熟で時折こんなことを言ってしまう。兄はまだまだ子供な弟が失態を犯さないかすごく心配しているのであった。本当に。

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「さて今回はヴァランス近郊で訓練にあたる。街で情報収集を行い私に報告すること。良いな」


その数日後。カグヤは忍者の見習いとして王国のヴァランスに来ていた。アズマがカグヤを含めた若手忍者10名程に指示を出している。カグヤにとっては3度目の王国訪問だ。まぁ全部訓練なのだが。忍者は基本的に街への潜伏と情報収集、そして時折冒険者と身分を偽り魔物と戦ったり護衛を引き受けるなどをして各国の情勢を本国へ伝えるのが役目だ。勿論この大陸以外の国にも赴く。後は優秀なものは公主直属として護衛に着く。ウメミヤ家は代々公主直属になっている。カグヤもいずれそうなるだろう。


「カグヤはどのあたり行く?俺港方面行くわ」


「俺は前港行ったから騎士団の詰め所周り行こうかな、へへなんか面白い事ないかな」


同期と笑いながらカグヤは街へと繰り出した。気配を消すのは大得意だ。素早く詰め所の庭の茂みに隠れた。王国騎士団はよく訓練されているが近年は職に困ったから入ったという理由で志が低い団員が多いと聞く。おまけに王があの状態なら忠誠心も少ない。木陰になっている茂みに隠れているカグヤに気付ける団員はいなかった。


「王妃と王子が来てて大変なのに聖女ご一行までいるとはなぁ…」


「騎士団長とガードナー兄弟までいるんだろ?サボれないよな」


案の定やる気がない若手団員がカグヤが潜伏している茂みの近くで談笑を始めた。念のためカグヤは眠りの薬を仕込んだ吹矢を用意する。


「そうだ聖女様みたか?なんか芋みたいな女だったよなぁ、従者の方が救世主って感じのいい面してるぜ」


「見た見た、いまいちパッとしないよな、髪の毛も無造作に伸ばして切ってます~って感じだったしよ」


ギャハハハと品のない笑いをしながら二人は会話を続けていた。


「どうせどっかの貴族の妾の子なんだろ、浄化の才能あったから祭り上げられただけのよ」


「でたな陰謀論、でもまぁあの貧相な身なりなら思うよなぁ~美男美女に囲まれて有頂天だろうな。シーノルの時だって神官と一緒じゃないと浄化できなかったらしいぜ」


「先代は美人だったし有能だったらしいからなぁ、余計差が目立つよな」


「王が惚れたぐらいだもんな~今の聖女様は目もくれず城から出されたらしいぞ」


「聞いた聞いた、ウケるよなぁ。護衛にわざわざガードナー弟つけるなんて弟の方も可哀そうだぜ」


(ここまで落ちたんだな王国騎士団…仮にも聖女信仰で成り立ってきたのにな)


カグヤは軽くため息をついた。さすがにここまで言われる聖女も可哀そうに思えてきたのだ。とりあえず現在王妃と王子、そして聖女一行がいるのはわかった。顔だけでも拝んでいこうかなとカグヤは騎士団員がいなくなるまで息をひそめていた。

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その日の夜。カグヤは情報収集を進めた。王族が帰った後でも要人がいるというのに警備がザルすぎる。これも報告対象だなとメモに書き連ねてある部屋まで来た。ここは聖女一行の従者とガードナーの弟が宿泊している部屋だ。やっかいな弟の方は現在部屋にいないのはわかった。従者の方も風呂に入っているようだ。カグヤは好奇心でそっと部屋の中に侵入した。


(バッグ置きっぱなしって不用心だろ)


サイドテーブルには着替えとバッグが置かれていた。服のサイズからみて従者の方だろう。カグヤは回復薬でもとバッグを漁るが、風呂場の方から人が動く気配がした。慌てて中から適当なものを引っ張りだし素早く窓から外に出る。最上階に位置している部屋から屋根に上がり、様子をうかがう。


「あれ窓開けっ放しにしてたな…うーん夜風が気持ちいい~…ケホッ」


聞き耳を立てていると従者が風呂場から出てきて風に当たっていた。少し咳き込んでいるようだ。幸いバッグには気付かれていないがカグヤはあの咳の音に少し聞き覚えがあった。


(…瘴気由来の咳だ)


何度か咳の音が聞こえる。まるで吐きそうになっているような咳を何度か繰り返すと従者は落ち着けるように水を飲みに窓から離れていった。声からして自分と同年代だろうか。先ほどの情報ではこちらに来てからかなりハイペースで旅をしているという。先代聖女のように非常に賢く、戦闘中に機転を利かせてやや危ない行動もとることがあるそうだ。きっと自分の体調不良も疲れからと勘違いしているのだろうか。

カグヤはどこかで薬を渡すかなと悩むとふと手にしている物をみた。…瘴気を直接吸い込まないようにするマスクだ。やってしまった。


(やべ~~~~~~~でもこれ傷ついてないし新品っぽいな、予備か?)


もしも従者の身に何かあれば原因の自分は間違いなく処される。というか責任が負えない。急いで部屋の中に戻そうとするが運悪くガードナーの弟が戻ってきてしまった。おまけにそろそろ集合の刻限だ。カグヤは申し訳ないと思いつつそのまま所定の場所へと駆けていった。

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「ふむ、聖女ご一行はこのあとマンモルへと赴かれるのだな」


カグヤはアズマに聖女一行の行動予定を報告した。これも意識が低い騎士団員から聞いた話だ。


「マンモルの後はストラスだろう。我々も一度シーノルによってからそちらへ向かう予定である。機会があれば陰ながら戦闘をお支えするぞ」


アズマの声に若手達は了解ですと返事をした。カグヤも内心ドキドキしながら冷静を装った。アズマには従者のマスクを盗ったと話をしていない。死ぬほど怒られるのも当然だし何より本国にも報告される。仮にも公主の遠縁のウメミヤ家がそんなことをしたと知られればカグヤは一族からどんな仕打ちを受けるか。わが身が恋しいカグヤは言い出せなかったのである。


「よし、全員の報告が終わったな。よい出だしだ、このまま王国での訓練を続けるぞ」


アズマの号令でその日はヴァランス近くの森にある隠れ家で過ごした。カグヤはずっと従者のことも気がかりだったのでこっそり薬を量産していた。

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マンモルで訓練しているとき、カグヤが恐れていたことを聞いた。


「なんと従者殿が瘴気を直接吸い込まれたと⁉ご無事か?」


「えぇ、すぐ治療を受けられたそうですがまだお体の調子は良くないようです。」


同期の報告にカグヤは泡を吹いて倒れそうになった。よく聞くと瘴気の核の戦闘中にマスクが壊れ、予備が無かったためそのまま戦闘を継続したという。ここまで予備に気付けないものかと思いつつも、カグヤは己のしでかしたことにどうするべきか悩んだ。実はあのマスク、シーノル近郊の村で子供を助けた際に瘴気で肺を痛めていると聞いて薬と共に渡してしまったのだ。一行はすぐ買えるだろうからと安易に考えてしまった。顔が青ざめているカグヤをアズマはちらりと見ると咳払いをした。


「回復をお祈り申し上げよう。だが我々は公式に秘匿された身。公主の許可なしにうかつに御前に出るわけにはいかない。ストラスまで無事にご到着されるようお支えするぞ」


カグヤは必死に頷いた。せめて薬を渡してひっそり謝りたい。その気持ちが焦ってしまったカグヤはその日の夜、隠れ家を抜け出してストラスへ出立した一行を追いかけていった。


「……馬鹿者が…」


アズマはカグヤの様子に気付き、頭を抱えていた。今は指導員が自分しかいない。いくら鍛錬中とはいえ若手達を置いてはいけないしかといって全員連れて行くわけにもいかない。少し悩んだ末、中忍を呼び若手達を任せ、自分はカグヤの後を追うことにした。

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「お、追いついた…」


カグヤは聖女一行が休憩していた野営地にやっと追いついた。途中魔物と戦ったり雨に降られたりして思いのほか疲れてしまった。無断で抜け出してしまったこともあり、ひたすら焦っていた。のだが。


「あれ、案外元気そうじゃん…?」


遠目に従者を見ていると普通に会話をして動いている。きっと馬車の中で体を休めていたのだろうか。なんだ俺来る必要あったかなと頭をひねった。ついでに聖女の顔も見てみようと望遠鏡を向ける。若手騎士団員が言っていた通り、先代と比べると美人ではない。があそこまで言われるような顔でもない。至って普通の女の子だ。


「…ふーーーーーーん、ちょっとご挨拶でもしてみようかな」


カグヤは不意にそんなことを思ってしまった。何故なのかはわからない。でもここまで来たのだ。こっそり会ってもいいだろう。アズマに忠告されていたことをすっかり忘れてしまっていた。カグヤは見張りの目を搔い潜り食料を盗ると先回りして村へとまた駆けていった。

---------------------------------------------------------------------------

「で、あの事件を起こしたと。」


「返す言葉もございません…」


ストラスの宿泊部屋でクラノスに改めてあの日に至るまでのことを聞かれたカグヤは正直に話した。横では誠司が笑っている。アズマから両親に報告が行ったのだろう、両親から届いた書簡には命を懸けてでも皆様をお守りしろ‼‼‼と10枚以上にわたって説教が書いてあった。本当に一歩間違えれば一族全員腹を切っていたのだ。許してくれたみんなには頭が上がらない。


「でも俺のために追いかけてくれたしさ、今回の戦闘で真由のことすごい守ってくれたし。作戦のMVPって言っても過言じゃないと思うけどね。」


「あぁそうだね。カグヤは判断力が高くて機転が利いて非常に頼りに思っているよ。…それでうっかり君たちだけで行動させてしまったが…」


クラノスは肩を落とした。やはり真由を負傷させてしまったことがよほど悔しかったのだろう。でも戦闘をしていれば負傷することなんてよくあることだと思うが。


「旦那はちょっと過保護だよねぇ」


「まぁまぁ」


小声で誠司に尋ねると誠司は思い当たる節があるのか笑っていたが、突然力が抜けてカグヤにもたれかかった。カグヤはとっさに支えるとそのままベッドに放り込んだ。


「大丈夫かい?ずっと動いてて疲れただろう、夕飯まで休んでいなさい。」


「はぁ~~い、なんか急に力抜けるなぁ…」


「いろいろと緊張しっぱなしだったからな。真由もまだ熱あるし誠司も休んでいようぜ。」


念のため瘴気を排出する薬を渡しカグヤは背伸びをする。カグヤはクラノスに向き直すとそうだと口を開いた。


「そろそろ連絡事項溜まってるから店に顔出してくるね。ついでにお米とか買っておくよ」


「あぁ。気を付けて行っておいで。カグヤもまだ足が痛むんだからな。」


「わかってるよ旦那!じゃ行ってくるね~~~‼‼‼」


クラノスと誠司に見送られ、カグヤは窓から飛び出した。ドアから出なさいとクラノスが笑いながら声をかけてくるがカグヤは呑気に手を振った。すっかり誠司とクラノスと仲良くなれたなぁと笑いつつ、今度は真由とアイラともっと話をしてみようかと晴れ渡る空の下、一人の忍者は軽快にストラスの街を駆け抜けていった。

ということでカグヤの外伝でした。ちなみにカグヤは4人兄弟の末っ子です。喧嘩はよくしますが死ぬほど兄弟仲が悪いわけではありません。とりあえず。誠司とお姉ちゃんみたいな仲の良さです。誠司の体が本調子じゃないのは疲れが溜まっているからです。夜更かしして勉強しているからね…


ちなみにカグヤが不意にいたずらをしようと思った理由もちゃんとあります。本人のお調子者の性格もややありますけど★ヒントは結構序盤に出ています。答え合わせはだいぶ後半になります。

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