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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
3/46

王都へ①


召喚した聖女と従者を連れた騎士団一行は詰め所へ到着した。

詰め所というので宿舎を想像していたが、まるで貴族の屋敷のような建物だった。


「本当にファンタジーの世界だ…」


思わず真由はつぶやいた。日本ではまず見ない建築様式に装飾の数々。

つい数時間前までとは違う景色で異世界であることを改めて認識していた。


「お部屋にご案内します。こちらへ」


建物内部に入り部屋へ案内される。

夜遅くにも関わらずメイドや騎士が敬礼して列を成している。

思わず二人は一礼してスクトゥムの後をついていく。

まじまじと見られるかと思ったが、教育が行き届いているのか配慮されていた。

案内された部屋はまるでホテルのちょっと広い部屋の様だった。

貴賓室と書かれていたので位の高いものが来た時に使用するのだろう。


「そちらの扉は浴室へつながっています。蛇口をひねればお湯が出ますので、遠慮なくお湯を使って浴槽で温まってください。」


スクトゥムの言葉に二人は驚いた声を上げた。


「お湯につかる習慣があるんですか⁉」


「え、ええございますよ?ただ家に浴槽があるのは王族、貴族、それから成功した商人だけです。一般市民は町にある共同の浴場を使っています。」


そこはやはり格差があるのかと真由は納得した。

正直お湯につかれるのはとてもとてもありがたい。


「先にお食事にしましょうか、それぞれお部屋で取られますか?」


真由は迷った、今誠司と向き合うのは気まずいが一人でいるのは心細い。

返答に迷っていると誠司が口を開いた。


「いえ一緒に食事がしたいです。お手数ですがお願いします。」


「承知いたしました。お気になさらずご命令ください。」


スクトゥムは入り口に控えていたメイドに合図をするとすぐ用意が始まった。


「こちらは聖女様のお部屋になりますので、従者様はお隣に同じ作りのお部屋をご用意しております。お着替えはベットにございますのでお使いください。」


「ありがとうございます。…そういえば自己紹介していませんでしたよね」


そういえば、と真由も今気が付いた。


「改めまして篠澤誠司といいます。誠司と呼んでください。」


「えっと、横山真由です…私も真由って呼んでください。」


「ありがとうございます、真由様、誠司様。私のこともどうぞスクトゥムとお呼びください。」


スクトゥムは優雅に一礼した。さすが騎士、一つ一つの挙動が洗練されている。

少し談笑していると食事の用意ができた。


「それでは本日は失礼させていただきます。何かありましたら廊下にいる騎士にお声がけください。明日は午後から王都へ向けて移動します。朝は一度8時にお声がけします。」


「わかりました。…何から何までありがとうございます。スクトゥムさん」


誠司がお礼を言い真由が深く頭を下げた。スクトゥムとメイドは一礼すると部屋から出て行った。


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二人きりになり少し沈黙が流れたが真由は空腹が限界だった。


「とりあえずいただこうか」


誠司が笑いかけ真由もうなづいた。

用意されたメニューはパンとシチュー、サラダとフルーツである。


「なじみのあるものでよかったね」


「本当、西洋みたいな感じだね…白米はこの世界あるのかなぁ…」


誠司の言葉に真由は思わず笑った。確かにお米は食べたくなるだろう。

いただきますと二人は食べ始めた。味も優しい味付けで体に染み渡る。


「あの、篠澤君…本当ごめん…私のせいで巻き込んじゃって…」


突然の謝罪に誠司は驚いた。トマトをよく噛んで飲み込み返答する。


「気にしないで、まさか異世界に呼ばれるなんて誰も想像できないじゃん」


「そう…だけど、受験勉強あるのに…」


真由は目を伏せたまま言葉を詰まらせた。嚙みすぎた唇には血の跡が見える。


「鞄も一緒にこっち来たしさ、中にある教科書と参考書で勉強できるよ!」


鞄には志望校の赤本も入っているし第一高校は宿題も多い。やろうと思えばこの後も勉強できるのである。ただいつ帰れるかもわからないので単位の不安はあるが口には出さなかった。


「それにさ、横山さんを一人にしないでよかったよ」


誠司の言葉に真由はまた泣きそうになる。どこまでも優しい。


「…聖女なんて突然言われて混乱するし責任をすごい感じると思う。俺には瘴気を解決できる力なんてないだろうけど、それでも横山さんの隣にいるよ、一緒に元の世界に帰ろう」


まっすぐな誠司の言葉に真由はついに涙がこらえ切れずぽろぽろと泣き始めた。

誠司は驚いて紙ナプキン。いやハンカチ…とおどおどしていた。

その様子に真由はありがとう、と思わず笑って袖口で乱暴に涙をぬぐった。


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「じゃあ俺も用意してもらった部屋行くね」


「うん、本当にありがとう篠澤君」


それじゃと部屋を出ようとしたところで誠司は立ち止まって振り向いた。


「お休み、また明日…えっと…真由ちゃん」


照れ臭そうに下の名前で呼ばれ真由は嬉しくなった。

小学校の時は真由ちゃんと呼ばれていたのだ。とても懐かしい。


「おやすみなさい、誠司君、ゆっくり休んでね」


真由も笑って返し、誠司も笑顔になった。

誠司を見送った後、真由はバスタブにお湯を貼り始めた。たまっていくお湯を眺めながら今日のことを一つ一つ思い出し、息を吐くと決心をした。

―絶対に誠司と共に帰還する、そしていつまでも彼の陰に隠れないで強くなる―

少女は自分の頬を叩いてよし、と覚悟を決めると入浴の準備をした。


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「ヒューーーーーーーー誠司殿、やりますねぇ‼‼自分、応援してますよぉ」


「ちょ、聞いてたんですか恥ずかしい…」


廊下に待機していた同年代の騎士に小突かれ顔を真っ赤にした誠司であった。


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次の日。真由はゆっくり目を開いた。

用意してもらったベッドは自宅のものよりふかふかでぐっすり眠ることができた。

時計を見ると時刻は7時。一時間後に呼び来るのでそれまでに身支度をする。

外からは騎士たちの朝の訓練の掛け声が聞こえてくる。

まるで部活の朝練のようだなと、真由は思わず微笑んだ。


一時間後。メイドに案内され誠司と共にダイニングへと向かった。

扉を開けるとスクトゥムが爽やかな笑顔で出迎えた。


「おはようございます。お二人とも、体調はいかがですか?」


「おはようございますスクトゥムさん、問題ないですよ!」


真由はにっこりと答えた。誠司とスクトゥムが嬉しそうに真由の顔を見ている。


「今朝は食事がてらこの世界について改めて説明させていただきます。その後支度をして王都へ向かいましょう」


スクトゥムに促され着席する。

今朝はパンとベーコンエッグ、野菜スープとフルーツだ。

いただきますと手を合わせスープを一口飲んでみる。コンソメスープのような優しい味わいが口の中に広がる。めったに買えない厚切りベーコンも一口、脂がのっていてとてもおいしい。


「ん~~~~おいしい!」


「本当おいしいよね、俺の家基本和食だからベーコンが身に染みておいしい…」


感動している真由の隣で誠司も何度もうなづく。スクトゥムとメイドはそんな二人の様子を嬉しそうに見つめていた。


「さて、そろそろ世界についてご説明しますね」


食事を半分ほど食べたところでスクトゥムが切り出した。


「まずはこの世界では我々人間のほかにエルフ、獣人、ドワーフ等多くの種族が共存しています。我々は女神より賜った力、恵みの力を利用して魔法を使用して発展してきました。魔法は戦闘に用いる以外にもお湯を沸かしたり食品の鮮度を保っていたりと用途があります。」


現代でいうと電気がガスの代わりに魔法を用いているのか、と誠司は納得した。


「ですが恵みの力を使用しすぎると大地に穢れが発生してしまいます。…これが瘴気です。小さいものは浄化魔法が使える神官やエルフが対処できますが、特に大きな穢れは対処できません。」


「大きな穢れって何か違いがあるのですか?」


真由の問いかけにスクトゥムはええとうなづいた。


「大きな穢れが発生するのは力の使用もありますが、一番は溜まり溜まった負の感情によるものです。例えば大きい戦争があって国が一つ滅んだ、飢餓でいくつもの集落が全滅した…などですね。また穢れを放置するとそこから魔物が発生しますし、心が弱った者に取り付き悪事を働くこともあります。」


戦争、飢餓_少なくとも現代日本では身近ではない言葉に二人は唾をのんだ。


「ここからは異世界から聖女を呼ばれる原因になった歴史をお話しします。」


スクトゥムは食べ終えた食器から手を放し続けた。


「今から200年前、この世界では大陸を超えて戦争が発生していました。原因は恵みの力を独り占めしようとしたとある国が他国を侵略したのがきっかけです。戦争は休戦を繰り返しながら80年ほど続きました。その際、一番最初に戦争を始めた国も破れ、現在のブルーボ王国の領土になっています」


「…恵みの力って目に見えるものなんですか?」


「えぇ、私も実際に見たことはありませんが、各国に神木がありそこから力が出ているようです。各国はそのご神木を中心に発展していきました。」


ご神木を見れるのは王族と最上位の神官だけなのです、とスクトゥムは続けた。


「戦争終結後、荒れ果てた大地の惨状に女神は大変お怒りになりました。罰として力を一部取り上げ、その中に浄化の最上位の能力も含まれていました。…愚かな生き物は全滅させて新しい命を誕生させるおつもりだったのでしょう。」


スクトゥムの言葉に二人は何も言えなかった。この世界では神の存在が今でも色濃く残っている。

―本当に日本とは何もかも違う。真由は膝の上でこぶしを握った。


「力を取り上げられた後も主にエルフ族が各地の浄化を行っておりました。ですが戦争終結から間もなく、魔物が活発になりそこから魔王と呼ばれるものが誕生しました。魔王は強大な瘴気を身にまとい、魔物を操り各地を襲っていました。…我々でなんとか魔物は倒せるものの、魔王には手も足も出ません。そこで一人の学者が提案しました。並行世界から浄化の力を持つものを呼ぶと。」


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「並行世界…ここと僕らの世界がですか?」


誠司は驚いて問いかけた。それこそゲームでよく見る言葉だ。


「えぇ、その学者の定説ではお二人の世界以外にも多くの世界があるようです。当時は夢物語などと大騒ぎになったと記録にあります。」


「…でも本当に学者さんの言うことが合っていたと…」


控えめに口を開いた真由にスクトゥムははいと続けた。


「学者以外に神官やエルフの中に同様のことを提案する者が数名いたそうです。おそらく、女神の気まぐれで解決方法をご神託として受け取ったのでしょう。そこで当時のブルーボ王国が中心となって聖女召喚を始めました。…そこから120年近く、何度も聖女を召喚し続けました。真由様は25代目に当たります。」


真由は少し腑に落ちた。だから召喚の場に王がいなかったのも、受け入れる用意がいいのも、自分の前に24人も聖女が召喚されたからだ。


「聖女には各地を回って大きい穢れを浄化していただき、魔王との戦いもお願いしておりました。もちろん各国の手練れもつけていましたよ。」


スクトゥムは息を少しついて重く口を開いた。


「…初代聖女様は魔王との最終決戦直前に亡くなりました。その後続く聖女様達もみな、命を落としてしまわれました…」


スクトゥムの言葉に誠司はとっさに真由を見た。真由は目を見開き驚いていたが、取り乱すことなくスクトゥムの話の続きを待っていた。


「今から25年前、23代目聖女様とご一行が魔王を討伐しました。これで世界はひとまず平和になったのです。…しかしながら討伐後も各地で大きい瘴気の発生は止まりませんでした。」


魔王は倒された、その言葉に誠司は少し安堵した。


「23代目様は魔王討伐後こちらに残りご結婚され、娘様がお生まれになった後も浄化に協力してくださいました。…ただ10年前、病でお亡くなりになりました。」


「…帰らなかったんだ…」


真由はぽつりとつぶやいた。こちらでいい出会いがあったのか、それとも―


「23代目様がなくなった後、すぐ24代目様の召喚を執り行ったのですが…召喚の儀の直前に一人の神官が発狂して儀式が中止になりました。その後も24代目様を呼ぼうとすると神官が発狂するため、欠番となりました。…そして今回また各地で大きい瘴気が発生していることが確認され、真由様をお呼びいたしました。」


これが経緯ですとスクトゥムは締めた。


「…今回の儀式では神官さん大丈夫だったのですか?」


スクトゥムは真由の問いかけに少し驚いた様子であったがすぐに切り替えた。


「はい、事前に入念にお清めをしたり用意をしたのが功を成しました。気にかけていただいてありがとうございます。」


よかったと真由は息をついた。前例があってきっと神官たちも恐ろしかったのかもしれない。

自身の召喚では誠司が巻き込まれたこと以外無事にできて本当に良かった。


「ところで、聖女の基準って何かあるのですか?あと僕のようなイレギュラーも過去にいましたか?」


「基準は我々も存じ上げません。完全にランダムなのでしょうが…ただ、先ほど神官を気にかけてくださったように、お優しく清いお心の持ち主がまず基準かと私は思います。」


スクトゥムが優しく真由に微笑みかけ思わず真由は赤面した。

誠司もうんうんと同意している。まったくこのイケメンどもは…‼‼‼


「あと聖女様と一緒に召喚されるお方も記録にありました。その時従者兼護衛として一緒に旅をされたとあります。その方がどうなったかは記録に残っておりませんでしたが…」


「…きっと聖女を守り切れなくて悔しかっただろうな…」


誠司は悲痛な顔をした。優しくて清い心ならば、誠司のほうが持っているのにと真由は内心考えていた。ここまで他人に優しい人も中々いないだろう。


「さて、長くなりましたが説明は以上となります。このあと支度をして王都へ参りましょう。」

スクトゥムがメイドに合図をして片付けさせる。

二人はごちそうさまでしたと伝えて荷物を取りに部屋へ向かった。


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午後。一行は馬車で王都へ向けて移動していた。

詰め所には駐在している騎士を残し、集団は半分ほどになった。

馬車の中から見る昼間の景色はまるでのどかな外国の村のような感じだった。

農民が畑作業や薪を割り、子供たちは手伝ったり遊んでいるようだ。


「…綺麗な景色…」


軽食にもらったサンドイッチを食べながら真由はつぶやいた。

今目に映る景色は日本とはすべてが違う。でも人々が仕事に勤しんでいる姿は同じ。


「そういえばこの後王様に謁見ですよね、僕ら服装このままで大丈夫ですか…?」


ベーコンが二枚入っていたことに喜んでいた誠司がスクトゥムに尋ねる。


「えぇ問題ありませんよ、お二人の学校の正装ですよね?23代目様も謁見時は似たものをお召しになっていたそうですよ。」


よかったーと二人は顔を合わせて安堵した。ドレスは憧れるが、礼儀作法は知らないので王の前で裾を踏んで転ぶかもしれない。そんな失態を犯せばどうなるのか…


「そろそろ王都に入ります。すぐ登城し謁見になりますのでご用意を」


騎士の言葉に二人は元気よく返事をした。サンドイッチを平らげ見えてきた堀とそびえたつ荘厳な城を見ながら一行は城下町へと門をくぐった。

同年代の騎士君は他人の色恋沙汰が大好物です。ヒューーーーー‼‼‼‼‼

長くなったので分割します。

いよいよ王様ご登場です。

厚切りベーコン食べたい

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