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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
28/52

激闘 第三の瘴気核③

森で瘴気の核の一部を浄化後、一行は平原まで戻り負傷兵の救護に当たっていた。負傷兵は前線基地の近くのテントに集められている。真由は治癒魔法を駆使して治療を、他のメンバーは物資の移動や警備、処置の手伝いをしていた。


「消毒しますね、染みますよ」


「ありがとうございます誠司殿…」


誠司は比較的軽傷なストラス騎士団員の腕の傷を消毒していた。青白い顔をしているが魔物の数が多く疲弊しているだけと本人は息を吐いていた。


「平原の戦闘の様子をお聞きしても良いですか?」


「あぁ構いませんよ。…誘導装置による魔物の引き付けは完璧でした。数は飛行型とゴブリン、狼、昆虫型など多く正確に計測は不可ですね。自分は人間ほどの大きさの蜘蛛の集団と交戦していました。」


「く、蜘蛛…考えただけでも気持ち悪いな…森の内部に昆虫型の魔物もいるのか…」


人間サイズの蜘蛛、と聞いて誠司は思わず想像してしまった。今はまるでファンタジーの世界にいるのだから昆虫型の魔物だっているだろう。願わくば遭遇したくないが。森で出会わなくてよかった。


「爬虫類はいませんでしたか?蛇とか…あと酸性の液体を用いる魔物はいますか?」


「いえ、自分は遭遇しておりません。」


「そうでしたか…ありがとうございます。」


大蛇やその子分が平原に出ていないか確認したかったがまだ出ていないようだ。一番の脅威となる存在だがどこへ姿を消したのだろう。誠司は最大限警戒しながらほかの兵士の手当てをして回りながら情報を集めていくことにした。

---------------------------------------------------------------------------

「アイラ、少しいいかい」


簡易ベッドを設営していたアイラは声の主へと顔を向けた。クラノスが物資を近くの騎士団員に渡しながら声をかけてきたのだ。


「例の大蛇のことだが、やはり戦場のどこにも出てきていないようだ。念のため森付近まで行って再度確認してこようと思う。君も付いてきてくれないか?」


「わかった。真由と誠司はここで待機か?」


「そのつもりだ。カグヤに二人の護衛を頼んでおいたから我々と数名の団員で様子を見てこよう。」


了解だとアイラは答え斧を装備した。先ほどの戦闘でやや刃こぼれしている。この作戦が終わったら修理に出そうとアイラは判断した。クラノスを伴い騎士団員に声をかけ外へと出た。外は少し冷たい風が吹いている。この時期の風は冷たかったかとアイラは首を傾げた。


「どうした?」


「いや、この時期の風って冷たかったかなって思ってよ。…嫌な予感がするな、急ぐぞ」


頷いたクラノスと共に馬に乗り再び平原を走る。誘導装置によって出てきた魔物はまだ多くいるが人間側が優勢のようだ。今は装置は止まっており残党を討伐している。先頭を走るクラノスが時折槍を振るい魔物を蹴散らす。普段は剣を用いているが馬に乗るときは槍に持ち替えているようだ。


数分走り森の近くまで到着した。数時間前よりも日が陰り一応まだ日中であるが森の中はさらに暗くなっているようだ。微かに瘴気のような黒い霧も見える。


「核の一部は浄化したのにまだ瘴気が出ているのか」


「…なんか妙だな…もしかして内部にあった核って全体のほんの一部分だったんじゃ…」


マスクを装着しながらクラノスとアイラは警戒する。いつでも引き返せるように馬には乗ったまま双眼鏡を用いて内部を見れる範囲で確認する。今は浄化魔法を使える神官や真由がいない。内部に入るのはかなり危険だろう。


「お二人共こちらへ!」


離れたところで確認していた団員が声をかけてくる。二人はすぐ行くと団員が地面を指さしていた。


「この辺りから地面が不規則に隆起しています。」


地面には団員の言う通り隆起した跡が残っていた。森の境目を東側に進んでいるようだ。


「我々が出たときは無かったよな?いつできたものだ…」


「でかい魔物でも出てきたのか?一昨日壁を攻撃していた魔物の残党とか…」


「いえあの魔物は四足歩行でしたのでこのような跡は残らないかと。」


団員の言葉にアイラはだよなぁと同意する。考えたくはないが大蛇だろうか、と考えているとクラノスが指示を出してきた。


「この跡を追って進もう。ただし戦闘はなるべく行わない。いつでも閃光弾を撃てる用意はしていてくれ。」


「承知いたしました。警戒して前進します。」


クラノスを先頭に一行は跡に沿って馬を走らせた。跡は段々境界をそれて平原中心へと進んでいるようだ。おまけに何やら酸っぱい匂いがする。アイラは森の内部での会話を思い出して斧を手に取った。


「…クラノス、本隊へすぐ伝令だ。これは大蛇だ」


「……そうだな、この匂い、カグヤが言っていた溶解液由来のものだろう。…ロイ隊長とカイウス殿の元へ走ってくれ。平原中央Aポイントで合流願いたいと。あと聖女にも伝令を。」


はっ!と団員が敬礼して即座に本隊へと向かって馬を走らせていく。クラノスも愛刀に持ち替え深呼吸をして落ち着かせた。厄介な魔物であれば最強のアルベルトも駆けつけてくれる。彼と合流するまで戦闘を行うのは危険だ。いったい大蛇はいつ移動していたのか、まったく気付けなかった自分が愚かで情けないとまだ若い騎士は奥歯を噛みしめていた。その時、真由たちのいる方角から信号弾が上がった。赤色、緊急事態の合図だ。


「まさか‼‼‼‼??」


「クラノス‼‼‼‼」


嫌な予感が当たってしまったのか、一瞬思考が止まるクラノスをアイラが喝を入れてくれる。我に戻ったクラノスは跡を逸れて信号弾の方向へと馬を全力で走らせた。

---------------------------------------------------------------------------

アイラとクラノスは森へと向かったとカグヤから聞いた。真由は休んでてほしいのに…と思いながらも自身も休息をとっていた。


「大蛇のこと聞いたけど目撃されてないみたいだね。」


お疲れ様と誠司が携帯食を渡してくれる。真由はお礼を言って受け取ると口に含んだ。今日は今のところ治癒で結構魔力を消費している。少しでも回復させないといけない。


「このまま一生出てこない方がありがたいんだけどね…でも残りの核のことも気になるし…」


「大蛇に憑いていたとしたらカグヤが気付けなかったのも不思議な話になるよね…」


カグヤ達公国の人は魔法に疎いという。先祖が真由たちと同じ魔法が無い世界の人たちだから仕方のない話ではある。だが瘴気の気配までは間違えないだろう。同様に魔法の適性も魔力もほぼないクラノスとアイラでさえ瘴気の気配はある程度分かるのだから。おまけにあの場には聖女の能力を持った真由がいるのだ。浄化後に核の気配は他に感じなかったのだ。何かがおかしいことは確実だ。


「とりあえず今はここを手伝おう。俺呼ばれてるから行ってくるね。カグヤとなるべく行動してね」


「わかった。またあとでね!」


先に軽食を食べ終えた誠司が持ち場へと戻っていった。天幕の上にはカグヤが登って戦場の様子を確認している。真由も包み紙を丁寧に懐へしまうと水を一口飲んだ。


「おーい誰か水汲んできてくれ‼‼」


救護テントの中から衛生兵の声が聞こえる。戦闘が落ち着いてきて続々と負傷兵がやってきている。真由たちも手伝いを続けているが今度はこちらが戦場になりそうだ。


「私汲んできます‼‼」


真由はテントを少し開けて中の衛生兵に声をかけた。


「えっ聖女様‼‼⁉わ、も、申し訳ありません、どうぞ休んでてくださいませ…‼‼‼」


「いえ、このくらいは大丈夫です。あ、桶はこれですか?」


まさか返答してきたのが聖女とだとは思っていなかったのか、衛生兵は不敬罪で処されると怯えているようだ。真由は気にしないでと笑いかけるとカグヤに声をかけ桶を手に近くの井戸へと歩いて行った。



「なんかこの井戸変なにおいしないか?」


水汲みを手伝ってくれているカグヤが鼻を近づけ怪訝な顔をしている。真由も同様に匂いを嗅いでみる。道中井戸の水を何度も利用したが確かに何か腐臭が混ざったような匂いがする。


「本当だ…戦闘の影響で水源に何か混ざったのかな?」


「その可能性もあるなぁ…そうしたらエルフ族探して水を綺麗にする魔法かけてもらおうぜ」


「浄化魔法とは違うんだ!すごいねエルフ族!」


水を綺麗にする魔法まであるのかと真由は感心していた。カグヤ曰く、浄化とは違う系統の魔法の様らしい。念のため近くを巡回していた連邦軍に井戸がおかしいことを伝えようと真由は立ち上がった。その瞬間、悪寒が走った。背筋がぞわぞわする。


「どうした真由、だいじ…‼‼‼‼‼‼」


振り返ったカグヤが大丈夫かと言いかけて一瞬で表情を変えると真由を抱え上げその場を勢いよく飛んで離れた。連邦軍や騎士団員が緊急事態だと叫ぶ声が聞こえる。真由は驚きながらも顔を上げると、つい先ほど自身がいた場所は大きくえぐれ、そこにはなんと黄緑色をした大蛇が姿を現していた。


「あいつだ‼‼‼森にいた大蛇‼‼」


真由を抱えたままカグヤは叫ぶ。大蛇は6メートルはありそうな巨大な体躯を曲げくねらせてこちらに視線を向けている。


「気配も音もしなかった…!いつの間にここまで…!?」


「カグヤ、あいつから瘴気の核の気配がする!やっぱり残りの核はあいつについていたんだ!」


真由はカグヤに抱きかかえられながら杖を構える。先ほどの奇襲で腰を抜かしてしまったのもあるが、下手に真由単独で動き回るよりカグヤの身体能力に任せた方が逃げやすいのだ。カグヤもそれを理解して真由を抱えなおした。


「攻撃魔法展開!撃て‼‼」


獣人族の戦士がエルフ族の戦士に指示を出し即座に火球が大蛇に打ち込まれる。だが大蛇はちらりとエル族を見るだけですぐ真由とカグヤに視線を戻し、少しずつにじり寄ってくる。


「狙いは俺たちというか、浄化できる真由か…‼‼」


大蛇が口を開き勢いよく体液を噴射してくる。カグヤは素早く躱した。着弾した地面に生えていた草がみるみると溶けていき腐臭を放っている。真由はこの場にとどまると周りへの被害が多大になると判断した。自分が狙われているならこの場を離れて広いところで被害を抑えるしかない。幸い平原の戦闘は落ち着いてきている。そこまで行ければ本隊のアルベルト達や外に出ているクラノスとアイラも気づいてくれるだろう。


「カグヤ、馬のところまで行って!平原に出よう!ここだとみんな巻き込んじゃう!」


「わかった!口閉じてて!」


大蛇のたたきつけを躱しカグヤはそのまま馬まで一直線に向かう。戦士たちが伝令や非戦闘員の避難を行ってくれている。誠司のことが気になるが賢い彼なら事態を把握するだろう。真由は必死にカグヤにしがみついていた。


「お二人共お気をつけて‼‼‼」


馬を守っていた兵士が一頭をカグヤの直線上によこしてくれる。二人はお礼を言うと馬にまたがり即座に駆け出した。やはり大蛇は追いかけてくる。真由は馬の手綱をカグヤに任せ浄化魔法を展開した。光線に変化させてまずは一発打ち込む。大蛇はひと際大きい悲鳴を発するがすぐに怒りを現にし追いかけてくる。


「やっぱり一筋縄で行かないか!」


飛ばしてくる溶解液を防御魔法で防ぎながら平原を駆け抜ける。救護テントの方向から緊急事態を知らせる信号弾が何発も打ちあがっているのが見えた。これで本隊も気づいてくれるだろう。


「真由上に光弾打ち上げて!こっちにいるって知らせよう!」


「わかった‼‼」


カグヤの指示に即座に光弾を何度か上空に打ち上げる。大蛇は巨体を器用に動かしながら何度も攻撃を仕掛けてくる。震動に馬から落ちそうになるが必死に耐えた。


「やっぱり核が見えないと浄化もできない…!アイラたちが来てくれたら体の中にある核を見つけて」


「‼‼‼口閉じて‼‼‼」


声に出ていた考えを言い切る前にカグヤがまた真由を抱えて馬から飛び降りる。転がり落ちるがカグヤが守ってくれたおかげで痛みはほぼない。顔を上げると飛行型の魔物が飛びかかってきていたのだ。真由は光弾で即座に撃ち落とす。馬もパニックになっているが負傷していないようだ。よかった。


「ありがとうカグヤ!…ここで大蛇と戦おう…!」


「いいってことよ、大丈夫、すぐ旦那たち来てくれるよ‼‼」


真由とカグヤは武器を構えた。大蛇は不敵な笑みを浮かべて獲物を見つめている。足がすくんでしまうが絶対に倒さねばならない。覚悟を決めると真由は大蛇をにらみ返していた。

---------------------------------------------------------------------------

救護テントの北側から叫び声が聞こえる。誠司は近くにいる救護を手伝っていた民間人たちを避難させていた。微かに聞こえる内容からしておそらくあの大蛇が姿を現したのだろう。真由とカグヤが心配だ。だが機転の利くカグヤなら必ず真由を守ってくれるだろう。誠司はそう信じて避難誘導を続けた。


「誠司殿、溶解液を吐く大蛇が聖女様を狙っているようです!」


「‼‼‼聖女は無事ですか‼‼?」


走ってきた騎士団員の報告に驚いたが、誠司の問いに忍者が守っていますと返答を聞き誠司は胸を撫で下ろした。誠司は剣を取ると騎士団員に振り返った。


「聖女様と忍者殿は馬に乗って大蛇を引き付けながら平原に向かわれました!ここは我々が!」


「ありがとうございます‼‼村人の皆さんをお願いします‼‼‼」


お礼を言うと誠司は即座に駆け出した。混乱する人々の間を走り抜けながら馬が待機している場所まで向かう。だれか騎士団員に乗せてもらわなければ、誠司は周りを見渡して見知った顔を見つけた。


「ソーンさん‼‼」


森での戦闘で助けてくれていた獣人族の戦士、ソーンだ。誠司の声に振り向くとすぐ駆け寄ってくれた。


「伝令は聞きました。聖女様の元へ参りますか⁉」


「はい‼‼後ろに乗せてください‼‼‼」


意図を察してくれたソーンが頷くと即座に馬に乗せてもらい駆け出した。大蛇が這った跡に沿って駆け抜ける。前方では真由が発しているだろう光弾が数発見える。


「どうしてこんな大きいのに誰も気付けなかったんだ…‼‼」


「我々にも想像できないまやかしの術の類でしょうか…アルベルト殿達エルフ族に後ほど解析してもらいましょう」


焦りを見せる誠司をなだめるようにソーンが声をかけてくれる。誠司はそうですねと返すとまっすぐ前方を見つめた。ここが本当の正念場だ。少年は愛刀を手に取り集中しなおしたのだった。

長くなってきました(;´・ω・)ついにボス登場です。

多分次ぐらいで戦闘は終わる…はず…??

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