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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
26/52

激闘 第三の瘴気核①

ついに作戦当日になった。陣は平原の北側の森付近に展開している。ここから5キロほど先のところに魔物を誘導する魔法道具を展開し魔物をおびき寄せる。ここは作戦拠点及び防衛拠点になるのだ。


「おぉすごい人数だな」


そっと天幕から顔を出してカグヤは感嘆の声を発した。つられて真由ものぞくと外には王国騎士団と連邦軍、そして拠点設営に協力した住民達総勢400名がいるようだ。シーノル、マンモルの核を浄化したおかげで急遽騎士団員がほかの街から増員できたとロイから聞いた。先ほどマンモルの時にお世話になったカリッドにも再会できた。


「さてそろそろ皆の前に行きましょう。」


後ろからロイに声をかけられ真由たちは天幕の外に出た。大勢の声で活気づいている。これから真由はこの精鋭たちの前で挨拶をするのだ。もちろん今まで大勢の前で一人で挨拶をした経験などない。戦闘とは違う緊張を真由はずっと味わっている。先ほどまで手のひらに人を書いていたほどだ。


「皆の者‼‼‼これより作戦に向け決起集会を行う‼‼」


壇上に上がり拡声器を通したロイの声が拠点内に響く。ロイの声に戦闘員たちは隊列をすぐさま形成し綺麗に並び始めた。整列を確認したロイがもう一度口を開く。


「改めて本日ここに集った精鋭達よ、多大な支援と協力に心から感謝申し上げる!このブルーボ平原に蔓延る瘴気の害も今日が最後だ!魔物の数も多くとても危険な戦いになる。だが我々には聖女様と女神の御加護がついている‼‼臆することは無い‼‼‼聖女様からのお言葉をいただきさらに意欲を高めるぞ」


ここでロイがそっと真由を壇上に招く。仲間たちに頑張れと小声で背中を押され真由は階段を登る。聖女様だと会場が少しざわついた。心臓の音がうるさいぐらいだが、真由は拡声器を受け取り何度か深呼吸をして落ち着かせた。


(大丈夫、一緒に帰ろうってみんなで約束するんだ、それだけ―)


ゆっくり目を開きまっすぐ前を見つめる。ふと目を向けると昨日顔合わせをした獣人族の戦士達やカリッド達と目が合う。彼らは頑張れと小さく唇を動かしているのが見える。真由はそっと呼吸するとゆっくりと話し始めた。


「…ご紹介に預かりました、25代目聖女の横山真由と申します。今ここに集まっているすべての方々から浄化作戦へのご尽力を賜ります事を心よりお礼申し上げます。」


ここまでは練習の通りだ。挨拶はさすがに一人で考えられなかったのでクラノスと誠司を中心に仲間たちに助けてもらった。


「さて私は召喚されてから本日まで、シーノルとマンモルで瘴気の核を浄化することができました。これは協力していただいた皆さんのおかげです。その時協力していただいた方にまたお会いできたことが何よりもうれしく思います。」


カリッド達マンモル部隊とシーノル部隊がこちらに笑いかけるように微笑んでくれている。彼らには本当に助けられた。


「私はまだすべてを完璧にこなすことができません。そのせいで皆さんを危険な目にさらしてしまうことに大変申し訳なく思っています。ですが、ここまでこの地を守り通した皆さんとずっと私を支えてくれた仲間達ならこの難局も共に生還できると確信しています。」


真由は壇上から戦闘員達をゆっくりと見回す。みな初めて見る聖女の言葉の続きを待っているようだ。


「今までの旅で私は互いに手を取り合い協力し、お互いを思いやる心を持ったこの世界がとても美しいと心の底から実感しています。…私は今この世界に来てよかった、そしてこの世界を、暮らす人々を守りたい。どうか皆さん、力を貸してください。…一緒にこの作戦、成功させましょう!」


真由の言葉に戦士達は歓喜の声を高らかに上げた。中には聖女様!と声を上げて泣くものもいる。今から水分消費していいのかと真由は少し心配してしまった。とにかく、挨拶は成功の様だ。真由は一礼して笑顔で降りて行った。


「お疲れさん、良かったぞ!」


仲間たちの元へ歩み寄るとアイラがそっと頭をなでてくれる。


「ありがとう、一緒に考えてくれたみんなのおかげだよ~」


「いやいや、最後一人で挨拶できたのは真由ちゃんの頑張りだよ」


横の誠司も嬉しそうに笑う。真由はえへへと照れながらもいまだ鳴りやまない歓声に振り向いて手を振っていた。特に王国は聖女信仰が強いと聞いていたが、まさかここまでとは。きっと先代のフユミもこのように熱烈な歓声を浴びたのだろうか。アルベルトにそっと視線を向けると懐かしいものを見たような顔をしていた。


「落ち着け皆の者…感激の気持ちはわかる、わかるが戦闘前に体力を使うな…!」


どうどうとロイが一同をなだめる。確かに体力使ってどうすんだとカグヤとぼやいていた。


「さて、気を取り直して…。これより作戦開始とする‼‼‼総員、心してかかるように!健闘を祈る‼‼‼」

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作戦開始が告げられた後、森の奥にある瘴気の核へと向かう本隊は馬に乗って平原を駆けている。本隊がある程度森へ近づいたら隠れて合図を送り誘導装置を起動する、魔物がある程度装置の方へ移動したら本隊は森へと進むという手筈だ。真由と誠司は乗馬の経験がないためそれぞれアイラとカグヤの馬に乗せてもらっている。


「よし、ポイントへ着いた。アルベルト殿お願いします。」


先頭を走るクラノスはアルベルトへと声をかける。アルベルトは頷くとそっと魔法を唱え本体の存在を隠す光の壁を発動させた。光の屈折によって姿を隠す魔法のようだ。


「カグヤ合図を!」


「了解!」


カグヤが馬から降りて少し離れたところで合図の弾を打ち上げる。装置の方向を見ると返答の弾が打ちあがるのが見え即座に魔力が流れるのが感じる。数分後、森から続々と魔物達が姿を現した。


「すごい数だ…これだけの魔物が潜んでいたんだね」


マスクを装着しながら誠司が驚く。確かに足場の悪い森での戦闘でこれだけの魔物に囲まれたらひとたまりもない。ある意味誘導作戦は正しかったと身に染みた。


「よし本隊移動するぞ。全員マスクを必ず装着するように」


カイウスの指示で本隊は森へと足を踏み入れた。前情報通り森は薄暗く、大きな木の根があちこちに伸びている。何度か転びそうになるたびに獣人族の戦士が助けてくれる。真由はお礼を何度も言っていた。


「真由殿と誠司殿はこの足元に慣れていないでしょうから我々が背負いましょうか」


「そうだな、頼んだ」


獣人族の戦士の申し出にカイウスは指示を出す。二人のすぐ近くにいた戦士がそっと背中を貸してくれた。


「す、すみません…ありがとうございます」


「いえ、戦闘までお体を休めてください。我々は体力も桁違いですからお気になさらず。」


二人がお礼を言うと獣人族の戦士は軽々と背負って歩き出した。鎧の間から見えるモフモフの毛を思わず堪能したくなるが今は作戦中だ。遠く背後から戦闘の音が聞こえる。本隊も急がねばならない。


「今はアルベルト殿の魔法のおかげで戦闘も回避できているが…核のところはどこまで開けているか心配だな」


「場合によっては木を切って視界を広げるしかないよなぁ…」


クラノスとアイラが細かい枝を振り払いながら進む。殿を務めるアルベルトがふむと口を開いた。


「以前の時は核の周りは開けていましたね。おそらく瘴気の影響で木々の成長に影響があったのでしょう。」


「…確かにシーノルもマンモルも核の周りは開けていました。木々は育つのにかなりの年数を使いますから今回もきっと開けているでしょうね…」


誠司が納得したようにうなづいた。真由もそうだよねと不安に思いながらも同意している。


「俺先行して核の周り確認してこようか?身軽だから俺一人ならすぐ見てこれるよ。」


「危険だが今は少しでも安心できる情報が欲しいな…カグヤ、頼めるかい?戦闘はしないですぐ引くんだぞ」


「もちろん!それじゃあさくっとみてくるね」


クラノスの指示にカグヤは元気よく返すと素早く木に登り器用に木々の間を駆け抜けていった。さすが忍者だ。


「さすが忍者…いいなぁ私も身軽だったらあれやりたかったなぁ…」


「アルベルト殿、あなた数年前に真似して骨折してましたよね…今再挑戦しないでくださいよ」


アルベルトのボヤキに近くの獣人族が念を押す。アルベルトはいたずらがバレた少年のようにちぇーっと口をとがらせていた。


カグヤが飛び立って15分ほどたったころ、進んでいた本隊へカグヤが戻ってきた。


「核の周りは開けていたよ。足元は木の根が多かったり陥没もしていたけど視界は良好。でも誘導装置に引っ張られてない魔物が多数いたよ。」


「ご苦労様。情報助かるよカグヤ。魔物はどのようなタイプがいたかわかるかい?」


カグヤに水を差しだしながらクラノスがねぎらう。カグヤは水を一口飲むとえっとねと続けた。


「瘴気を纏ったのは飛行型と狼型。瘴気を纏っていないゴブリンが多数。それから核のすぐ近くに洞窟があって、そこに大型の蛇がいたよ。蛇にはがっつり濃い瘴気が憑いてるね。」


「大蛇か…厄介だな」


報告を聞いたカイウスがほかの戦士達と頷く。後ろで静かに聞いていたアルベルトがカグヤに声をかける。


「カグヤ殿、核は地面に埋まったままでしたか?」


「はい、魔物には憑いてませんでした。」


カグヤの返答を聞いて真由は前回のマンモルの戦闘を思い出し少しだけ安堵した。蛇にとりついていたらと思うとひやひやしたのだ。


「でしたら真由殿は核の浄化に専念しましょう。神官も援護してください。彼女らの周りはカイウス殿以下数名とクラノス殿で固めて防護しましょうか。ほかは蛇を引き付けて撃破で。」


「えぇそれが良いでしょう。私は鎧と盾で機動力に欠けますから聖女たちの護衛に専念します。」


アルベルトの立案に全員が同意する。真由は近くなってきた核の気配に杖を再度握りなおしてすぐ魔法を展開できるように用意した。


「誠司、戦闘中はなるべくソーンさんと一緒に行動するんだ。アタシは魔法薬で蛇引き付けるしカグヤは攪乱とかで忙しくなりそうだからな。」


「わかった。アイラ、無理はしないでね。ソーンさんよろしくお願いします。」


「えぇお任せください誠司殿、アイラ殿。」


アイラがバッグから魔物を引き付ける魔法薬を取り出しながら誠司に指示を出した。ここまでずっと誠司を背負ってきた獣人族のソーンが一礼して承諾する。


「アイラ殿、引き付け役は頼みましたよ。強化魔法かけておきますね」


「あぁ、援護頼みますよアルベルト殿!」


アイラが持っている薬は最初シーノルで出会ったときに使い損ねた薬だという。万が一の時に仲間を守るため一番火力が出て戦闘経験が長いアイラがずっと持っていたのだ。アルベルトは浄化も担うためそのままアイラが引き付け役を担当することにした。


「前方瘴気の核を確認!総員戦闘用意‼‼あまり時間をかけるなよ‼‼‼」


カイウスの一声で全員配置につく。誠司がソーン達についていく前に真由を振り向き声をかけた。


「真由ちゃん、正念場だ。一緒に頑張ろうね」


「うん!誠司君、みんな!一緒に帰ろう‼‼」


真由の元気な声に本隊は声をそろえて団結した。前方の核の周りに飛行型が見える。まだ蛇の姿は見えないがこの後出てくるだろう。真由はより集中して魔法を用意し、目の前の難題に力強く一歩を踏み出した。

長くなりそうなので途中で区切ります!

アイラさんがもっていた薬は彼女の外伝にさらっと出てきた薬です。

次回戦闘でアイラさん活躍の予感!

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