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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
25/52

外伝④ クラノス・ガードナーとフローレンス・エバンス

シーノルからヴァランスに向かう途中の野営です。時系列バラバラですが(;´・ω・)

クラノスとフローレンスの愛の一部をお届けします。

クラノスはブルーボ王家に代々仕えるガードナー家の本家次男坊として生まれた。幼少期から剣と礼儀を叩き込まれ、厳しい父によって鍛えられる人生を過ごしてきた。もちろん時折別の家に産まれていたら、と思うこともあった。おまけに自分は次男だ、優秀な兄がいるから兄に家督を任せて旅に出たっていいのである。いや死ぬほど怒られるが。それでもクラノスは家訓に従い鍛え続けていた。支えてくれる愛しの婚約者と気の合う友人、そして大切な家族のために。


「クラノス、今日は市場に行っていたそうですね。何かいいものはありましたか?」


幼き日のとある夕食時。母から優しく微笑みかけられたクラノスは兄と市場で買った本について陽気に話し始めた。


「はい、母上!なんと国中を旅した冒険者が書いた冒険記を買いました!各町の名物や地方の風習に気候に詳しく書いてあってとても勉強になります!」


「まぁそれはいいものを買いましたね、後で母に読み聞かせてくださいな」


勿論です母上!とクラノスはぶんぶん頭を振った。隣で兄と父も穏やかに笑っている。正直武具を買わなかったことに父に怒られるかと思ったが、後の騎士団の任務時に役立つ勉強だろうと見逃してもらっていた。夕食後、家族みんなでリビングで暖炉で温まりながら幼いクラノスは本を朗読し始めた。


「クラノスよ、その山の岩はご先祖様が拳で割った岩だ。いつかお前もスクトゥムも拳で岩を割れるように日々鍛えるのだぞ」


「はい父上。あぁクラノス、シーノルでは祭りの時に酒樽をどれだけ多く持てるか競争するらしい。いつか兄が優勝するから見ててくれよ。」


「ふふふ、アーマルド様もスクトゥムもたくましいですね。クラノス、あなたもたくさん食べて筋肉をつけなさい、そしてこの本をさらに書き足せるぐらい見聞を広めるのですよ」


頭をなでながら笑う家族を見ながら、幼いクラノスも笑った。この家族を、国を守る立派な騎士になることを誓って―――




「いや卓上旅行より筋肉メインだろその話…」


とある野営の夕食時。地理に詳しい理由を聞かれたクラノスが卓上旅行であること、そしてそれにハマったきっかけの家族の思い出を話したのだが。アイラに突っ込まれてしまった。


「そうかな?我が家では素敵な思い出だと今でもよく話しているが…」


「えー良い話じゃん!クラノス、その本今も持ってるの?」


誠司が身を乗り出して聞いてくる。何でも興味を持って知識を広げていこうとするその姿勢がいつみても素晴らしいとクラノスは感心していた。


「あぁもちろん。でも今はフローレンスに預けてあるよ」


「フローレンスさんに?」


控えめに真由が口を開いた。無意識なのか真由は食事の際あまり積極的に会話に入ってこない。おまけに年上の男性に対して若干の苦手意識があるのか、今でもやや壁を感じる。同性のアイラを仲間にできて本当に良かった。


「彼女も公爵令嬢だからね。気軽に王都を出て旅や旅行ができないんだ。せめて私と離れる間、本と手紙を合わせて読んで旅の気分を味わえたらと思ってね…」


「す、素敵だ…‼‼‼‼」


理由を話すと真由と誠司は興奮した様子で感動していた。彼女らの出身国に貴族はいないし、お金があれば自由に国内も外国も旅行できるという。…なんて自由な世界なのだろうか。きっとその時代に産まれていれば、フローレンスともっと楽しいことができたのだろうか。


「そもそもなんで貴族のご令嬢は自由に旅行できないの?むしろお金があるから旅行し放題だと思うんだけど…道中の護衛なら傭兵とか冒険者ギルドで雇えないのかな?」


「雇えるだけの財力は勿論あるけどな…貴族の役割は家を繋いで事業をやって国を経済的だったり政治的に守ることだからな。あ、もちろんすげぇ額の納税もやってるぞ。」


水を飲んでいるクラノスの代わりにアイラが話してくれる。ガードナー家のように貴族は代々事業をして経済を支えたりや議員、神官を務めて国を守っている。血を絶やすことは言語道断なのだ。


「そう、だからもしかしたらアクシデントで命を落とす可能性がある旅行には慎重になるんだよ。あとは礼儀作法の習得や勉強で忙しいというのもあるけどね。」


クラノスの言葉に真由と誠司は納得したようにうなづいた。その後他愛ない話をしながらクラノスは旅に出る直前、フローレンスとの会話を思い出していた。

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「本当に急な出発ですまない、フローレンス。」


目の前の婚約者は気丈に振舞いながらも今にも泣きだしてしまいそうだった。本来であれば出発は一週間後の予定で他にもメンバーがいるはずだったのだ。王の突然の命令が無ければ今頃彼女と買い物を楽しんでいただろうに。クラノスは騎士ではあるがこの時王のことを少しだけ憎んでしまった。


「いえ、いえクラノス様。王命ですから仕方のないことですわ…。」


フローレンスはそう言うとそっとクラノスの胸に顔を埋めた。美しい金の髪と自身の鍛えられた厚い胸板で見えないがその美しい頬にはきっと涙が流れているだろう。いつもの任務であれば大人数での移動のためここまで心配をかけることは無い。だが今回はまさかの護衛はクラノス一人だけなのだ。ほかのメンバーは同行できなくなってしまったし、後から追うのも禁止されている。聖女と従者は訓練を受けたというが、たった二週間の訓練ですべてができるようになったわけではない。そのことが余計彼女を心配させている原因なのだ。


「フローレンス、どうか旅の無事を祈ってくれ。約束する、私は必ず務めを果たし無事に君の元へ帰ってくる。」


クラノスは華奢な彼女を折らないように抱擁した。その後彼女の目線に合わせ、そっと口づけをする。…人前でするのはいかがなものかとは思うが、今回ばかりは仕方ない。近くの門番を務めている同僚も横目でこちらを見ながら顔を赤らめている。


「クラノス様、必ず手紙を出してくださいまし、出してくださらないと私寂しくて近くの魔物の巣を破壊しつくすだけではこの気持ちは収まりませんわ。」


そっと涙を拭いながらの発言に同僚は彼女を三度見している。貴族令嬢の口から出る言葉でないのは確かだ。クラノスは穏やかに微笑んだ。


「あぁもちろん。必ず手紙を出すよ。あまりおじい様を卒倒させるようなことはしてはいけないよ。」


「おじい様は心配しすぎですわ。ガードナー家に嫁ぐものとして鍛錬を行うのは当然ですのに。」


フローレンスの両親、エバンス公爵夫妻とベルメール・エバンス神官長は酷く過保護である。ガードナー家に娘を嫁がせるのは喜んでいるが、その娘が鍛え始めたことに泡を吹いて倒れてしまったことがある。フローレンスは公爵令嬢であるが舞踏より武闘が得意な特殊な令嬢になってしまった。ただ夫妻と祖父の最後の抵抗として王都からほかの街へ滅多に出ることができない。いつもクラノスが任務で他の街へ行った際には羨ましそうにどんな街だったのか聞いてくるのだ。


「そうだフローレンス。これを君に預けよう。」


クラノスはバッグから幼少期からの愛読書、冒険者の旅行記を彼女に渡した。何度も読み返したり書き込みをしているため買った時より随分様子が変わってしまった。よくフローレンスとも一緒に読んでいた思い出の品でもある。


「これは…クラノス様の大事なものではありませんか、私がお預かりしてもいいのですか?」


「いいんだよフローレンス。必ず帰るという約束の証と、これから君に送る手紙の内容と合わせて私がどのような旅をしているか君にも感じてほしいんだ。」


クラノスの言葉にフローレンスはぱぁっと顔が明るくなる。彼女はとても大切そうに本を抱くと、愛おしい笑顔をクラノスに向けた。


「ありがとうございますクラノス様。私、とても嬉しいですわ。この本と共に、無事のお戻りをお祈りしておりますわ。愛しのクラノス様。」


「フローレンス、私の愛しのフローレンス。私はいつでも君のことを愛しているよ。」


すぐ近くに同僚がいることもお構いなしに二人は愛を再度誓い合った。産まれたときからの婚約ではあるが、お互い心の底から愛し合っているのだ。貴族の中でも相思相愛の婚約だと平民の間で有名になるぐらい。


「クラノス殿!皆様ご到着されます!」


門の上から別の同僚の声が聞こえる。クラノスは同僚に手を振るとフローレンスの髪をなでてキスをした。そろそろ出発の時間だ。聖女と従者の護衛という今までで一番困難で緊張する任務だ。それでも必ず成し遂げて彼女の元へ帰る。若き騎士は誓いを立て護衛対象を待った―

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「ふふ、クラノス様達ご無事にシーノルの核を浄化されたのですね。よかった…」


聖女一行が野営をしていたその日の昼、クラノスからの手紙を読みながらフローレンスは安堵していた。シーノルはすぐそこだが両親と祖父がうるさく王都から出してくれない。正直王都を取り囲む壁をこっそり越えるなり門番を買収するなりで出れるのだが、何度も泡を吹いて倒れる祖父の年老いた体に余計な負担をかけるわけにいかない。


「お嬢様。そろそろご支度のお時間です。」


「えぇありがとう。今日は愛しの甥とめいいっぱい遊ぶので髪の毛は一つに結んでくださいな。」


畏まりました、と微笑むメイドにフローレンスは優雅に手紙と婚約者から預かった本を大切に閉まった。今日は甥、スクトゥムの息子と義姉と遊ぶのだ。今2歳の甥っ子は色々気になるお年頃で一日駆け回れるぐらいの無尽蔵の体力を持て余しているという。義姉は元々文官の家系の令嬢であり今は第二子を授かっている。走り回らせることは決してさせてはいけない。体力自慢のフローレンスが遊び相手になれるのである。


「さぁて今日は鬼ごっこかしら、それとも王城外周かしら、楽しみだわ」


フローレンスは甥っ子のことも義姉のことも大好きだ。愛しの婚約者の家族でもあるがその人柄も大変すばらしく尊敬している。それに甥っ子は将来のガードナー家の当主だ。今から共に鍛えていつか手合わせ願いたいものだ。フローレンスは楽しみで仕方がない。


「お、お嬢様、まだ2歳の子に王城外周は無理かと…」


「あらいけない。私の鍛錬の基準はまだ早かったわね。教えてくれてありがとう」


思わずツッコミを入れてくれたメイドにお礼を言ってフローレンスは美しく笑った。甥っ子と王城の外周を走れるのは数年後か。その時はクラノスも共に走ってほしい。フローレンスは幸せな将来を思い描いて今日も愛しの婚約者の帰りを待ち続けるのだった。

ということでクラノス外伝です。相思相愛ビックラブカップルの様子をお届けしました。ちなみにガードナー家もエバンス家も公爵です。多分国防を担うガードナー家は侯爵の方が正しいかもしれませんが…王家に近い代表的な家ということで公爵にしました。ほかの公爵家は出す予定はありませんが数家あります。ちなみに王国の階級は王家>貴族>上級国民(貴族の分家)>中級国民(大成功した商人や功労賞を受賞した家)>通常国民(一般家庭)です。


〇ちょっとした話

エバンス家

代々王国の神官長を務める公爵家。現当主はフローレンスのパパ。ベルメール神官長は家督を先に息子に譲った。治癒と浄化の魔法適性持ちが多い家。公爵夫妻にはフローレンスの他に3人子供がいる。彼女は3番目の子供で唯一の女の子。


ガードナー家

代々王国騎士団長を務める公爵家。筋肉ムキムキ屈強な家系。貴族の中で魔法の適性がほぼない珍しい家系でもある。そのことを気にしてスクトゥムの奥さんもクラノスの婚約者も魔法適性持ちを選んでいるが、スクトゥムの第一子は今のところ魔法の適性が無いご様子。

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