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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
22/52

激戦の地へ

「ということでぇ…カグヤ・ウメミヤです…よろしくお願いします…」


馬車の中でカグヤは正座をして深々と一礼をした。あの後アズマの指示で結局罰として浄化の旅に同行することになった。戦力が増えるため誠司としては嬉しいが女性陣がいまだ怒っているようだ。


「いいか、次いたずらしたら拳骨一発じゃ済まさないからな??」


「ヒィィ、はい、もう死んでもいたずらしません…」


先ほど代表してアイラから拳骨を喰らって泣いていたカグヤは改めてアイラからの忠告に泣いている。ここまでくると可哀そうだと誠司は少し同情していた。


「聖女を害したとなれば王国と公国の政治的争いになるからね、腹を切るのがアズマさんだけではなくなるし。本当に気を付けるように。」


「はい…」


クラノスからも注意を受けさらに小さくなったカグヤ。誠司はいたたまれなくなりそっと背中を摩った。


「それにしても、泥道にも強い馬と馬車まで借りれてよかったね」


「あぁ。我々だけでも先行してストラスへ向かえるのはいいことだよ。」


アズマからお詫びとして悪路に強い品種の公国の馬と馬車を手配してもらえた。2台借りれたため聖女一行と薬品と食料品を多少載せストラスへ急遽動けることになったのだ。後ろを走っている荷物を載せた馬車にはアズマと騎士団員数名が乗っている。


「俺忍者って基本木々を飛んで移動していると思っていたよ…いや馬にも乗るよね…」


「木の間飛んで移動もできるけどすごい疲れるよ…父ちゃんが言ってたけどあの馬も初代公主達が召喚された時に一緒に来た品種らしいよ。そのままこの時代まで繁殖を繰り返してるんだって」


「馬まで召喚されたの‼‼?昔の召喚術って今とだいぶ範囲も違うのかな…」


誠司とカグヤの会話を聞きながら真由も驚いていた。昔はきっと恵みの力の量も違ったかもしれない、それで集落丸ごと呼べたのかもと誠司は解析しながらメモに書き込んでいた。


「しかしまぁ忍者は各町にもいたのか…やっぱりスパイ的なことやってるのか?」


「主要都市にしかいないけどね…んー、どっちかっていうと国内情勢の調査ばかりだよ。今は戦争もないし、瘴気の問題の方が重要だからね。おまけに王国には忍者じゃない影の勢力いるみたいだし。」


アイラの質問にカグヤは答えた。戦争中は違った形の任務だったようだ。


「サクラ公国はさ、武芸に秀でた人たちが多いから魔法が発展してないんだよね。亜種連邦と仲が良いから魔法道具とか治癒、浄化もエルフ族に頼りっぱなしなんだ。一番瘴気の影響を受けやすい国かなある意味。」


そこでカグヤはそっと真由を見た。


「で、王都にいる仲間から聖女が召喚された!って報告が上がってきたときはマサノブのおっちゃんがすごい喜んでいたよ。」


「え、マサノブ様のことおっちゃんって…」


思わず真由が突っ込むとカグヤは一瞬きょとんとした。


「あ、言ってなかったっけ。俺公主の親戚。」


「ええええええええええええ‼‼‼‼‼?」


驚きの情報に一行が大声を思わず出すと御者の騎士団員が何事かと声をかけてきた。クラノスが問題ないですと慌てて話をつけてくれた。


「親戚って言っても遠縁だけどね!分家だから忍者になって本家を支えてるんだ。」


「遠縁でも由緒正しい血筋じゃないか!…それなのにこんないたずらを…」


クラノスの言葉にグサッと刺さったのかカグヤはそっと真由に土下座をし始めた。


「あはは…なんかもう色々驚きすぎて怒りがどこか行っちゃったよ…とりあえず、もう痛い事しないでね」


「せ、聖女様ぁ…‼‼‼俺、一生ついていきます‼」


カグヤは女神に祈るように真由に縋り付いた。その様子に一同は思わず笑ってしまうのだった。

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「ひとまず今夜はもう遅いですからここで野営としましょう」


出発してから数時間後、雨もすっかりやみ夜が濃くなってきたため野営をすることになった。真由は結界を張り安全を確保すると火起こしをしている誠司の元へ戻った。


「うーん薪が湿っていて中々着火しないな…」


「魔法使ってみたらどうかな?」


それだ!と誠司は顔を輝かせると集中して魔力を集め始めた。王子がくれた魔装具とここまでの実践や勉強のおかげで最初の頃より魔法の精度が向上していた。指先に集めた小さな火球をそっと薪に落とす。少しだけだが煙が出始めた。


「やった!あとは消えないように注意して…」


始めて野営をしたときクラノスに教えてもらった火起こしの手順を着実にこなし無事に焚火の用意ができた。そこへ鍋に水を汲んできたカグヤが覗き込んできた。


「おぉ器用だねぇ。鍋セットしていい?」


「ありがとう、おねがい。」


今日は早速貰った味噌で豚汁を作ることにする。真由は早速具材を切りに用意してくれているアイラの元へ向かった。


「…ところでさ誠司、実は体の調子悪かったりする?」


真由が離れたことを確認してカグヤは座っている誠司の横に腰かけた。誠司は言い当てられたことに少し驚いている。


「いや俺がマスク盗ったせいで瘴気吸い込んだのが一番の原因だろうけどさ。すぐ浄化と治癒してもらったんだよね?」


「うん、それに吸ってから数日経ってるしもう影響ないと思うんだけど…。ちょうどヴァランスについたあたりから息吸うと肺がたまに痛むんだよね…。」


誠司の症状を聞いてカグヤは少し考えてから懐から小瓶を取り出し誠司に渡した。


「これ飲んでみて。きっと体に効くと思う。」


小瓶の中には緑色の液体が入っていた。お礼を言って受け取り蓋を開けてみるとやや青臭いにおいがする。誠司は一気に飲み干して一息ついた。匂いとは裏腹に意外と飲みやすかった。


「今渡したのは体に溜まった瘴気を弱めて排出したり浄化しやすくするための薬だよ。公国で作られてるんだ。」


「体に溜まる…?浄化しきってなかったってこと?」


誠司の問いにカグヤはうんと答えた。


「異世界の人って元々瘴気が無い世界だろ?その人達がこっちで生活すると体が慣れなくて瘴気が蓄積しやすくなるんだって。特に肺が一番やられる。…公国ができた当初一番の死因だったんだって。」


「…そうか俺たちは瘴気の耐性が元々ない…瘴気は空気に流れて離散していて、こうして核の前に行かなくても常に瘴気を吸っているってことか…!」


誠司は勢いよく顔を上げた。もしかして真由もと腰を上げそうになるのをカグヤが止める。


「聖女は女神の祝福受けているから耐性もこの世界出身の人並みにあるよ。今一番きついのは誠司だ」


「そっか…。でもなんで誰も知らないし、カグヤは今でもこの薬を持っているの?」


落ち着いた誠司はカグヤに向き直って尋ねた。


「多分歴代聖女はこのことを知らなかったのかも。6代目以降も召喚されても…その、長くとどまる前に亡くなってたから気付かなかったんじゃないかな。5代目なんて速攻公国領に引きこもってたし…」


カグヤも小瓶をもう一つ取り出し慣れた様子で飲み干す。あとは、と続けた。


「俺…というか公主の血筋は基本純血なんだ。何代になっても混血の家より瘴気の耐性が少ないから定期的にこの薬を飲んでいるんだよね。エルフ族に浄化魔法をかけてもらってるから、これ飲むだけでだいぶ楽になると思うよ。」


誠司はそうか…と小瓶を見つめた。もしかして今まで自分のように聖女と共に召喚された従者達は瘴気に蝕まれて命を落とした場合もあったのだろうか。そして今自分も確実に瘴気に侵されている。


「ここまで結構急ピッチで旅してきたんだろ?疲れがたまって症状出てきているんだろうね…。俺薬の調合できるしストック結構あるし、秘密の店でも販売しているから何本かあげるよ。」


「ありがとうカグヤ。…この事、真由ちゃんたちにも話さないとね…。特にクラノスなんて毎日俺の体調気遣ってくれるし本調子じゃないの確実に気付いてる。」


カグヤから薬を受け取り丁寧にバッグにしまう。そう、クラノスとは毎日同じ部屋やテントで過ごしている。真由とアイラより過ごす時間が長いため確実に気付いているのだ。優しい性格の彼に毎日心配をかけて申し訳ないと常々思っていた。馬車での移動が多いのも誠司のためだ。


「…聖女様に話すのはストラスの核を浄化してからの方がいいかな?今あんまりショック与えたくないでしょ?一応大人達には話しておく?」


「そうだね…。真由ちゃんにはストラスの問題を解決してからにしよう。クラノスとアイラには先に伝えておきたいけど…タイミングがなぁ…。」


アイラはずっと真由についているのでアイラだけを呼び出して話すのが難しい。やはり先にクラノスに言うべきか。誠司はカグヤの洞察力に感謝しながら体を休めた。真由にまだ話さないのはマンモルの戦闘で色々彼女の精神的に負担がかかったからだ。強くなったとはいえここでショックを与えてストラスの戦闘で支障が出ることだけは避けたい。遠くで騎士団員やアイラと談笑しながら料理の用意をする彼女を眺めながらカグヤと他愛無い会話をしていた。

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「おぉ、これが豚汁…真由たちの国の料理か。具だくさんで優しい味がするね、とても美味しいよ」


初めての豚汁にクラノスを始め異世界の人たちは全員感動していた。アズマから貰った味噌は若干現代と風味が違うがそれでも味噌に変わりはない。久々の故郷の味に誠司もしみじみと味わっている。


「味噌には米が合うのですがあいにく今はこの人数にいきわたる量の米がありません。ストラスにも店がありますからカグヤに調達させてください。」


「一応カグヤって分家とは言え公主の家系なんですよね。…敬う様子が無いというか…。あぁ味が染みた大根が美味しい…」


ある意味カグヤもやんごとなき人なのだが、アズマは敬う様子が無い。誠司の横でカグヤは笑っていた。


「分家の扱いなんてこんなもんだよ~俺はアズマさんの元で修行している若手に過ぎないし」


俺の家格別に裕福ってわけじゃないし、とカグヤは付け加えて豚汁のお代わりをした。一口すすり満足そうに微笑んでいる。現代だとたまに金持ちの分家でも威張り散らす人がいるのだが、カグヤは偉そうにせず等身大の少年という感じだ。きっと親がしっかり教育したのだろうか。真由はそんなことを考えていた。


「さぁ、食事を済ませたらもう今夜は休もう。明日はいよいよストラスだ、今回もきっとすぐ戦線に出るかもしれない。覚悟はいいかい?」


「うん、今度は一緒に戦ってくれるみんなを守ってみせる!」


「あぁ、みんなでまた生きて帰ろうね」


真由と誠司の力強い言葉にクラノスとアイラも頷いた。気合は充分、薬のおかげで体がだいぶ楽になった。おまけに今回はカグヤと連邦最強の戦士、アルベルトがいる。柔軟に戦闘に対応していこうと誠司はさらに気合を入れて明日に備えるのだった。

ついに次回国境の街に到着です。そろそろ舞台が他国へ移ります。

プロポーズ成功して三日三晩踊りあかしたアルベルトさんもスタンバってます。

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