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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
21/53

驚きの連続

「さて、詳しく話をしてもらおうか」


突然真由が刺客に襲われた。真由の魔法の才能の開花と仲間の助力のおかげで目立ったけがはない。

今は刺客を宿屋の一室を借りて椅子に縛りつけ、聖女一行が囲っている。本来であれば騎士団員も立ち会う予定だったが、真由と誠司の世界に関わる話になるかもとのことで部屋の外で待機してもらっている。クラノスは正直二人、特に怖い思いをしたであろう真由には休んで欲しかったがこの忍者と話したいと一歩も引かなかったのである。


「うぅぅ…ちょっとした出来心だったんだよぉ…」


刺客、もとい忍者の少年はすっかり観念した様子で大人しくしていた。念のため武器は取り上げ、覆面を取り、聖女一行は各々武器を構えている。


「とりあえず、名前と年齢、出身国は?」


クラノスが警戒しながら尋ねる。基本的にはクラノスが尋問を進める条件を二人に提示している。大男に圧をかけられている少年はおどおどとしながら答えた。


「…名前はカグヤ…15歳でサクラ公国の人間です…」


「カツヒデ教官と公主様といいサクラ公国の人の名前って俺らと似てるよね」


カグヤと名乗った少年の斜め向かいで誠司は小声で真由に同意を求めた。真由もコクコクと頷いている。カグヤは蒼黒の髪に髪の毛と同じ色の瞳をした誠司と背丈が変わらない少年であった。


「その装束は…忍者か。サクラ公国の特殊部隊と噂の。あってるか?」


「はい…駆け出し忍者です…」


「クラノス、ちょっと教えてほしい。いいかな?」


ここで誠司が手を上げてクラノスに声をかける。クラノスはもちろんいいよと誠司に続きを促した。


「忍者って俺たちの故郷日本で昔にいた人たちなんだ。この世界でも有名なの?」


「有名というより幻の存在の方が正しいかな。サクラ公国には公家に使える隠密集団がいて、全身黒い装束を身にまとっているとしか知らないんだ。アイラは知っていたかい?」


「いーや全然知らんかったわ…多分、一般市民はほぼ知らないと思うぞ。さっき騎士団員から忍者って何ですか?って聞かれたし」


貴族で多くの書物や勉強する機会に恵まれていたクラノスでさえほぼ知らず、アイラを含めた一般市民は全く知らないという存在であるという。カツヒデ教官からサクラ公国は秘密が多くあまり話せないとは聞いていたがまさかここまでとは。徹底した秘密主義なのであろう。


「そっか…ありがとう。尋問戻って大丈夫。」


クラノスは頷くとカグヤに向き直った。


「君はどうして聖女を害しようとした?彼女がいなければ我々は瘴気に侵されいつか絶滅するんだぞ」


「…あの、害しようとは思ってなかったんです…噂で聖女が召喚されたって聞いて、ちょうど王国に行く用事あったからついでにどんな奴か見てみようかなって…そうしたら見た目ちょろそうだから…その…ちょっかいを…」


消え入りそうな震え声でカグヤは正直に話をした。最後の方でアイラが拳骨をしようとしたが真由が止めていた。


「もしかして、誠司君の予備のマスクと輸送隊から食料を盗んだのも…」


「俺ですぅ…気付くかなって思って…食料は単純にお腹すいたので…」


カグヤが半泣きで答えると真由は握りこぶしを構えてアイラに向き直った。


「アイラ拳骨の仕方教えて」


「まずはお手本見せるから真似してやってみな!」


今度は誠司が女性陣の前に駆け寄り拳骨の刑を止めた。


「は、話を聞いてからにしよう、ね‼‼‼カグヤ、いつ俺のバッグからマスクを盗んだの?」


殺気立つ女性陣を背に必死に誠司はカグヤに問いかけた。女を怒らすと恐ろしいとはまさにこの事。カグヤは情けない悲鳴を上げて必死に声を出している。


「ヴァランスだよ‼‼風呂入ってる間に部屋侵入して…そこの旦那もちょうどいなかったから」


「あの時は王妃と王子がいたのに侵入されていたとは…騎士の名折れだ…」


クラノスは頭を抱えた。カグヤは王妃達達が帰った後だと付け加えたが、要人を守る任務を請け負う騎士団が気付けなかったのは最悪だ。もしも王妃達の身に何かあれば国が傾く。


「盗んだマスクはどうした?」


「マンモルに行く途中の村で子供にあげました…。税金の支払いでお金なくてマスク買うお金ないって親子が困ってるのを見て…思わず…」


瘴気をある程度防いでくれるマスクは値段が高く、一般市民は中々買えないという。騎士団員は全員に支給されるが市民は自力で購入するか性能を落とした安価な代替え品を使用するしかないと聞いていた。王家のお金ですぐ用意してもらえた真由たちとは状況が異なるのだろう。


「まぁ、子供が助かるならいいか。用意してくれたスクトゥムさんとベルメール神官長に申し訳ないけど、国民が一人助かるなら二人もわかってくれるよ。」


誠司は笑いながらカグヤを許すとカグヤはまるで救世主を見たかのように目を輝かせた。


「でもそのせいで誠司君が危ない目に合ったんだよ。怒る部分は怒らなきゃ。」


甘すぎるよと真由が口をとがらせると隣でアイラも力強く頷く。クラノスも同意見のようだ。


「うーんそれもそうなんだけどね…マスク無くなったことに気付けなかった自分も悪いし…」


誠司がポリポリと頬を掻きながら困っていると控えめにノックの音が聞こえた。


「お話し中失礼いたします。あの、その者の責任者と名乗る男が投降の意を示してきました。皆様に直接お詫びしたいと来ております。」


困惑した騎士団員が声をかけてくる。カグヤを見るとガクガクと怯えている。確実に怒られると察しているのだろう。クラノスが武器をすべて預かって通すように騎士団員に指示を出した。

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「サクラ公国公家に仕えておりますアズマと申します。この度は若輩者が多大なご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ございませぬ‼‼‼‼‼‼‼‼」


アズマと名乗る男は部屋に入ると速攻土下座をしてきた。あまりの速さに一同反応が遅れてしまった。さすが忍者である。


「我々サクラ公国は聖女様に危害を加えるつもりは一切ございません、すべてカグヤの未熟な精神と私の監督不届きによるものでございます。私が腹を切ります。そしてこの首をどうかお詫びの印としてお納めくださいませ」


「え、首なんて貰っても困ります…‼‼」


「真由ちゃん首は多分王家に納めると思うよ…っていや切腹文化もあるんだ‼‼??」


各々が困惑しているが落ち着いて話を続けなければならない。クラノスは咳払いをするとアズマに顔を上げるよう伝えた。


「公国が聖女に危害を加えるつもりでならば、彼女はここまで生きていないでしょう。今はアズマさんの言葉を信じます。」


「あ、そっか。忍者ならいつでも私のこと殺せるもんね…って怖‼‼‼?」


真由が思わず一人ツッコミをして杖を抱きしめた。そう、詰め所にまだ駆け出しのカグヤがすぐ侵入できたということは、いつでも忍者は真由を害せるということでもある。真由は自分の立場に改めて気付かされた。


「ありがたきお言葉恐れ入ります。聖女様、そして皆様、改めてご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます…。」


「えっと、とりあえず今後もこんな事にならないようにしてもらえれば私はいいかな…。誠司君は?」


少し落ち着いてきた真由は誠司に顔を向けた。誠司は少し考え事をしているようだがすぐにアズマに向き直った。


「そうですね…。彼女の方針には従います。ですがアズマさん、一つ条件があります。」


「はい、何なりとお申し付けください。」


姿勢を正したアズマに誠司はメモを取り出し話をつづけた。


「サクラ公国は僕たちと23代目聖女様の出身国と似ている部分が多くあります。秘密主義だとは王国のカツヒデ教官から聞いていますが、僕がこれから聞くことにすべて答えてください。それが条件です。」


「やはりお二方もフユミ様と同郷のお方でしたか…。承知いたしました。私が知っていることはすべてお話させていただきます。」


やったと誠司はガッツポーズをした。色々聞きたくてうずうずしていたのだろう、取り出したメモ帳には真由と事前に何について聞くか整理した内容が書き連ねてあった。

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「ではまずサクラ公国の成り立ちについて教えてください。城の記録には5代目聖女が召喚された後できた国だとありましたが…。」


「はい、まず我々サクラ公国は今仰った通り5代目聖女様と一緒に召喚された200名程が立ち上げた国です。当時戦争後滅んだ国の土地を用いておりました。」


「に、200名‼‼?召喚ってそんなに人数できるの⁉」


思わず真由が驚いて紅茶を喉に詰まらせた。むせかえる真由の背中をアイラがさすってくれる。

一同は話が長くなりそうだったので椅子に座り武装を解除してお茶を用意していた。


「えぇ、当時聖女様が暮らしていた集落のほぼ全員が召喚されたと聞いております。その集落には忍者や武士がいる集落でした。今でも文化が続いており隠密部隊として忍者が、王国で言うと騎士団に当たる武士が今でも国を守っています。」


「す、すごいな…。集落ほぼいなくなるってそんな事件日本史でやったかな…」


誠司も思わず驚いているとアズマは日本史?と首をひねったがひとまずつづけた。


「山奥の隠れた集落と言われてましたのできっと気付かれなかったのでしょうかね…。話を戻しますね、ご先祖様は5代目聖女様を元首とし、国を立ち上げ自分たちの家を作り畑を耕す傍らドワーフ族と交流を積極的に行い暮らしを安定させていきました。ちなみに5代目様は浄化の適性はあまりなく、今の王国とはそりが合わなかったようです…。」


「あぁ…だから年表だとすぐに6代目が召喚されたのですね…」


クラノスが遠い目をしている。戦争が終結した直後だったため各国もまだ冷戦状態だったのだろうか。


「その後他国との混血が進み人数も増え、国として別大陸からも認められるまでなりました。ただ5代目聖女様もとい初代公主の命令で国外に出たとしてもサクラ公国のことを話してはならないと教えが残っています。このためカツヒデも徹底して口を閉ざしていたわけです。」


「秘密主義になったのはこの世界の人たちのことを警戒していたから…とかですか?」


「えぇおそらく。何せ、いきなり集落丸ごと異世界に来たのですから当時は迫害も受けたのでしょう。刀やクナイを始めとした鋳造技術に感動したドワーフ族だけが寄り添ってくれたと祖父から聞いたことがあります。」


ちなみに私も祖母がドワーフ族との混血ですとアズマは付け加えた。


「経緯はわかったね…。今更ですけど教え破らせてすみません…。」


「いえいえ!そもそももう秘密でいるのも限界でしたし、現公主様が今後聖女様が同郷の場合は国にお呼びして話そう、協力しようという方針を出しております。」


誠司が謝るとアズマはとんでもないと首を振った。続いてのご質問をどうぞと促してくれる。


「現公主様は23代目様の旅のメンバーだったと聞いています。なぜ23代目様はこちらに残る選択をされたのかはご存じですか?」


「残る選択というよりも、フユミ様は決して故郷に戻ることを諦めていなかったと公主様が話していました。そのための研究はご結婚後も続けられていたそうです。いつか旦那様と娘様を連れてこちらとご自身の世界を行き来したいと。召喚された当初は諦めていたそうですが、アルベルト殿が励ましている間に気力が戻られたそうです。」


ジュール学院長とあった際には若干諦めていたような感じがしたが、後の最愛の家族に支えられ奮起していたようだ。誠司は少し安堵していた。


「フユミ様は病気になった後あっという間に亡くなられました。公主様はフユミ様の最後を看取った一人です。当時まだ8歳の娘様の泣き声がまだ耳から離れないと話しています。」


「8歳か…お母さんが恋しいよね…。その研究資料は旦那様がお持ちですか?」


23代目の娘の悲痛さに心を痛めながら誠司は尋ねた。


「恐らく。私もその後の研究については存じませんが、あれだけフユミ様と娘様を愛しているアルベルト殿がフユミ様の人生をかけたものを処分するはずがありません。」


プロポーズ成功時に三日三晩踊り続けたという男だ、妻への愛情が桁違いなのだろう。おかげで帰還のための手がかりにもなるだろう。


「亜種連邦に行ったらまずはアルベルトさんと娘さんに会いたいな、事情を話してなんとか研究資料を見せてもらえないかな…」


「アルベルト殿でしたら今ブルーボ平原で連邦と王国の合同防衛に協力されていますよ。治癒に浄化に攻撃魔法に…獅子奮迅のご活躍と聞いています。」


アズマの一言に真由と誠司は驚きの声を発した。


「もしかして、マンモルで聞いた連邦最強の戦士って…アルベルトさん⁉」


「えぇそうでしょうとも。私も何度もお手合わせさせていただいたことがございますが、本当にお強くて素晴らしい戦士ですよ。公主様も一度も一本とれたことが無いとまで仰ってました。きっと世界中探してもアルベルト殿以上の猛者はいませんよ!」


誇らしげに頷くアズマ。ジュール学院長も強いと言っていたがまさか最強の戦士だったとは。これはますます会って話をしたいところだ。


「…と長くなってしまいましたが…ほか何かございますか?」


「うーん色々聞きたいと思って用意してたけど成り立ちの時点でだいたいわかっちゃった…真由ちゃんは何かある?」


誠司はどうして日本と似ているのかが何よりも気になっていたのでほぼ解決してしまっていた。話を振られた真由は少し考えるとあっと声を出した。


「あの、お米とお味噌ってありますか⁉あとお醤油も…。日本食食べたくて…」


真由の言葉に誠司がそれがあったと手を叩く。横で聞いているクラノスとアイラも内心日本食に興味があるのでそわそわしているようだ。


「ございますよ。フユミ様にもよくお届けしておりました。こちらの豆を使っているので多少真由様達の時代の味とは変わるかもしれませんが…今手持ちの分でよければお納めください。」


そういってアズマはバッグから玄米と竹の容器に入った味噌と醤油を真由に差し出した。初めて嗅ぐ匂いにクラノスとアイラは少し驚いている。


「や、やった‼‼‼‼‼‼ありがとうございます‼‼‼‼ありがとうございます‼‼‼‼‼」


真由と誠司はアズマの手を取ってぶんぶんと上下に振った。アズマは驚いたがあまりにも喜び今にも踊りだしそうな若者の様子に微笑んでいる。


「さっそく使わせてもらいます‼‼‼ちなみに公国じゃないと売ってませんか?」


「基本的には公国内と連邦の一部の町にか販売しておりません。ですが我々忍者はひそかに各町で任務にあたっておりまして、その者に向けた秘密の店で取り扱っておりますよ。」


「あ、アズマさんそこまで言わなくても…」


ここまでプルプルと震えていたカグヤがそっと口を挟んだ。ちなみに縛られたままである。


「馬鹿者が、公主様の方針を忘れたか!…ただたとえ聖女様ご一行とはいえ店の場所までお教えできません。」


まぁ確かにそうだよなと誠司は納得した。秘密主義の国に対して結構有益な情報を教えてもらったのだ、店の場所まで聞くのは失礼だろう。


「ですので、そこのカグヤを旅に同行させていただけませんか?そやつはまだ未熟者ではありますが一通りの忍術は叩き込んであります。此度の贖罪にという意味でも使い倒していただければと」


「うええええええええ‼‼‼‼‼気まずいよぉ‼‼‼‼‼???」


カグヤの絶叫が部屋に響き渡る。なんとも気まずい加入の瞬間で会った。



ということでサクラ公国暴露回でした。ちなみにカグヤの髪色の表現で使っている蒼黒は緑みが強い黒です。要するに黒緑の一種です。結構綺麗な色なので調べてみてください!あとカグヤとアズマは基本公国に滞在してます。王国に来ていた理由は後々…。


登場人物補足

〇カグヤ・ウメミヤ

サクラ公国の駆け出し忍者。15歳。蒼黒の髪と瞳を持つ。結構お調子者で厨二心があるお年頃。特技は声帯模写。前の話で誠司の声真似をして真由を外へ出してた張本人。今回の件は完全に興味本位の単独行動。辛い物が大好きな一面もある。誠司ほどではないが手先が器用。真由の弾丸攻撃魔法がトラウマになった。実はサクラ公国現公主の親戚で純血の公国人だったりする。


〇アズマ

サクラ公国の忍者。58歳。カグヤ達若手忍者の教育係。今回のカグヤの件で胃が痛い。本当に切腹する覚悟で公国にいる家族にあてた手紙を懐に忍ばせていたのはここだけの話。祖母がドワーフ族の混血。


〇カツヒデ

サクラ公国出身で今は王国騎士団の教官をしている。奥さんが王国の人。結婚を機に王国へやってきた。誠司に剣術の指導をしていた。手紙で探求心が強い誠司に公国のことをあれこれ聞かれ、教えたいが王城の監視が怖くて教えれなかった。情報漏洩から家族に危害が及ぶのが嫌だったからね…


追記:フユミさんの娘の年齢間違えてたのでひっそり直しました。娘が8歳の時にフユミさん亡くなっているが正しいです。

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