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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
20/52

刺客

学院長から23代目聖女について話を聞いた次の日。一行は次の目的地、国境の街ストラスに向けて出発していた。マンモルからストラスまでは馬車で3日の距離だ。今回もストラスへ物資を送る騎士団の輸送部隊に同行する形で馬車に乗せてもらっている。


「本当は図書館で調べものをしたかったんだろう、すまない誠司」


「ううん、調べ始めたらいくらでも居座っちゃいそうだから大丈夫だよ」


クラノスの申し訳なさそうな顔を見て誠司は笑って返した。誠司が知りたかったのは転移魔法についてだ。手紙のやり取りに使っている魔法道具は転移魔法を応用しているという。自分たちがこちらに召喚された時も儀式と謳っているが結局のところ転移魔法に近いものかもしれない。それならば転移魔法を詳しく研究すれば帰還も可能だろうと考えているのである。


「写本貰ったしこれで知識を詰め込んで、亜種連邦ついたらエルフ族に聞いてみるんだ」


「ずっと本読んでるけど大丈夫?今朝も少し顔色悪かったのに…」


大切に写本をなでる誠司を横目に真由は心配そうにしている。誠司は瘴気の核を浄化する際、一時マスクなしで戦闘していた影響か若干具合が悪いように見えるのだ。


「平気平気!今は戦闘も移動も騎士団にお願いしてるからゆっくり休めるよ」


「無理はするんじゃないぞ。ストラスについたらすぐ戦闘になるかもしれない。今のうちに横になっておきなさい」


平気と笑う誠司にクラノスがぴしゃりと注意をする。誠司はこれ以上はだめだと判断しそそくさと馬車の奥の方に毛布を敷きに移動した。


「まったく…昨日も寝なさいと言っているのにもう少しだけってずっと読んでいたからな…」


「逆にあれだけ読めるってすごいけどなぁ…誠司あれで魔法書何冊目だ?」


「5冊だよーーーまだまだ足りないぐらいだよ」


5冊⁉と真由は水筒の水を吹き出しそうになった。魔法書は一冊がとても分厚い。10㎝はあるような本を誠司はひと月と少しで読んでいるのだ。しかもおまけに学校の勉強もしている。もしかして顔色が悪いのは睡眠不足だからではと真由たちは話し合った。確実にそうだろう。


「勤勉にもほどがあるね…真由も、今のうちに休んでおきなさい。ストラスの戦況は…きっとマンモルより酷いから…」


「うん…。そうだね…。」


真由は頷きながら今も奮戦している騎士団達の無事を祈っていた。亜種連邦から凄腕の戦士がいるというが核の浄化は自身しかできない。自分も力と知識をつけなければと誠司に負けじと魔法書を取り出し読み始めた。その様子にアイラとクラノスはそっと見守っていた。

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「今晩はここで野営します。見張りも我々で行いますので皆様はお休みください。」


「お言葉に甘えて休ませていただきます。ありがとうございます。」


輸送部隊の隊長の言葉にお礼を言い真由は馬車に戻った。4人の時は見張りを交代しながら寝ていたが、今回は騎士団の数も多いので頼ることにしたのだ。野営の度に真夜中の一番魔物が活性化する時間に起きてくれていたクラノスとアイラもゆっくり休めるだろう。


「誠司くん具合はどう?」


「問題ないよ。今日ほとんど横なってたから夜寝れるかなぁ…」


苦笑しながら誠司は肩を回す。いくら馬車に毛布やクッションを敷いても振動で体が凝ってしまうのだ。


「よかったら私が肩をもんであげようか?これでも兄さんによくしていたんだ」


「ばっかお前の怪力で誠司の肩粉砕する気か⁉」


クラノスの言葉に焦ったアイラが誠司をそそくさと背中に隠す。誠司はそっとお断りします…と子犬のように震えていた。落ち込むクラノスにそっと真由は背中に手を添えた。


結局アイラが誠司の肩を揉んでその日はゆっくり眠ることができたのだった。

---------------------------------------------------------------------------

事件は朝発覚した。騎士団がざわついている。クラノスが馬車から出ると隊長が声をかけてきた。


「クラノス殿、ご報告いたします。…運搬中の物資の一部が紛失しておりました。」


「なんだって、最後確認したのはいつですか?」


「昨日の就寝時刻前です。紛失した物資は保存食一人分です。」


声につられて身支度を整えた真由たちも馬車から出る。


「被害が軽微ですのでひとまずこのまま出発しようかと思います。あまりストラスを待たせるわけにもいきませんので。皆様もお手持ちの荷物にはご注意ください。」


真由と誠司は顔を合わせて荷物を確認する。自分達のは無事のようだ。しかし誠司のマスク盗難事件もあり立て続けに起こると不安にもなる。


「…なんで一人分だけなんだろうなぁ」


アイラがぼやく。確かに食料を一人分だけ、というのは変な話だ。数人分持って行く方がある意味効率がいいのではないのか、真由は首をひねった。


「とりあえずストラスに向けて出発だ。雨が降りそうだから急いで目的地点まで行こう。」


報告を聞き終えて戻ってきたクラノスが声をかけてくる。真由たちは返事をすると馬に今日もよろしく、と撫で馬車に乗り込んだ。

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クラノスの言葉通り段々雲行きが怪しくなってきた。現代日本と違い整備されていない路盤では雨が降るとぬかるんで移動が大幅に遅くなる。少しでも早くストラスに近づかねばと一行はスピードを上げた。


雨が降り出したのはマンモルとストラスの中間にあたる小さい街に着いたときだった。着いたのは15時頃だが雨が強くなってきたので小雨になるまで待機になった。宿屋を借り馬を休ませる。


「雨やむといいけど…」


「うーん風も出てきたし今日は移動はやめといた方がいいな。馬も重い荷物引いてぬかるみ走らせると転ぶかもしれないしな」


真由とアイラは馬小屋で馬に餌を与えていた。強くなっていく雨の音を聞きながら真由は馬をなでていた。


「真由は結構馬好きなのか?こうして馬車で移動するときよく休憩中なでてるし」


「え、無意識だった…!でも現代だと馬と触れ合う機会全然なくって…それに可愛いし…」


そういいながらも馬を見てニコニコ笑う真由。アイラはそんな様子を見てつられて微笑んでいた。


「アイラは騎士団時代は馬に乗って戦ってたの?」


「たまにな~アタシは騎兵より歩兵だったし。斧は重いから馬に負担掛けるのも嫌なんだよなぁ」


ぶるぶると鳴く馬をなでながらアイラが答える。確かに一度アイラの斧を持たせて貰ったことがあるが、重たくて持ち上げられなかった。斧の中でも小振りの斧だそうだが、それでも非力な真由にも誠司にも持てなかったのである。


「おーい二人共!打合せしよう~~」


外から誠司の声が聞こえる。真由は返事をすると道具を片付け外へ出る。外は雨が強くなってきており早く宿屋へ入ろうと駆け出した。


「随分呑気だね聖女様」


耳元で低い声が聞こえた瞬間、真由は思いきっり地面にたたきつけられていた。突然の痛みに声が出ない。背中を押さえつけされているのか上手く呼吸ができない。背後にいるアイラに助けを求めようとするも身動きができない。


「動くな!こんな変な死に方したくないだろ?」


目の前に刀身が見える。地面に誰かが刃を突き立てている。


「真由‼‼‼‼おいてめぇどきやがれ‼‼‼‼」


アイラが叫んでいるのが聞こえる。真由のすぐ眼前に刃があるので下手に接近できないのだろう。

真由を押さえつけている男は鼻で笑うと真由の髪の毛を引っ張り顔を少し浮かせてきた。


「なんだよく見るとちんちくりんだなぁ、こんな女に傅く大人達馬鹿だろ?」


真由はその言葉に父親に似た影を思い出した。そう、あの父親は毎日顔を合わせるたびに嫌味を言ってきた。金食い虫、第三高校にしか行けない馬鹿、愚図、薄汚い女二世。

今までは耐えるしかなかった。父に逆らうと殴られるし母は助けてくれないし何より次の日からの食費が出なくなる。そう、真由はずっと耐えてきたのである。

でも今は怒っていいのだ。温かい仲間たちといつも見守ってくれる人たちがいる。もう今まで必死に耐えて薄い布団の中で声を殺して泣いていた少女ではないのだ。真由は己の中に湧いてきた勇気を力に変える。


男は真由の外套から落ちたブローチに目をつけた。高価なものまでつけていいご身分だなとさらに笑う。あれは王妃から貰った大切なお守りだ。お前が触っていいものじゃない。


「……触るな…」


「あ?」


かすれ声を発した真由を男は覗き込んでくる。目が合った瞬間、真由は叫んだ。


「そのブローチに触るなって言ってるんだこのクソ野郎が‼‼‼‼‼‼‼」


叫ぶと同時に王妃から教わった攻撃魔法の光弾を男の眼前めがけて発動する。男は慌てて真由とブローチから手を放しすれすれで回避した。真由は急いでブローチを回収しながらもまた地面を転がった。

だがみすみす相手を逃すわけにはいかない。一発ぶってやりたいぐらいだ。真由は何発も光弾を撃ち続けた。…杖なしで。


「ちょ、ま、待ってあの‼‼‼ヒィ‼‼‼‼」


黒い衣服に身を包んだ男は軽々と避けるが真由の膨大な魔力炉から放たれる光弾の数々におびえ始めていた。男をじわじわと追い詰めていく。騒ぎを聞きつけた騎士団もこちらに走ってくるのが見える。


「やば、逃げ…‼‼‼」


「誰が逃がすか」


いつの間にか身体強化魔法で男の背後に回っていた誠司が思いっきり剣で男の胴を突く。納刀した状態ではあるがいきなり背後からの強い痛みで男がよろける。男が振り返った瞬間、誠司が思いっきり男の顔を殴り飛ばした。先ほどの真由のように地面に叩きつけられた男をクラノスがすぐさま拘束する。


「真由、大丈夫か??ごめんな怖かったよな?」


アイラに抱きしめられ真由は大丈夫だよ~と声をかける。体は痛いが、真由は心なしかすっきりしていた。もちろんブローチも無事だ。


「真由‼‼‼」


拘束した男をクラノスと騎士団に預けて誠司が駆け寄ってくる。真由はいきなり呼び捨てにされたことに驚いたが誠司は気づいていないようだ。


「怪我は‼‼‼?クソ、オレも一緒にいるべきだった…」


珍しく悪態をつく誠司に真由は思わず見とれてしまっていた。全然返事がない真由をさらに誠司は覗き込んでくる。


「真由、もしかして喉やられた⁉ってあぁ鼻血出てる‼‼」


慌ててバッグからハンカチを取り出し真由の顔に当てる誠司。そこでやっと真由は口を開いた。


「あの…大丈夫だけど…その…呼び方…」


「え?」


ぽかんとする誠司にアイラが代わりに教えてあげた。


「ちゃん付け取れてるぞ~まぁ緊急事態だから仕方ないな」


「えっ、あっ、ご、ごめん‼‼‼???気付かなかった…」


顔を真っ赤にして慌てる誠司の様子を見て真由とアイラは気が抜けて笑ってしまった。つい先ほどまで刺客に襲われていたというのに。騎士団員との会話を終えたクラノスも駆け寄ってくる。


「真由、遅れてすまなかった。奴はこの後すぐ尋問に掛けるよ、君はすぐ手当を。」


「うん、助けに来てくれてありがとうみんな!」


クラノスに手を引かれ立ち上がる真由。降り続いている雨のせいで全員びしょびしょだ。拘束された男を見ると完全に項垂れており逃走の様子も無いようだ。


「…随分大人しくなったね」


「あぁ。よほど真由の攻撃魔法が怖かったようでね、拘束した後少し脅したら大人しくなったよ」


宿屋の庇の下で泥まみれになった外套を脱いで水滴を絞っているとクラノスが教えてくれた。無我夢中で打っていたが杖を出していないことに気付いた。


「杖なしであの量の弾丸撃ち続けれるなんて、すごいぞ~王妃様に報告しような」


アイラが真由の頭をなでて褒めてくれる。もう何度褒めてくれたか分からないが真由は嬉しくてたまらなかった。


「…ねぇクラノス、あの男…というか俺とあまり年齢差ないぐらいだったけど…あの服装王国の人じゃないよね?」


「そうだね…王国の衣服ではないね。だがあの黒い衣服どこかでみたような…」


男性陣の会話に真由は改めて男の姿を見る。アイラに早く中入ろうぜと促されるが何かが引っかかっている。誠司も同じ様子だ。


「そういえばあいつの武器、刀身がクラノスの剣とは違うような…それにあの素早さと服装…なんか時代劇とかでよく見る忍者みたいだよね誠司くん…」


「あー言われてみれば忍者だ………………ん????」


二人は勢いよく顔を合わせて男のもとへ駆け出した。背後でクラノスとアイラが困惑して呼び止めている。だが二人は無我夢中で走っていた。駆け寄ってきた聖女と従者に気付いた騎士団員が慌てて声をかけ、外套を置いてきてしまった真由にあまりの外套をかけてくれる。


「お二人とも危ないですので近づかないでください!真由様は急ぎ手当を…!」


「ごめんなさい、すぐすみますので‼‼‼あと外套ありがとうございます!」


真由は急いで男の様子を上から下まで観察した。いきなり出てきた聖女に驚いたのか男、いや少年は口をパクパクしているように見える。特徴的な黒い衣服、胸元を見ると着物のような襟をしている。足首には脚絆をつけ、本当に忍者の格好をしている。


「あなた…もしかして忍者‼‼?」


「えっ…なんで俺たちのこと知って…あっ」


口を滑らせた少年が口をふさぐも遅かった。真由と誠司は盛大に声を上げた。


「に、忍者だ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


聖女と従者が驚愕の声を上げる中、冷や汗をかく忍者の少年の様子を宿屋の屋根から別の忍者が見て頭を抱えていた。その様子に気付いているのは薄暗い雨雲だけだった。

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