召喚
2話です。
最初なので進行度はゆっくりになります…
眩しすぎる光と鐘の音がやっと収まった。
恐る恐る目を開けると自分たちが立っていたのは石造りの物体の上だった。
誠司はすぐに抱き寄せている真由の様子を確認した。
顔色が悪く呼吸が早くなっている。
パニックになりすぎて若干過呼吸になっているのだろう。
とりあえずそのまま自分にもたれかかるように座らせた。
「大丈夫、ゆっくり呼吸して」
小さく声をかけながら周りを確認する。
どうやら自分達は神殿の様な建物の中にある石造りの舞台にいるようだ。
その舞台の階段の下で先ほどから少こちらを見ている集団に目を向ける。
集団はおそらく20~30人ほどだろうか、甲冑を着ている者と白いロープを
羽織っている者が半々という感じだった。現在の日本でも外国でも見ない格好だ。
先頭の甲冑を来た人物と目が合った瞬間、階段をゆっくり上がり、
二人の一歩手前で片膝をついた。
「突然のお呼びたて大変申し訳ございません。聖女様、従者様」
聖女、従者?質の悪いドッキリなのだろうか?誠司は思考を巡らせた。
「私はブルーボ王国騎士団副団長、スクトゥム・ガードナーと申します。」
スクトゥムと名乗る男は誠司とゆっくり目を合わせた。
「…ブルーボ王国、ですか?失礼ですがどちらの大陸にある国ですか?」
そんな国名聞いたこともないし名前も聞きなれないものだった。
「エルグランド大陸にございます。…ですがお二人がいた世界とは違いますので、
聞き覚えがないのも当然のことでございます。」
「え、世界が違う…⁉」
自分は寝ぼけているのだろうか、違う世界など聞き間違いでも理解したくない。
「左様でございます。お二人はこの世界を瘴気の害からお救いいただく為、召喚されました。」
「し、召喚って…そんなゲームじゃないのに…?」
呼吸が落ち着いてきた真由が声を震わせた。
「…大変申し訳ございません…これは本来こちらに住む我々が解決すべきことではあります…しかしながら、我々この世界に産まれた者では不可能なのです…」
スクトゥムは心の底から詫びている声で答えた。
誠司はふと階段下にいる集団に目を向けると、全員同じように片膝をついて
二人に申し訳ないという表情をしていた。
「…王国ということは君主がいる、あなた方はその方の命令で召喚を実行したのですね」
彼らの服装の種類は二つ、王ならば豪華な服を着ている者がいるはずだが、
ここにはいない。そして先ほどから申し訳なさそうにしている様子を見れば、
命令に逆らえず実行するしかなかったのだろう。
誠司の意図を汲んだのか、スクトゥムははい、と答えた。
「聖女と呼ぶからには目的は彼女だけですね、自分はたまたま近くにいたので巻き込まれた」
誠司は続けて口を開いた。
「話を整理させてください。問題の瘴気を解決できるのは別の世界から連れてきた聖女だけ。この世界のあなた方では出来ないのは例えば瘴気による害のため体を悪くしている…からですか?」
真由とスクトゥムは目を大きく開いて驚いた。
「えぇ、仰る通りでございます。…驚きました、突然理解しがたいことに巻き込まれて混乱されているのに、私との少しの会話でご理解されるとは…」
「ずっと混乱していますし、正直質の悪いドッキリか演劇かと思いましたよ」
誠司は自分の考えがあっていたことに少し安心した。
「でもスクトゥム副団長と後ろの方々の様子を見ると、自分たちに危害を加える様子もないですし」
確かに…と真由も改めて集団を確認すると、スクトゥム含め全員が武器を地面に置き手から離しているのだ。目の前のスクトゥムに至って丸腰だ。
「改めまして、我々はブルーボ王国国王、イノケンティス王より聖女を召喚するよう王命を賜りました。お二人の身の安全は私共が命に代えてもお守りいたします。ここはどうか、私共と共に王都へご同行願えませんか?」
スクトゥムは二人をまっすぐ見つめて言葉を発した。
「…ここで断っても自分たちは帰れないですよね?」
「…はい、申し訳ございません…」
何となく予想はついていたが今戻れる術はないのだろう、
ここはついていくしかない。
それにずっと腕の中で話を聞いている真由の顔色が優れない。
「わかりました。…横山さん、今はスクトゥム副団長についていこう…」
「……うん………」
真由は消え入りそうな声でうなづいた。あのまま公園で話さず帰っていれば、
早めに切り上げて解散していれば、そもそも再開したとき一緒に帰らなければ、
誠司を巻き込むことはなかったのに、自分一人だけの被害で済んだのに。
真由は激しく後悔した。自分はともかく誠司は未来を期待されている人だ。
夏休みも一生懸命勉強して志望大学に受験して前向きに進んでいくはずだ。
その貴重な時間を自分と一緒にいたから潰してしまった。
唇を強く噛み泣くのを必死に堪える。…恐らくバレているだろうが。
二人の散らばった荷物を集めてもらい、真由たちは騎士団と外へ出た。
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外へ出ると馬車が何台も待機していた。装飾も中世のようなデザインをしている。
神殿の辺りは木々が点在しており開けた丘の上にあるようだ。
夜でもここまで見えるのはひと際明るい満月があるからだろうか。
荷物を載せてもらい、二人はスクトゥムと共に目の前の馬車に乗り込んだ。
「今日はもう夜も遅いので近くにある騎士団の詰め所へ向かいます。
お食事とお風呂も用意させていますので、本日はゆっくりお休みください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
スクトゥムの号令で馬車が動き始めた。
誠司の横に座っている真由はずっとうつむいている。
スクトゥムもその様子を察したのかあえて声をかけることはしなかった。
誠司も窓の外を眺めながら、これからどうすべきか必死に頭を働かせていた。
きっと王は聖女しか求めていない。自分もいると知ればどう反応するのだろうか。
騎士は約束を守るというので命だけは助かるのだろう、誠司はそっと目を伏せた。
今日は予想外のことが多すぎて頭が痛くなってきた。
とりあえず傷ついている彼女のそばにいれるよう上手いこと立ち回るしかない。
誠司は決意を固めて目を開けた。
そんな一行の様子を、頭上で輝く満月と星々が見守っていた。
登場人物補足
〇スクトゥム・ガードナー
ブルーボ王国騎士団の副団長。年齢は30歳。赤色に近い茶髪の超イケメン騎士。
ガードナー家は王国騎士団長を代々務めている貴族。父親が騎士団長で弟も騎士。
結婚しており2歳の息子がいる。最近王の無理難題な命令で胃が痛い。
聖女を召喚して連れてこいと言われた際、大反対したら給料を減らされた苦労人。
だって召喚ってもう強制誘拐だろこんなの騎士のやることじゃない…(´;ω;`)と奥さんに泣きついた。