表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
18/52

23代目聖女一行

次の日、朝食を済ませた一行は早速マンモルの魔法学院に向かっていた。

広大な敷地にこれまた荘厳なつくりの校舎や資料館、そして図書館が併設されている。

誠司は図書館で調べものもしたかったが時間があるかなと心の中で少し考えていたが、今は学院長に会うのが最優先だ。


「マンモル魔法学院王立図書館へようこそお越しくださいました。私は学院長兼館長のジュールと申します。」


白く長いひげを蓄えた老人が一行を出迎えてくれる。物語の中に出てくる歴戦の魔法使い、という風貌の男性だった。


「お世話になります。ジュール学院長。」


普段はクラノスが挨拶を返すが真由は気づいたら自身から挨拶をしていた。

やってしまった、と一瞬焦ったがクラノスがニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。


「25代目聖女真由様ですな、先日激闘の末マンモルの瘴気核を浄化していただいたと伺っております。マンモルの民の一人として心よりお礼申し上げます。」


「い、いえ…!私だけじゃなくてここにいる仲間たちや協力していただいた皆さんのおかげです…!」


深々と頭を下げる学院長に手を振ってワタワタとしながら返す真由。いまでもこういう時どう返していいのかわからないのである。


「…真由様の謙遜されるお姿を見ていると、23代目様を思い出しますね…」


学院長は慌てる真由といいじゃんいいじゃんと笑う誠司たちを見ながら懐かしそうにつぶやく。思わぬ言葉に真由と誠司はすぐさま反応した。


「23代目様と直接お会いしたことがあるんですか?」


「えぇ。もちろんございますよ。何せ23代目様の旅に同行したメンバーの一人は学院の卒業生でしたので、旅の途中ここに寄ったときにお会いしましたよ。」


学院長はフォッフォッフォと笑いながら髭をなでた。城で読んだ記録にはメンバーの詳細までは書いていなかったのだ。…ますます記録としてどうなのかと思うが。


「あの、良ければ詳しく聞かせてもらえませんか…?」


「もちろん構いませんよ、本日はそのこともお話ししたいと思いカリッドに伝言を頼みましたから」


真由の申し出に学院長は優しく微笑むと館長室へと案内してくれた。

---------------------------------------------------------------------------

「さて、まず23代目様と救済の旅同行者についてお話しますか」


通された館長室でお茶とお菓子を用意してから学院長はゆっくり話し始めた。


「まずは23代目聖女様、フユミ・オノダ様。知性と品性を兼ね備えた美しい女性で、浄化魔法と風属性の攻撃魔法がお得意でした。植物がお好きでご実家は農家を営まれていると仰っておりましたよ。」


実家が農家だったとは、それなら結婚後農園を営んでいたのもわかった気がした。


「続いてエルフ族の戦士、アルベルト殿。魔法も得意ですが見事な槍使いで亜種連邦の中でも指折りの実力者です。魔王討伐後、フユミ様にプロポーズをして受け入れられた時喜びのあまり三日三晩踊っていたそうですよ。」


「よっぽど惚れ込んでいたんでしょうね、面白い武人だ。」


クラノスが優雅にお茶を飲みながら微笑んだ。きっと手合わせ願いたいのだろうか、昨日見た真っ赤な照れ顔が嘘のようだ。


「続けてサクラ公国の現公主のマサノブ公。アルベルト殿の友人で当時はまだ御父上が公主でした。刀というサクラ公国独自の武器を用いてフユミ様を果敢にお守りしていました。」


刀に名前は日本風だ。やはり関連があるのだろう、誠司は後で聞いてみることにする。


「あとはドワーフのエノス。ドワーフ族の戦士です。優秀なタンクで料理がとても得意でパーティの父親的な存在でした。そして…最後は本学院の卒業生にして王宮魔術師だった、カタリヤ・シャルムです。」


「…あの、エノスさんとカタリヤさんは…もしかしてお亡くなりに…?」


エノスとカタリヤの時だけ過去形で少し声を落とした様子に真由は嫌な予感を感じながらも尋ねた。学院長は目を細めるとゆっくりと口を開いた。


「えぇ、エノス殿は20年前に。元々老人でしたので老衰で亡くなりました。そしてカタリヤは…八年前、アンヴァル遺跡群調査隊の同行中に行方不明になりました。探検隊が全滅したと結論づけられましたので、カタリヤも生きてはいないでしょう。」


「探検隊が全滅…そうか、その時のメンバーか…」


クラノスが口に手を当ててつぶやく。王家に近い家なのでその時の様子を覚えているのだろう。


「…真由様達はアンヴァル遺跡群について教示はありましたか?」


「いえ、23代目様ご一行が魔王を倒した地で、山々に囲まれて高低差が大きくよほど対策をしないと入るのが危ないということしか…。」


誠司が答えるとそれだけでも充分ですけどと学院長が続けた。


「あそこは遺跡群というだけあって数多くの遺跡があります。露出しているものや、山肌と合体して洞窟になっているような場所も。おまけに高低差が大きく常に霧が発生しているため、全容が解明されていません。数年おきに探検隊を派遣して調査をしていますが、8年前、探検隊が全滅してから調査が途絶えています。」


「瘴気の核があるんですよね、それの観測したのはいつですか?」


「観測隊が全滅する前、最後の報告書に核を発見したとありました。…住み着いた魔物にやられたのか吹き出した瘴気の核にやられたのか…いまだに原因がわかっていません。優秀な研究者が大勢亡くなったのが一番痛いですね…」


学院長が目を伏せる。カタリヤは王宮魔術師と言っていた。そこまで才能があり、旅に同行して世界を救ったのだ。きっと今生きていれば偉大な魔術師として目の前に学院長と座っていてくれただろう。真由は悲しくなった。学院長もどれだけ悲しかったことだろう。


「…話を戻しましょうか、そうですね、瘴気の核についてお話ししましょう」

---------------------------------------------------------------------------

「瘴気の核は我々が生活していく中で産まれる様々な負の感情の塊、ということはご存じだと思います。ではなぜ大きい街の近くに発生するのか、何となくお分かりですか?」


「単純に人が密集しているから…だと思っていましたが、シーノルも、マンモルも必ず森にありました。偶然かなと思っていますが、それだったら街の真ん中にできてもおかしくないかなって…」


学院長は真由の正直な答えにふむふむと髭をなでた。


「もちろん人がいる場所にできやすいというのはあっております。…実は瘴気の核は歴代聖女様が浄化された場所と同じようなところに再発しているのです。それも森にや洞窟といったあまり人が立ち入らない場所に。」


「同じ場所か…。確か、恵みの力を使っていると瘴気は大地の穢れとなって発生するんですよね、シーノルの時も今回も、大地がえぐれたようなクレーターがありました。最初できたところが瘴気が溜まりやすく、毎度そこに核ができる…そんな感じですか?」


メモを取りながら誠司が学院長を見つめると学院長は満足そうに頷いた。


「素晴らしい洞察力です。そう、大地が汚れる、それはつまり自然の怒りでもあるのです。その影響で一度できたクレーターに核が繰り返し発生しやすいのです。」


「そっか…それだったらこれから行く場所もほとんど先代様達が浄化していった場所なんだね」


真由はふと何かが頭をよぎった。泣き叫ぶ少女、一昨日倒したあの魔物…ぼんやりとだったが何か引っかかる気がする。でも思い出そうとすると頭痛がする。


「現在観測されている瘴気の核の場所は23代目様が浄化された場所と完全に一致しています。ここまで一致しているのは驚きですが…。」


これも何かの導きなのだろうか、真由は頭痛のことから意識を変えて学院長の話の続きを待った。


「フユミ様は今の真由様達と同じ年齢で召喚されました。突然巻き込まれて混乱しているのにも関わらず、懸命に浄化に協力してくださいました。今の真由様達と同じように。…初めてここでお会いした時、少しだけ二人でお話させていただきました。風魔法について教示させていただきました。」


学院長は懐かしそうな瞳で真由を見つめる。きっと今真由が座っている位置にフユミも座ったのだろうか。


「…城をでてから泣き言を一切話さないと事前にカタリヤから聞いていました。私はふときいてしまったのです。お辛くないですか、と。フユミ様はこう答えられました。『私の人生は変わってしまいました、今故郷に戻ってもセンター試験が終わっている。大学には進学できない、家族にも会えない、ならここで頑張るしかもう私には残っていないのです』と。」


「センター試験‼‼‼?ってことは高校三年生で召喚されたのかな…そうか…」


誠司は思わずセンター試験の言葉に飛びあがった。真由はセンター試験を受けるかも今のところ不明だが、誠司のように必死に頑張っている生徒には大打撃だろう。


「お聞きしたところ、日本でも指折りの大学に進学されたかったそうです。農業の研究をして、ご実家や地元に貢献したかったと。本当に我々は申し訳ないことを…。」


指折りということはもしかして旧帝大だったのだろうか。そこまで狙える学力と意欲があったのならますます悔しかったのだろう。隣でこぶしを握る誠司の手に真由はそっと手を重ねた。


「あの、フユミ様…自分の世界のことについて言っていませんでしたか?地名とか…歌とか…」


「そうですね…あまりご自身の世界のことは頑なに仰いませんでした。あぁですが、一度だけ歌っているのを聞いたことがあります。確か在学されている学校の歌だと。」


「校歌か!どんな歌だったか覚えてますか?」


学院長はうろ覚えですが…と少し口ずさんだ。真由は聞き覚えがなかったが、横の誠司がえ、と驚愕の声を発した。


「あの、こんな歌でした?」


と言って誠司は歌をつづけた。どうやら誠司が通う第一高校の校歌の様だ。


「おぉ、それです、その歌です…‼‼‼‼懐かしい、もう一度聞けるとは思っていませんでした」


「第一高校の生徒だったのか…‼‼‼ってことは、もしかしてフユミさん…」


感激する学院長をよそに、誠司と真由は顔を合わせて声をそろえた。


「神隠し事件の被害者…‼‼‼‼‼」



長くなるので区切ります!


登場人物補足

〇ジュール・ソルセルリー

マンモル魔法学院と王立図書館の長。魔法学者にして風属性の魔法の達人。風貌はTHE魔法使いのおじいちゃん。毎朝髭の手入れをするのが日課。記憶力がすごくいいのは自分の経験や記録を魔法書に落とし込んでいるから。フユミの歌もそれで覚えていた。歌詞は聞き取れた部分だけしか書いていないが、誠司には自身の学校の校歌だとすぐ気づいた。実はカタリヤの親戚にあたる。


〇カタリヤ・シャルム

23代目聖女の旅の同行者にしてブルーボ王国の王宮魔術師。魔法学院を首席で卒業したあと王宮の結界の維持や専門の学者として仕えていた。8年前アンヴァル遺跡群の調査に同行し行方不明になる。捜索が打ち切られ死亡と判断された。


〇エノス

23代目聖女の旅の同行者。ドワーフ族のおじいちゃん。旅が始まった時点で結構な歳だったようだが魔王討伐までしっかり仲間を守り抜いた。料理が得意だった。20年前老衰のため亡くなる。


〇フユミ・オノダ

召喚時、神山第一高校の3年生だったようだ。校歌を口ずさむほど高校生活が楽しかったのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ