激闘 第二の瘴気核
さらに馬車に揺られて二日後。一行は芸術の街マンモルに到着した。
道中魔物と何度か遭遇し戦闘があった。生活道路にまで出てしまったかと真由は焦りを感じた。
次の目的はマンモル近郊の瘴気の核の浄化だ。早めに対処しなければならない。
ひとまず騎士団の詰め所へ行き情報を収集することにした。
「お待ちしておりました聖女ご一行様。ご無事に到着されて何よりです。」
待機していた部隊長に挨拶を受け真由たちはお礼を言った。
「部隊長殿、我々がこちらに向かう途中魔物が街道に出現しました。乗り合いの馬車も頻繁に行きかいますし警備を強化してもらえますか?」
「ふむ…そちらまで出てしまいましたか…。実は最近はマンモルからストラス方面の街道によく魔物が出るようになっていまして、そちらの対処に人員を割いている状態です。」
クラノスの報告に部隊長は少しため息をついた。顔をよく見ると疲労しているようだ。目の下にはクマが出てきている。
「ストラスから人員を割いてくれないのか?」
「多少はしています。ですが国境と亜種連邦の間のブルーボ平原で魔物が大量に出現していまして、ストラス隊はそちらの対処で精一杯です。」
アイラが出された紅茶を飲みながら隊長に尋ねる。隊長は頭を振って声を落とした。誠司がふむと口に手をあてて考えてから口を挟んだ。
「…これも瘴気の影響ですか?」
「えぇ、それもありますが。ちょうど魔物の活動期も重なっています。」
「活動期?」
真由の疑問にそれはねとクラノスが口を開いた。
「魔物には活動期と休息期が交互にあるんだ。活動期には積極的に栄養を蓄えて休息期になると巣穴で子供を作る。そのまま育てて次の活動期でその子供が栄養を蓄えて…と繰り返すんだ。」
冬眠のようなものだろうかと真由は納得した。ちょうど重なってしまえば確かに対処も手一杯になってしまうだろう。
「亜種連邦からも応援はありますが、自国の防戦に手一杯です。お互いにぎりぎりの状況です。」
「…それならすぐにでもマンモル近郊の核を浄化してストラス隊の負担を軽くするのが良いんでしょうか…?」
真由が恐る恐る意見を口にする。予定では明日に問題対処をする手筈だった。
「それはありがたいお話です。正直今すぐにでもお願いしたいところでした。」
部隊長が藁にも縋る思いで顔を上げた。クラノスとアイラが少し考えているようだが。
「同行可能な部隊の用意はできていますか?」
「えぇ。ヴァランスから皆様が出立されたと連絡が届いてから休養を取らせて万全にしてあります」
「…真由と誠司は大丈夫かい?」
心配そうに見つめるクラノスに真由と誠司はすぐうなづいた。
一刻も早く事態をおさめ、住民の不安を取り除きたい。
「心より感謝申し上げます。では出発は一時間後にいたしましょう。魔力消費を防ぐため、聖女様は核に到着するまでなるべく戦闘を避けてください。神官と攻撃魔法の使い手も数名配備しています。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
真由は気合十分の様子だが、誠司は少しだけ不安を覚えていた。急に対処できるのだろうか?しかしやらねばならない。誠司は深呼吸をして気持ちを整えるのだった。…ここ数日息を深く吸うとほんの少しだけチリチリとした痛みを覚えるのを感じながら。
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一時間後。騎士団の部隊と顔合わせをしてから出発した。
前回のシーノルより人数が増え、浄化と回復担当の神官以外にも攻撃魔法専門の魔術師がいるのが大きな違いだった。
「給料も良いし、一般市民が働くにあたって国内で一番安定した仕事なんですよ。まぁ危険ですけど…」
道中若い魔術師、カリッドは笑って教えてくれた。彼はマンモルの魔法学院を卒業後そのまま騎士団に入団したという。
「そうそう、住むところも確保できるし学が無くても良いし。何だったら礼儀作法も教えてくれるからアタシらみたいな一般市民にはすごい理想なんだよ。」
アイラもうんうんと頷きカリッド含め数名の団員とねーっと声を合わせた。
「ほかの職業になるっていう選択は無かったの?例えば…役場の職員とか、建築士とか…」
「あるにはあるぞ。ただ少なくとも基本教育終わった後上の学校行かないとなれないんだよ。上の学校行くには金がかかる。貧しい家だと学校に進学できないから、基本教育終わったら家が農家だったら農家になる、漁師だったら船に乗る、みたいな感じかな。その辺は高等学校に行くより早く働いて覚えた方が良いんだ。」
基本教育は現代で言うと小学校~中学校に当たるようだ。7歳から15歳までが対象で読み書きや計算などを学ぶ。その後は魔法学院のような専門の学校に進学するか働くと以前クラノスが教えてくれた。
「まぁ基本的に家業を継ぐことが多いから、自然と産まれた家でそのまま職が決まるようなものだよ。王を支える政務官…議員や大臣は貴族の家系しかいないんだ。」
クラノスもさらに教えてくれる。やはり議員はどこも世襲なのかと誠司は既視感を感じた。
「ま、自分みたいに一般家庭でも魔法の素質があれば特待生で魔法学院入れてくれますからね。結局騎士団に入りましたけど、もうちょい才能があれば研究者に…いや俺の学力だと無理か」
カリッドがあっけらかんと笑った。王国の人間で魔法を使える人は貴重なのだという。貴族が多く魔法の素質があるが彼のように一般の家庭にも時折魔法の素質がある子供が産まれるという。
「そっか…自由に進路を選べる俺たちって結構恵まれているんだね…」
誠司がぼんやりしながら呟く。真由はそういえば自分の進路全然決めていなかったと少し反省していた。もちろん学力が無いので高卒で就職…と思ったが雇ってくれる会社があるだろうか。それなら短大に進んで少しだけ可能性を増やすのもいいだろう。高校二年生でこれは遅い気がするが。
「前方に魔物確認!!戦闘用意!!」
部隊長の号令で一気に空気が変わる。真由と誠司も切り替え武器を手に取った。
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瘴気の核に近づくにつれ空気が淀んできた。マスクを装着した一行は何度か戦闘をしながら森の奥へと進んだ。シーノルの時より淀んでいるのが分かる。
「おかしい…報告だとこの辺りに核があるのに…」
クレーターを覗き込みながら神官が首をかしげる。事前の打ち合わせではシーノルと同じように核はクレーターにあるという話だったのだが…。周りの騎士団員が警戒している。先ほどから狼型の魔物が多く出てくる。巣穴が近いのだろうか?真由は仲間たちに援護をお願いすると杖を構えて目を閉じた。瘴気の気配を探ってみる。空気中に散乱した瘴気のせいで探りにくいが、少し離れた場所で瘴気が固まっている地点がある。これが核だ。しかし、動いているように感じる。
「…確かに核はあります。でも動いているような…」
顔を上げて神官にそう伝えたとき、強い風が吹いた。と、同時に団員の悲鳴が聞こえる。
急いで声の方を振り向くと、巨大な鳥が一行の上空にいる。…直視したくはないが、その嘴には騎士団の甲冑装備の腕の部分が見える。真由は確信した、あの魔物に核が寄生していると!
「あの魔物に核がついてます‼‼‼‼」
真由の声に即座に全員戦闘態勢に入る。怪鳥の鳴き声に狼型の魔物がわらわらと出てきた。
魔術部隊が攻撃魔法を鳥類に向けて一斉に放つ。鳥は憎らしいほど優雅な動きで魔法を躱している。
片腕を取られた兵士は神官と団員数名で救護に当たっているようだ。真由は地面にできた血だまりを見て吐き気が込み上げてきた。でもここで吐くわけにはいかない。瘴気を浄化せねば。
「他人の心配も良いけどまずは魔物に注意しろ!飛行型は厄介すぎる!」
アイラが狼型の魔物を切り捨てながら指示を出してくれる。真由は震える膝を叩き魔法の準備をした。
鳥は浄化魔法のぎりぎり射程圏外を飛んでいる。今の真由の実力では届かない。だがシーノルの時より瘴気が濃いので早めにどうにかしなければ全員の命が危ない。マスクをしていても瘴気は完全に防げないのだ、どんどん動きが鈍りやがて肺を腐らせ死に至る。真由は必死に魔法を展開していった。
「よりによって飛行型に核がついているなんて…!」
誠司が思わず悪態をつく。以前初めてアイラと共闘したときにいた飛行型は小型だったので石を当てて体勢を崩す、という技ができたが今回は大型だ。足元の石ころなんて足止めにもならない。
「防御魔法展開‼‼」
鳥が力を溜めているかと思えば攻撃魔法の様だ。部隊長の声に誠司たちは真由のもとへ走る。真由は仲間たちと駆け寄ってきた団員たちをかけることなく包むように防御魔法を展開した。その瞬間、黒い炎が飛んでくる。聖女の力のおかげでこちらはノーダメージだ。
「これ何度も来たら防ぎきれないよ…‼‼」
誠司が息を吐きながら数メートル後方の神官が展開している防御魔法を確認する。
あちらも攻撃は防ぎ切ったようだが、少し瘴気を吸い込んだのか何名かが片膝をついて苦しそうに呼吸している。
「ジリ貧だ…‼‼」
飛んでくる鋭利な羽を盾で防ぎながらクラノスが体勢を整える。地上に落とさないととにかく近接武器の自分たちは攻撃できない。
「…そうだ‼‼‼誰か‼‼ホーミングの攻撃できる人いますか‼‼??」
誠司が魔術師たちに声をかける。だが顔を青くした魔術師たちが首を横に振っている。
「できるやつがいましたけど、今腹やられて回復に専念しています‼‼」
カリッドが大声で返してくる。真由から聞いた話だがよほど腕が無いとホーミングに変化できないらしい。絶望的な状況に誠司はさらに思考を加速させる。
じわじわと負傷者が増えている。撤退して戦力を揃えたいが空を飛ぶ敵からどう逃げればいいのか。
真由も必死にどうすべきか考えていた。どうにかして浄化したい。幸いにも今回の核はシーノルのような守りの壁がない。おそらく魔物の体自体が壁なのだろう。
ここでふと、一つの案を思いついた。一瞬動きを止めて攻撃を当てればいいのだ。
さらにまだ動け、自分よりも射程が長い攻撃魔法を使える魔術師が数名いる。近接武器の戦闘員は狼型の魔物にかかりっきりだ。真由はこれしかないと杖を握った。
「あの!目くらましというか閃光みたいなの使える人いませんか⁉」
聖女の言葉に団員たちは上空の敵や目の前を警戒しながら真由の声に反応した。
「一瞬でも相手が止まればいいんです!魔法攻撃の準備中の瞬間でもありですけど!止まった時に強い攻撃魔法をぶつけて地面に落とせませんか‼‼?」
「閃光弾は私が持っています‼‼攻撃特化のカリッドとエミールは最大火力を用意しろ‼‼」
部隊長がバッグから閃光弾を取り出し指示を飛ばす。カリッドとエミールと呼ばれた魔術師は詠唱の用意を始めた。
「浄化は最大火力で真由ちゃん行ける?」
「もちろん、絶対に浄化してみせるよ」
作戦に同意した誠司が真由と顔を合わせる。真由は力強くうなづいた。本当は自分がホーミング攻撃できればここまで苦労はしないのだろう。悔しい気持ちでいっぱいだった。
「よし、カリッドさんたちが用意できるまで引き付」
「二人共後ろ‼‼‼‼‼‼」
誠司の言葉の途中でアイラが叫ぶ。いつの間にか狼型の魔物が飛びかかっていた。
誠司はとっさに横にいる真由を突き飛ばした。真由は背中から転んだ。
「誠司君‼‼‼‼‼‼‼」
真由がすぐ顔を上げる。誠司は顔を覆いながらも魔物を切っていた。
アイラがすぐ駆け寄り弱った魔物を蹴り飛ばした。真由もクラノスの盾に隠してもらいながら起き上がり誠司のもとへ駆け寄る。
「大丈夫、剣で軌道なんとかずらしたから…!」
すごい反応神経だ。誠司は真由を突き飛ばした後、即座に剣を構えて自身の顔を狙っていた魔物の爪の軌道をそらしたのだ。ただ、左頬を掠ってしまいマスクが壊れている。
「予備のマスクを早くつけるんだ‼‼真由、すぐ浄化の用意を‼‼」
クラノスとアイラが即座に二人を守るように囲んでくれる。誠司は急いで予備マスクを着けようとしたが上空の鳥が羽を飛ばしてきて、さらに背後の草むらから魔物が飛び出してくる。
「あぁもううっとおしい‼‼‼」
「魔法の用意は‼‼‼?」
クラノスが盾で羽の攻撃から仲間を守りながらカリッド達を見る。
「用意できました‼‼真由様いつでもいけます‼‼」
「よし閃光弾を…‼‼‼」
部隊長が閃光弾を構えようとした瞬間、鳥がひと際素早く羽を部隊長に向けて放っていた。気付くのが遅れた部隊長の腕と足にに羽が刺さる。
「部隊長‼‼‼」
アイラが嘘だろ‼‼?と魔物を切り捨てながら叫ぶ。魔法を用意していた真由がまずいと思った刹那、横から誠司が全力で走っていった。
「作戦はそのまま続行するよ‼‼‼‼」
身体強化ですぐ駆け寄った誠司が部隊長の手からこぼれた閃光弾をつかみそのまま鳥の眼前めがけて全力で投げつける。飛んでいる鳥の羽に当たった閃光弾はまばゆい光を放った。
「カリッドさん‼‼‼‼‼」
誠司の声にカリッドとエミール、それに追加で詠唱していた魔術師が巨大な雷の球を鳥に放つ。
閃光でひるんでいた怪鳥は反応が遅れ雷球に当たり悲鳴を上げる。
空中の覇者はそのまま地上にゆるゆると落ちてきた。
「真由‼‼‼‼‼‼‼‼」
クラノスとアイラの声に、真由は全力の浄化魔法を射程圏内に落ちてきた怪鳥に向かって展開した。
怪鳥の体全体を包むような光に怪鳥はさらに悲鳴を上げて抵抗する。
この声にまたほかの魔物が集まってこないか真由は心配になったが、それよりも核をどうにかしないといけない。必死で祈りを捧げ浄化に集中する。神官たちも協力してくれている。聖女は残っている魔力ほぼすべてを注ぎ込むように展開を続けた。
「お願い…‼‼‼」
怪鳥の断末魔がひと際大きく響いたその瞬間、核は完全に砕け散った。
黒い霧がどんどん光の粒になって幻想的な光景を写し出す。浄化成功だ。
騎士団員たちが歓喜の声を上げる。ふらふらになった真由はアイラに支えられながら地べたに座り込んだ。
「よくやったぞ真由~~」
アイラがよしよしと頭をなでてくれる。真由はえへへ~と照れながらアイラに寄り掛かった。
前回のように気絶とまではいかないが、今回もほぼ魔力を使い切っている。しばらく戦闘には参加できないだろう。水を受け取ってゆっくり飲み込む。
「誠司‼‼‼」
部隊長と誠司のもとへ駆け寄っていたクラノスが大声を上げる。真由は驚いて立ち上がろうとするが起き上がれない。アイラにおんぶしてもらい誠司のもとへ走る。
そこにはなんとマスクをしていない誠司が激しくせき込んでいた。
「お前予備のマスクしないまま突っ切ったのかよ⁉」
アイラが真由をおろし誠司の背中をさする。二人がいた位置は怪鳥の近くて瘴気が濃かった。そんな中誠司はマスクなしで閃光弾を放っていたのだ。
「いや…鞄の中に…マスク入ってなくて…部隊長に向かって羽の攻撃見えたからそのまま…行っちゃった…」
せき込みながら説明する誠司にクラノスは失礼と誠司のバッグを漁った。
「本当だ…なぜ入っていないんだ?これは兄さんが用意した物だよね?」
「うん。私のバッグにはちゃんと予備入ってるよ…。」
残りの魔力で誠司に浄化魔法と治癒をかけながら真由は自身のバッグを渡して中身を見せた。あの慎重で思いやりのあるスクトゥムが誠司の分だけ予備を入れ忘れるはずがない。
「申し訳ありません誠司殿…私が攻撃をかわせなかったばかりに御身にご負担を…」
神官に治療してもらった部隊長が深々と頭を下げる。
「いやいや、連戦で疲れ切っていたんですから、かわせなくて当たり前だと思います。何よりも助かってよかったです。」
誠司は部隊長の手を取って首を横に振る。部隊長は深く何度も感謝していた。
「ひとまず詰め所まで戻りましょう。…今回は重症者が多い…」
クラノスが誠司を背負い部隊長に声をかける。部隊長はそうですな…と部下たちを集める。
真由は地面についた血の跡をぼんやりと眺めていた。もっと力があればもっとスムーズに事を進められたのに。今回も誠司の機転のおかげでなんとなかった、しかし何度も上手くはいかないだろう。
「聖女様、我々のためにお力をふるっていただいてありがとうございました。騎士団にいる以上命のやり取りは当然のことです。全員覚悟をして臨んでおります。」
寄ってきたカリッドを始め数名の騎士団員が真由に膝をつく。ゆっくりと顔を向けると各々血が滲んでいるのが見える。
「召喚されてからまだひと月ほどでしょう。それでも我々のためにご尽力いただいていることに何よりもお礼申し上げます。」
深々と頭を下げる騎士団員に真由はそんな…と止めようとしたがアイラがそっと肩に手を置いた。
「今回は全員が持てるすべてを出し切って事態を解決しました。重症はおりますが死者はいません。聖女様のお力がなければ我々も、そして街の民達も死んでいたでしょう。本当にありがとうございました。」
「…いえ…私…感謝されるようなことなんて何も…」
うつむく真由に誠司がそっと声をかける。
「大丈夫だよ、真由ちゃんがいなかったら浄化できなかったんだから。今はみんなの生還を喜ぼう」
「…うん、そうだね、皆さん、一緒に生きて帰れることがとても嬉しいです。一緒に戦ってくれてありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げると騎士団員も恐れ多きお言葉です!と感謝の意を表した。
その後重症者を馬車に乗せ一行は街へと帰還するのだった。
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その日の夜。真由とアイラはクラノスと誠司の部屋へ呼ばれた。
「兄さんに至急確認したがやはり予備のマスクは入れていたらしい。ベルメール神官長とも二度確認して二人にバッグを渡したそうだよ。」
詰め所に帰った後核を浄化した報告と誠司の予備のマスクについてすぐ手紙を出していた。すぐに届いた返信を見せながらクラノスは険しい表情をしていた。
「マスクの大きさ的に落としたらすぐ気付くし、誰かにあげたわけでもないし…」
横になっている誠司がどっこいしょと何度もバッグを漁る。
あの後真由ももう一度バッグを確認したが荷物はすべてそろっている。
「もしかしてスリか…いやバッグに手突っ込んでマスクだけ出すなんて無理だよな」
そもそも蓋を開ける時点で気付くしとアイラが首をひねった。
「あまり考えたくはないが、風呂などでバッグを外しているときに盗まれたのだろう。団員の仕業とは考えたくないが…ひとまず各自より警戒していこう。」
クラノスの言葉に真由と誠司ははいと返事をした。
「ストラス隊からの連絡で、亜種連邦から増員があったので人員に余裕ができたそうだ。みんな疲れているだろうし、マスクの修理もあるから出発は三日後にしよう。」
「そんなに余裕あってもいいのかな…でも俺図書館でちょっと調べものしたいな」
誠司がカリッドから聞いた魔法学院の図書館に興味があるようだ。…すでにベッドのサイドテーブルに何冊も本が積まれているのにまだ読むのかと真由は内心驚いていた。正直寝ててほしいところである。
「いいんだよ、亜種連邦の応援の中に連邦最強の戦士がいるらしい。彼のおかげで魔物が撤退しているようだよ。今のうちにありがたく休養を取ろう。」
「え、すごいなぁ…会ってみたいけど、私も魔力ほぼないからお休み欲しいなぁ」
クラノスから報告書を受け取り真由は目を通していた。どうやらエルフ族の戦士で、魔法は攻撃と浄化、それに治癒もできて最前線で魔物を倒せる優秀すぎる槍使いのようだ。
ここまで万能だったらいいのになぁと真由は自身と比べながらいつか会えたら指導を受けたいと思っていた。
「ここまで急ピッチで来たんだし休もうぜ。そーだクラノスよ、フローレンスが欲しがってる剣の鍔の店って確かこの街の店だぞ」
「そうだった!買って送らねばいけないね。ありがとうアイラ。」
「アクセサリーより剣の鍔で喜ぶ貴族令嬢…」
誠司は二人の会話を聞きながらベルメール神官長が泡を吹いて倒れないか少し心配していた。真由はそんな仲間たちの様子を笑いながら眺めていた。その後、部屋に戻りベッドに入った。
今日は突貫で核を浄化したが、もっと力をつけねば五体満足で帰ることはできない。真由は腕がちぎれた団員や他の重傷者と地面にできた血の跡を鮮明に思いだし、彼らにひたすら心の中で謝っていた。次の核は激戦地ストラスだ。少しでも力をつけることを固く誓い、目を閉じるのだった。
長くなりました…(;´・ω・)
エルフ族の鬼つよ戦士は何だかんだ重要人物です。後でまた出てくる予定です!