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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
15/52

この地で生きる人々

誠司の温かい気持ちに触れた翌日の午後。

一行は港町から乗り合いの馬車に乗り次の街を目指していた。

馬車には商人やヴァランスに買い物に来ていた親子が乗っている。

真由たちは乗り合わせた人たちと会話をしていた。


「この先のモンマルまで行かれるのですか、あそこも面白い町ですよ」


休暇で実家へ帰るという商人が眼鏡を拭きながら微笑んだ。

国に関する本を確認すると芸術の街、と書かれている。


「何せ王都より大きい劇団や美術館、魔法学院がマンモルにあるのですよ」


「へ~~…って王都より大きいって…国としてそれはありなのかな…」


誠司が思わず言ってしまう横で真由も頷いていた。だいたいそういうのは首都にあるのが一般的である。


「確かにそうなんだけどね、でもマンモルはちょうど海路貿易拠点のヴァランス、国境の街ストラスの間にあるんだ。国境を超えるとすぐ亜種連邦の首都があるから、海路と陸路で絵具とか本とかそういったものが手に入りやすいのさ。」


「土地柄そういうものに一番最初に触れるから発展しやすかったんだね。」


クラノスの解説に真由は納得した。奥まった場所にある王都より外に近い街の方が発展が早いのだろう。


「ヴァランスは商い、ストラスは防衛の意味合いが強い街ですから、マンモルが間を取って芸術に特化した街になったのですよ」


商人も穏やかに微笑みながら教えてくれる。感心しながらも誠司は一つの疑問を持った。


「…こうしてみると王都って閉鎖的というか…ほかの国の首都とも距離が離れているし貿易とか考えると不便そうだよね…」


「言われてみれば確かに…‼‼‼」


全然意識したことがなかったのだろう、アイラがハッとした表情でうなづいた。


「…アイラ、騎士団の座学でやっただろう…」


クラノスのただならぬ視線を向けられてアイラはそそくさと真由にくっついた。


「王都ははるか昔アンヴァル遺跡群に住んでいた部族が作った街なんだ。そこから聖神殿で女神を祀り、恵みの樹を女神から賜った地を首都として定めたんだよ。」


「じゃあ貿易とかより遺跡や神殿の守護が目的ってこと?」


真由の問いかけにクラノスはそうだよと微笑んだ。アイラが小声でソウダネッと頷いていた。


「王都にも魔法学院があるけど、こちらは神官を目指す人向けで小規模なんだ。一般的な魔術師を目指す場合はマンモルの学院に進学するんだよ。」


「マンモルの芸術に溢れた豊かな発想力が魔術師にはとてもいいですから、そういう理由でも面白い街ですよ」


商人とクラノスの言葉に真由と誠司はますますマンモルへ向かうのが楽しみになっていた。

その後しばらく馬車に揺られ会話を楽しみながら停留所の村へと向かっていた。

---------------------------------------------------------------------------

村に着いたのは午後三時頃だった。また馬車に乗り継いで次の停留所の村へと向かう予定である。ヴァランスからマンモルまではすべて馬車で2日ほどかける予定だ。


「ずっと座ってるのも体が痛くなるね…」


真由は伸びをしながら次の馬車を待っていた。ずっと徒歩で行くのも疲れるので馬車が楽なのだが、腰とおしりが痛いのだ。


「まぁ国境越えたら亜種連邦の首都まで徒歩だからな。今のうちに体休めておこうぜ」


アイラも伸びをしながら声をかけてくれる。今のところ魔物も出現していない。

このまま穏やかに続いていくれればいいのだが。


こうしていると次の馬車が来た。村の住民と共に乗り込む。今度は年老いた男女だった。先ほどの親子と商人は違う方向の馬車に乗り継いだようだ。


「こんにちは。次の村までよろしくお願いします。」


誠司が男女に声をかける。男女もこちらによろしくお願いしますと返してくれた。


「旅のお方ですか?最近ストラス方面で魔物が活発化しているようで…気を付けてくださいね」


「瘴気の影響ですかね…ありがとうございます。」


その後会話をしていると男女は夫婦で次の村に住んでいるようだ。この村の友人宅へ泊りに来てこれから帰るとのことだ。


「王都からいらしたんですか⁉それははるばる大変でしたね…。王の暴政でまたスラム街が増えたとか聞きますし…」


「えぇ…暴動もあったり商人ギルドへ課税をしようとしたり…国民としても不安ですよ」


夫婦とクラノスの会話にスラム街もあったのかと誠司は心の中で驚いていた。確かに冷静に考えれば自分たちは騎士団の保護下にいてずっと王城にいたのだ。街の様子は一度しか見れなかったし、その時も大通りしか行かなかったのだ。王都の様子を詳しく知らないもある意味当然である。…真由を連れてスラム街には行けるわけがないが。


「役人が村に税の取り立てに来るんです。近年あまり作物も取れず生活は苦しいのに…魔物を狩れれば報酬が入りますけど、私たち武芸も魔法も才能なくてできません…」


「…王の暴政って結構前からなんですよね?以前はどうだったんですか?」


真由は自分達あまり外に疎くて…と付け加えて聞いてみた。夫婦はまだお若いですもんねと微笑んで教えてくれた。


「10年ほど前から…でしょうか。ちょうど王子が産まれてすぐの頃ですね。その前はイノケンティス王は在位してからずっと国民に寄り添った王様だったんです。その前の王は今のイノケンティス王みたいな暴君でしたけど…。」


親子そろって暴君なのかと真由と誠司は思ってしまった。


「前王は海の向こうの国にも圧力をかけて貿易するような王でした。税金も今より高くて、何度も暴動が起きていたぐらいでした。イノケンティス王に代わってからは税金も下がり、他国との関係も良くなったのですが…。ある日を境に突然人が変わったようになられて…。」


「産まれたばかりの王子を抱えて王妃が懸命に国民を思うよう何度も懇願されていたと聞きます。議会を動かし、王妃の権限を高くして王の突発的な命令を撤回できるよう法律を変えたのも記憶に新しいですね…」


夫婦は思わずため息をついて馬車の小窓から外を見る。


「王がおかしくなってから瘴気の被害が増えたように感じます。私たちの村も魔物に襲われ、若い子が殺されたこともつい最近ありました。」


「…!それは…その…お辛かったですよね…」


真由はとっさに声が出たがなんと続けていいのかわからなくなってしまった。

大きい街には騎士団の詰め所があり在中しているが、各地の村にはいないことが多い。巡回しているが緊急事態に確実に対処できるわけではないとクラノスとアイラから聞いているのである。


「優しいお嬢さんですね、ありがとうございます。でも風のうわさでまた聖女様が召喚されたと聞きました。シーノル近くの核が浄化されたと!いつかこちらの地方もお救いいただけるでしょう。」


目を輝かせた老婆の言葉に真由は思わず変な声が出そうになったのを堪えた。

横でクラノスと誠司が苦笑いで相槌を返している。

その後3時間ほど馬車に揺られ停留所の村へとついた。

老夫婦と別れ村唯一の宿へ入る。もう夜なので出発は明日にすることにした。

---------------------------------------------------------------------------

「アイラ、こっちそろそろできそうだよ~」


宿では部屋だけを貸していたので共同の台所を借り真由とアイラは夕食を作っていた。

真由はそろそろ魚を使わないとと思い、野菜と合わせ蒸し焼きを作っている。


「お、いい匂いだな~そうしたらスープもよそうか。」


アイラはフライパンを覗き込み満足そうに頷くとお玉を手に取った。

真由は人数分の器を用意しアイラへ渡す。


「それにしてももう聖女召喚の噂が届いているんだね」


「きっと騎士団の連絡網だな。魔法道具で手紙のやり取り早くできるだろ?それで詰め所間で速攻報告しあっているんだろうな。」


この世界では魔法道具が発展しており、転移魔法を応用して手紙を各地に届けているようだ。

ただまだ手紙程度の軽くて小さいものではないと転移ができないし、維持費が高額なため小さい村には設置できないようだ。


「悲しい事起きないように気合い入れなおさなきゃ」


老婆の話を聞いてから改めて聖女としての使命をずっと反芻していた。

たとえ王が腐っていても瘴気があっても、自分がたまたま召喚されただけだとしても、この地に生きる人々にとって聖女は希望なのだ。みんなの生活を守る、絶対に。真由はよし、と頬をぺちぺちと叩く。


「気合い入れるのはいいけどそろそろご飯にしようぜ、クラノスが細かい作業に耐えられなさそうだぞ」


アイラが笑いながら食卓を指さす。フライパンの火を止めてその方向を見ると、クラノスが背中を丸めてプルプルと震えながら慎重に刺繡をしていた。向かいに座る誠司はなれた手つきでスイスイ針を進め、時折クラノスに指導する。いつも堂々としてかっこいいクラノスが今は小さく見えて普段とのギャップに笑ってしまった。


「本当誠司器用だな~~~。今度甥っ子に送る前掛けにも刺繡してくれないか?」


「いいよ!なんの模様がいいかな~~あと人形も作ろうか?」


アイラに促され机を片付けながら提案をする誠司。人形まで作れんの‼‼‼?とアイラは驚いていた。

真由もメインを皿によそい食卓へ運ぶ。額の汗を拭いたクラノスがありがとうと声をかけてくれた。


「おぉ美味しそうだね、真由も料理上手いから楽しみだよ」


「えへへ~今日は鮭と野菜の蒸し焼きにしてみました!」


クラノスに褒められ嬉しそうに笑う真由の頭をアイラがよしよしと撫でる。


「これで味噌があれば石狩鍋作れたんだけどねぇ…」


「た、確かに…給食で食べた石狩鍋おいしかったなぁ…」


味噌…と思いをはせる現代人二人を横目に異世界人は味噌?と首を傾げた。


「まぁないものは仕方ないし!真由ちゃんとアイラのご飯が冷めないうちに食べよ‼‼」


軽く咳払いした誠司が素早く食卓を整え食事の時間が始まった。

美味しい美味しいと誠司がニコニコしながら食べ進める。


「サクラ公国が真由たちの世界の文化と近いならきっと似た調味料があるかもね」


「そうだな~公国には独自の食事があるみたいだしな。もしその味噌?があったら鍋ってやつを作ってくれよ!」


「うん‼‼‼あとみそ汁とかも作りたいなぁ~~~」


「みそ汁…‼‼‼すごい久々に飲みたいなぁ…あ、真由ちゃん俺豚汁も食べたい!」


食欲旺盛な誠司たちに真由は笑いながら楽しい時間を過ごした。

明日もまた馬車で移動だ。今度はどんな人と乗り合わせるのか、この世界のことをもっと知りたいと願い夜は更けていくのだった。

のんびり移動回でした!ずっと座ってるのも腰に来ますよね…(;´・ω・)ストレッチ大事。

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