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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
王国編
13/52

貴方の喜ぶ顔が見たくて

いつの間にかPV300越え&合計ユニーク数200を達成していました!びっくり‼‼ありがとうございます‼‼‼

王妃と王子一行を見送った後。詰め所は清掃があるので晩御飯は外で食べることになった。港町に来たのでせっかくならおいしい海鮮料理を食べに行こうとクラノスに誘われ酒場へ移動した。


「やっぱり刺身はないかぁ…」


メニューを聞いて誠司は肩を落とす。この世界では港町でも海鮮は生で食べないようだ。アイラに刺身や寿司のことを説明すると危ないから絶対にやめろと怒られてしまった。


「海鮮物を生で食べれるなんてよほど文化が発展している証拠なんだね」


クラノスが感心したようにグラスを傾ける。今日は珍しくワインを飲んでいる。


「普通にスーパーで買えるし、海から離れた内陸の町でも食べれるって本当すごい事だったんだね」


真由がしみじみと頷く。正直久々にお刺身が食べたい気分だったりしていた。


「まぁまぁ、こっちの飯も中々うまいから、ほらスープ来たぞ」


アイラが誠司の頭をなでながら運ばれてきたスープを受けとる。

ブイヤベースに似た料理だろうか、海老や貝類が入った具だくさんのスープだ。


「いただきます!…おぉスパイスの風味も感じるけど魚介のうまみ染みてておいしい~」


元気よく一口食べた誠司が感動する。真由もいただきますと手を合わせて一口。

誠司の言う通り魚介が良い出汁を出している。とてもおいしい。


「いくらマジックバッグでも鮮度までは保てないからなぁ…こんな上手いのここしか食えないさ」


野営中は基本アイラが食事の用意をしてくれる。手際よく作ってくれる料理も充分美味しくて真由はいつも楽しみにしているのだ。


「氷魔法で氷漬けにして…も無理かなぁ」


「実際エルフ族がそうして運んでいるよ。エルフ族の膨大で精密な魔力操作のおかげらしい。我々人間では無理だね。」


真由の小言にクラノスが答える。やはりエルフ族は何でもできるようだ。


「そうしたら塩で包むとか?」


「騎士団時代それやって腹下して入院したやついたぞ…」


誠司の提案にアイラが苦笑する。実際塩釜というか塩で包む料理はあるのだが、こちらの世界ではまだ塩の製法も熟練していないのだろうか。


「まぁ干物を買ってだめにならないうちに食べるしかないね」


クラノスが笑いながらパイ包みを切り分けてくれる。中は白身魚だ。


「そーだクラノスよ、出発は明日か?せっかくヴァランスにいるんだし一日買い物して回りたいんだけどよ、調味料とか革製品とか…あと真由たちも疲れてるだろ?」


「いや明後日と考えていたよ。ここまで歩き詰めでみんな疲れただろう。明日はゆっくりしよう。」


アイラがやったと酒を煽る。真由も探したい品物があるので散策できるのは嬉しい。誠司も同様に喜んでいた。瘴気のことは気がかりだがせっかくなら観光もしたい。

各々これが欲しいなぁなどと笑いながら食事の時間を楽しんだ。

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次の日。朝ごはんを食べ終えた後、真由はアイラと買い物へ出ていた。

男性陣も誘うおうとしたのだが、誠司は疲れがたまったのか午前中は横になるといい、クラノスは騎士団の打合せに行くというので女性だけで買い物になった。


「誠司のやつ昨日食いすぎたのかな…胃薬も追加で買っていこうか」


アイラが買い物メモに書き始める。そうだねと真由は頷いたが、きっと今まで気を貼りっぱなしなのだろう、苦労を掛けているなと少し申し訳なくなった。


「クラノスも疲れないのかなぁ…ずっと先行してお手紙とか出してるし…」


「大丈夫だよ、あいつ寝るだけで結構疲れとれるタイプだしさ、色々動かないと落ち着かないんだよ」


真由の心配をよそにアイラが笑う。さすが昔から鍛えている人は疲れの取り方もバッチリなのだろうか。うらやましいなぁと真由はアイラと他愛無い話をしながら歩いていると、一軒の看板に気が付いた。ミシン糸のようなものと針がデザインされた看板だ。


「アイラ、ここって…」


「ん?あぁ布とか糸とか売ってる店だよ。見ていくか?」


アイラの返答にすぐうん‼‼‼と頷き中に入る。初老の男性店員からいらっしゃいませと声をかけられる。


「おや旅の方ですか?こちらは旅の方向けの革製品も取り扱っていますよ」


「お、そうしたらベルトとナイフホルダーはあるか?」


店員の言葉にアイラが食いつく。今装備しているのがボロボロになったので買い換えたいようだ。店員に何点か見せてもらい吟味している。


「お嬢様は何かお探しですか?」


「えっと…ソーイングセット…というか旅に持ち歩ける裁縫セットとかありますか?」


真由の言葉に店員はもちろんございますよと商品を取り出した。


「あれ真由裁縫もするのか?器用だな」


「いや私じゃなくて誠司君。すごい器用なんだよ~手芸好きだしさ、たまには趣味に没頭してほしくて」


「ほほぅ、素敵なご趣味をお持ちの方ですね。」


店員が嬉しそうに微笑む。誠司はこちらに来てから口にはしていないものの手がさみしいようだ。さすがに鞄に裁縫セットは入っていないようなので真由はずっと探していたのだ。

どれにしようかなと選んでいると後ろで聞きなれた声が聞こえた。


「おや真由とアイラ。やっぱり来ていたんだね」


振り返るとクラノスだった。爽やかな笑顔で店員に挨拶をする。紳士だ。


「クラノスも革製品探しに来たのか?」


「あぁ。とは言っても私様ではなくてプレゼント用だけどね。二人は決めたのかい?」


きっと女性陣が選んだ後に買うつもりなのだろう。察した真由は今選んでいるのでどうぞと譲った。


「すまないね、ありがとう。失礼店主、白い剣士用の手袋はあるかな?女性用が良いのだが…」


女性と聞いて真由とアイラは婚約者へのプレゼントだ!と盛り上がった。

店主もほほぅ‼‼‼素敵ですなぁと興奮しながら品物を取りに裏へ行った。


「…君たち、テンションが上がりすぎだよ…」


「えへへ…それにしても手袋送るの素敵だね」


「ありがとう、この国の貴族は昔から婚約者に嫁入りする家の家紋を刺繍した物を送るのが習わしなのさ。大体はドレスとかケープなんだけど…フローレンスが剣士用の手袋が良いっておねだりしてきてね」


クラノスが照れながら答えた。よほど婚約者に甘いのだろう、離れていてもおねだりにこたえる姿は最高に紳士だ。


「…お前刺繡できたっけ…??怪力で針壊さないか…??」


「……これでも力の制御の特訓はしているさ、お針子から直々に習ったからね」


苦笑いを浮かべるクラノスに女性陣はすべてを察した。

そうしているうちに店主が裏から戻ってきた。


「女性用の剣士手袋ですとこちらになりますね。無地のものでよさそうですね」


会話が聞こえていたのだろう、店主もウキウキしていた。

クラノスは笑いながら会計を始めた。


「そうだ刺繍なら誠司君が得意なはずだよ。」


「本当かい⁉それなら教えてもらおう」


クラノスはぱぁっと顔を明るくした。近くに先生がいると心強いのだろう、とても安心した様子だ。


「そうしたら刺繡糸も多めに買おうかな、あとハンカチとか…布も…」


「そうだね、家紋は赤と金で縫うからその色と…」


その後一時間ほど談笑しながら買い物を済ませた。

誠司への贈り物を買えた真由はとても満足した。これでストレスも減るといいのだが。

---------------------------------------------------------------------------

「そろそろお昼時だね、誠司も呼んできて軽食屋でも…おや」


外に出て数件回った後、町の広場に出た。中心には噴水があり、その周りにはベンチがある。ベンチには詰め所にいるはずの誠司が座って本を読んでいた。


「誠司、起きていて大丈夫かい?」


クラノスに声をかけられ誠司は顔を上げた。顔色は問題ないようだ。


「あぁ大丈夫だよ、横になってたんだけどなんか寝付けなくてさ…出てきちゃった」


誠司は本を閉じて立ち上がった。バッグから手紙を取り出しクラノスに渡す。


「おや兄さんとフローレンスからか、その本は今買ったのかい?」


「ううん、これスクトゥムさんから俺宛にって。クラノスが外出した後に届いたんだ。」


真由は本の表紙を見せてもらう、どうやら小説の様だ。


「このタイトルって確か今流行ってるやつか?妹も読んでたな」


「流行ってるんだ!道理で面白いなって思ったよ。スクトゥムさんが教科書だけでは飽きるからって送ってくれたんだ。真由ちゃんも読んでみてよ、面白いよ!」


爽やかな笑顔で本を進めてくる誠司。真由は雑誌は読むが小説はあまり読まない。

確かにせっかくなら読んでみたい。何より流行りものというのだ。


「誠司も体調よさそうならお昼にしよう。フローレンスがここの近くの軽食屋のサンドイッチがおいしいって言っててね」


貴族で舌が肥えているフローレンスのおすすめなら間違いないだろう。

早速お店に向かうのだった。

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サンドイッチはとても美味だった。揚げてある白身魚を挟み、あまじょっぱいたれがかかっている。ハンバーガーに似ているようだ。誠司も真由もあまりにも美味しくて二つ食べてしまった。


「そうだ真由、そろそろ渡さないのか?」


食後のコーヒーを飲みながらアイラが促す。誠司は満足そうに口を拭きながら何のこと?と首をかしげている。真由はいそいそと先ほど買った裁縫セットを取り出す。


「あの、これ…誠司君に…」


「俺に?ありがとう…ってこれ、裁縫セットだ!しかも布まで!いいの!?」


予想以上に誠司は喜んだ。やはり趣味をずっとやりたかったのだろう。王都では町が大きすぎて店の場所がわからなかったし、シーノルは小規模なので布を取り扱っている店があまりないのだ。真由はずっと探していたのである。せめて誠司には笑ってほしかったから。


「わぁ~~刺繡セットもある!早速やろうかな…うーん何がいいかな~~」


誠司は目をキラキラとさせて糸の種類を確認していた。

クラノスとアイラも慈しむように見つめている。


「本当にありがとう、俺すごい嬉しい‼‼」


「よかった、趣味ができないって意外とつらいもんね」


真由も嬉しくなりずっと顔が緩む。そう、これが見たかったのだ。

大切な人が嬉しそうに笑う顔が。そして周りの仲間達と喜びを分かち合うこの光景が。決して自身の家庭では見れないこの光景が何よりも真由にとっての幸福だった。


「そうそう、明日は午後から出発するよ。隣の小さい町まで乗り合いの馬車が出ているんだ。それに乗ろう。」


落ち着いたころクラノスが声をかけた。きっと事前に時間なども確認してくれたのだろう。本当に何から何まで頼りになる。今度はクラノスにも何か送りたいところだ。


「そうしたら今日はゆっくりすごして明日に備えようか」


一同は同意した店を後にするのだった。

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その後町を散策しすっかり夕方になった。海に沈んでいく綺麗な夕焼けが見える。

真由と誠司は海が一望できる高台でベンチに座っていた。


「綺麗だね」


誠司がつぶやく。真由は静かにうなづき海を見ていた。

クラノスとアイラは最後寄る店があるとそれぞれ買い物をしている。

今は久々に二人きりになった。


「こっちの世界に来てからひと月近く経ったね…。少し家が恋しいや」


誠司が苦笑すると真由はそうだね、と少し声を落とした。


「…私ね、この世界のこと結構気に入ってるんだ。景色もきれいだし、みんな優しいしお互い思いやって助け合っている。…温かいなって思ったの。もしかしたら23代目様も綺麗だって感じたのかな。そうじゃなかったら結婚しなかったかなって。」


「…真由ちゃんは、帰りたくない?」


誠司の少し震えた声に真由はゆっくりと顔を向ける。


「…最初は帰りたいって思ったよ。でもね…私………帰っても喜んでくれる人…いないと思うの。友達と、親戚ぐらいかなって。両親からは死んでくれた方が良いって思われているだろうし」


今にも泣きそうな笑顔に誠司は息をのんだ。想像したくなかったがやはり真由の家庭環境は酷かったのだ。…たった17年の人生で、彼女はどれだけ傷ついていたのだろう。誠司はなんて声をかければいいのか判断ができなかった。


「それでも、それでも誠司君は温かいご家族がいる、期待された将来がある。だから絶対に貴方だけは元の世界に帰す。これが今の目標。帰る方法もちゃんと考えるよ、私馬鹿だけど」


誠司は思わず真由の手を握った。真由は驚いたが手を振りほどこうとはしなかった。彼女の手には杖を握り続けてできたタコがある。


「…俺、昔真由ちゃんに助けてもらったこと今でも覚えてる。クラスの男子から殴られても負けなかった強い子だって。今までの人生ずっと辛かったと思う。それでも人の良い点をしっかり理解して思いやることができる、優しぎる子だって、今確信したよ。」


誠司はまっすぐ真由を見つめる。


「話しても大丈夫なら教えてほしい。今までどんな思いを抱えて生きていたのか。俺は全部受け止めるし否定なんてしない。君の理解者になる。だからどうか、一緒に乗り越えて帰ろう。俺一人で帰るなんて嫌だよ。方法は絶対ある。」


誠司のまっすぐな言葉と瞳に真由は心が温かくなるのを感じた。右頬に涙が流れ行くのを感じる。


「…うん…うん…ごめんね、毎回私のことばかり話してごめんね」


「そんなことないでしょ、だいたい俺の話題ばっかりじゃん」


ボロボロ泣き始める真由をそっと抱きしめて誠司は笑う。


「ここには、クラノスとアイラもいる。誰も君を傷つける人なんていないんだよ。みんなで今日みたいに町を回って、お互いのことを知って手を取り合って、最後は笑いあうんだ。」


誠司と真由は向かい合って微笑んだ。真由は泣き笑いだが。

お互い思うことは一緒だ。いつだって貴方の喜ぶ顔が見たいから。それだけで頑張れる。

沈みゆく夕日に照らされながら、二人は笑いあっていた。そんな二人の様子をクラノスとアイラは陰から見守っていた。もうすぐ月が輝き始めるだろう。手を取り合う旅人たちを見守るように。

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