表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迫る悪が蘇るまで  作者: アスノヨミタ
時空を超えて
5/10

〈4〉有言の再会


(皇帝陛下?)


 李飛凛は急な出来事に驚きを隠せなかった。あまりにも物騒で物々しい現状に居ても立っても居られない李飛凛であったがただその現状を見守るしかなかったのだ。

 門戸に背を向けた桃燕は一瞬顔をしかめ視線を逸らしたが、もの苦しそうな表情(かお)をしてこちらにもう一度視線を向けた。

 すると必死に声を押し殺しながら李飛凛に訴えた。


「お嬢様、お逃げください。・・・この下に仕掛け扉があります。そこから外に出られます。早く」

「・・・姚燕、逃げるってどこに」

「お嬢様早くしないと」

「待って、私はなにも悪いことしていないわ。なぜ皇帝陛下が私を?姚燕ヤォイェン教えて」

「・・・今は説明している時間がありません!早くお逃げ下さい、でないと皆殺されてしまいます」

「桃燕はなにか知ってるのね」

「私からはなにも・・・とにかく早く」


すると李飛凛は深く息を吸って心を落ち着かせた。


「姚燕、私が今逃げたところで皇帝陛下の命令ともなると永遠にそれが付き纏うでしょ。もう何かから逃げる生活は嫌なの、会って自分の運を試すわ。さっきも言ったけど私には記憶がない。今逃げたところで、どこに逃げていいのかも、どうしていけばいいのかも私には分からない。・・・だから自分の運命は自分で切り開くわ」


 李飛凛は姚燕の引き止める手を振り払い、勢いよく門戸(もんこ)を開けた。

 すると小屋の前に6人ほどの武官のような人たちが馬からおり、こちらに顔を向け立っていたのだ。


「そなたが春霞であるか」

「はい、春霞(チュンシア)は私です」

「では、そなたを皇帝に対しての虚偽の罪にによりお前をここで拘束し、処刑する」


部隊長と(おぼ)しき人の指令により、武官が2人前に出てきて李飛凛の両腕を掴み拘束した。


「虚偽罪・・・?私なにもしてないわ。嘘なんてついてない、何かの間違いよ」


しかしそのような言い訳を聞き入れてもらえるわけもなく、その緊迫した状況は何も変わらずであった。


「そんなに私に罪を被せたいなら、皇帝陛下とやらにに会わせてちょうだい」

「なんて無礼な女だ。さっさと処刑しろ」


 部隊長の怒号が響いた。李飛凛の両腕を掴んでいる武官はそのまま彼女を地べたに座らせた。


「本当になにも・・・本当に知らないのよ。どうか・・・どうか、命だけは」


(せっかく貰った(チャンス)なのに・・・こんなことになるなら最初からあのまま・・・)

と後悔が脳裏をよぎった。すると1人の武官が大きな刀を抜き李飛凛の目の前にかざした。その時、後ろで震えていた姚燕ヤオイェンが李飛凛の前に立ちはだかったのだ。


「待ってください!お嬢様は・・・」


 震える声で姚燕が武官たちに何かを言いかけたそのときだった。武官たちの背後から「待て」という男の声が(とどろ)いた。

 その瞬間、先ほどまで李飛凛を囲うように居合わせていた武官たちが「フォ様」と頭を下げながら道を空け、その人物が出てきたのである。

 その男が前に出てくると姚燕は疑うような視線をその人に向けた。


「あなたは・・・・」


 するとその男は春霞に近づき顎を持ち上げ伏せた顔を上に向かせると、その武官は眉をひそめた。


「・・・もしかして、君は蘭鳳月ランフォンユエなのか」


李飛凛はまたもや初めて聞く名前に少しだけ動揺した。


蘭鳳月ランフォンユエだろう。よく小さい頃共に遊んだ。覚えていないのか」

「殿下、しかし蘭家のご令嬢は・・・」

「私の目が見間違えるわけがないだろう」


 その瞬間部隊長と思しき人が怯みかえる様子に、この人はかなりのお偉いさんなのだろうと李飛凛は確信したのだった。


「・・・きっと人違いかもしれません。私は春霞(チュンシア)という名で・・・・」

「春霞?聞いたことない名だ。そういえば先ほどもそう言っていたが・・(ペン)将軍、春霞とはどういう関係なんだね」

「それは・・・」


部隊長は気まずそうに俯き、目を泳がせた。

戸惑いを隠しきれない李飛凛は姚燕の方に顔を向けた。

すると安堵したような表情を浮かべた姚燕の姿がそこにはあった。

姚燕はその男にお辞儀をしながら話しかけた。


「殿下、先ほど仰っていた通り、こちらのお嬢様の本名は・・・蘭鳳月ランフォンユエという名でございます」

「なぜ君が知っているのだ。・・・ん?君、以前どこかで・・」


その男は姚燕に対し目を細め見るも、姚燕はその男に対しにこりと微笑んだ。


「姚燕・・・やっぱり何か知っているのね」


またもや姚燕は何も言わずに微笑むだけだった。


「お嬢様は記憶喪失なのでございます」

「・・・記憶喪失」

「どうかお嬢様をよろしくお願い致します」

「それならばしばらく私のもとに身柄を預からせてもらおう。そなたは何故なにゆえか皇帝陛下のめいにより命いのちが狙われている。私にもどういうことかわからないが君が蘭鳳月ランフォンユエであると知った以上、処刑など到底受け入れることが出来ない。どういう経緯で記憶がなくなったのかも気になる。姚燕(タォイエン)それでよいな」


姚燕は深々とお辞儀をした。


「この者は私の管轄。処罰は一時無効とする」


すると周りの武官たちの顔の血の気が引いていく様子がわかった。


「・・・しっ、しかし陛下私どもが処罰されてしまいます」

部隊長は横目で姚燕を見ていたのを李飛凛は見ていた。

盧双善ルーシュアンシェンには私から伝えておくからそなたらは気にしなくてよい」

武官たちは冷や汗が止まらない様子でだった。

ここまで武官をひるませる人物とは、どれほど非道な人物なのかと李飛凛は身震いした。


(盧双善ルーシュアンシェン。また新しい人物が・・・春霞あなたは一体どれだけの人と関係があったの)


すると先ほどの男性が李飛凛に話しかけてきた。


「春霞、私の名は霍雨軒(フォウーシェン)。覚えていないと思うが蘭鳳月(ランフォンユエ)と幼少期によく遊んでいたのだ。どうか怪しまずについてきて欲しい。君を守りたいのだ」


霍雨軒はまだ若く、20代前半くらいに見えた。肌も白くとても艶やかな男性だった。

 李飛凛は動揺しながらもついていくことにしたのだった。


「とにかく夜が開ける前に私の屋敷へ春霞チュンシアを隠す。一刻も早く出発するぞ」


霍雨軒(フォウーシェン)は春霞を積荷に乗せると、自分はその馬に跨った。 


「ちょっとまって、姚燕ヤオイェンはどうなるの。大丈夫なの」

「お嬢様、わたくしは大丈夫でございますのでどうかお気になさらずに行ってください」


 李飛凛は別れを言う暇もなく馬車は動き始めたのだった。あの小さい小屋はすぐに遠くなり、お辞儀をしている姚燕もどんどん小さくなっていった。





 しばらく夜道が続いていた。


(どこへ向かっているのだろうか)


馬を走らせている分、馬車できた時よりも景色はあっという間に変わっていった。


(春霞と蘭鳳月は別人?それとも同一人物なのであろうか・・・姚燕はきっと何か知っているはず会いにいかなきゃ)


 日中とは違い辺りは真っ暗闇でそこにあったはず森や林は見えず、数本の松明たいまつが道を照らすのみで少々不気味であった。

 馬車の積荷から見上げる空はとても綺麗で空気も澄んでいた。手をかざしても届かないキラキラと光る星たちに心を躍らせた。李飛凛の目には何もかもが新鮮だったのである。


(星ってこんなに綺麗だったかしら・・・)


 李飛凛はその夜この世界に来て初めて眠りについた。前世とは違う1日1日に、眠るときに恐怖がない夜に思いを馳せた。


『李飛凛、私の名は蘭鳳月ランフォンユエ。あなたは私を知らない、だけど私はあなたのことを知っているわ」

『・・・あなたは・・・誰?』


ーーーーーーー ヒヒーン!

馬のいななきと共にハッと目を覚ました。


(何だか今日は大切な夢を見ていた気がするけど思い出せない)


 長い夜が終わり東の空からすでに太陽が顔を出していた。目の前には巨大な赤い門がそびえ立っていた。門には″陵洸殿(リングァンディエン)″と書かれていた。


「ついたよ」


霍雨軒に手を取られ荷馬車から下りると、陵洸殿(リングァンディエン)と書かれた門をくぐり、しばらく長い道を歩いた。

 しばらくするととても美しく整備された池、亭などがある美しい庭園にたどり着いた。


「少しここで待っててくれ」と、案内された場所は亭であった。

 霍雨軒はそういうと屋敷の奥の方へと足早に向かっていった。

 李飛凛はそこからしばらく池のほとりを歩いていると綺麗な金色の鯉と真っ白な鯉がのんびりと泳いでいたのが見えた。


(なんて美しいんだろう・・・)


 昨日の緊迫した時間が嘘だったかのように穏やかな時間が流れる。このような静かな環境は物心がついてからというもののなかなかくることはなかった。

 病院ではいつも何かの音がしていたからだ。機械音はもちろん誰かが走る音や時には患者の声、時には叫んだりしている声も聞こえたりした。

 泳いでる鯉たちは病院にあった池で泳いでいた鯉とは全く違うものだった。あの時はそれほど感動することもなく視界に入った程度で少しも感動を覚えなかったのを覚えている。逆にいえば自分のことで精一杯だったのかもしれない。

 李飛凛の心の中では時間を追うにつれて前世よりもわずかながらこの世界で生きる喜びが少しづつ芽生えているのであった。

 李飛凛は先ほど案内された小さい赤い屋根の亭の椅子に座った。そこからの眺めはとても美しかった。

 ふと、後ろを振り返ると霍雨軒(フォウーシェン)が誰かを連れて庭園に戻ってきていたのである。

 呆然と立ち尽くすその男は恐る恐る近寄ってきた。


「私の名は霍明蕨フォミンジュエ。君のことを知っているものだ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ