悪魔と聖騎士の邂逅
「さあ、これで邪魔な壁は消えた。観念してお戻りください、聖女様。」
壁を打ち破った男が近づいてくる。
ん?この言い方、ウルは元々あちら側の人間だったのか?それとも捕まっていた?
なんにせよ、今は考えている時間はなさそうだ。オレは本を取り出す。
「なんだ?貴様。魔術師か?いや、この魔力…魔族だな」
オレをみるや殺気を高ぶらせる。くそ、いつの時代も魔族と教会は仲が悪いらしい。
「魔族は皆殺しだ。死ね!」
男が走りかかってくる。
「爆火球!」
「くるか!」
男が盾を構える。だが、オレの狙いは男じゃない。
火球は男の足元スレスレの地面に落ちた。
「ゴホッゴホッ…」
「け、煙で前が…」
下級っぽいモブたちが騒いでる。
「誰がお前みたいなやつとやりあうか!あばよ!転移!」
マントの男が煙を剣で一閃したときには、すでにオレたちは洞窟を一瞬で移動していた。
「ふ~…おっかなかったな。二話目にして殺られるところだったぜ」
オレの本気の盾を破るやつに勝てるわけがない。おそらく協会の突起戦力の一人だろう。逆に言えば、このクソガキはそれだけ重要人物というわけだ。
「今のは…?」
「ああ、今のはオレの開発した魔術だ。いわゆる瞬間移動だな。予め目印をつけた場所にしか移動できないのがネックだが。」
ああいや、魔術自体に驚いているのか。
「これはこの世界の力だな。この世界には魔力が満ちていて、それを様々なことに利用するんだ。」
「さっき出していた本は…?」
「ああ、これのことか?」オレは適当な魔導書を取り出す。
「これは魔導書と呼ばれているものだ。この世界で魔術を行使するには、【文字】が必要だ。文字で術式を創り、これに魔力を通すことで術式に応じた魔術を発生させる。」オレはそこらに花を咲かせる。
クソガキは何か思案顔だ。世界によっては力の源が違うし、すぐに理解できないのも無理はない。最近の異世界人はすぐに理解して目を輝かせるやつばっかりだけどな。
そういえば、大事なことを聞いていなかったな。
「ウル、お前の望みはなんだ?」
「望み?」
「やりたいことだよ、やりたいこと。オレを召喚したからには何か望みがあるんだろ?悪魔の力を借りなきゃいけないくらいの。」
「…の、ぞみ…」
こいつおれを召喚しといて何もしたいことがないのか?こうみえてオレ、かなり上級悪魔なんだぜ?{今んとこ読者諸君にはかませにしか見えていないだろうが}
改めてクソガキを見る。汚れまくってて、全身泥だらけだ。おそらくいきなり転移させられて、右も左もわからないまま必死だったんだろう。こいつの魔力は膨大だし、なんのために転移させられたかは想像に難くない。
「…よし!お前の望みを決めたぞ。」
「えっ?」
「お前の望みはこの世界で生き抜くことだ。そんでもってオレの契約はお前が十分生きれるようになるまでお前を守ること!安心しろ、今後はオレの魔力で顕現してやるから。」
「でも…あなたにメリットないし…」
「おいおい、最初の威勢はどうした?それに、実はオレは小説家でな。お前を守る代わりに、お前の人生を小説のネタにさせてもらう。これがオレとお前の契約だ。どうだ?」
「…うん。わかった。これからよろしく。」クソガキが手を差し出す。
「おう!召喚してるからわかってると思うが、オレの名前はネロだ。よろしくな、ご主人様」にたりと笑って握手を交わす
こうしてオレとコイツの物語が始まった。気がする。
「ところでここはどこなの?」
「う~ん、さっぱりわからん…なんせマーキングしたの何百年前だしなあ…」
オレらはあたり一面を見渡した。白、白、白。あきれるぐらいの雪景色だ。
「まあ、どうせいく当てもないんだし、気ままに行こうぜ。オレの記憶が確かならあっちのほうにギルドがあったはずだ。」
「それ、何百年前の記憶だよね…?」
こうしてオレらは歩き出した。