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ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
序章 現実≒幻想の世界
9/29

9.はじまりの村(2)

 そう言えば作業中に警備兵から耳にしたことなのだけれど、たしか冒険者への依頼を行ったが辺鄙な村にまでやって来てくれる志願者はおらず、修繕作業などが溜まりに溜まっているのだったか。困っている人を見捨てられない彼女にとっては、良い気晴らしになるかもしれない。後回しにするのは良くはないが情報が何よりも不足していて結論を出せない現状では、作業中の彼女は表情を曇らせることがなかった以上の優先すべきものはなかった。

 手を貸すのはどうだろうか、と個人チャットで呼びかけると彼女はコクコクと頷き、挙手した。どうしてそうなる。微笑ましそうに目尻を落としたアダルヘルムは、「どうぞ」と発言をゆるした。その動作が様になっているので、本当に貴族というものは仕草が上品だ。



「お困りでしたら、お裁縫でしたらわたし得意なのでお受けしますよ。」

「おお、本当ですか!?」

「は、はいっ。ゼノも力仕事を手伝ってくれるみたいです。」

「わあっ助かります!」



 3名ほどの警備兵たちは武術に関しては誇れるが、裁縫などの細やかな作業は苦手だと頭をかきながら笑みを苦くした。加えて、見ての通り、『はじまりの村』は老人ばかりの村で糸を針に通すのも一苦労してしまうから修繕作業は予想を超えて難航していたのだ。



「村人の皆さんのお役に立てることと言えば、警備ぐらいしか…。こんな状況なので裁縫は子どもたちに覚えてもらうか、針子の仕事をやめて村へ越してきた者に頼むしかなかったのです。」



 和気藹々とのほほんとした空気の会話が発生した。何かしらゼノも手伝った方が良いのだろうか。強制クエストなのか、それともただ冒険者を目指す旅人が気になるのか不明だが、村長の家に籠を返してから宿へ戻ろうと足を運ぶゼノたちに未だついてくる。その列の最後尾にいるアダルヘルムへ、ふと生じた疑問を投げかけてみた。



「バリケードは最初から、ああなのか。」

「え!?」



 ぽかん、としたまま硬直してしまったアダルヘルムに何か聞いてはまずいことでも言っただろうかと無言で見下ろした。石化でも喰らったのかとおもしろいくらいに硬直すること一分。流石にねーわ、と言った表情でアダルヘルムの側近らしき男が彼の肩を小突く。ハアッと再稼働したアダルヘルムは荒々しく呼吸を繰り返し―――息を止めていたようだ。



「え!?」

「ほら、アダルヘルム様、念願の獣人族との会話ですよ。」

「はへっ!! あ、あぇ…い、いえ、違いますよっ!」



 声が裏返っていた。

 慌てふためいたことで乱れた身なりを整えながらアダルヘルムは咳払いをして気を取り直す。微妙に跳ねたままの襟元を側近らしき男が冷静になおしていた。



「コホン。……ええっと…修理をしようにも、力仕事ですので警備兵だけでは無理があったんです。」



 腕っぷしが強くとも、村一つを囲うためにはそれなりの範囲と大きさを要する。資材は用意できたとしても、それを設置するための人員不足でどうにもならない状況が続いていた。冒険者ギルドへ報酬を多めに志願者を募ってみたが、結果はご覧の通りだ。



「僕も腕っぷしが強いというわけではありませんから。冒険者へ有志を募ってみたのですが、ダンジョンの少ないフリューリング領地にはほとんどの冒険者が目も向けてくれない状況でして…。」



 念願の獣人族、と部下に言われるほど待ち望んだことなのだろうか。さして気にも留めず裏返ったり、詰まったりするアダルヘルムの言葉を聞きながら、へえ、と上下のない声色でバリケードを見つめた。あ、やはりクエストが発生したようだ。

 しかもかなり高待遇の。軽く目を通すと今回発生したクエストは、サクラとは別々で受注できるクエストのようだ。




----------------------------------------------------------------------


■修復クエスト:はじまりの村の施設修理

1.『村の施設修繕』

 村の安全のため、協力してくださる冒険者を募集しております。

 有志については随時募集しているので、志のある人はご応募ください。


①バリケードの修理(0/4)

②教会の修繕(0/1)

③デコイの設置(0/12)

④投石機の設置(0/2)

⑤スタン銅鑼(0/1)

⑥害獣対策(0/4)


◇―――報酬―――◇

1.1タスクにつき、250EXP

2.評価により獲得Bs100~150変動

3.全タスク完了にて、別途スキルポイント6及び名声10を獲得。


----------------------------------------------------------------------




 彼女の手を借りることが出来れば、共同クエストとして認識できるだろう。かろうじて、教会の修繕が二人で出来るだろうか。ゼノ一人でクリアしてしまうと、報酬はゼノにのみ振り込まれてサクラの方には振り込まれない。同じクエストを受注し同時進行をすることは可能だが、と視線を向けると彼女の方は彼女の方で『生産クエスト:衣服を修繕しよう』といった『裁縫師』向けのクエストが発生したようだ。

 修繕に必要な素材は村から提供されるらしく、殺生の沙汰はない。とは言え、楽勝なクエストというわけでもなく、“素材を無駄にした分、村人たちからの好感度は下がる”と言った―――所謂、市区町村ごとに割り当てられた『好感度クエスト』らしかった。


 それは、なんて言うか。……面倒だな。言葉を取り繕うことも出来なかった。会話らしいことをしたことはなかったが今までの会話とは違って、今まで以上に繊細な注意を払わなければならないだろう。サポーターとして何かするべきかとチャットで問えば、「付き添いは不要です」とのことなので、ゼノは皆が寝静まる前にデコイの設置だけは考えておく。コミュニケーションではポンコツなので。

 バリケードがバリケードの役割を果たしていないのだとしたら、害獣の類は入りたい放題だろう。最たる例は、猪だ。

 猪は雑食のため、様々なものを食べる。また、身体にくっついた寄生虫を落とすため、頻繁に泥浴びをする習性があり、水田に入られたらひとたまりもないだろう。すでに被害はあるらしく、被害者の農夫はがくりと項垂れて嘆いていた。



「……資材があるなら手を貸すが。」

「バリケードのことですか?」

「あの様子なら他もあるだろう。」



 ゼノとサクラのやり取りに、アダルヘルムは目を輝かせた。



「え!? ほ、本当ですか!? 誰も来てくれなくて困ってたんです! あ、でももうすぐ暗くなりますし…」

「夜目は利く。…夜間の警備は万全なんだろう。」



 領主も直々に赴いてきたとなれば、今日の警備兵はバリケード以上の効果を発揮することだろう。村の守りを第二と置くならば、次にすべきは『食糧問題』だ。

 田畑を食い荒らされ続ければ、流石に魔物や獣から村を守れても、食料なくては飢えから人を守ることは出来ない。その範囲が微々たるものであったとしても、彼らにとっては生きるための糧なのだ。



「田畑の被害を優先する。木材と縄は?」

「ひえっ、ありがとうございますありがとうございます!! 素材は僕の方で用意しますので、入用のものがありましたら警備兵の者に言付けてください。ええっと、きみ、ルプスさんが仰った素材を用意してくれるかな?」

「範囲が知りたい。どこだ?」

「あ、ありがてぇ!オラが案内するだ!」



 終始、恐縮の姿勢をみせるアダルヘルムにつられて農夫も腰が低かった。ヘコヘコと壊れたブリキ人形のようにお辞儀を繰り返しながらゼノたちを案内してくれるようだ。

 ヒロインの目には好感度は数値で表示されることはないが、サポーターの目には吃驚するほど表示される。アダルヘルムの好感度が上がり、その部下の好感度も上がった。しかも、サポーターの項目も一緒に上がっている。


 いや、彼女の好感度と一緒に上がられても…。親密度ではないだけマシか…。

 好感度の次は、分岐点が現れて友情もしくは親密度を上げることが出来る。そちらは好感度とは違って、親密度は天井なし。つまり、好きなだけ友情もしくは親密度を上げることが出来るシステムである。親密度の上はヒロインモード限定で開放される「恋心」だ。

 そう言ったことが目視できてしまうからゼノ・ルプスの立つ此処が、ゲームなのかリアルなのか分かりづらい。痛みがあれば現実なのだろうが、マゾヒズムな気はないのでわざわざ自分から痛いことをしたいとは思わないし、痛みを感じたら現実だという理論も今は信じがたいものだ。


 それはさておき。

 田畑を荒らす猪の妨害工作は、“雪野”が田舎へ遊びに行っては手伝ってきた知識と経験が役立つだろう。

 田畑の周りに『魔法』でどさどさと積み上げられる木材は、子どもたちが怪我をしないようにと丸みを帯びた形で成人した男性の腕一本ぐらいの大きさで整えられていた。ささくれなども配慮したのか、カンナ掛けされて表面はつるつるしている。

 細やかな気配りに目をつけると、警備兵はにこやかに「あれは領主様の命で、あのような形にしたのです。」と言って教えてくれた。至る所でアダルヘルム・ノイン・フリューリングの人の好さが伝わってくる素材だ。

 頭の中で組み立て方をシミュレーションして、回答を得る。ややアクロバティックなやり方ではあるが、出来てしまうな。やってしまうか。思い立ったが吉日。ゼノはすぐさまアダルヘルムに声を掛けた。



「壁を借りる。」

「え? あ、はいどうぞ!」



 軽く壁を蹴り、悠々と(うえ)(あが)る。全体を見渡すための高度は足りなかったが、多少の誤差は計算でなんとかカバー出来る範囲だ。

 『眼力』を発動させながら標的を絞り込み、四方を囲うように『風魔法』で丸太を持ち上げる。予想と標的が一致した瞬間、『一点集中』で座標を狙って蹴り飛ばす。悲鳴のようなものが聞こえたが、作業が終わるまで無視する。最短の西側から、南、東、北、としるべとなる丸太を杭のように大地へと打ち込んだ。

 四方の釘を打ち込み終えると同時に着地すると、アダルヘルムにワァワァと吠えられた。何事。



「な、な、何してるんですかーーーっ!?」

「…四方を囲う下準備だが。」

「え、ええ、……――――あ、ほんとうだ……。」

「流石は獣人族…やることがワイルドですね…。」



 吠えていたアダルヘルムも四方を囲うための目印のように突き刺さる東西南北の丸太をみてポカンとする。獣人族と人間族の認識が合わない。その意味を理解できたような気がすると疲弊した様子で肩を落とすアダルヘルムを気遣う真似をゼノ・ルプスがするはずもなく、しれっと無表情で淡々と作業を続ける。四方の位置を定めたのだから、あとは一定の距離で丸太を刺していくだけだ。

 風で浮かせるだけならばまだしも、まだ精密なコントロールの出来ない『魔法』で持ち歩くのは面倒なので両肩に抱えて突き刺していく。



「ツェーン………」

「はい、アダルヘルム様。」

「僕、夢を見ているのかな…。重くて大きな丸太なのに、なんだか粘土の上に爪楊枝でも刺しているみたいに柵の基盤が出来上がってきているように見えるんだ…。」



 目を擦っても、アダルヘルムの目には3分の1はずっぼり刺さり込む丸太が見える。ゼノが軽々と両肩に丸太を乗せて、かかと落としの容量で次々と丸太を刺してゆく姿は、その言葉通り夢でも見ているかのようだ。

 無表情のまま淡々と行われるから作業を分担するために声を掛けようにも、掛けづらい。加えて、手伝った方がいっそ足手まといになってしまいそうな速度で行われる作業は、息を呑むほど精密なものだった。

 夢だと言ってほしくてぼんやりと尋ねたアダルヘルムだったが、獣人族の高い身体能力をリスペクトする部下によってあっけなく現実へと引きずり戻されてしまう。アダルヘルムの側近であるツェーンも同意見のようだった。



「いえ、現実です。流石は獣人族ですよね。人間族はあんなに丸太を運べませんよ。精々持ち運べて五、六本程度です。」

「それも凄いよ!? え、ええ、どうしよう、手伝ったら邪魔になりそうだよね。お茶でもお持ちしようかな…?」

「自分が警備隊の宿舎からお茶をお持ちしますよ。あちらのお嬢さんにも差し入れておきましょうか?」

「お願いするね、ツェーン。門番たちにも交代ついでにお茶を出してあげてくれるかい。」

「了解です。では、アダルヘルム様、自分はこれで失礼致します。」



 きびきびと礼をとって、真面目に命を遂行すべく行動するツェーンの背中を見送ってアダルヘルムも袖をめぐり上げて田畑へと視線を向けた。ほんの数分程度の現実逃避の間に、まさかほとんどの作業が終わるなどと誰が考えられようか。

 縄の強度を確認するゼノに話しかけられるはずもなく、そわそわと次の作業を確認する。デコイの設置だろうか。それとも、バリケードの修理だろうか。そわそわし続けるアダルヘルムが視界の端に映ったゼノは、丈夫な紐と空き缶を集めてきてもらうことにした。集中して見られるのは、少しぞわぞわするのだ。

ゼノ・ルプス

■星歴2217年

L◇アリエス(4月)の1日(見習い剣士Level.2)

『庇う』を習得しました。

『眼力』を習得しました。レベルアップしました。(8/50)

『風魔法』を習得しました。風属性の魔法を使用できるようになります。

『一点突破』を習得しました。”貫く”技が強化されます。

『清掃クエスト:はじまりの村の雑草抜き』を累計51回 受注、達成しました。

 ★見習い剣士のLevelが1上がりました。これにより、ステータスが上昇します。

『修繕クエスト:はじまりの村の施設修繕』を受注しました。

 ①バリケードの修理(0/4)

 ②教会の修繕(0/1)

 ③デコイの設置(0/12)

 ④投石機の設置(0/2)

 ⑤スタン銅鑼(0/1)

 ⑥害獣対策(0/4)


◇―――報酬―――◇

 1.1タスクにつき、250EXP

 2.評価により獲得Bs100~150変動

 3.全タスク完了にて、別途スキルポイント6及び名声10を獲得。

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