表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
序章 現実≒幻想の世界
4/29

4.光に呑まれて。

 好みのイケメンを前にした幼馴染の暴走状態がとまらぬことを知っているが、それでもログを見返してでも注意事項だけは見てくれることだろう。と期待して、ラ・シェルタをプレイするにあたっての注意点を大雑把に載せておくことにした。


 注意点は、大きく分けて三つある。


 一つ、攻略掲示板を開いてはならない。気になることがあれば、住民もしくはサポーター(雪野)へ質問すること。攻略掲示板を開けてしまったが最後、聖女としての道は閉ざされてしまうのだ。


 二つ、冒険者バザーを利用してはならない。

 聖女として認められるまでの期間、絶対に利用してはならない。何か欲しくなったら住民もしくは、サポーター(雪野)へ要望を出すこと。クエストであれば大抵の素材は用意してもらえるらしく、また「主人公ヒロイン」を補佐することがサポーターの本来の役割なので遠慮せず言うように。これもまた、物欲ありと見なされて聖女への道が閉ざされてしまうからだ。


 三つ、聖女を目指すならば何が分からなくてもとりあえず雪野へ質問すること。もしくは、そばを離れないこと。完全なる美少女キャラクターである彼女は、男女問わず絡まれやすくなるだろう。

 乙女ゲームをやり込んできたこともあって、ほかのプレイヤーが開拓できなかった道を拓けるかもしれない。そう言った意味では、彼女は攻略組の格好の餌。情報を搾り取られてトラウマを残される前に、そのような場面に合わぬよう気遣えばいいだけのことと思ってのことだ。


 以上の3つである。


 キャアキャアと歓喜の声を張り上げながら暴走しつつ、やっぱり気にかけてくれているらしく、すぐさま疑問が飛んできた。「それなら聖女を目指すなら薬師を開放するべきかしら」という質問だ。

 それはすぐさま訂正した。薬師を開放したら聖女ではなく薬師になってしまう、と。……何が違うのかというと、今から行く世界スピラの聖女という定義は「祈ることで奇跡を起こす」から聖女として認められる存在なのだ。

 聖女を求めて、というサブタイトルから分かるように「奇跡」を起こせる乙女はスピラに居ない。プレイヤーが鬼畜な試練(システム)を乗り越えて、ようやく聖女と成る。

 照美を相手に説明すると、あの世界で虹の作り方を説明するときに、勉学に優れた彼女がよく言う学術的な回答ではなく、「奇跡の代名詞」と言うのが正解。そのぼんやりとした雰囲気がある。虹とは、”奇跡の象徴“であり、かの世界の住民たちの間では奇跡を起こせる乙女のことを「奇跡の乙女」もとい「虹の聖女」と呼ぶのだ。



「では、虹については言葉を控えた方が良いのでしょうか?」

「……だろうな。」



 彼女があえて写し身で話しかけてきたから、それに合わせて写し身で返す。自分の声を元に、声すらクリエイト出来るのだから自由度が高すぎる。自分の声とは言え、美声が過ぎるのではないだろうか。男に生まれていたら、こんな声になっていたのかもしれない。徐々にわたしはもともと”こう”だったような気がしてくるのだから不思議なことだ。

 

 アバターに意識を委ねると、少年時代の記憶が頭の中にぼんやりと降ってきた。瘴気に侵される辺境の地で生まれ育った(わたし)彼女(照美)は、瘴気を浄化する術を探し求めて冒険を始める。大まかなあらすじのようなもので止まり、神々(運営)によるシステムに感動した。今からでもまだ見ぬ未知な冒険に胸が躍るようだ。

 そうだ、おすすめのクラフトジョブを尋ねられていたのだった。薬によって人を癒すのではなく、神聖魔法や祈りによって人を癒す乙女の方が「聖女」の進化を遂げやすい。理由を並べれば納得と確認が返ってきたので、最初に聞かれたおすすめのクラフトジョブについては淑女のたしなみと書かれてあった「裁縫師。」とやわく返した。




【生産職業 選択 ▼】

①薬師 :素材を加工し、アイテムを生産する。

②鍛冶師:金属を加工し、武器や防具・家具などを生産する。

③木工師:木材を加工し、武器や防具・家具などを生産する。

④裁縫師:布を加工し、防具や家具などを生産する。




 聖女の補佐を務めるとしたら、薬師が最適だろうか。

 刺繡やら裁縫やら針でちくちくするのもありだろうが、そちらは聖女に任せるとしよう。王都や学園のエリアを開放したらサブクエストに「淑女のたしなみ」が開放される。ほかのサブクエストもあるし、慈善事業の一環として覚えてもらう予定だから基本的に幼馴染につくってもらうのは装備への刺繍になるだろう。

 裁縫職人としてのレベルが上がれば、刺繍に魔力を込めることが出来るので“効果を付与”出来るようになる。守りや治癒力向上などの効能を付与した刺繍を攻略対象にプレゼントすることによって、好感度を上げる手法を取るのだ。

 個人的に「刺繍が趣味なのです………。お守りにどうぞお持ちくださいませ。」とか言われたらわたしなら絶対にドキュンと来る。上目がちに来られたら片手で目を覆って天を仰ぎながらプレゼントしてくれた相手を生み育んでくれた環境へ感謝をまくし立てたことだろう。

 嬉しさのあまり頬ずりしてしまうかもしれない。流石に見た目が危ないので、ゼノ・ルプスとなったら気を付ける。素をさらけだせるようで嬉しく感じるのは、きっと彼女にはバレバレだ。


 それはさておきとして。

 前日まで攻略情報を詰め込めるだけ詰め込んできたが、ログインまでの時間はまだ結構ある。ギリギリまで情報を詰め込んでしまおうと気になるところから片っ端に情報収集し、乱雑だがかろうじて読み取れる程度の文字でメモ帳に記載しておく。

 へえ。村開拓の要素もあるとは楽しめる要素が多すぎる。さては、ありとあらゆる遊びをたくさん詰め込んだな。だからこそ、プレイヤーの人口は減るどころか増える一報なのだろう。


 写し身(プレイヤー)の名前はそれぞれ、雪野はべつのVRMMORPGでも使用した名前をそのまま持って来た。「異端の狼(ゼノ・ルプス)」と名で決定した瞬間、少女の身体は光の泡と消えてなくなり、意識は少年の肉体へと溶け込んだ。

 幼馴染の彼女は、少し前に見た時代劇の影響があったのか桜吹雪とそのまんま過ぎる名前だった。「サクラ・フブキ」。ゆき、と呟くようにこぼせば、彼女は頬を赤らめて照れたように笑った。お守りです、だって。可愛くて思わず少年のものとなった手のひらで、幼馴染の小さく見えるようになった頭をゆっくり撫でた。

 とりあえず、ステータスの確認でもしてゲーム開始直後の活動を考えようか。楽しみ過ぎてわくわくが堪え切れていないような気がした。


===============================


 Name:ゼノ・ルプス(♂)     AGO :16

 Pos :サポーター         RANK:未登録です。



職業(ジョブ)

L《 一次ジョブ 》

 Ⅰ.見習い剣士  ( 1/50)


■生産

LⅠ.薬師     (  1/100)



◆―――パラメーター(能力値確認)―――◆

 HP :16

 MP : 4


 STR:12

 VIT: 9

 INT: 8

 MND: 4

 DEX: 9

 AGI:12

 LUK: 5

 CHA:10


ステータス(状態確認)

 健康状態:良好

 パッシブ:発動中

 SP  :0


◆―――パッシブ(固定スキル)―――◆

無表情(ポーカーフェイス)

---戦闘

 一定時間で繰り返し発動するパッシブスキル。

 スキル保有者のINT値を下回る相手の身体を強制的に硬直(スタン)状態、もしくは恐怖状態にさせる。


---通常

 保有者のINT値より下回る相手に威圧(恐怖感)を抱かせる。

 上記の理由から『騒動クエスト』などでは有利になる。


『寡黙』

 INT値で勝てば、交渉系統のスキルを無効化できる。

 これで押し売りも怖くない。


『仲間想い』

 パーティーで行動する時、常に敵視集中率(ヘイト値)上昇。

 『庇う』を習得した場合リキャストがなくなる。


『自由な旅人』

 何物にも縛られない旅人。

 経験値、ボヌス、アイテムの獲得量が上昇する(小)。


『天賦のカリスマ』

 言動の一つ一つが重く、信頼や信用を得やすくなる。

 カリスマ持ちは王者の素質ありと言われることもしばしば。

 レベルアップごとにCHA補強。


『一匹狼』

 ソロプレイ時、ステータスに大幅な補強が掛かる。


『健脚』

 足が丈夫で、よく歩ける。足の踏み場が悪くても行動制限への抵抗力が上がる。

 上空以外の地形不利を無効化。


===============================



 獣人族らしく、攻撃力(STR)素早さ(AGI)に特化したステータスだった。サクラの方は人間族の神聖系ジョブらしく、防御が紙である。少しでも攻撃を食らったら倒れるようなステータスは、廃人ゲームと言われるだけはあった。獣人族のステータスがとんでもなく攻撃的なだけだ。

 ステータスの差が気になるのか、それともゼノが選んだパッシブスキルが気になるのか。彼女からの質問は途切れることがなかった。会話に困らなくて助かる反面、教えることがなくなってしまったら困るのでぼかす部分もちらりと挟み込む。ちょっとずつ小出しにするのは、知的なタイプだからこそ突っ込んで行ってしまう彼女を思ってのことだ。

 『Now Loading』の文字を追いかけるように砂時計の砂がサラサラと落ちていく。もう少しですべての砂が落ちて、異世界の冒険が始まる。楽しみですね。微笑みながらそう言った彼女は、はじめてのVRMMORPGに胸をおどらせてくれているようだった。よかった、俺だけが楽しいのではなくて彼女も楽しめるような景色がたくさんあって。プレイヤーが発見した観光地もたくさんあるようだから、冒険の中で案内しよう。きっと彼女も気に入る、幻想的な空間だ。




――――― ようこそ、『ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて』へ。


――――― 世界スピラへおいでくださりました。


―――――WORLDネームは『スピラ』。


―――――魔物や亜人が多く存在する夢のような異世界です。



―――――貴女(ヒロイン)は多くの運命との出会いを。



―――――貴方(サポーター)は夢のような冒険を。


―――――ぜひ、お楽しみください。


―――――願わくば、


―――――サクラ・フブキ様とゼノ・ルプス様が『善きヒト』であらせられますよう



―――― Game S………




 そろそろゲーム開始のようだ。

 身体の動かし方は問題なさそうだったので、意識も切り替えよう。なりきりも楽しそうだと心の中に留めたところで、魂を揺さぶられるような衝撃を身に受ける。世界にノイズが奔った。慌ててログアウトを試みるが、頭痛がするほどのノイズの影響でうまく操作が出来ない。ザザッ、とさらにノイズが酷くなる。



「グゥッ……!」

「ああっ…!」



 光の柱は少年と少女を呑み込んだ。

 記憶が、塗り替わっていく。わたしとしての当たり前が、俺としての当たり前に。焼かれる。焼かれてしまう。わたしの記憶が薄れてく。

 そうだ、()()()()()()()()……するべきことがあるのだった。()は駄目だったとしてもせめて彼女だけは…! 凄まじい熱量の此れに焼き尽くされてしまう・・・・・・・・・・・前に―――。

 伸ばした手は届きはしたが、突き飛ばすまでには至らなかった。せめて。せめて痛みをやわらげるように。腕を引っ張り込むようにすれば、彼女を腕の中へ閉じ込める形になった。名前を呼ばれると同時に、意識は暗転する。……途切れる意識の中、どこかで誰かが「すまない」と言ったような気がした。ゼノとは違う、男の声と囁くような女性の声だった。




――――SSSSSSTSS



――――SSSSSSSSSSSSARSSTARAS



――――G



――――ME




………――――ガガッ、ピーーーッ!!




 保健室のような場所だったそこはひび割れて、少しずつ亀裂が広がっていく。崩落して行ったオブジェクトに吸い込まれるようにして、何処かへと消えていく。ベッドや椅子を巻き込んで倒れたままの少年と少女は光に続けて焼かれたままだ。

 憂うような乙女の溜息とともに光線を放つ渦はやがて目視出来るほどの距離まで近づき、光の粒子となり消え始めた少年と少女を呑み込んだ。




――――――――――

――――

――


 

―――転移、無事完了



――――WORLD(世界)SPIRA(スピラ)



――――This(この) is the(世界は、) reality(現実です).......



――――ようこそ、異世界(地球)からの来訪者(プレイヤー)



――――神々は、あなた方の来訪を歓迎します。

■雪野

 一般的な両親もとに生まれてきたはずだが、見た目はただの美少年。中身はお調子者と見せかけた冷静な男前。明るく振る舞った方が周囲は笑顔を浮かべると知っての行動で、照美には素を見抜かれている。


■雪野の写し身

 瘴気に侵される辺境の地で生まれ育った。有名な剣士の息子。瘴気を浄化する術を探し求めて冒険を始める。


■照美

 高貴な家の御息女。全世界試験で1位をとった才女。神童とも呼ばれるが、幼馴染によって才女としての呼び方が固定。「わたしのかわいい幼馴染」と書いて、「てんさい」と読むな。雪野のドライな部分をよく知っている。


■照美の写し身

 瘴気に侵される辺境の地で生まれ育った。実は初代〇〇〇〇の末裔。瘴気を浄化する術を探し求めて冒険を始める。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ