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ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
序章 現実≒幻想の世界
3/29

3.わたしの写し身。

 この『ラ・シェルタ』『虹の乙女を探し求めて。』というゲームのメインヒーローは、サブタイトルの『虹の乙女(ヒロイン)』にちなんで、男女両方の恋愛モードで変わらぬ七人のメインヒーローが存在する。何度も頭に浮かべたような気もするがそのほかの住民とも恋愛モードを楽しむことが出来るのだけれど、メインヒーローと言ったらその七人だ。…どの七人だよ。

 『ラ・シェルタ(運命の選択)』で生きるAIを、住民と呼び、住民たちの『好感度』を上げることによって、『親密度』を開放し、その上の『恋心』を上昇させることではじめて『攻略完了』となる鬼畜ゲームだ。

 そこかしこで素朴な幸せを育む住民と恋愛することも出来れば、ハーレムを築き上げることも出来るシステムは、夢見る乙女たちには涎ものだろう。…涎のたとえは良くなかった。

 アカウントを共有するプレイヤー同士で好みが被れば、“修羅場”が出来上がってしまうけれど。基本的なアカウント共有システムは、冒険を楽しむプレイヤーと、恋愛モードを楽しむプレイヤーでお互いの区分を決めて遊ぶのが種類。


 だからこそ、修羅場になることは少ないはずなのだが……。




=============================

【掲示板】

……

848:ななしの冒険者

あのダンジョンボス、必殺技チャージ早すぎる!!!!!!


849:ななしの冒険者

今年の5月から始めたけど、ステータス上がりにくいのね………。

3桁突入するのってどうやるの?


850:ななしの冒険者

>>848

そのボスって、【風車の迷宮】ってとこのやつですよね。

あれなら魔術師とパーティ組んで、岩壁つくってもらって

遠距離魔法&魔法薬攻撃のゴリ押しで勝てましたよ。


851:ななしの冒険者

>>849

新規さん?

だったら、ペアでやってるんだったら相方さんを大事にね。

アカウント共有してるプレイヤーは、片方のプレイヤーを削除されると

住民から好感度がマイナス突っ切るって公式システムなんだって。


852:ななしの冒険者

>>849

アカウント共有の際に「冒険or恋愛」の契約を結んでるだろうけど、

それでも完璧じゃないのよね。


853:ななしの冒険者

>>849

依頼クエストを達成したら

好感度が上がっちゃう強制イベントとかもあるから。

揉め事を起こしたくないんだったら

好感度が報酬に書かれてあるものは

報酬のアイテムを条件に譲ってもらった方がいいだろうね。

修羅場が起きるわよ。



=============================




 ドン引きした。泥沼の修羅場劇場もあった。

 アカウント共有をする際に、冒険モードか、恋愛モードかの契約を結ぶ。それによって、ペアでゲームスタートした方が攻略対象の好感度を上げやすかったり、【ヒロインパッケージ】を選んだ方は掲示板を見てはいけないという誓約を守ることで解放できる職業を得られたり、【補佐役サポーターパッケージ】を選んだ方は報酬や経験値が倍増したりすると言った、プレイヤーのメリット・デメリットのバフが振り分けられるのは説明書にあったとおりだ。


 アカウント共有におけるメリットは、以下のとおりである。

 ヒロイン側のメリットは、補佐役のサポートを受けることが出来るため、隠しルートの解放がしやすくなる。反対にサポーター側のメリットは、冒険者らしく報酬、金、経験値の常時増加するものだった。お得。


 そして、アカウント共有におけるメリットがあるところに、もちろんデメリットもある。

 ヒロインアバターを削除した場合、サポーターアバター側はパーティサービスの停止。強制ソロプレイモードへ移行。一部ショップが使えなくなる。

 反対に、サポーターアバターを削除した場合は上昇させた好感度や親密度はマイナスへ。好感度が上がりにくくなり、一部ショップが使えなくなる。恐怖じゃねーかよ。仲違いしなければ良いだけなのだが、恋する乙女には難しいことなのだろう。


 大雑把にまとめても、メリット&デメリットはざっとそのようなところだ。

 現実世界の雪野は会話に遊び心を混ぜ込んだ(引っ掛けやクイズなど)楽しみ方をするが、ゲームの世界ではそうでもない。チャットが煩わしく、基本的に寡黙なキャラクターとしてサーバーのどこかに居るタイプだ。寡黙なキャラクターながら、廃人レベルの極めっぷりのおかげでキャラクターの存在感だけは主張してきた。


 雪野個人としては、彼女が笑ってくれるのならばそれがいい。


 ふむ、と顎に手をあてて激しく納得した。”もう一人の自分”をつくれば良いのだ。

 幼馴染が上機嫌に笑ってくれるようなキャラクターと言えば、と雪野は思考を巡らせた。彼女がよくよく好んで攻略しにかかるのは、乙女ゲームの一匹狼くんだろうか。

 ちょっと前にプレゼントした誕生日のゲームでも、夢の中の寝言を零すほどに一匹オオカミへの愛情が溢れんばかりだった。好きなものは最後に食べる可愛らしい一面の持ち主である彼女は、全スチルを揃えるために最初はあまり好ましくない相手を攻略し、最後に好みを持ってくる傾向にあるのだ。

 その習慣からかんがみて、間違いなく『寡黙で俺様だけど優しい一匹狼系』が好みのド直球であることは、一目瞭然。

 ラ・シェルタでは、獣人の種類ごとに神話が付与されており、特定の条件を達成すると上位の種族へ進化することが出来るシステムも導入されている。……わたしの場合、狼を選んだから『神獣』に進化出来るようになるようだ。

 へえ。と見つめながら見た目を、そっくり写し取るのではなくて雪野ベースに『孤高の戦士』風味を足したり引いたりしていく。元が少女のような見た目であったから、性別の足し引きと、客観的に俯瞰できるポジションを利用して『芸術性』を追求した。

 ちなみに雪野の芸術作品は、さる有名な美術館や博物館から声が掛かるほどの価値があるものである。不思議にも鏡を見ているような気分で、()()()()()()()()()()()であると錯覚まで起きる。……まぁ、ベースはわたしだし。そういうこと?なんだろう。たぶん。



 違和感なさすぎ……?

 え、逆にその感覚(違和感ない)はおかしいんだが。



 乙女ゲームを極めし者(幼馴染のてっちゃん)のおかげで“美的センス”のレベルはかなり磨かれた自覚はある分、『絶世の美男』と思わず見惚れてしまうほどの美青年を造形してしまった。と自画自賛しづらい違和感のなさに頬を引きつらせる。

 やっぱやめようかなこの見た目。色だけでも変えた方が……。と思ったところでシステムの音がした。




システム:恋愛モードのアバターが完成しました。




 お、と目を丸くした雪野はログを確認した。

 映し出される清楚系の美少女は、思わず中身を知る分、幼馴染が呼吸しているかと尋ねたくなるほどのピュアな雰囲気を醸し出している。幼馴染がピュアではないと言っているわけではなく、方向性の異なる純粋さを主張しているから心配していた。とってもピュアな幼馴染は褒められるだけで『ツンデレ属性』を発揮してしまう性質の持ち主なのだ。

 クールなツンデレである照美とは、お淑やかな彼女(高貴)らしさを残したままちょっと異なる『天然』属性の美少女の姿があった。ああ、でも彼女自身も天然だし、大丈夫か。

 雪原に降り積もる雪のようにきめ細かく白い肌は、冷たい氷とは違って洋菓子のマシュマロのよう。ややふっくらした桜の花びらと同じ色の唇に、小ぶりの鼻。そして、雪野をどきりとさせたのは、二重の大きな目はけぶるような淡いプラチナの睫毛に縁取られ、春の日だまりを知らせてくれるような桜を閉じ込めている瞳だった。

 緩やかに波打つ淡いプラチナブロンドは、触れることすら躊躇しそうな華奢な肩からなだらかな曲線美を描いて細い腰まで伸びていた。窓の枠に手をかけて、風を一身に受けるたびにさらさらと揺れる。くすぐったそうに柔らかな微笑みを浮かべながら、顔にかかった横髪をゆったりと耳に掛ける姿は妙にドキドキした。



サポーター:ホォ好き………。

ヒロイン :(ありがとうのスタンプ)



 ふんわりとした立派な淑女の姿を見せつけられて、雪野は思わず手にとって口づけをしたくなる。そういうところが勘違いされがち。同性愛者というわけはなければ、無性愛者というわけでもなく、「可愛いものは愛でたい」という精神に基づいての行動範囲だ。

 女の子ならだれでもいいというわけでもないので、姫と騎士のような絵を作り出す(かしずく)相手は選んでいるつもりである。幼馴染にはもちろん殿堂入り。



サポーター:アーッ好き………!!!!

ヒロイン :でしょうね。



 世界のために遣わされた天使様や乙女様と言われたら、もはや納得以外の単語が出てこないくらい信じてしまいそうなほど美しい少女だ。


 そんな少女が、わたしが作るアバターの相方になるのか。はた、とパッシブもジョブも決めていない現実を直視して思わず頭を抱えた。見た目を作り上げたとは言えども、顔だけの人間に大事な幼馴染は任せられない。そう、顔だけの男に大事な幼馴染は任せたくないのだ。

 自分の写し身(アバター)であるならば、頼り甲斐のある優秀で、仲間想いで()()()()()。どんなところにこだわりを寄せたのかと呆れられてしまうだろうが、それでいい。雪野にとっては、最重要事項なのだ。

 好みの女性に夢を馳せて悶える時間を、彼女を守るためにはどうするべきかを熟慮する時間へ割くべきだと頭脳をフル稼働した。隠しルートを開通するためには、「主人公ヒロイン」が現実世界と離縁していなくてはならない。

 簡単に言うと、「冒険者バザー」「攻略掲示板」などの攻略系統のサポートを「補佐役サポーター」以外から受けてはならないという制約がある。アカウント共有しているものの、サポーターが関わることに対しては良いようだが、そこの違いがよく分からない。




職業(ジョブ) 選択 ▼】

①戦士系:接近戦武器を主体としたパワーファイター。成長するとディフェンダーもしくはアタッカーの役割を選べる。

②遠隔系:弓を用いた弓術に長けた遠隔アタッカー。成長すると特殊な道具を扱えるようになるかも。

③支援系:攻撃力、防御力は低いが素早さや運が高く、敵からアイテムを盗む能力を持つ。成長すると、罠解除率や発見率が高まる。

④神聖系:魔法を主体とした攻撃や支援を行う。成長すると、支援・回復を主体とする。

⑤魔法系:魔法を主体とした攻撃や支援を行う。成長すると、攻撃・妨害を主体とする。




 ジョブの名前は異なるが、簡潔に内容をまとめるとこうなる。

 ゲームのサブタイトルから分かるように「ヒロイン」がクレリック系統のジョブを極めて「乙女」に至ることが出来たら、隠しボーナスルートの『ゆるふわハーレムルート』が解放される。血みどろな修羅場ではなく、ゆるふわハーレムであることがポイントだ。

 レベルが上がりにくく、ステータスの成長幅も低めだと言うから、盾と攻撃の双方を補うためには、と頭を悩ませる。隠しルートも開拓する予定だと聞いているので、幼馴染は「神聖系」を選択しているはずだ。

 初心者特典? サービスが早速反映しているのだろうか。ちょっぴりラッキー、なのかな。初期ステータスを見ても掲示板の言うような「成長しにくい環境」ではないようだ。


 ラ・シェルタの良いところは、育成したジョブのステータスやパッシブスキルなどを引き継げることだろう。ステータスの向上を目指すならば、まず初期の5つのジョブをレベル上限まで到達させることを推奨する。しかし、それが出来ないのは、レベル上げも鬼畜ゲームだからだろう。ダンジョンで獲得できる経験値の低さや魔物の強さ、そしてプレイヤーの力量が重視されるのだ。

 そこで、多くの人は【生産系】のジョブに目をつける。何故ならば、生産系のジョブを育成しても、ステータスに反映されるからだ。アイテムは冒険を楽しむプレイヤーが安価で、プレイヤー同士の売買が行える冒険者バザーで売り生産を楽しむプレイヤーは冒険者バザーで買った素材でアイテムを生産したものを冒険者バザーで売る。冒険に役立つものばかりなので良いこと尽くし。生産職業のレベルが上がれば、ステータスも向上するし。

 そうこうしているうちに満足のいくものが出来上がった。ふむ、これならてっちゃんの写し身を守るに相応しい存在だろう。もっと担ぎ上げるべきだろうかとくるくるとカメラモードで見渡して、完成のボタンをクリックした。




システム :冒険モードのアバターが完成しました。

ヒロイン :………うそでしょ………?

ヒロイン :なんで攻略対象じゃないのよぉぉおおっ!!!!!

サポーター:発狂ワロタw

ヒロイン :ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ーーーッ!!!

サポーター:何その悲鳴………、めっちゃガチ………?

ヒロイン :す゛き゛ィ゛ーーーーーーーーーッ!!!!!

ヒロイン :絶世の美男にもほどがあるんじゃないの!!!!!????

ヒロイン :シャープな輪郭、涼し気な目元に人間離れした狼の瞳は野生的な色気を………(中略)

ヒロイン :均等の取れたボディバランス!筋肉に覆われたわけではなくて、狼のようにすらりとしなやかな肉体で………!!!!はぁぁあんっ!その胸元に顔をよせて頭をぐりぐりしたいぃぃいい(中略)

ヒロイン :男らしく角ばった手は、ゴツゴツしてるかと思いきや繊細で………!!!!




 カーテンが、乱暴に開らかれるようにしてシャァッと消えた。桜色の瞳を驚愕に揺らして震える美少女の中身は、全力で発狂している。ログさえなければ今にも泣きだしそうな表情だと思っただろう。心身ともに健康と安全をお送りできる自信あり。予想以上の好感触に心の中で拳を握った。

■雪野の写し身

 銀灰色の一匹狼。ありとあらゆる乙女ゲームをプレイしてきた猛者が心の底から発狂しながら攻略させてくれと懇願するほどの美貌と美声。寡黙で無表情がデフォルトの灰色狼の獣人。


■照美の写し身

 ゆるふわ系の美少女。聖女を目指す以上、清廉潔白なイメージを優先した。ツンデレ気質の中身とは反対に素直なので、口から思ったことがそのまま言えるようになったことは僥倖。素直なデレで幼馴染に特攻を仕掛ける素直になれたら、天然な天然。

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