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ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
二章 神聖国グリツィーニエ
25/29

25.天と地。

 へえ…。ほー…。ふーん…。レベルアップ前のステータスと比較しても、ステータスの上がり方が異常であることは変わりなかった。

 最後に見たステータスは二桁代だったが、四桁に突入するとは何事か。必ずどっかしらのパラメーターが上昇するポテンシャルは、異世界に来てしまった現代人を護る術として有効活用できるからせめてもの幸福と言えるだろう。

 レベル上げの廃人と呼ばれるだけあって機械的に繰り返す作業が不得手でなったことが、ダンジョンにとっての不幸なことだ。初期に出てくる5種類のジョブレベルを最大にした甲斐もあり、当初の目的だった一次ジョブのレベル上げは完了した。

 次なる目標は『使用する武器をジョブと定めた』ジョブのレベル上げである。所謂、それが『二次ジョブ』と呼ばれるものに該当するのだが、レベル上げの方法は簡単だ。

 メインウェポンに持って来たかった剣術士を固定して、二次ジョブを開放したことによって『サブジョブ』の設定が出来るようになったため、そのサブジョブに『サブウェポン』をセットして敵を討伐する。たったそれだけの作業で苦手なジョブも一緒に上げられるという戦法だ。

 ジョブチェンジシステムが搭載されたメインジョブしか設定できなかった他ゲームでは、きちんと下積みして極めてきたので「苦手」と言うのは気分だけ。動きだけで言えば高難易度なプレイやテクニックも習得したため、心配御無用である。


 それはさておきとして、ゼノは自分のステータス画面を広げる。以前の記録を日記から、現在の記録をステータス画面で表示し、再度パラメーターを比較した。

 ダンジョンを攻略し続けるにしろ、レベルアップした際のステータス以下のものであればプレイヤースキルがモノを言う。けれども、それはダメージが一でも通れば、の話である。ダメージが通らなければ攻略はもちろん不可なので、レベルアップ後のステータス値の予測をある程度立てられるように把握しておく。

 ゲーマーであった頃のゼノはそうしていた。効率的だと思ったからゼノも模倣する。否、そもそもわたしなんだが。模倣する、と思ってしまった辺り、なんとも言えない。




----------------------------------------------------------------------

職業(ジョブ)

L《 一次ジョブ 》

 Ⅰ.見習い剣士  (50/50)

 Ⅱ.見習い弓術士 (50/50)

 Ⅲ.見習い冒険者 (50/50)

 Ⅳ.見習い魔法使い(50/50)

 Ⅴ.修行僧    (50/50)

L《 二次ジョブ 》

 ◇近距離型

 LⅠ.剣術士    ( 11/100)★メインウェポン

  Ⅱ.拳術士    (  5/100)☆サブウェポン


 ◇遠隔系


 ◇支援系


 ◇魔法系


■生産

LⅠ.薬師     (  8/100)

 Ⅱ.木工師    ( 11/100)

 Ⅲ.調理師    (  9/100)


■採取

LⅠ.木こり    (  1/100)

 Ⅱ.採掘師    (  1/100)


◆―――パラメーター(能力値確認)―――◆


 HP : 90 → 1,503

 MP : 66 → 1,127


 STR:101 → 1,240

 VIT: 97 → 1,509

 INT:253 → 4,177

 MND: 61 → 1,078

 DEX:242 → 5,124

 AGI:229 → 4,021

 LUK: 62 → 1,283

 CHA:150 → 3,744


★基本となるジョブのうち、一種類レベルが最大値に達しました。

 一次ジョブで使用可能な武器を解放し、さらに『二次ジョブ』を開放します。


★称号『一次ジョブ・マスタリー』を獲得しました。

 各ジョブのステータスが統合されます。



----------------------------------------------------------------------




 余裕に億越えの経験値を獲得出来たのは、ゼノが滞在するダンジョンの平均レベルがおおよそ50レベル帯だからだろう。自分のレベルよりも高い敵を相手にするボーナス経験値も美味しかったし。

 冒険者ギルドで受注できる依頼の件数は五件。その枠をフルで稼働させて、ゼノはゴーレムシリーズを一気に受注した。ゴーレムシリーズと呼んだクエストは、実際には「〇〇属性のゴーレムの素材を納品」と言った内容で、依頼書に記されたシステム側の「シリーズ」タグを指す。

 ああ言ったシリーズものは、率先して受注していきたいところ。シリーズクエストを一つずつ熟すのも美味しいが、シリーズをすべて達成することで得られるボーナスもかなり美味しいのだ。


 大幅にレベルアップしてもまだまだ二次ジョブ入りたての初心者である。もっとたくさんレベルアップを図りたかったが、一週間も籠もりきりでは彼女を心配させてしまう。個チャの方では彼女も博物館の内部にある図書館で似たような様子だけれど。冒険者ギルドで発行した「冒険者カード」を誰かと交換した、とあるから交流は充分のようだ。

 プレイヤーかどうか、と尋ねたところ世界スピラの住民のようだった。

 どうやら冒険者カードには王太子とあったらしく、プレイヤー以外の目には見えていないようだった。「見なかったフリするべきですよね…?」と何処か不安げな相談には、「君が想うままに行動しろ。」とだけ返す。そのためのゼノ・ルプスなのだ。

 たとえどんなことになろうとも、自分だけはサクラの味方であることは変わりない。書き加えた言葉にはしばらく返事が来なかった。感じた通りに行動を起こすことにしたらしく、厄介事に巻き込まれてくると言ったっきり返事はなくなる。


 それが、昨日のこと。


 彼女の不利になるようなことを避けるためにも、彼女の手駒となれる距離に帰還する。プレイスタイルは結構希少な方だし、すでに四桁に突入したパラメーターの持ち主だ。

 早々に倒されるなんてことはないから安心してあらゆる高難易度な戦闘は任せてくれ、とメッセージを送りつけてからダンジョンを後にした。依頼の達成だけはしておく。受付嬢の獣人族ヤッベェというドン引きから、高ランク冒険者にも引けをとらない能力の高さ流石ですと言った尊敬の眼差しに切り替わるさまを見てしまった。

 ダンジョンを攻略したことで得たのは「同盟都市シャフト」で流行った市民の衣服。平均レベル相応に装備レベルも高く、「紫の都グリツィーニエ」で生じるあらゆる騒動に巻き込まれても擦り傷一つで済みそうな防御力を誇っていた。…ら良かったのだが、実際はそんなことなかった。

 確かに装備レベルは高く、それなりの防御力はあるようだが、それでも「同盟都市シャフト市民の衣服」と名前だけあって市民の衣装レベル。魔物に噛まれたら牙は通るし、爪で引き裂かれるし、と言った微妙な装備品だ。

 それでも一般市民には有り難いもののようで、冒険者ギルドに持ち込むと「売ってくれ」とせがまれる。どうやって見てんだアイテムストレージを。

 攻略したら必ず一着は報酬として持ち帰れるらしく、冒険者カードには「同盟都市シャフト攻略」と追記されたため目をつけられたのだろうと受付嬢は説明してくれた。攻略したら必ず振り込まれる報酬があるのか。特産物のようなものだろうか、と考えながら不要な素材やら装備やらを自然な程度に冒険者ギルドに卸した。


 王道の道筋をたどるなら街中を探索し、武器屋、防具屋、道具屋、素材屋、魔法屋などに部類を振り分けられるショップを探すのだが…。

 呼ばれるまで待つのもなんだかな…。しばらくは暇つぶしとして街中を探索しておくか。グリツィーニエで滞在する間の決まった宿屋探しも含めて、彼女の方の『緊急クエスト』を達成できるようにサポート可能な環境を作るのだ。

 彼女の「癒しの力」を求めての依頼だったらしく。……治癒術が必要ならば、きっと薬で代用する可能性もある。継続クエストなら薬を生成し、レシピを添付して納品することで完全に達成となるケースもあると聞く。


……なら薬師の腕前をあげておくか。


 街中で行うよりもダンジョンで行った方が効率的なのだが、と思ったところで個チャから反応があった。なになに……。

 明日も同じ時間に継続魔法「リジェネレイト」をかけてくれと言った内容で、普段のヒロイン・ザ・ストーリーならば、見えるはずの明確な期日がなく、どうにも長引きそうな様子であることがそこに記されてあった。

 薬師としての腕前をあげてから合流したい、と言葉を送る。街中をぶらりと歩く予定だったから、そこらへんを歩きながらマップを埋める作業に徹した。返事が来るまでは街中に居るべきだろう。

 やや時間をあけて了解の旨が返ってくる。…もう一つはなんだ。

 自分の冒険者カードに重なるようにして現れた二枚のカードは彼女の分と、噂の王太子の冒険者カードのようだった。サクラが滞在する場所は一般人の立ち入りを禁じられたエリアのため、そのカードは紹介状のような役割を果たすから持っておくように、と。

 サスペンスや冒険アクションとかではなく、本当に乙女ゲームの世界なんだろうか。文面だけ読み取れば、現状はあまりにもキナ臭すぎる。彼女を人質にとられたような気すらするメッセージを微妙な気持ちで見つめていると、慌てたように下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりに訂正する内容が送られてきた。

 冒険アクション系にもジャンル区分の場所をとっているし、今まで甘酸っぱい空気を見たことがないのでこれっぽっちも説得力はないが、乙女ゲームの会社が開発した、新感覚の乙女ゲーム。

 それがラ・シェルタである。


 彼女と他の誰かがどんな場面でイチャコラしようが、甘酸っぱい雰囲気で周囲を圧倒しようが、彼女が幸せであるなら見守るのはやぶさかではない。

 彼女が傷つくような結果にさえならなければ良いなと思う。現状の異世界に転移した可能性を否定しきれず不安に押し潰されそうな今を支えられるだけの度量を持ったヒトに会えたことはないから、しばらくはゼノだけのサクラで居てくれる喜びはあれど、それに縋りつくつもりはない。何時かは彼女をお嫁に送り出す日が来るのだと考えると、勝手に胸に込み上げてくるものがあった。


 それはまだ考えるの早いな…。


 サクラの置かれた現状を尋ねたところ、ゼノも同じように『緊急クエスト』が発生した。迷わず受注すると彼女が進めたタスクを確認出来る。そこに表記されたグリツィーニエの正式な国名だ。

 紫の都グリツィーニエではなく、『神聖国グリツィーニエ』と差し変わる。マップの表記すら塗り替わるから、特定の条件をクリアすると開示される情報だったのだろう。


 『運命の女神ファタリテート』からの神託()を聴くことの出来る乙女(聖女)を聖女として頂く。その聖女はファタリテートの声を賜ることは可能だが、虹を降臨させることは出来ないので『虹の乙女』ではない。ファタリテートの神託を人々の暮らしに届ける乙女―――聖女を祀る『聖ファタリテート教会』を中心に、人の王を頂きに置く王国から歴史が刻まれる。そんな教会と王の二つの派党が力を合わせて切磋琢磨に国を運営するそれが、神聖国グリツィーニエだ。

 サクラ・フブキは、国の中枢を担う聖女。この国では、『運命の聖女』と呼ばれる女性が奇病に倒れたところに遭遇した。

 お人好しな彼女が目の前で倒れた人を放っておけるはずもなく、ただの熱だと思って看病したところ、『運命の聖女』の病状が緩和したことを確認。冒険者ギルドに登録したばかりの少女であることを重々承知した上で、サクラのペアとして登録するゼノの存在を無視してゴリ押しする形で依頼を発注。内容は看病だけ、と卑怯な手を使ってのことだ。

 依頼の内容を偽る行為は如何なる理由があれど許されることではない。とは言え、それ以上に『運命の聖女』の心身ともに健康であることは望まれること。天秤にかける間もなく、純粋なサクラを騙す形で看病二日目を任せることにした。

 偶然ならばまだ帰してやれる。だが、此れでもし回復したら今しばらく聖女が回復しきるまで彼女に看病を任せようと藁をもすがる気持ちで逃げられないように誘導した。受注したクエストを投げ出せるような性格をしていないことが災いしたともいう。

 ゼノには「彼女の身はファタリテート教会でお預かりする。黒い蔦のようなもので覆われた女性を救う手立てを探してくれ。」と一方的な内容しか送られて来なかったから、すぐにでも彼女を連れ帰ろうと思って殺気立ったところだった。

 何処ぞでゼノを監視する役割の人間でも居る―――居るな。居るようで、ソイツがきっと王太子とやらにゼノの様子を伝えているのだろう。


 しかし、一方的に(・・・・)知られている。という状況は不愉快に変わりないので、あえて脅しに屈せず、プレッシャーをかけるように男の背に立った。御機嫌斜めを通り越して、天と地である。



「うおぉっ!?」

「……彼女の身に何かあればすべて壊れてなくなるまで。地獄を恋しく想わせてやる。」



 表通りであることを自覚した上で、防音のバンダナを解く。雑音は酷くなるが、それ以上に見開かれた瞳を静かに見返した。キュウと窄まる瞳は獣のそれ。獣人族の中では『第一』と呼ばれる種族の特徴を色濃く出す瞳と、人間の瞳がゆるゆるとかち合う。

 吐息のような声で「嘘だろう…」と呆然とした言葉が零れる。強張った表情に背を向けてゼノは黄昏を通り過ぎて訪れた闇夜の世界に身を投じた。

ゼノ・ルプス

■星歴2217年

L◇アリエス(4月)13日(メイン:剣術士Level.11↑ サブ:拳術士Level.5↑)

『討伐クエスト』:同盟都市シャフト限定 ゴーレムの研究を受注しました。

『討伐クエスト』:同盟都市シャフト限定 ゴーレムの研究を達成しました。

Ⅰ 『ゴーレムって何?』を達成しました。

Ⅱ 『ゴーレムがどうして作られた?』を達成しました。

Ⅲ 『ゴーレムが生息するエリアはどこ?』を達成しました。

Ⅳ 『ゴーレムの種類ってある?』を達成しました。

Ⅴ 『ゴーレムの生活はどんなもの?』を達成しました。

Ⅵ 『ゴーレムの討伐』を達成しました。

Ⅶ 『ゴーレムの大型種の討伐』を達成しました。

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