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ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
二章 神聖国グリツィーニエ
24/29

24.レベル上げ。

 博物館の中にある図書館に入り浸ることを宣言したサクラと別行動をとることになった。それはべつに構わないが、冒険者ギルドでぼうっと突っ立っているわけにも行かない。彼女が知識を蓄えている間、俺はレベリングをすると決めたのだ。

 効率よく経験値を荒稼ぎするには何が良いのだろうか。依頼書と睨めっこをしたところで妙案が浮かぶはずもなく、むわっとする熱気に負けて一階のエリアへ逃げ込んだ。



「あ! あんちゃんあんちゃ…」



 ずっとバンダナをつけっぱなしだったからか、汗が染み込んで気持ち悪い。結び目に指を差し込んでシュルリと解きながら声がした方へと視線を向ける。口をパクパクとさせる猫耳の少年がそこに居た。……何か用でもあるのだろうか。



「…ひゃー……ボクも大人になったらそんな色気つけられるんやろか。」



 俺のようにと言われても知らんが。…大人の色気と言えば、冒険者ギルドに加入する前にサクラと会話していた魔女が大人のお姉さんっぽかったのではないだろうか。



「あんな、朝は大事にせんといてくれてありがとう。ボク、高位の獣人族にお会いしたことあらへんくて……穏便に済ましてくれたし、お礼だけでも思てあんちゃん待っとってん。」

「プファイフェくんはお兄さんとお話がしたくてお待ちしてたのよねぇ。」



 そう、ちょうどこんな…。豊満な肉体の曲線美を惜しげもなく晒すマーメイドドレスに身を包んだ女性が後ろから猫少年を抱きしめるような形でのっそりと現れて言った。どうやら猫少年のパーティーメンバーのようだ。

 オオゴトに、と言った辺りで冒険者ギルドの隅を見やる。いじけたように暗雲を背負いながら己のつま先を見つめる男性冒険者の姿があった。三人パーティーなのだろうか。猫少年がお辞儀すると同時に、しゃらん、と猫少年の腰から木彫りの笛が衣装と擦れて音が鳴る。音がデッカイ。思わずバンダナを装備した。

 ぴるっと動く耳に視線を動かそうとした猫少年の目は間に合わなかったようで、ああっ、と残念がる声がする。大きな音に原因があると理解があるからか、それ以上なにも言われることはなかった。

 プファイフェ……笛。耳にした単語を、何故だか自動的に検索できるようになっている。笛って意味なのか、へえ。色とりどりの布を継ぎ接ぎにした衣装をまとった猫少年の姿は、舞台がドイツであることも相まって笛吹き男を連想させるものだった。



「笛吹なのか。」

「! せ、せや! ボク笛吹! 『笛吹のプファイフェ』!」



 猫少年の二つ名だった。

 二つ名とは、名声をあげた冒険者の愛称のようなものである。何を為したのか分かりやすくするために付けられる肩書きのようなそれ。『笛吹のプファイフェ』の二つ名は、猫少年がおそらく笛を吹くことで何かしらの物事に献上したことで得たものなのだろう。

 「我が意を得たり!」と言わんばかりに俺が声を掛けたものを語りだす。それ自分の情報を垂れ流しにしているようなものなのだが冒険者として大丈夫なのだろうか。

 ぷっくらとした唇をさらに尖らせて、魔女は強請るように言った。有名な話だと。言葉も表情も無いまま、それならばと催促するように頷く。彼曰くの「高位の獣人族」から反応が返ってくることに歓喜を示すよう、プファイフェと名乗った猫少年は二つ名の由来を語って聞かせてくれた。


 そもそも『笛吹』とは、鳥族の情報を言葉以外の声にして伝えるコミュニケーションのものから誕生した精神魔法の一種だ。

 もっと正確に範囲を狭めると、危険信号とも言える、緊急事態や危険に対する警鐘を音の届く範囲に“見聞きした正確な情報”を届けられる「精神を共有する伝達魔法」の。ダイジェストに音から想像力を掻き立てて、相手の脳に直接情報を届けるのだ。

 うつくしい囀りを響かせる嘴がなければ出来ないという理屈だけ聞けば猫族であるプファイフェは習得不可能な魔法だが、彼はその特殊な育ちから『笛吹』を覚えた。というよりも嘴のかわりに笛を持たされ、プロ顔負けのスパルタ教育にてまず笛で演奏する腕を叩き込まれたのである。

 はぐれたときの音、楽しいときの音、怒りの音、喜びの音から悲しみの音。それらを音楽で表現できるまで里から出してもらえなかったのだと言った。種族柄なのかプファイフェは好奇心旺盛で、外の世界へ希望を躍らせて日々の訓練をなんとか達成する。

 その最後の最後で訓練と称し、アンデット系統の魔物が蔓延った紫の都グリツィーニエから見事、骨型の魔物スケルトンを外部へ誘導。ダンジョンへ閉じ込めることに成功し、功績を称えられて『笛吹のプファイフェ』と呼ばれるようになったのだ。

 一人前として認められたプファイフェは、鳥族にとっては天敵の猫族を育ててくれた里と別れて冒険者ギルドに所属することを許された。ときおり、彼を育てたという鳥族の女性が様子を見にやって来るらしいが。



「でな、ボク一回だけでもええから高位の獣人族にお会いしたかってん。」

「会いてぇ会いてぇしか言わねぇからよ。」



 何処の誰とでも言ってもらえれば連れてきたのによ。とぶちぶち零したダンは短気な部類ではあるようだが、仲間には優しくあれるのだろう。プファイフェのささやかに見えて、実はかなり命懸けな願いを叶えようとしてやるのだから。

 獣人族の間では「階位」という序列が定められており、その序列は神々にお仕えする神獣たちで決定する。なお、一度決められた神獣は変わることなく永久にお仕えするため、獣人族の序列も変動することがない。

 はあっ、とプファイフェのうっとりとした表情で見上げられたゼノは無表情ながらに困惑した。少年がするような表情ではなく、どちらかと言えばワンナイトのあとのようなそれ。ぞわりと身の毛がよだつ。あられもない表情を浮かべたままプファイフェがねっとりと絡みつくような眼差しで見つめる場所は、腰布で覆われた尻尾のあるところだ。



「……。」



 尻を通り越して、ヘンなところを見つめられてる気がして思わず席を立ちあがる。何も、何も言わなかったからってそんな仕打ちを受ける謂われはない。嫌悪を丸出しに睨みつける熊の獣人が、ゼノに向かっては憐憫の色をうつすのだから相当な対応を受けたのだと理解をした。

 やっぱりプファイフェのそれってアレに当たるのか。ちょうど口実も出来たし、遠慮なく距離を取らせてもらうことにしよう。素早く人混みに混ざりに行く。剣呑な瞳をじとりとプファイフェへ向ける女性を筆頭に大型の獣人族たちが壁を作ってくれたので、地下の酒場に転がり込んだ。

 へんな汗をかいた。人目のつかない影に入ってからもう一度バンダナを解き、『洗浄魔法』を使用してからパタパタ仰いで乾かす。獣人族の腕で行うものだからほぼ一瞬だ。

 ぴるっと動く耳は『序列第一』の耳。よく耐えたなとばかりの眼が刺さった。それは自分でも思うからゼノはスルーした。



「ああっ! 待って待って! ほんまに堪忍やで! 親愛の挨拶してなんて贅沢は言ぃへんから待ったってー!」

「プーちゃん……それはダメよぉ。しがない魔女さんでもわかるわぁ。セ・ク・ハ・ラって言うのよそれぇ。」

「うううっ、やってぇ……せっかく会えた高位の獣人族やねんもん…。」



 優秀な耳の持ち主は、ものすごく微妙そうな眼差しを階段へと向けた。好奇心は猫を殺すと言うけれど、命知らずと言うべきではないだろうか。

 ゼノ以外の獣人族にあんなことをしたら、まず頭から殴りつけられている。『序列第二』の蛇に同じことをしたら、全身を締め付けられて複雑骨折したことだろう。プファイフェと同じ猫の獣人族に怒鳴りつけられ、そんな彼女の仲間であろう犬の獣人族からコンコンとそのように諭されていた。

 流石に「尻をじっと見つめられてるようなもの」と言うのはやめてほしかったが。


 気分転換にダンジョンにでも引き篭もっておくか。ゼノ・ルプスの今のレベル帯でも敵に攻撃が通用する程度(・・・・・・・・・)の、結構なハイレベルダンジョンにでも。敵を討伐する時間を長引かせることによって、一つのスキルを集中的にレベルアップさせる心積もりなのだ。

 彼女は自分で骨董品を集めたがるだろうから、そう言ったアンティーク調のダンジョンは避けておく。的にしやすくて、耐久力が長けていて、動きの鈍い…。



―――ゴーレムか。



 ゴーレムが大量に生息するおおよそ敵の平均レベルが50のダンジョンの依頼を探す。ものすごくレアケースだが、そう言ったコアなコレクターはそれなりに存在してくれる。じ、と静かに依頼書を読みだした。

 ゴーレムシリーズを見つけてしまった。シリーズものなので時間は掛かる。彼女の方も、図書館で大はしゃぎだろうし読み終えるまではゼノの存在も忘れているだろうし、長くダンジョンに引き篭もるにはちょうど良い長さだ。

 無言のまま見つけたゴーレムシリーズと記された依頼書を掲示板から剥がし、受注のために一階に戻る。獣人族の良いところは、きっと切り替えの速さだろう。

 しれっと何事もありませんでしたと言わんばかりの態度で依頼書を受付嬢に渡した。元より無表情だから何も伝わらんのだが、犬の獣人が「命あるだけマシ!」と豪語してしまったために遠巻きにされるようになったのは僥倖である。よくぞやってくれた。


 そうしてゼノは冒険者ギルドを抜けて依頼書を帯剣ベルトに差し込んでダンジョンのある方向へ足を向けた。

 今から行くのは先ほど行った『アルテス美術館』のダンジョンボス。フロイント・シャフト子爵がおさめたフリューリング領の同盟領だ。

 貴族の家名は、その土地の名を示す。もれなく都市ごとダンジョン化したそこは、もはや死者の国。それでもなお、同盟の盟主だった『シャフト』一族を愛する土地はかつてのまま昔を彷徨う。ゴーレムの核が、シャフト領の住民たちの命で作られたものである。

 すべてで十階層程度の階層自体はやや少なめなのだが、滅びたシャフト領の者たちは攻め入ってきた魔族の軍勢から自領と友領を守るために奮闘した。その結果が、人の生命をかき集めたゴーレム化である。すなわち、一体一体がとてつもなく強い。

 親切心からか「ソロで挑むのはやめておけ。」と声を掛けられることもあったが、ゼノが獣人族だと知るや否や、オコボレを預かろうと集って来る。ひそひそコソコソやって来る。コバエが群がるような光景に内心ドン引きしつつ、「同盟都市シャフト」に挑んだ。


 腕に風を纏わせて、少しずつ削ることを目標とする。今回のレベル上げは基本的な魔力の質を向上させるためのものであり、全体的なパッシブを習得することによるパラメーターの底上げだ。

 余計な荷物も背後にあるようだが、放っておく。ダンジョンに入った時点で自己責任。駆け足で人気の少ないところまで走り抜き、一対一が臨める地形を探す。

 くぼんだ通路があれば最適。とは思ったが、かつて都市であったがゆえか。至る所に通路がある。入り組んだそこはゼノ・ルプスが最も得意とする障害物が乱雑に置き散らかされた空間であった。

 一体のゴーレムにめがけて小石を『投擲』し、身を潜める。ターゲットをロックオンされるまでは遊びのような作業を繰り返して、ひたすらに『投擲』のレベルを上げ続けた。レベル差も加味されて積み上げられる経験値は面白いくらいに美味しい。『投擲』だけで一体を仕留められるようになるまで数時間かかった。それほど腕を酷使したにもかかわらず、ゼノの身体は疲れ知らずである。

 世界スピラタイムーーー現在の時刻は夕飯時だろうか。サクラ不在の間に彼女をサポートするためにもたくさん出来るようになっておこう。『調理師』ジョブを開放して、散々草原で狩り尽くしたウサギの肉を調理する。

 ただ火で焼くだけだったので味気はなかったが、こんなものだろう。今度からは調味料でも持って来るか…。

 『眼光』のレベルもマックス間近に上がり、次の進化先が視えている。ものすごく微妙で分かりにくいが、目のスキルレベルが上がるたびにほんの少しずつ真意に近付いているような気がした。また上がった。常時意識して発動させているから上がりやすいのだろう。言うまでもなく即座に進化させる。

 次のスキルは『心眼』と言うらしく、観察眼としての能力が上昇した。幻覚や幻惑などの所謂、幻系統の術やスキルを無効化も新しく追加されたスキルだ。

 一回、レベル上げする前のステータスの確認だけでもしておくか。あとから比較するの、なんだか楽しそうだし。無表情のまま楽観的な考えでステータスを開示した。ゼノの目にしか見えないそれだ。

 二桁代った。……目指せ、三桁。鬼畜廃人ゲームで三桁のステータス突入は、かなりの高難易度であると知りながらの目標であった。

ゼノ・ルプス

■星歴2217年

L◇アリエス(4月)の6日(見習い剣士Level.15↑)

『地図精製』を獲得しました。『地図』で記したマップを『地図精製』で紙面に出力できるようになりました。

『調理師』を開放しました。

『眼光』スキルがレベルマックスになりました。

『眼光』スキルを進化します。『心眼』スキルを習得しました。

『心眼』を習得しました。ゼノ・ルプスが受ける幻系統を無効化します。

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