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ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
二章 神聖国グリツィーニエ
19/29

19.冒険者ギルド(2)

 冒険者ギルドの中で警告音が鳴らされた。



――――― 警告します。

――――― 冒険者ギルド内で暴力沙汰は禁止事項です。暴力沙汰を起こした冒険者には、ギルド職員より処罰が下されます。



 ダンと呼ばれた男性冒険者は慌てた様子で両手をあげる。降参のポーズをとりながらさっきとは打って変わってにこやかな表情で近寄ってきた。肩を組もうとする男性冒険者の腕を軽く避け、きっぱりと断言する。



「け、ケンカなんてしてねぇし!? な、なあ、兄ちゃん!」

「知らん」

「獣人族に体裁を取り繕うのは無理やて。ボクら獣人族はそんなモンを気にしたことあれへんもん。……――ねえ、お兄さん?」

「取り繕う必要がない。」

「まあ、そゆことやで。そんことに関しちゃボクかて同意やぞ、ダン。」



 猫の耳と尾を宿した少年は、呆れたように男性冒険者を見上げて悪戯っぽく目を細めて笑った。同じパーティーを組むメンバーなのだろう。

 猪突猛進なところがあるから、治ってくれればいいのに。そう言って、カウンターに腰かけた少年の尾はギルド職員に叱られる仲間を愉快だと言うように揺られている。



「と、取り繕う必要がないってよぉ…」

「情けない声出しとらんで、はよう叱られて来いや!」

「げふっ!?」



 仲間から飛び蹴りを喰らったダンは、肩を怒らせてやってきた冒険者ギルドの職員らしき人物に引きずられるように2階へと姿を消した。

 「あれは長時間叱られるパターンよねぇ。」としみじみ呟く妖艶な色香りを漂わせる女性の声には何処か慣れた気配を感じる。彼らにとっては、仲間がああしてギルド職員に引きずられて説教されることは日常茶飯事の出来事なのだろうか。慌てた気配もなく、地下の酒場から持ってきた依頼書の受理をお願いしていた。



「あ、あの、冒険者登録をしたくて来たのですがどちらに並べば良いのでしょうか?」

「うふふ、登録なら普通の受付カウンターでしてくれるわぁ。クエスト受付カウンターは、さっきワタシたちが並んでいた場所なんだけど…、流石にそこまでは分からないわよねぇ? 特別に教えてあげるわぁ。クエスト受付カウンターは、あ、そ、こ、よぉ」



 覚えられなかったらお姉さんが連れて行ってあげるわぁ、なんてやや間延びしたペースの喋り方ではあるが、のんびりした印象ではなく色気を感じる。「大人のお姉さんですぅ」と慣れない大人の気配にすっかり頬を染めあげて身を縮こまらせるサクラは愛らしい。

 雪野であれば力説したところだが、生憎と少しずつではあるがゼノに意識を引っ張られるようになってきているようで、そこまでのコミュニケーション能力はない。彼女があわあわとしつつもお辞儀で感謝の意を示し、行列が出来た時のための目印だろうか。カーペットが道のように敷かれたところを通りクエスト受付カウンターへと向かった。

 幸い、人の少ない時間だったのかさほど待たずにカウンターへたどり着く。薄茶色のサイドテールを揺らした女性が、素敵な笑顔で出迎えてくれた。



「ようこそ冒険者ギルドへ! ご用件をお伺いします!」

「あのー、えっと、二人ほど冒険者登録をしたいのですが…」

「冒険者登録2名様、ですね。承りました。では、説明から始めますね」



 冒険者登録の説明をぎゅっと凝縮したリーフレットをカウンターに広げ、彼女はにこやかな笑顔を張り付けたまま案内を開始してくれた。

 大まかな部分は大型のオープンワールド系ロールプレイングゲームや最近流行りのRPG系統小説などと大して変わらないようだ。

 種族差別禁止であったり、パーティー内部の争い事は周りの人を巻き込まないようにだったりだとか、ダンジョン内での狩場独占する場合のみの時間帯報告や情報独占禁止法(内容によりけり)などさらっとした部分はわりと細かく設定されているようだったが。サクラもなんとなく見たことはあるようで、コクコクと頷いていた。



「では、まず冒険者ギルドの登録可能な人物像から、“冒険者カード”の使用用途、冒険者ランク、私たち冒険者ギルドで行っている活動内容を順にお話させていただきますね。」

「お願いします」



 カウンター越しに笑顔を絶やさない女性は、真剣な表情で拳を構えるサクラが相槌を打つたびに笑みを濃くした。真剣に話を聞くタイプの冒険者は数少ないのだろうか。

 「はじめてまともに聞いてもらえた!」と背中に文字が見えてきそうなほど感動を抱えた様子でギルド職員は職務を全うしてくれた。


 ざっと要約すると…。

1つ目、犯罪歴のない人であれば、誰でも登録可能である。ただし、貴族階級以上の位に名を連ねる者は破門(完全に関係を絶たれた場合)のみ。


2つ目、登録後に渡される冒険者カードは身分証明を兼ねており、ギルド以外でも提示を求められることがある。


3つ目、冒険者ランクは49まで存在し、依頼達成数が一定になるなどの条件を満たした場合ギルド職員から直接の声掛けを受け、ランクアップ可能となる。ランクの内訳は色(虹の7色)+試験突破ランク(F-E-D-C-B-A-S)となる。大陸の並びと違うのは、最高ランクが紫で、最低ランクが赤色であることぐらいだろうか。此処がグリツィーニエ大陸…紫の大陸だから不思議ではないが。


4つ目、また、ランクアップには試験が行われるので、必ず申請が必要であるため、一度ランクアップを断っても権利を剥奪されるわけではないから再度ギルド職員に声掛けすることによって、試験を受けることが出来る。


5つ目、冒険者ギルドが行う仕事は主に冒険者への依頼の斡旋である。依頼書は地下の情報交換エリアの掲示板にて張り出しており、受けたい依頼を選び、“冒険者カード”を添えてクエスト受付カウンターに申し出る必要がある。なお、依頼は3件まで同時受注可能。


6つ目、なお、期間が設定されている依頼のみ期間以内に達成できなかった場合の保険として「保証金」を支払う必要があり、此れは期間中に依頼を達成できれば報酬と共に払い戻しされるものもある。


7つ目、冒険者ギルドに身分を登録した後に罪を犯すと冒険者カードの名前項目が赤く染まる。罰金を支払う、処罰を受けるなどで色を戻すことは可能だが、犯罪の重さによっては色を戻せても名前の横に犯罪者レベルが表示されるようになる。


8つ目、犯罪者レベルが表示されるようになった冒険者カードの持ち主は利用できるエリアの制限が掛けられたり、奴隷に身分を落としてしまったりする可能性がある。最悪の場合、冒険者カードの剥奪を受けてしまうことも。冒険者カードの剥奪者はスラム街へ身を投じたり奴隷と化したりと、散々な人生を歩むようだ。



「説明書は持ち出し禁止ですけど、冒険者ギルド内であればいつでも閲覧可能なのでお好きに見てくださいね。」

「あ、ありがとうございます。」



 終始にこやかながら、何処か満足げに話し終えた女性―――受付嬢と呼ぼう。受付嬢は真剣な表情で説明を聞いたサクラの姿勢に大満足したようだ。

 説明された内容を噛みしめるようにコクコクと頷き確認を取るように復唱する彼女の姿は、お母さんにお手伝いの内容を確認しながら頑張る子どものようで愛らしかった。

 受付嬢の表情はまるで、「ギルド職員になったのはコレがしたかったからだ」と言わんばかりの仕事終わりの笑顔のようであった。まだまだ仕事は続くのだと意識を入れ替えるためか、ふう、と話し終えて達成感あふれる一息を入れている。

 気持ちの切り替えは早く出来るタイプのようで、受付嬢は「この後のご案内は、“冒険者への一歩”という冊子をお配りしておりますので暇な時間にでもお目通しいただければと思います。」と微笑んで説明を締めた。



「では、続けて登録を致しましょう。」

「お、お願いします」

「こちらのカードに魔力を流してください」

「はい」



 薄っぺらくも何処か頑丈なカードが差し出された。キャッシュカードよりも大きめで、掌ぐらいのサイズはありそうだ。

 しかし、色合いはどうも透明で、ガラス板のようにも見える。言われた通りに魔力を流し込むと透明だったカードは少しずつ色を変えてゆく。

 その身を赤く染め上げたカードには、ルーン文字のような不思議な印象を受ける文字が書き連ねられて行った。世界スピラの文字で、ゼノやサクラにとってはかなり馴染みのないものだったが不思議とすらすら読めるし、理解できる。

 文字の刻みが終わったのだろう。カードを縁取るように白銀が一周、縁取った白銀を彩るかのように紫が二週目をぐるりと描かれて行った。



「どうぞ、お受け取り下さいませ。カードには目視できる情報の他に、討伐記録なども蓄積されて行きます。そのおかげで依頼達成の報告の際には魔物の部位提示を必要としなくなったので、討伐依頼達成時にはカードの提示だけをお願いしますね。

 また、冒険者カードのメインカラーは、冒険者ランクに合わせて変色します。冒険者カードのメインカラー色を変更したい場合は、ランクアップを目指して頑張ってください。」

「は、はい! ゼノ、どうなりましたか? 見せ合いっこしましょう?」

「ん。」




===============【Red】

Name:ゼノ・ルプス

Rase:獣人族

Rank:Red.F

Clear:不 明

===============




 RPG系統のゲームを今まで触って来なかったわりには、わくわくしているのが手に取るようにわかる。小説としてならば読み込むタイプではあったし、案外好きな世界線なのかもしれない。

 お互いに見せ合った冒険者カードは、縁取られた枠組みがちょっとばかしお洒落ではあるものの、名前、種族、ランク、依頼達成数の4行だけのシンプルな内容であった。「へえ」と軽く確認を終えてから受け取った“冒険者への一歩”という冊子を広げて、もっと詳しく内容を確認する。

 冒険者カードが赤色のままであることの意味は、「冒険者なり立ての初心者であるアピール」である証拠。また、初心者アピールをすることによって、パーティーへの勧誘を受けやすくなり、ソロ活動以外を考えるものにとっては有利に動く。

 冒険者カードのメインカラーが上がって行くと、冒険者ギルドや冒険者ギルド関係の施設の割引など優遇してもらえる制度が起動するようである。しかし、冒険者ランクが上がれば上がるほど『指名クエスト』が発生しやすくなるので要注意。権力者のオモチャ扱いをされる場合もあるのだとか。



(面倒だな…。)



 関わらんとこ、と思ってもサクラの行くところだ。

 結局のところ関わってしまう運命にあるだろう。潔く諦めるかそれとも足掻くか。どうせなら珍しい類の獣人族だからと客寄せパンダのように扱われることがないように最後まで足搔いてみよう。見世物のオモチャになるのだけは絶対に嫌だ。

 お貴族サマたちのお遊戯に付き合ってられるほどまだ精神は熟成していないのだ。


…雪野思考にすっちり染まってきたのか、わりと好き嫌いがはっきりしてきたし、ズバズバ着せぬ物言いが出来るようになってきたような気がする。このままコミュニケーション能力も戻って来てくれたら万々歳だが、うまくは行かないだろう。なるようになるってんだ。

 さらっと自分に起きたことを受け入れつつ、彼女が満足したことを確認しながら手に入れたばかりの冒険者カードをポケットにしまった。



―――ステータスが更新されました。

―――冒険者ランクが表示されるようになりました。



 通知は今なのか。



「以上で、登録を終了させていただきます。お疲れさまでした。」

「ありがとうございました。お疲れさまでした!」

「続けまして、依頼を受注してみますか? 初心者へ推奨可能な依頼でしたら、手元にございますので」

「ぜひ! あ、受けます!」

「ふふふ、承りました。では、冒険者カードの提示をお願いします。」



 なんだろうか。どの依頼を受注する予定なのだろう。

 受付嬢がカウンターの下から取り出した水晶は、クッションの上に鎮座している。冒険者カードをかざすと、水晶玉が光を帯びて数字が浮かび上がった。1だ。

 この数字はどうやら受注中の依頼数のようで、3以下であるか否かを確認するためのもののようであった。ギルドの規定として、一度に受注可能な依頼は3つまでだから登録したばかりでも覚えてもらうために行うのだとか。また、他の冒険者たちへの念押しでもあると受付嬢は笑った。



----------------------------------------------------------------------


■討伐クエスト:王都グリツィーニエの冒険者ギルド

1.『はじめてのスライム』

 冒険者ギルドに登録した。

 受付嬢に初心者向けの依頼があると勧められたので依頼を受注し、達成してみよう。


納品

①スライムの粘液×10


◇―――報酬―――◇

1.1タスクにつき、500EXP

2.評価により獲得Bs10変動

3.名声+1


----------------------------------------------------------------------




「では、いってらっしゃいませ。」

「…スライムと言えば、此処からどの門から出ても居るんでしたっけ?」



 たくさん、ある。狩りまくった記憶しかなかった。



「…行く必要ねぇだろ。」



 本当に。ええ。たくさん持ってるから無言でカウンターに品を放り出せば受付嬢はきょとんとしたし、サクラもきょとんとした。討伐した証明になるように、核を付け加えての納品である。どうだ。


 受付嬢は大慌てで納品物を確認しに入った。

ゼノ・ルプス

■星歴2217年

L◇アリエス(4月)の6日(見習い剣士Level.10)

『地図精製』を獲得しました。『地図』で記したマップを『地図精製』で紙面に出力できるようになりました。

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