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ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
序章 現実≒幻想の世界
16/29

16.旅立ちの前夜。

 奇妙なことになってきたと顔を見合わせてから、ゴーレムの居たであろう場所に出現した宝箱に手を掛ける。出てきた装備品は攻略掲示板で見た通り、最高級品の代物だ。

 サクラが新しく開花した隠パッシブ『幸運』のおかげで二つドロップ出来たのはパッシブ名通り、とても幸運なことだった。

 サクラは『絹のローブ』から『聖者の衣』に着替え、『木の杖』から『白木の杖』に持ち替える。ゼノはもともとなかった頭装備の獲得だったから『防音のバンダナ』で耳を覆うように頭に装着し、『熱砂の腰布』を腰に巻きつけた。



「砂漠で旅をしてそうな……?」

「軽装過ぎるだろ。」



 なんとなく思いはしたが。砂漠を超えるためのローブさえ被ってしまえば、確かにそちらの出身者ような身なりに見える。とんがり靴ではないし、素材としては不安要素が多いので「なんちゃって砂漠旅人風」と言わんばかりの衣装だ。

 新たな衣装に身を包んだサクラは、初期装備の上から神官のようなローブに、凸凹とした杖ではなくて真っ白でけがれのない美しい木で造られた杖を手に持っていて、駆け出し神官のようにも見える。



「これでダンジョンの瘴気は抑えられたのでしょうか。」

「…あのジイさんが操作してくれている。」



 ダンジョン内で生活する老人の存在には驚きはしたが、反対に老人からは外の状況が分からないようだった。瘴気が溢れ始めた大地の様子は、きっとゼノたちがダンジョンに入ったときにでも見えたのだろう。そうこうするうちに出口にたどり着く。出入り口は共通ではなかったようだ。

 外を出ればおそらくは真っ暗だろう。旅に不慣れなサクラを連れるなら今日は村で休み、明日の朝から街へ向かうべきだ。

 やるべきことはなんとなくわかったし、レベル上げに関してはサクラも賛成の様子なので方針を決定する。『はじまりの村』で一晩を過ごしたら、冒険者ギルドへ向かう。


 常人よりも優れた聴覚は、ダンジョンから出て同じように『冒険者志願者の試練』と呼ばれる『イーリスの境界』へ挑戦の意気込みを叫ぶ人々の声を拾い上げる。せっかく装備したバンダナの効果はどうした。どうやら、日常的な音は防御してくれないようだ。

 とても残念だが、音系の攻撃は防ぐことが出来るのだから良しとする。彼らと鉢合わせなかったことは幸いだろう。プレイヤーではなさそうだったし。


 老人の言った冒険者について知識を深めるためにレベルアップで得たスキルポイントで『冒険者の知識』を獲得する。得たばかりの『冒険者の知識(それ)』よると、冒険者ランクを上げることによって、身分を確かなものとすることが出来るようだ。

 身分証明の制度が出来たのは、貴族や商人に食い物にされてきた冒険者を守るためだと情報が入り込んできた。そして冒険者が重宝されるのは、対人戦はともかくとして。そう言った魔物相手だとかなり有利に戦える上、ダンジョンへ潜り込んでは似たような魔物を相手に今まで培ってきた『ダンジョン攻略』の知識や技術が役立つからだ。

 なるほど。要するに、「傭兵」のような存在なのだろう。傭兵と違うところがあるとすれば、金銭では動かない、と言ったところぐらいか。


 冒険者としての当たり前を磨き続ければゼノもサクラも、この世界で過ごしやすくなる。偉人となるか、ただの冒険者となるか。好きに生きろと言ってくれるのならば、この世界に来たのは定められた運命というわけではないのかもしれない。

 あの老人が、世界救済をするにしろ、しないにしろ、冒険者になっておくべきだと言った意味を少し理解できたような気がした。



「まっくらです……」

「疲労は」

「大丈夫です! 村まで灯かりをつけたまま歩きますね。」

「抱えて行く。」

「ぴょーーっ!?」



 雛鳥のような悲鳴をあげるサクラを腕に抱えながら、彼女が灯してくれる魔法(ひかり)を頼りに『はじまりの村』までの道をたどった。何処か澄んだ空気は、きっと瘴気の出現を抑制できた証拠なのだろう。魔物たちの行動も、彼らが好む闇夜の時でありながらゆったりとしたものだった。

 旅に不慣れなサクラのことを考え、駆け足で村へと戻る。ダンジョンを攻略したことは、装備を見れば明らかだろう。

 夜警を担当する門番の目に届くところまで来ると、その目を大きくひん剥かれた。悲鳴のような声に「なんだなんだ。」と村人たちも眠たげに目を擦りながら鍬やハンマーを片手に門前に集まってくる。襲撃事件ではないのだが。

 村人たちの驚く視線を受け取りながら、疲弊しきった幼馴染を宿屋へ連れて行った。わずか数日で顔馴染みのような扱いをしてくれる宿主に幼馴染を預け、外へ顔を出すと子どもたちに囲まれる。足元にべったり纏わりつく子どもたちは、夜中なのにとても元気だ。



「兄ちゃん! あのダンジョンを突破したってホント!?」

「ダンジョンそーびみせて! そーび!」



 きゃあきゃあ歓喜のあまり騒ぎ立てられる声音も、通常ならば(・・・・・)耳から頭へと痛みを伴う。しかし、『防音のバンダナ』のおかげか、子どもたちが騒ぐ声を受けてもちっとも痛くないし、気にならなかった。待てよ今のコレは攻撃判定なのか。さっきのアレは日常判定だったのに。バンダナの防音判定が気になった。

 耳も尻尾も隠れる装備に気づいてか、子どもたちは目をきらきら輝かせながら「どんな装備!?」と質問を繰り返す。口下手になってしまったから説明できる自信はないから、冒険譚を聞かせてやる代わりに興味津々と伸ばされる手を甘んじて受け入れて子どもたちの気が済むまで触らせてやることにした。

 獣人らしい特徴が目に見えなくなったにしろ、子どもたちは決して尻尾周辺には触れようとしなかった。幼いながら、気配りの出来る子どもたちだ。

 遠慮がちに頭の装備に触れてくる子どもたちは、はじめて触れるのだろうダンジョン装備の触り心地にきらきらと目を輝かせている。あそこは初心者向けのチュートリアルダンジョンなのだから珍しくないだろうに。



「久々に話の通じる冒険者でよかっただ…」



 子どもたちから離れたところで、そんなこと言った農夫たちの言葉を拾った。少し前に大量の冒険者たちが訪れて村が壊わされたのだとか。なんだそれ。その内容の言葉から考えられるのは、俺たち以外のプレイヤーは実在するか、“転移”した者が他にも存在すること。ゼノやサクラと同じような存在(プレイヤー)は、けれども、ゼノやサクラと同じような考え方をしているわけではないということのようだ。

 その考え方とは、「此処が元居た場所とは異なる場所(異世界)かもしれない」という可能性。大勢居た(・・・・)とされるプレイヤーらしき冒険者たちの行方は、おそらくは大陸の中央にある大きな国。そこの冒険者ギルドか、帝国の冒険者ギルドだろう。何なら、今の大陸から移動してとっくの昔に加護の強い大陸に移動した可能性もある。


 それにしたってはじまりの迷宮を突破した冒険者たちは、村の壊れ具合から考察すると俺たち以外にもかなり居たはずだ。

 他の冒険者たちから、一度も装備やダンジョン品を見せてはもらわなかったのだろうか。そんなことをしてくれた人間が一人もいない、というのはありえないような気がする。そう考えてゼノはすぐさま否定した。そんなはずない。此処は冒険者となる資格があるか否かを見極めるためのダンジョンなのだから、冒険者は必ず通る場所なのだ。

 加え、こんなにも好奇心旺盛な子どもたちのことだ。誰かしらに見せてもらおうとして、駆け寄ったに違いない。だとすると、冒険者たち側の問題だろうか。ゼノやサクラのように異変を感じ取ったものがどれほど居たか、そもそも異変などなくゲームとして住民イコールNPCという認識が抜けきらずコミュニケーションが成り立たなかった可能性もある。

 情報が少なすぎる、本当に。


 どちらのことを言われているのかさっぱり分からないが、肯定しておいた。子どもたちは嬉しそうに笑顔を浮かべ、きゃらきゃらと明るい声でじゃれついてくる。インターネットが普及し、顔を合わせず会話可能となるSNSがたくさん出てきた現代社会では見られない、ずいぶんと人懐っこい子どもたちだ。



「お兄ちゃんのお髪もさらさらー!」

「これ、とってもさらさらしてて気持ちいいんだね!」

「……そうだな。」



 現代っ子は顔や目を見て話すことはなく、手元のスマホやおもちゃなどを見下ろしたまま話すから少し新鮮だった。無垢な瞳に見上げられ、「すごい! すごい!」と惜しげもなく放たれる称賛の声をシャワーのように浴びるのは実に心地よい。お調子者の面がある雪野の顔をちらちら出てくる。褒められて嬉しいという純粋な気持ちで、腰布に隠れている尻尾が揺れた。



「こんな楽し気な顔をする子どもたちを見たのはいつぶりじゃろうか…。」

「以前訪れてくださった冒険者の皆さんは、……ちょっと乱暴な方が多かったですしねぇ…。サラーサなんて突き飛ばされたでしょう?」

あのお嬢(サクラ)さんの雰囲気がそうさせるのかねぇ?」



 揺れた尻尾がピタリと止まり、納得した。じゃれつく子どもたちは、すでに冒険者たちへ特攻し、乱暴に扱われた後のようだ。

 それでもめげずに冒険者志願者へ近づくのだから、孤児院の子どもは逞しい。代表として名が良く上がるサラーサという少女は、冒険者たちの技術を盗めないかと期待してめげずに頑張るのだと小耳に挟むと、何かしらを教えてやりたくなった。裁縫でも教えてやれれば良かったが、生憎と専門外だ。

 木工ならそれなりにレベルも上がっているし、『木の枝』ぐらいだったら子どもたちだけでも入手可能な手頃な素材だろう。枝を集めることで製作可能となる焚火用の『薪』や、石と丈夫な木の枝で作ることの出来る『石の斧』、それから『枝の釣り竿』の製作方法を教えることにした。



「何か教えてくれるの?」

「……少しだけ。」



 はじまりの村は、北方の位置にあるので『薪』は重宝されるだろう。狼人族であるゼノは『寒さに強く、熱さに弱い』特性を持つし、そもそも雪野は『雪だー!ひゃっほーう!』と叫びながら雪原を駆け回るタイプの人種だったので、さして寒いと思ったことはなかった。正直、寒さは得意であり、食べ物もアイスの類がたくさん出てくる夏より肉料理がたくさん出てくる冬派である。

 そんな寒さに強いゼノと比較すると、普通の人(サクラ)は寒さに凍えたり、手がかじかんだりする。大切な幼馴染(サクラ)にその傾向が強く見られたから、彼女と似たような、あるいは彼女よりもか弱い高齢者や子どもの多い此処はもっと厳しい環境だろうと考えての製作内容をピックアップしたつもりだ。



「眠れなくなってしまったんだろう。」

「えへへ…うんっ!」



 俺たちがダンジョンを攻略して村に戻ってきたことで、村人たちの興奮は最高潮に達してしまったようだった。爛々と冴え渡る瞳は、眠気のねの字も見当たらない。

 そんな中、夏の釣りや冬の薪と言った実用性のある誰でも作れる木工術の講座には、ご丁寧にツェーンが膝を抱え込んで子どもたちと同じ視線で受講しており、最終的には技術面で自身のある老人たちが積極的に質問してくるコーナーと化していた。



「……夜が深まって参りましたし、サラーサ、みんなを連れて教会へ戻ってくれますね?」

「はぁい、シスター・ウェザー。もう寝る時間だから、みんなー、かえろー!お兄ちゃん、たくさん教えてくれてありがとう!凄くたのしかった!サラーサたちとまた遊んでね!」



 返事をしないままでも良かったらしい。サラーサは他の子どもたちを引きつれ、教会の方向へと去って行った。

 確かにダンジョンから出てきた時点で夜だったし、講座の時間も設定せずに開始したため長引いてしまったことも自負している。良い子は寝る時間、と言うものはどの世界にも存在するようだ。

 しかし、大人たちは活発的だ。夜の方が元気ってか。「ぽぉぉおお」と甲高い謎の奇声を発しながら『薪』を作り続ける老人の姿は、はっきり言って不気味だった。発狂でもしたのかと精神状態を思わず確認したくなる光景である。もはや呆れを通り越して未知への恐怖が勝りそうな光景だとも言えるかもしれない。




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『技術クエスト:木工術の教え 入門編』

 はじまりの村で木工師として技術を広めた。


 広めた木工術

①木の枝を集めれば作れる『薪』

②木の枝と石で作れる『石の斧』

③木の枝とぼろい糸で作れる『枝の釣り竿』

『報酬:木工300EXP、50Bs、名声+15』


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…なんかクエストクリアしたし。

ゼノ・ルプス

■星歴2217年

L◇アリエス(4月)の5日(見習い剣士Level.8↑)

称号『不殺』を獲得しました。

『地図』を習得しました。

『獲得経験値量UP』を習得しました。

迷宮(ダンジョン)『イーリスの境界』を踏破しました。

『技術クエスト:木工術の教え 入門編』を達成しました。

 報酬として、木工300EXP、50Bs、名声+15を獲得しました。

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