表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
序章 現実≒幻想の世界
12/29

12.修繕クエスト(3)

 それにしても銅鑼か。銅鑼なんてものは体育館など反響音の凄まじい場所で、真っ隣で永遠と銅鑼を鳴らされ続けられているようなものだ。

 試しに銅鑼を鳴らすにしろ銅鑼の設置をするにしろ、激しく遠慮したい作業項目である。御免被る。想像するだけでぞわぞわするのだ。尻尾なんて逆立ちっぱなしの上、『無表情』で変わることのないゼノの眉間には、珍しくしわが刻まれた。ポーカーフェイスすらも塗り替える銅鑼、恐ろしや。今にも唸りだしそうな表情の自覚はある。

 全身で嫌だと訴える理由は明らかだったからか、優れた聴覚への理解を示してアダルヘルムから恐る恐る提案をしてくれたが投げ出すのは嫌だった。意地でも完成させてやる。要するに、俺がキライな音を出せればカンペキなのだろうと。そこだけ雪野の負けず嫌い根性が顔を出した。



「銅鑼は僕たちでも出来そうなので、…あの、ルプスさんが嫌ならやらなくても…。」

「獣が寄り付かない音にすればいいんだろう。なら、ある意味適任だ。」



 不快気に喉を鳴らしてから、ゼノは気持ちを切り替えた。個人の感情と依頼の達成を天秤にかけるまでもなく、依頼の達成を選ぶ。一度引き受けたからには、逃げも隠れもせず、遂行するべきだと考えるのもまた、ゼノ・ルプスである。アレそこまで雪野と性格の違いがないような気がした。



「でも、お顔色が…」

「今は俺がいる。銅鑼は最後でいいか。」

「は、はひ!!」


 なおも気づかわし気に見つめてくる視線に対し、ぐっと感情が高まったことで“本来の色へ変化した”瞳を近づけて最終確認を取る。青ざめたり、赤くなったり、顔色を変えたアダルヘルムは裏返った声を返してその場にしゃがみ込んだ。



「獣人族と会話しちゃった…!」



 アイドルと会話したことを喜ぶ少女のような声色で、ふわふわと夢見心地の様子だった。そっと視線を逸らし、『投石機の設置』を始める。場所は小さな村の広場だ。

 その中央に横たわる謎の塊は、そのための資材だったらしい。被せられた布の下には、『投石機』を組み立てるだけの十分な資材があった。一つずつ手に取り、設計図を頼りに足側を組み立てていると、『木工師』が開放された。幾ら設計図を見ながらでも無理がある、とは思ってはいたが、獣人の身体は思った以上に優秀のようだ。

 片手で投石機の身体を支えながら、足場に突き刺しバランスを調整することまで出来てしまった。重しを飛ばせる角度になるまで調整し続け、納得できる位置で固定する。



「あれって木のおもちゃだったっけ?」

「ルプスさんに失礼ですよ。」



 途中から、ゼノ自身も積み木を組み立てるような要領で作業に取り組んだのでアダルヘルムの言葉は間違っていない。くるりと投石機を一周し、完了したことを伝えた。

 にこやかなツェーンは重しを乗せて何もない方向を確認してから飛ばして見せる。警備兵二人がかりでようやく運び込まれた重しは、無慈悲にもツェーンが発射レバーを下げるだけで曲線を描きながら村の外へ飛んでいき、激しい音を立てながら地面に衝突した。



「あれなら討伐だって出来ちゃいそうですね」

「すごい…!」

「……―――起きたか。昼からやる。」

「サクラさんが? なるほど、わかりました。では、修繕をお願いした天幕と一緒に修理用の資材も運び込んでおきましょう。教会の方はシスターの方が詳しいですから、そちらへ。」

「またあとで。」

「! は、はい!」



 騒がしすぎず、静かすぎず、獣人族が好きであることを全身で主張してくるが押し付けがましくもない。好きだから尽くしたいのだと訴えてくる様子は、他意はなく、純粋に交流を図りたいのだと事が伺えて好ましかった。手厚く対応してくれたツェーンは、言葉少なくともすべてをくみ取ってくれる良き人間族だ。

 アダルヘルムのは少し拗らせている節があり、遠慮したいが。尻尾のある獣人族同士なら当たり前に挨拶する腰辺りに尻尾を一瞬あてるとツェーンは頬を赤らめて目を輝かせた。



「ええー!? いつの間にそんなに仲良く!?」

「アダルヘルム様が眠っておられた間です…。ああ、歓喜…。では、自分は準備がありますので。」

「ず、ずるい! 待ってよ、ツェーン!」

「あはは」



 ぐっと喜びを噛みしめるようにツェーンは立ち去って行き、その背中を見送ってからゼノも宿へと足を運ぶ。投石機の音で完全に目を覚ましたのだろう。予想通り、気丈に振る舞ってはいても精神的な疲労が蓄積されていたようだ。

 宿へ近づくにつれ、なじみの深い足音がぱたぱた慌ただしく運ばれるのを耳にしながら、顔を出す。民家のような宿なので、移動距離が少ないのが嬉しい。



「お、おはようございます…。すみません、ゼノ…寝坊、しました」

「おはよう。」

「はわぁ…っ!」



 サクラのためなら何時間だって何日だって待てる。気にするなと言わんばかりにぐりっと耳をすり寄せながら挨拶すると、謎の歓喜をあげて頬を寄せてきた。

 寝坊のことは気にしていないと察した彼女は、ちょっぴり恥ずかしそうに目を伏せながら笑った。次からは頑張ると意気込む姿は、どんな時でも変わらない。寝坊してしまったから食事の用意は宿主と一緒にしたらしい。…とは言っても、起きた頃には食事の準備はすでに整えられており、サクラはお皿を用意しただけだと手をもじもじして素直に言った。



「お芋のバター焼きだそうです。ちょっと豪華ですよね。」

「ウチの村じゃお芋と牛乳は取り放題だからねえ。お芋と牛乳の名物の一つなのさ。それに、久しぶりのお客様だからね。アタシからのささやかな歓迎の気持ちもあるんだよ。」

「宿主さん…、嬉しいです…!」



 観光客も、村の若人集もおらず、すっかり寂れてしまったはじまりの村で宿屋の食事として出るメニューではとても豪華な類に入る。歓迎の気持ちを素直に受け取るサクラは、上機嫌に宿主と会話をしていた。ゼノは黙々と食事を終え、彼女たちが食べ終わるのを待つ。

 和気藹々と会話を楽しむ女性二人の間に流れる雰囲気はとても和やかで、時折り、ちらとゼノを見て笑顔を向けてくるのが平和だった。満腹になったらしく、はふりと息を零したサクラと宿主の手元から空っぽになった食器をもって流しへ運んだ。



「お客様にそんなことさせられないよ!」

「適当に相手になってやってくれ。」



 食器を取り返そうと手を伸ばしてきた宿主に、しれっと告げて食器を片付ける。戸惑う空気を感じたが、会話は苦手なのだ。

 見るからにおしゃべりではないゼノをどう思ったのか、宿主は綺麗に片づけられた食器を見送りながらサクラとの会話に花を咲かせた。



「なんだかアタシの方がお客様にもてなされた気分だよ。 今日も修理作業を手伝ってくれるんだってね?」

「ええ、今日は教会の方へ天幕をと思っているんです。 管理しているのは教会だとお伺いしましたから。」

「なるほどねえ。あそこもボロボロだから気をつけて行ってくるんだよ。」



 気さくな宿主に見送られながら、二人は教会へ向かった。教会の近くまで足を運んでみると、昨日雑草抜き作業を共にした子どもたちがわあっとゼノの足元に集まってくる。

 ぎゅうっとしがみつかれながらも、アダルヘルムとのやり取りを思い出してか、それとも本能的に何かを感じ取ったのか、子どもたちは尻尾へは近づかなかった。振りほどかれることはなく、困惑しながらもポンポンと頭を撫でる。頭を撫でられた子どもたちはどこか満足げにゼノの足から離れていった。



「今日はどうしたのっ? サラーサたちと遊んでくれるの!?」

「ごめんなさい、今日はね、修理のお手伝いに来たの。ね、ゼノ?」

「ああ。」

「しゅうり、ってなおすの? どこを?」

「わたしは天幕を、ゼノは教会の修理を、と思って。シスターはいらっしゃいますか?」

「っうん!いるよ! シスター・ウェザー! 呼んでくるね!」

「お願いしますね。」



 表情を輝かせた子どもたちの中でリーダー格の少女がそう言って教会の中へ駆け出した。自身のことをサラーサと呼んだ少女は、シスターらしき女性を連れて戻ってくる。杖をコツコツ突きながらやってきた彼女は、シスター・ウェザーと名乗った。

 長年、錬金術師として様々な依頼を熟してきた彼女は独り身であることを思い出して、ある日ふと独り身を寂しく思った。そうして、子どもたちと触れ合うことの出来る教会に足を運ぶうちにシスターを目指すようになり、最終就職先として『はじまりの村』へ就任してきたのだという。

 そこかしこがボロボロの教会をどうして今までどうして修理をしなかったのか。不思議そうにサクラが尋ねると、シスター・ウェザーは己の手元にある杖を見た。



「私はもう杖なしでは歩けない足なので、重たいものを運べなかったんです。」



 加えて、バリケードが破壊されて以来、警備兵は外回りの警戒に付きっ切り。村人だって少人数だから日々の生活で手一杯だ。

 今まで稼いできたお金を崩して冒険者への依頼を出そうとしたところを領主に見つかり、領主の依頼書に追加してもらったのだという。だから、今まで修理は出来なかったと。


 石造りの教会は、話に聞いて想像したよりも丈夫なようだった。修理、と言っても大したものではなく、穴が空いてしまった部分の穴埋めをしてほしいだけとのこと。穴の開いている場所はすべてで四つあり、シスター・ウェザーが子どもたちと一緒に厨房でパンを焼いている間に作業は終わってしまった。

 塗装も塗り終え、焼き立てのパンの香りが鼻をくすぐる。空腹を誘われるようないい匂いがした。



「お兄ちゃん、お耳がぴくぴくしてるー!」

「尻尾もパタパタしてるよー?」

「こ、こらっ! すみません、旅人さん」

「………いや」



 指摘されるととても恥ずかしい。表情は一ミリたりとも動かないのだから、尻尾や耳も感情を抑える術はないのだろうか。

 しかし、あっという間に教会の修理も終わったし、後に残った作業といえば『スタン銅鑼の設置』だろうか。音系のダメージは通りやすいので、やはり嫌な感じがして遠回りになってしまう。子どもたちと一緒に天幕をなおすサクラに一言断りを入れ、ゼノは報告のために警備兵の宿舎へと足を運ぶ。



「あ、ルプスさん。教会の方はもういいので?」

「シスター・ウェザーから預かった。」

「どれどれ……。ああ、完了報告書ですね。たしかに受け取りました。銅鑼の方はこちらで用意したので、土台を組み立てて頂ければ作業は完了ですよ。」



 ツェーンの言葉に視線を向け、資材へと目を向ける。彼の言うように土台を組み立てるだけの資材はあるようだが、肝心の銅鑼が見当たらなかった。



「…音の確認をするんじゃなかったのか。」

「いえ、流石に旅人にそこまでしてもらうわけにはいきませんから。」

「僕に抗議しに来たじゃない……。」

「何か?」

「なんでもないです!」



 どうやらツェーンが気遣ってくれた結果のようだ。



「ふわふわっ…………!?」



 喜びのあまり、サクラのように頬へ耳をすり寄せてしまった。ぱっと離れて土台を組み立てる。作業中も「尻尾パタパタしてる…。」「よっぽど大きな音が苦手なんでしょうね。」という声を背に受けるが、気にならなかった。



「終わった。」

「ええ、見事な手際でした。後は警備兵たちでなんとか出来るラインですね。本当にありがとうございます。お疲れさまでした。」



----------------------------------------------------------------------


■修復クエスト:はじまりの村の施設修理

1.『村の施設修繕』

 村の安全のため、協力してくださる冒険者を募集しております。

 有志については随時募集しているので、志のある人はご応募ください。


 ①バリケードの修理(4/4) +250EXP +150Bs

 ②教会の修繕(1/1) +250EXP +150Bs

 ③デコイの設置(12/12) +250EXP +150Bs

 ④投石機の設置(2/2) +250EXP +150Bs

 ⑤スタン銅鑼(1/1) +250EXP +150Bs

 ⑥害獣対策(4/4) +250EXP +150Bs


◇―――報酬―――◇

1.1タスクにつき、250EXP

2.評価により獲得Bs100~150変動

3.全タスク完了にて、別途スキルポイント6及び名声10を獲得。


----------------------------------------------------------------------



 タスクが完了したことを確認しつつ、レベルアップした。合計して1,500EXPも得たのだから当然のレベルアップだ。

 しかし、空き時間に記憶のほとんどを書き写したが、その内容と照合しても『はじまりの村』で此処までレベルアップしたプレイヤーは居なかった。そもそも世界スピラにレベルアップ制度なんて機能が実在するかどうかも危ういのではないだろうか。頭の可笑しなヒトとして認識されそうだ。



「そういえば、アダルヘルム様。獣人族に対する知識を昨日の間に増やしてきましたね。本を読み込んでレベルアップでもしました?」

「ば、バレた…?」



 間近で行われた会話に驚愕した。レベルアップ制度、あるのか。技術が上がった、と表現方法での使用なのかもしれなかったので無言のまま耳を傾ける。



「うん、実は昨日の間に『獣人族に対するマナー』っていう本を読んでね。『獣人族の知識』レベルを上げたんです。知識があれば、流石に失礼なことをしでかさないかなという期待も込めて。」



 スキル制度もあれば、レベル制度もある。大きな収穫だった。少し安心した。しかし、ステータスやパラメーターなどは、どうやら教会などの特別なアイテムを利用しない限り閲覧出来ないようだ。

 『水晶版』という神聖な神の板を使えるのは、教会の学び舎で修練を積んだシスターと神父のみで。貴族やその貴族に仕えるものは、写しを得られるらしく、その写しのことを『ステータス版』と呼ぶ。

 なお、年々の成長に合わせて事業を進めることが多いため、貴族たちは定期的に『ステータスを更新』しに行くのだとか。ステータスの写しを得られる方法は、寄付金の額によるらしく、平民には難しいらしい。「へえ。」と軽く流すように聞きながら、世界スピラを知るための行動を取る現在(イマ)、とっても有益だ。そんな活きた情報をサクラへとも流しながらゼノは人々の生活を見つめるのであった。

ゼノ・ルプス

■星歴2217年

L◇アリエス(4月)の2日(見習い剣士Level.3↑)

『落とし穴』を習得しました。

『地魔法』を習得しました。

『サバイバル知識』を習得しました。

『修繕クエスト:はじまりの村の施設修繕』を達成しました。

 ①バリケードの修理(4/4) +250EXP +150Bs

 ②教会の修繕(1/1) +250EXP +150Bs

 ③デコイの設置(12/12) +250EXP +150Bs

 ④投石機の設置(2/2) +250EXP +150Bs

 ⑤スタン銅鑼(1/1) +250EXP +150Bs

 ⑥害獣対策(4/4) +250EXP +150Bs


◇―――報酬―――◇

 1.1タスクにつき、250EXP

 2.評価により獲得Bs100~150変動

 3.全タスク完了にて、別途スキルポイント6及び名声10を獲得。

 ★見習い剣士のLevelが1上がりました。これにより、ステータスが上昇します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ