表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラ・シェルタ 虹の乙女を探し求めて。  作者: 夜鷹ケイ
序章 現実≒幻想の世界
10/29

10.修繕クエスト(1)

 雑用なものを任せたのに、何故か仕事を与えられて嬉しそうに笑ったアダルヘルムは持ち前の人望ですぐさま素材を集めに掛かった。子どもたちも村の中でなら、と親たちが許可を出してアダルヘルムの仕事を手伝う。

 獣人族の脚力を活かしてゼノは手早く強固に柵を紐で組み上げて行く。その甲斐あって『俊足』と『思考加速』のスキルを習得した。足の速さと、頭の中で物事を組み立てる速度が上がったおかげで、作業効率がぐんと良くなったのはゼノにとって喜ばしいことだ。

 アダルヘルムが子どもたちと、丈夫な紐と空き缶を集めて来たので田畑を囲う柵に括り付けるように言った。領主を務めるだけあって頭の回転は速いのだろう。



「音で追い払うんですね!」



 目を輝かせて納得する彼に頷き、肯定する。あとは空き缶を括り付けるだけだと言えば、アダルヘルムは作業の早さと出来上がったものの品質に頬を引きつらせた。あの速さで最高品質で仕上げる技量は故郷の村でも磨き続けたものである。作業が早すぎるとでも言いたのかもしれないが、速くて確実であることは決して悪いことではない。手を抜いているわけではないのは、柵に近づき実際に触れてみたら分かることだ。

 並みの獣人では引っこ抜けないように、わざわざ『体術』スキルと『風属性の魔法』スキルを使って打ち込んだのだから。



「…す、すごい! こんなに早く害獣対策が出来てしまうだなんて!」

「獣は耳がいい。………空き缶や音の鳴る何かでも引っ掛けておけば、勝手に引っかかって逃げてく。それと、猪が嫌う香りでも辺りに巻いておけば近づいてくることはないはずだ。それでも寄ってきたなら、狩ればいい。」

「………か、狩る。」

「あくまでも最終手段だ。…害獣対策は、以上でいいか?」

「あ、わ、わ、はい! もちろんです! こんなに手早く丁寧にやって頂けるだなんて、とても助かりました。空き缶を括り付ける途中で、柵の丈夫さも確認しましたがあれなら猪は突き破れないでしょう。こちらは報酬の150Bsです。」



 袋を手渡され、受け取ったら籠の中に消えた雑草のように粒子と化した。見慣れた光景を見届けながらアダルヘルムへと次なる作業を申し出る。幾ら領主が居るからとは言え、気を張り続けると彼らも身体を壊しかねない。まだまだ時間に余裕もあるし警備兵とて少数なのだから、休めるときには休ませてやろうと思っての行動だ。



「バリケードのための資材はあるのか。」

「えあ!? あ、ハイ、運び込んでおります! 案内します!」



 右手右足を同時に突き出したアダルヘルムは、ギッコギッコとブリキ人形のようにぎこちなく歩き出した。『はじまりの村』の出入り口手前に積み上げられた資材は、田畑の柵に使用した木材とは異なる形をしており、バリケードをつくるために用意された木材は先端が槍のように尖ったものだ。

 今度は子どもたちが怪我をしないようにと配慮されたものではなく、確実に“村人を守るための矛であり、壁である”役割を欲したことがよくわかる。素朴なバリケードにするのは、相手が単調なモンスターだからなのだろう。



「ゴブリンと猪か。」

「! よ、よくお分かりになりましたね。」

「においと高さで分かる。」

「に、におい………」



 鼻の奥まで届く刺激臭は頭痛がするようだった。此れが、おそらくゴブリンのニオイだろう。昔は若者たちも居て、それなりに活気あふれた村の人数は30名ほどだったと聞く。ゴブリンを恐れて都会に引っ越した若者は多く、今もなお、はじまりの村で生活をするのは伝統を守るために残った者たちであるらしかった。



「伝統?」

「ええ、かつて勇者様は我らの村より旅立たれました。 彼の生まれ育った村として、私たちは地図から消えるわけにはならないのです。」

「……そうか。」



 資材を組み立てるための金具の強度や角度を確認し、試しに一つ組み立ててみる。

 足場と支えの部分を金具で固定し、槍となる先端をぶっすりと突き刺す。片手で作業が出来るものだろうかと思ったが、流石にレベルが2では無理があった。わりと大きくて重たいもので、大人の腰辺りまでの大きさのそれだが角度調整がなかなか難しい。なので、今回は両手での作業だ。



「…もうすでに1個組み立てられてる!?」

「うわ、もう獣人族になりたくなってきました…。」

「無理だよ!?」

「分かっております。ただの叶わぬ願望です。失礼いたしました。…アダルヘルム様、ルプス様、飲み物をお持ちしました。」

「ありがとう、ツェーン。ルプスさん、休憩にお茶をどうぞ。」



 作業する手を止めて、振り返る。休憩をすすめられるの、なんだか厭なのだが。そこまで怒りはなくとも微妙な気持ちだ。

 近くで裁縫を勤しむサクラは、にこやかに手を振っ―――ろうとして、慌てて自分のために用意されたコップを机に置いてツェーンに耳打ちをする。獣人族は己の身体能力に誇りを持っており、作業の途中で休憩と言われるのが屈辱的なのだと。

 獣人族と生活を共にする人間族の間では、わりと浸透した知識だが、『はじまりの村』はどう見ても人間族の村だ。浸透していなくても不思議はなかった。寡黙かつ無表情であるのは通常運転だが、怒っているのかどうかも分からないからやりにくいのだろう。ちら、と桜の花びらを閉じ込めたような幼馴染の瞳が機嫌を伺うように寄せられたので、ゼノは軽く息をつく。



「不要だ。作業が終わったら、適当に休む」

「すみませんすみません!」

「怒ってはいない。」



 騒がしいとは思ったが。

 普段ならば笑い飛ばす雪野の人格で彼らの行動を理解していても、ゼノにとってはただの騒がしい音でしかない。余計な音を遮断するようにへたり耳を伏せ、無言で幼馴染をちらと見た。仕方なさそうに眉を落とし、彼女は寡黙なゼノに変わって柔らかな口調でフォローを入れてくれた。



「そうですよ。ゼノも小さい時から異なる種族に囲まれて育ちましたから獣人族の中でも温厚な方です。でも、ゼノ以外の相手に言ってしまうと、かなり怒られてしまうのでお気を付けくださいね。」

「く、詳しいね……。」

「ふふっ。だってわたし、ゼノの幼馴染ですもの。」

「ああ、そっか、幼馴染でしたね。僕も異なる種族の方ともっと交流してみたいです…。」



 切望するような声でぽつりとつぶやかれる言葉に、サクラは首を傾げた。貴族ならば多種多様な人種と出会うだろうに、とゼノもやや首を傾げる。同じ仕草をする二人に、とても仲の良い幼馴染であることが伺えた。その関係をさらに羨ましがられて、サクラは思わずぽつんと疑問を零す。



「交流されたこと、ないです?」

「ないんですーっ! 僕が願えば願うほど遠ざかっているような気がしてなりません!!」

「あら、まあ…。」



 物欲センサー…。だから、念願の獣人族との会話などと言われるのか。理解した。カードゲームなのでよくぶち当たる壁だ。

 好みのキャラクターやカードを引き当てたいと願えば願うほど、何も出なかったり、べつのキャラクターやカードを引き当ててしまったりする謎のセンサーのことをさす。諦めた瞬間に奇跡が起こると言われるほど“物を欲する”気持ちが強すぎるのだと噂の、あの、物欲センサーに引っかかっているとしか思えない。「で、す、か、ら!」と身を乗り出すアダルヘルムから遠ざかりながら、ゼノは作業を再開した。



「ああ~~っ! せっかくの獣人族の方が!!」

「確かにゼノは温厚な方ではありますが、それでも先ほどお話しました通り狼の一族は『仲間に優しく、その他には排他的』なのです。領主様が個人的に交流を持たれるのでしたら、のんびりとおおらかな性格の多い牛の一族や、臆病ではありますが温和な性格の多い馬の一族がおすすめですよ。」

「なんと!!」



 下手をすれば口すらきかない狼の一族の中でも、それなり人間と会話する心構えのあるゼノのようなタイプの方が珍しいのだとサクラは続けて説明した。



「つまり、あまり構い続けると本当に嫌われる可能性があるということですね。」



 ツェーンの言葉にアダルヘルムは顔を青ざめさせて謝罪を繰り返す。声の大きさを下げてくれないか。耳を塞ぎたくなった。

 尻尾で抗議するとサクラがとりなしてくれたのだろう。声が鎮まったので、容赦なく無視してバリケードの組み立て作業を続ける。フォローをし続けていては彼女の作業時間も削られるので、ちらと視線を向けるとサクラも折を見計らって作業に戻った。

 もともとバリケードが刺さってあった場所があるようなので、目印があって助かった。完成したバリケードの強度を警備兵に確かめてもらって動かないようにぐっさりと固定する。後のものを警備兵の目が届きにくい場所に配置し終えたら、あとは彼らが用意した資材分のバリケードは完成だ。

 他は穴を掘ってデコイを設置する作業があるが、それは流石に明日にまわしても大丈夫だろう。大した疲労はなくとも蓄積された分が表に出ると厄介だし、何よりゼノが休まなければサクラも休んでくれないのだ。



「確認は明日にでもやれ。……サクラ。」

「はい、わたしの方も終わりました。おばさま、修繕が終わった衣類はこちらでよろしいのですよね?」

「おばさまだなんて、上品だねえ。ああ、そうだよ、そこに入れといておくれ」



 彼女はきょろきょろと辺りを見渡して、ぼろぼろで今にも底が抜けてしまいそうな木箱を発見した。衣類の持ち主の名が記されていたため、おそらくは正解なのだろう。

 恐る恐る綺麗に修繕した洗濯物をそろりと入れて、作業が完了したことを裁縫のリーダーへ伝えに行った。村への客人ということもあり、切り上げるように言われたサクラは静かに待つゼノの元へ戻ってくる。「わたしも終わりました」と柔らかな微笑みと告げられる本日の活動終了宣言に、ゼノも無言のままコクリと頷く。



「私は天幕の修繕をお手伝いしようと思うのですが、ゼノはどうする予定ですか?」



 サクラの質問にクエスト内容を再び表示する。完了したタスクは、二つだ。

 未完了のタスクは4つあるが、優先度で言えば害獣や魔物などの目を逸らしたり、動きを硬直させたり、と言った内容の施設を修理&設置することだろう。

 バリケードと害獣対策には完了し、報酬も受け取った。おかげさまでゼノの所持金額は、初期値100Bsから、『清掃クエスト:雑草抜き』×51回プラス、『修復クエスト:はじまりの村の施設修理』完了タスク二つ分のそれだ。

 2,950Bsが現在の全財産になるわけだが、ボロ屋でも序盤の街ならではの趣を感じる宿の代金(5Bs)分を差っ引いても、まだまだ金銭的に余裕を感じられる金額だ。武器や防具を揃えるためにも、各10~20Bs程度は要することは確認しても生産ジョブの装備も一式揃えてやれる分だけ余裕がある。


 明日は地面を掘ってやや段差をつけてから、デコイを設置する予定だと言えばサクラは拳を握りしめて応援してくれた。

 サクラへと依頼された天幕の修繕はおそらく外で販売するときの屋根となるものだろう。水気を吸えば重たくなるが、ある種類の樹液やスライムの粘液を塗り込めば、雨よけになるらしい。雨季の季節が近づく現在、急を要する内容のはずだ。

 そちらの類では手を貸してやれんこともないが、なんでもかんでも手伝ってしまってはやり甲斐をなくすというもの。せめてもの応援として木製の針での作業は不慣れだろうから、宿へ向かう途中にある道具屋で『銅の針』を数本購入して渡した。



「…た、高かったでしょう?」

「必要経費だ。足りなくなったら狩ればいい。」



 雑草抜きのクエストは、おそらく初回のみ受注してクリアしたのだろう。何回も耳がピコピコするほど受注と達成を繰り返して懐が潤っているとは知らないため、サクラは慌てていたが作業効率や住民への配布を視野に入れて考えると確かに『木の針』よりも『銅の針』の方が丁寧かつ早く縫えると、最終的には感謝を示したので良しとする。

 ジョブシステム、スキルの習得&使用、レベルシステム。様々なゲーム要素をそのまま活用できるうえ、此処はゲームの世界なのか、現実世界なのかと考える中での脳内に響き渡る通知音。

 流石に現実世界とは思えなくなってくるようなゲームシステムは、“そう言った異世界”だとも考えられるし、“ログアウトの不具合”とも考えられる。前者の方は非現実的だからあまり信じたくはないというところもややあるにしろ、どう考えても後者の方が現実的だ。

 だからこそ、『不殺』の称号を得るためにもしばらくは『はじまりの村』で宿をとって、過ごすことにした。ゲームにしろ、現実にしろ、“未知の世界”で生活をするならば『情報』は必要になって来るからだ。

 今日だけで分かったことは幾つもある。大々的に上げるとするならば、世界スピラの通貨は地球と異なって「1ボヌス=100円」の扱いだったり、逆に同じところをあげると時間の経過や労働力に合わせて『空腹』を感じたり、『精神的な疲労』も感じたりする。似たようで違うところと言えば、ヒト扱いを受けるすべての種族に『感情があって』『好感度がある』ことだろうか。




ゼノ :ゲージが見えると微妙な気持ちになる。

サクラ:ゼノには見えるんでしたね。

サクラ:それは、……たしかにですね。




 ヒットポイントやマジックポイントが見当たらないと思ったが、『念じれば住民の頭上に現れる』し、自身やパーティーメンバーのものはアダルヘルムの大声によって目の右下辺りに自身のヒットポイントが表示されたし、少しずつ削られて行ったので『増減した場合のみ目視可能』なのだろう。

 しかも減ったのは、『アダルヘルム・フリューリングによる【騒音】です。』という通知と共にマイナス1ずつ。地味に痛かったわけである。

 その報告に、サクラは痛ましそうな表情を浮かべながら自身の力を試したそうにウズウズとしていた。宿での食事も湯浴みも終えて、今は完全なる休息の時だ。



「ゼノ、…補助魔法をかけてみても構いませんか?」

「…ああ。好きにしてくれ。」

「ぴゃっ…ゴホンッ! あ゜ッ……ううっ、あ、あり、ありがとうございます! ………―――行きますよ、『地上望遠鏡(フィールドスコープ)』!」



 何故か視覚が一気に近くなった。

 どれほど近くなったかと言うと…。



「虫眼鏡………?」

「ああ~~っ! やっぱり虫眼鏡程度でしたか………。」



 狼の獣人族は、嗅覚と聴覚が優れている代わりに『視覚が弱い』。動物とは違ってゼノは『獣人』なので360度の視野があっても間近に来なければ何も分からないことの方が多い―――と言うわけではなく、通常の人間よりも少し視力が弱い程度だ。

 それでも違和を感じるのは『雪野の時は遠くまで鮮明に見えていた』からだろう。雪野の影響か、自覚するとスキルの項目に『鷹目』というものが増えた。それは視力が高まり、『レベルアップ時DEX補強』の恩恵を与えてくれるものだった。

ゼノ・ルプス

■星歴2217年

L◇アリエス(4月)の1日(見習い剣士Level.3)

『庇う』を習得しました。

『眼力』を習得しました。レベルアップしました。(9/50)

『風魔法』を習得しました。レベルアップしました。(3/100)

『一点突破』を習得しました。

『俊足』を習得しました。これにより、レベルアップごとにAGIが補強されます。

『思考加速』を習得しました。思考する速度が上昇します。これにより、レベルアップごとにINTが補強されます。

『魔力操作』を習得しました。魔力の質が上昇します。これにより、すべての魔法の威力が1.5倍になります。

『鷹目』を習得しました。これにより、レベルアップごとにDEXが補強されます。

『清掃クエスト:はじまりの村の雑草抜き』を累計51回 受注、達成しました。

 ★見習い剣士のLevelが1上がりました。これにより、ステータスが上昇します。

『修繕クエスト:はじまりの村の施設修繕』を受注しました。

 ①バリケードの修理(4/4) +250EXP +150Bs

 ②教会の修繕(0/1)

 ③デコイの設置(0/12)

 ④投石機の設置(0/2)

 ⑤スタン銅鑼(0/1)

 ⑥害獣対策(4/4) +250EXP +150Bs


◇―――報酬―――◇

 1.1タスクにつき、250EXP

 2.評価により獲得Bs100~150変動

 3.全タスク完了にて、別途スキルポイント6及び名声10を獲得。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ