本当の踏ん切り。日常の一片
懐かしい朝ごはんを食べ、ミシェドのご飯もついでに食べさせてもらい、俺は店を出た。
少し歩くと、ある商店街のような場所に着いた。
「懐かしいな…」
「ミュ?」
「ミシェド。ここは“スタック”っていう場所なんだ。いろんなお店があって、よくここに来てたんだ」
不思議そうに首を傾げるミシェドの顎を撫でながら教える。
ふと、あのじいさんが座ってた場所を見る。
そこには、既に串焼きの屋台が出ていて何人かが並んでいる。
「そこのエルフの兄ちゃん!うちの串焼きはちょっと違うぞ!一本どうよ?」
「ミシェド、食べるか?」
「ミュ!ミュミュ!」
俺が聞くと、ミシェドは食べたそうに俺の肩周りをグルグルと回った。
「はは、わかったわかった。じゃあ、このとり串を二本貰おうかな」
「まいど!二本で300Gだ!」
スキルの中から300G取り出し、とり串を貰うのと一緒に手渡す。
「また来てな〜」
という言葉を背に、俺はあの広場にやってきた。
始めて武器を振るったあの場所。今はあのギャレンの災害の影響で改修されている。しかし、辺りのヒビ等はまだ修繕しきれていない。それほど規格外の威力だったのだろう。
「よし、この辺りで食うか。ほらミシェド」
「ミュウ!」
串から外した鶏をミシェドは気持ちいいほどガツガツと食う。俺も携帯していたお酒のあてとしてとり串を食べた。炭焼き特有の香りが食欲を刺激する。長いこと携帯してるからか少し劣化ぎみだが、この酒も旨い。
「美味しいか?ミシェド」
「ムゥムゥウ!」
口いっぱいに頬張るせいでちゃんと話せていないが、とても美味しそうな顔をしている。
「はは…ふぅ、景色はいいんだけどな…」
眺めると、どうしても記憶がフラッシュバックする。
最初に出会ったとき。あの人のキャラは、今とは全く違ったなぁ…。なんか、変なキャラだったけど、最終的には、すっごくしっくりするいい人になったからな…。
そういえば、屋台の食べ物買い食いして、二人で笑ってたりもしてたっけ…。
「…………」
「ミュ?」
「ん?ああ、すまんミシェド」
…結局、俺はこの記憶を一生引きずるんだろうなと。俺は痛感した。
忘れたい記憶であるのと同時に、ずっと記憶に留めておきたい。そんなわがままを世界が許すわけないのはわかっている。
「ミュミュミュ!」
「おう、行くか」
一生引きずる思い出を。無理矢理そこに張り付けて俺は進んだ。
「ただいま~」
「ミュー!!」
家に入ると、既に起床していたアリスがオーディンたちの朝食を用意していた。
すると、俺の中から、にゅるっと
「飯か!?アリス!」
と、メグリネが現れた。
「いい加減実体受け取ってくれないか?」
「いやじゃ。お主の中が一番居心地がいいんじゃ」
「ったく…飯時になったら、実態に入れよ」
「まあな」と言いながら、今日も強引に押し込まないと行けないのだろうなと思った。
アリスを生き返らせた日から。メグリネは俺の中で過ごすようになった。どうも、これまでの居場所がなくなったのは俺のせいだといい、俺の許可もなしに勝手に居候するようになったのだ。
とまあ、俺の家はアリス、オーディン、メグリネ、アデュレシア、俺の5人に住まわれることになった。
元々持て余していた家だったんだ。むしろ丁度いいぐらいの人数になった。
「ハイロ、朝ごはん食べた?」
「ああ。ミシェドも食べたぞ」
「わかった」
「ほら!入れメグリネ!」
「いやじゃ!あっちは寒い!」
「うるせぇ!“入れ!”」
「ハイロ、オーディンが…」
「オーディン!飯だ!」
「うるせぇなぁ…もう起きてるよ」
「うわっ!おいアリス、洗面台にいるじゃないか…」
「料理に夢中だったから、気が付かなかった」
「アリス、何度も私は言ったよ?」
「アデュ、もっとおっきな声で伝えて」
「あのねぇ…もっと周りを…」
「アリス!早く飯を寄こせ!ハイロの中に戻れないじゃろ!」
「入ってくる前提でいうな!ったく…俺は外でミシェドと遊んでくるから、荒らしすぎるなよ!」
「わかった、ハイロ」
朝早く。非常に騒がしくて、耳がキンキンしてくる。
でも、まあ…。
後ろを見ると、楽しそうな顔色を浮かべながら多種の感情を前面に出していた。
あれだけ、楽しい顔を浮かべられる世界になれたのなら。俺はそれでいいんじゃないかと、そう本気で思ってしまった。
「…さ、遊ぶか!ほら、ボールだぞ~」
「ミュミュミュー!」
でも、本気でいいかもしれないな。
「ミュ!」
「よ~しよしよし」
ボールを持ってきたミシェドのことを撫でながら、俺はミシェドに
「お前は、いなくなるなよ」
といった。
小首を傾げ、わからなさそうにしたから俺は顔を眺めて
「なんでもないよ」
といった。
「ミュウ!」
ミシェドがまたもボールを差し出してきたから、もう一度ボールを放り投げた。
…さて、今日も1日、頑張りますか!