新しい家族と戻らぬ過去が染みつく街並み
「ふへへ…ん~可愛いねぇミシェド~」
「あれ、完全に途中で飽きるタイプの溺愛だぞ」
「私もそう思う」
「大丈夫です。あの子に何かあったら私が許しません!」
帰り道。俺はうっきうきでミシェドと遊びながら帰路をたどっていた。
「ミュ~」
「はぁ…かわいいなぁ…うんうん。お前は本当にかわいいなぁ…」
「…なあ、これ本当に竜と契約させても良かったのか?」
「不安になってきた…」
後ろでアリスとオーディンがそんなことを言っているとは露知らず。うっきうきのルンルンでミシェドと遊びながら家に帰った。
「ミシェド~!散歩に行こ~」
「ミュミュウ!」
朝の6時。日課の素振りを捨て、俺はミシェドと散歩に行くことにした。
「ん~よしよ~し。さ、行くぞ」
「ミュウ!」
俺はそうして、あの日までは馴染んでいた街並みを歩いた。
家を出てすぐ。右手には列強の森が見えた。
奥のほうにわかる程に、何かが建っていた跡があった。かつて俺がいた場所だ。後悔をしていないかと言われれば、正直後悔しかない。
それはその歴史もそうだし、なにより大切なものを守れなかったという、そんな悔やみきれない思いもある。
不意に立ち止まってしまった俺を案じたのだろう。ミシェドがいつの間にか俺の服を引っ張って
「ミュミュウ?」
と不思議そうに、小首を傾げてこっちを見ていた。
「…ううん。大丈夫。行こっか」
そうだ。俺はこの過去から決別しなければいけない。
俺はそう思い、背を向けた。なぜか、ヴァルさんが後ろで笑っているような気がした。
「ん?ああ!ハイロさん!最近どうしたんですか?中々顔を出さないですけど…」
「ああ、お久しぶりです。まあ、最近は多忙で…」
俺が街を歩いていると、ヴァルさんに連れてきてもらったあのお店の人が店前を掃除していた。
「あれ?その子…」
「ああ、紹介します。新しい家族のミシェドです。ほら、挨拶」
「ミュミュウ!!」
「はわわ…かわいい…竜でも子供は可愛いですね~」
彼女はそう言いながらミシェドの顎の下を撫でた。嬉しそうに「ミュミュウ!」と鳴きながら顎を差し出していた。
「そういえば…ヴァルさんは…?」
「え?知らないの?」
そういうと彼女は、申し訳なさそうに首をすぼめ、フルフルと首を振った。
「申し訳ないのですが、実はあの暴動の時、ちょうど他国に料理修行していて…すみません」
「ああ。いえ…。そう、ですか…」
「…その顔…すみません、いやなこと思い出させて」
深々と頭を下げる彼女に、俺は至って冷静に、やさしく言葉をかけた。
「…いえいえ。大丈夫です。そりゃ、傷は深いし、二度と忘れられません。でも、それでもいつまでも引きずっててもよくないですからね」
「……あの、よろしければなにかご馳走します」
「…では、そうですね…」
少し考えた。考えて、最後の思い出を味わいたくなった。
「…では、『焼き鮭定食』、一つお願いします」
「っ!はい!」
最後に。あの日食べた思い出の味を俺はしみるように嚙み締めた。