土下座
「…は?」
この場に居る全員が揃ってそう放った。
意味がわからないだろう。でも、俺は構わず続けた。
「…実は、オーディンがアリスを殺したのは、上の神々の命令だったんです。オーディンも、殺す気は全くなかったのですが、上の神がそれを許さず…」
「だ、だったら、殺したという虚偽を申せば済む話であろう!」
「神には、隠し事が通用しません。だから、オーディンはアリスを殺した後、ひっそりとアリスを生き返らせるために試行錯誤して…」
「し、しかしだな…」
長老は、難しそうな顔をして、オーディンを睨む。
そりゃあそうだよな。再会して、涙流すぐらい溺愛していた人を殺されるのはたまったもんじゃない。でも、だとしても少なくともオーディンには非がないことを証明しなければいけない。だから、俺は一層声を張り上げた。
「事実、アリスがまたこうして生き返ったのは、オーディンのおかげなんです!」
「何?」
「今、アリスの魂はアリスの核にある『糸紡ぎの玉』で型どられた人形を魂の器に留まることができてるんです。そして、その器までの道を切り開いたのは、他でもないオーディンなんです!」
「……」
長老は、黙りこくってしまった。俺はそんなのも構わず、言葉を続けた。
「確かに、オーディンはアリスを殺しました。でも!彼は4000年、アリスを生き返らせるために頑張って来たんです!どうか、どうか認めて、許してあげてください…」
「……我は」
長老は、ゆっくりと言葉を続けた。
「我は、オーディンを快く許すことはできないであろう。どんな事情があったとしても、彼はアリスを殺した。その事実だけは変わらない」
「…」
「だが、まあ良い。オーディンよ。これからゆっくり、許されるようにアリスを幸せにするんだぞ。もし泣かせるようなことがあったら…」
オーディンは、立ち上がってイキイキと言った。
「そんなこと、させません。絶対に、アリスのことを笑っていられるようにします」
「…そうか」
長老は、そう返事をすると座って遠くを眺めた。
「…いやはや、アリスを初めて見てから、もう4000余か…時というのは、案外長いものじゃのぉ…」
「長老…あ、そういえば、アデュレシアってどこにいる?」
「ああ、お〜い、アデュ!客人だぞ〜」
長老がそういうと、さらに奥の方から綺麗な白い体表を持ったどでかい竜が現れた。
「長老、客人って………」
「アデュ。ただいま」
アデュレシアは、アリスを見るなり固まってしまった。
数秒見たのち、アデュレシアは大きな涙を流しながら
「アリス!!!!!!!!!!!!!」
と、アリスをしっぽでぎゅっと抱きしめ号泣した。
「アリス…アリス…」
「ごめんね、急にいなくなって」
「いいの。アリスが戻ってくれたなら…」
その後、2人は長く、抱きしめあった。
そしてオーディンは過去の経緯と何から何までを全て説明した。アデュレシアは意外に物分かりが良く、すぐにその話を理解してくれた。
話を一通りした後。アデュレシアは、こっちを向き、深々と頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました…代わりと言ってはなんですけど、何か欲しいものがあったりしますか?」
俺はその問いに、少し悩んでから首を横に振った。
「ありがたいお話ですけど…今があるだけで、充分です。もう、欲深く求めるのはやめようと思ってて」
「…そうですか。ではせめて、おもてなしということで、一緒にご飯でも食べましょう。大丈夫です。食事は人間たちと同じ物です」
僕らはその誘いを受けることにし、アデュレシアの巣へと招待されることになった。
…そういえば、俺の当初の目的って何だっけ?
忘却してしまったことは、まあいいやと諦め、純粋に楽しむことにした。