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89 捕獲依頼を発注。



 【魅了】を持っているであろうジュリエットの毒牙にかからないように、ルクトさんはファマス侯爵家のタウンハウスで匿うことになった。

 使用人もいるので、ルクトさんが寝泊まりすることに不便はないはずだ。


 念には念を入れて、登下校も一緒にすることにした。とはいえ、体面もある。婚約前の男女がひとつ屋根の下で過ごしていると噂にならないように、馬車は別々にしておく。ネテイトの馬車に、ルクトさんを乗せて登校。無事、学園に登校出来たことにホッと胸を撫で下ろして、注目を浴びる中でそれぞれの教室に向かって別れた。


 こうして私とルクトさんの交際は、噂で広まっていくだろう。ジュリエットの耳に入ることを懸念するが、もう聖女事件の前に公表したようなものなので、手遅れだった。仕方ないので、交際していると匂わせているとともに登下校も隠さない。


 注目の的だ。


 昨日の昼休みで一緒にいたから、すでに気付いている生徒もいるだろう。私とルクトさんの仲を。


 学園内でも有名な平民生徒、最速Aランク冒険者であるルクトさん。

 そして良くも悪くも話題沸騰の令嬢である私。当然の注目だ。


 自分の教室に入っていけば、友人達が深刻そうな表情で集まってきて挨拶もそこそこに声を潜めて話しかけてきた。


「大丈夫ですか? 例の彼女……聖女に認定されたとか。本当なんですの?」


 昨日のジュリエット・エトセトの裁判に参列していたのは、何も私の両親だけではない。

 他の貴族達も大罪人の行く末を見守っていたのだ。だから、彼女が聖女として神殿に連れていかれた事実も知れ渡っている。その噂も伝染していっているのだ。だから、私に真偽を確かめてくる。私の証言も聞いて確かめたいのだろう。


「私も、何が何やら……」


 頬に右手を添えて、困り顔で苦笑しておく。それではぐらかしておいた。

 神官長が聖女認定して神殿に連れ帰ったことが事実だとしても、私自身が彼女を聖女だと認定の証言をする必要はないだろう。


「聖女だからって、裁判から逃げるなんて……」

「でも聖女だぞ? 何年ぶりだ?」

「いや、聖女でも裁判を受けるべきだろ。あんな事件を起こしておいて……」


 大罪の容疑がかかっているとは流石に知れ渡っていないようだが、裁判があった事実だけを知っている一同は聖女だとしても裁判から逃げ出したという印象。それについて賛否両論。聖女擁護派は少ないし、難しい顔をしている。

 聖女誕生だというのに、不信感の方が多い。


「そもそも本物か?」という疑問が強いようだ。


 授業が始まる前に、それぞれの席に向かって解散。


 昼休みになれば、待ち合わせていたルクトさんと、それから新入生のテオ殿下とアリエットと合流して、一緒にランチをとる。


 王家が聖女の誕生に動揺していないと示すためにも、テオ殿下は普段通りだ。アリエットもそれに倣っている。もちろん、話題にもしない。

 私もルクトさんも、気にしていないという態度で、食事をしながら談笑をした。


 残りの授業も終えて、帰り支度をする。


「リガティ」


 すると、ルクトさんが迎えに来てくれた。


「お疲れ様」

「お疲れ様です、ルクト先輩」

「鞄持つよ」

「いいのですか? お言葉に甘えさせていただきますね、ありがとうございます」


 当然のように手を差し出すので、お礼を言って鞄を差し出す。そんなやり取りを見て、クラスメイトは浮き立つような反応だった。


「お先に失礼しますね、皆さん」


 挨拶をしてから、ルクトさんと帰ろうとネテイトと合流。登校した時のように、馬車は男女別で屋敷に帰った。

 今後の作戦会議のためにも、ルクトさんも我が家に来てもらった。


 ジュリエットの警戒はもちろんだが、こちらはこちらで事業も手掛けたいのだ。警戒ばかりで立ち止まってはいられない。


 部屋も用意したし、そこで作戦会議。イーレイが集めてくれた資料を読みながらも、話を進めていく。

 放課後ということもあり、夕食の時間はあっという間に来たので、ルクトさんも食べて行ってもらうことに。そこは出来る女、イーレイが手配済みだった。


 ルンルンした足取りでダイニングルームのある一階へ階段を降りて行こうとしたら、階段の陰にスゥヨンとリィヨンに気付く。何やら雰囲気が良くない。


「なんでティヨンが拘束を抜け出してしまうなんて……!! 絶対に王都に向かってるよ! どうしよう!!」

「落ち着け! スゥヨン!」

「これが落ち着いていられますか! ティヨンの目的は、十中八九……!!」


 彼らの末の弟、ティヨンの話らしい。


「ティヨンがどうかしたの?」

「「リガッティーお嬢様!? ひぃ! ルクト様も!!」」


 階段上から声をかけると、大袈裟なほどに肩を震え上がらせて振り返った二人は、私の隣にいるルクトさんに気付いて顔面蒼白になった。

 キョトン、と首を傾げるルクトさんは、怯えられる心当たりはないようだ。


「説明なさい」

「っ……かしこまりました」


 事態は深刻そうなので、強制的に話させようと命じる。


「実は……ティヨンがリガッティーお嬢様の婚約破棄を聞き、激怒してしまい……暴れていたので、父が取り押さえて監禁していたのです……」

「監禁」


 項垂れたようにリィヨンが説明をすると、不穏な単語が出てきたので思わずオウム返ししてしまう。

 隣のルクトさんは「あー」と腑に落ちたみたいに声を漏らす。


「知っていたのですか? ルクトさん」

「ああ、うん。ティヨンさんがガチ恋だって聞いた時に」


 なるほど。ティヨンが私にガチ恋していると明らかにした時には、ルクトさんはティヨンが暴れて監禁されていた事実を聞いていたのか。


「ティヨンさん、リガティにガチ恋だからさ。婚約破棄を知って、ブチ切れたんだって。第一王子にさ。殺気マシマシみたいだから、監禁までしたんだって。そこから抜け出したってことは……あっ」


 簡潔に話してくれるルクトさんは、言葉の途中で声を上げると、振り返った。

 その先にいたのは、作戦会議にも参加していたシンだ。血の気が引いた顔をしたシンに注目して、その場は沈黙に包まれた。


 第一王子相手に、殺意マシマシ。それも監禁するほどの激怒。


 そこから抜け出したティヨンの行動が予想出来るとしたら。


 元王家の影であるシンは、黙ってはいられないだろう。


「っ!!」


 闇魔法で姿を消した。が、反応したルクトさんが、階段下で呆気なくシンを捕らえた。

 隠れた王家の影の存在も感知出来たAランク冒険者のルクトさんからは、逃れられない。


「だめじゃない、シン。今は私に忠誠を誓っているはずでしょう?」

「いや、王族殺害事件を黙っているわけにはいかないですから!! 国民の義務です!!」


 ルクトさんに取り押さえられて床にじだばたするシンの顔は、真っ青だ。


「嫌だわ、シンったら」


 階段を一段一段降りて、私はにこやかに笑いながら歩み寄った。


「そうとは限らないじゃない。早まらないで」

「ティヨン・ジオンなら、十分あり得ますよ!!!」


 全力で叫ぶシン。

 そう言えば、私の監視をしていたシンは、ティヨンのことも知っているのだった。知っている故に、断言が出来てしまうなんて……。


 ティヨンは、確かにアグレッシブなところもあるけれども……王族殺害だなんて、ジュリエットと同じ罪を犯すわけは…………ああ、監禁されていたティヨンは知りようもないか。


「通報をしないでください!! ちゃんと捕まえますから! 王族には近付けさせませんから!!」


 震え上がるスゥヨンが、弟のティヨンを庇う。


「ファマス侯爵家としても、仕える者が王家に害を為すようなら、損害だわ。……騎士団から人を手配して……でも、捕まえられるかしら」

「しかし、ジュリエット・エトセト子爵令嬢の件もあります。人員を割いて、ルクト様などに近付かれてしまっては損失を受けてしまうのではないでしょうか?」


 現実問題、人員を割いて行方のわからないティヨンを見つけられるかどうか。


 イーレイが自分の意見を伝えたように、我が家の騎士団がいない隙を狙って、魅了を使うジュリエットにルクトさんへ迫られては私が大ダメージを受ける。つまりは、悪手だ。


 では、どうやってティヨンを捕まえるのか。私が説得すれば止まってくれるだろうが、その前に捕まえられなければ説得も出来ない。


 そこでシンを押さえ続けているルクトさんが、冷静に提案した。


「じゃあ、冒険者ギルドに依頼しよう」

「ギルドにですか?」

「ああ。生け捕り依頼だよ。少し報酬を弾ませれば、早い者勝ちで捕まえてくれるさ」


 ティヨンを生け捕り依頼を、冒険者ギルドに発注か。

 それなら、こちらの人員を割かなくて済む。

 スゥヨンとリィヨンが希望の光を見つけたように明るい顔をした。


「オレが依頼してくるよ」

「え、一人で行くつもりですか? だめです。私も行きます」


 ルクトさんに一人行動をさせてはいけない。油断大敵。


「そうです。我々の弟のことですし、私かスゥヨンで行って参ります」


 長男のリィヨンが、胸に手を当てて買って出る。


「二人揃って行くこともないでしょう。自分が行きます」


 スゥヨンは、一人で行くと言い出す。


「ルクトさんと行きます。ちょっと着替えてきますね」

「もう皆で行く?」


 私とルクトさんが行くことは決定事項にして、着替えるために引き返す。

 ルクトさんはようやくシンを解放してやって、立ち上がった彼の肩を叩いて宥めた。



 冒険者スタイルの服装に急いで着替える。冒険者ギルドで依頼をしにいくだけので、オフホワイトのホットパンツとニーソとブーツ。トップスは革ジャケットに、桜色のシャツを合わせた。


 ルクトさんは制服のままだが気にした様子もなく、一緒に馬車に揺られて向かう。行くのは、私とルクトさん、そしてイーレイとスゥヨンに決まった。


 スゥヨンはティヨンがよほど心配なのだろう。そわそわした雰囲気が隠せていない。だから、気を遣ったルクトさんが「冒険者がちゃんと捕まえてくれますよ」と声をかけた。


 発注する依頼は、『ティヨン・ジオンの捕獲』である。彼の容姿と王都に向かっているという情報を提供して、王都に入る前に捕獲するというもの。捕獲した冒険者、またはパーティーに多額の報酬を支払うという流れだ。ティヨンの戦闘能力を考えると、最低Cランクパーティーで挑んでもらわないといけないと、ルクトさんが予想してくれた。


 そうして、やってきた冒険者ギルド。


「いたいた! リガッティーちゃん!」


 入るなり声をかけてきたのは、『冠の宝石』のクランリーダーでありAランク冒険者のハヴィス・フーランさんだ。にこやかに手を振ってきた。


「やっと会えた!」


 好意的な笑みのハヴィスさんが歩み寄る。


 隣のルクトさんが笑みを保っているのに、まとう空気を冷たくしたものだから、スゥヨンがヒュッと声を鳴らしてまたもや顔面蒼白になっていた。


 そういえば、シンの潜入情報で、ハヴィスさんが私を口説きたいと掴んでいた。

 それを聞いて、ルクトさんがお怒りだったのだ。


 私しか視界に入れないハヴィスさんと、私の隣で笑顔の威圧を放つルクトさん。


 これは――――波乱の予感。



 



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2025/03/31◎

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