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87 初口付け挑戦と非常事態。




 翌日も、学園へはネテイトと馬車で向かった。


 教室に入るなりの挨拶をするクラスメイト達は、ソワソワしている。期待と好奇心の目だ。


「リガッティー様。昨日は、その、デートに行かれると仰っておりましたが……どうでした?」


 代表で切り込みに来たのは、マティアナ。咳払いして緊張した様子で尋ねた。


「ええ、とても楽しめたわ」


 令嬢スマイルで答えておく。

 どよめくクラスメイト達。私がデートをしたことに色めき立つ。


「どなたとデートを!?」


 目をキラキラさせたマティアナは、問い詰めてきた。


「春休みに入ってすぐにお近づきになった方なの。学園でも有名な方だそうで……一つ上の学年のルクト・ヴィアンズ先輩よ」


 恋人、とは直接言わない。あくまで親しい方と匂わす。


「えっ!? 最速でランクアップして最年少Aランク冒険者になったっていう、あの有名な方!?」

「自分、知ってます!」

「オレも!」

「私も!」


 デート相手がルクトさんだとわかると、さらに盛り上がりを見せた。


「あら、やはり有名なのですね。私ったら恥ずかしながら、全然知らなくて……春休みの初日に初めて知り合って驚いてしまったわ」


 あくまで春休みが初対面を印象付かせる。


「お恥ずかしながら、自分も知りません……」

「私もです……」


 おずおずと打ち明けてくれる令嬢も何人かいたので、ちょっとルクトさんについて知らなかったことは異常じゃないってことがわかりホッと胸を撫で下した。


「それで! どんな方なんですか!? ヴィアンズ先輩は!」


 マティアナが、グイグイとくる。


「とっても素敵な方よ」


 無難な返答は本心だ。頬に手を添えて、のほほんと答えておく。


「そ、それで……!?」


 ゴクリと固唾を飲んで、肝心の一言を待っているマティアナ。マティアナだけではなく、他の生徒もそうだ。知りたがっている。


 私の新しい相手なのか否か。


「ん? だから、素敵な方なのよ」


 私はとぼけて令嬢スマイルで言い退けた。


 これ以上は問い詰めても無駄だと悟らせるには十分。特に貴族子女達には通じる。


「あ、そうですか……」と、マティアナはしぶしぶ引き下がった。


「そうだ、マティアナ。今日のランチは先約があるから別にとるわ」

「あら、そうですの。……ちなみにどなたと一緒にとるのですの?」


 話を変えたが、マティアナはふと気付いてそっと尋ねる。


「今話したルクト先輩とよ」


 どよっとまた色めき立つ。一度のデートだけではなく、お昼休みのランチも一緒に過ごすことに驚かれた。


「あと、テオ殿下とアリエット嬢も一緒なの。二人に誘われたから」

「「「!!」」」


 ざわっとまたまた色めき立つ。


 第二王子カップルと一緒に過ごすと聞けば、色々予測が飛び交うだろう。

 前情報を振り撒くのは、これくらいでちょうどいいだろうか。

 あとはこれを聞き取ったクラスメイト達が言いふらしてくれるのを、悠長に待つだけだ。


 まぁ、あっという間に広がるだろう。すでに話題の人である私が誰かとデートをした噂も広がっているだろうしね。




 通常授業が始まる本日のお昼休みがきた。


 場所は、東の庭園がよく見えるカフェテリアのテラス席だ。周囲によく見られる場所でランチタイムをするのは、わざとである。


 私リガッティー・ファマス侯爵令嬢が、第二王子のテオ殿下とまだ交流を持っていることを周囲に知らしめるのは、大事なこと。


 そして、私とルクトさんが一緒にいる姿を見せるいい機会でもある。噂は加速するだろう。


 カフェテリアには従業員がいるので、呼びつければ注文が出来る。

 合流したルクトさんと、それからテオ殿下とアリエットと一緒に席について、従業員を呼びつけた。


「あれ? ハリーくんは?」


 私も気になったけれど、テオ殿下の側近のハリーくんの姿が見えないとルクトさんが尋ねる。


「ちょっと外してます。すぐに戻ってきますよ、あ、ほら」


 テオ殿下が答えた通り、ハリーくんの姿をすぐ見付けた。しかし、その表情は固く、テオ殿下は一瞬怪訝な顔つきになる。


 注文を取りに来た従業員を避けて、テオ殿下は席を立ってハリーくんの元に歩み寄る。

 ハリーくんは何かをテオ殿下に耳打ちした。雰囲気が張り詰めている。


「……申し訳ございません、至急王城へ戻らないといけない急用が出来ました。この埋め合わせは、いずれまた」

「……そうですか。急用なら仕方ありません、お気になさらず」

「うん、大丈夫だよ。またランチをしよう」


 テオ殿下は申し訳ないって顔で謝罪を口にした。私もルクトさんも大丈夫だと答えておく。


「ごめんね、アリエット」

「いいの、テオ」


 アリエットの手を取ると、指先に口付けをして甘く見つめるテオ殿下。

 アリエットは、優しく微笑んで見送った。


 仲睦まじいと温かい目でテオ殿下とハリーくんを見送ったが、何があったんだろう……と考え込んでしまう。

 新学期早々、テオ殿下を呼び戻すなんて。

 第一王子が休学中に、第二王子まで早退なんて、よっぽどのことなのかもしれない。


 アリエットも気になってしょうがないだろうが、そんな素振りを見せようとせず「では注文をしましょう」とランチを再開させる。

 注文を終えたら、あとは品を待つだけ。


「テオと一緒に昨日のデートのお話を聞きたかったのですが、急用なら仕方ありませんよね」


 早速、アリエットはその話題に触れた。


「テオ殿下には明日お話して」と、言っておく。


 アリエットが教室でテオ殿下に話せば、一学年にもデート様子が広まるだろうから、好都合だ。

 私の意図を汲み取ってくれたであろうアリエットは「はいっ!」と淑やかさを失わない元気な返事をした。


 デートした店で何を食べたのか、何を食べさせ合って美味しかったかどうか。


 それを私とルクトさんで話すと「まあ、まあ、まあ!」とアリエットはキラキラと相槌を打った。


「いいですわね、一般的なデート! 羨ましいですわ……制服デートだなんて」


 話を聞き終わると、アリエットは頬に手を当ててうっとりと夢を見る目付きになる。


「そっか。テオくんは王子だし、お忍びデートとか出来ないのか」


 普通はお忍びで冒険者になったりしませんからねぇ。基本、おともつけて出歩きます。


「じゃあ、オレを護衛に雇ってダブルデートでもする?」


 なんて、ルクトさんは提案した。


「ダブルデート!」


 その甘美な響きを、アリエットは繰り返す。


「ご指名してくれれば、護衛任務受けられるよ。Aランク冒険者が護衛につくなら、安心じゃない?」

「いいですね! あ、い、いえ……どうでしょう。スケジュールが組めるかどうか……テオに訊いてみます!」


 アリエットは飛びつきたい提案だろうけれど、次の王太子になる予定のテオ殿下のスケジュールが問題だ。それに本当に許可が下りるかどうかは怪しいところ。


「行けるといいね」と、言ったルクトさんは、こちらにウィンクをしてきた。


 なるほど。それも新人指導の一日目に数える気なのね。そうなると冒険者活動しつつダブルデートが楽しめてしまうのか。それは楽しみである。


 食事も終えて、従業員が食器を片付けてくれたあとは、食後の紅茶を啜った。


 でもアリエットは次は移動教室のために早く移動したいそうで、友人達と一足先に行ってしまう。


 残ったのは、好奇の視線を浴びる私とルクトさんの二人である。


「オレも次、移動教室なんだ」

「あら、ではもう解散します?」

「いや、リガティの教室方面だから、途中まで送るよ」

「じゃあ……手を繋いで送ってくれます?」

「っ……う、うん」


 爽やかに笑いかけてくれたルクトさんに、顔を寄せて囁く。そうすれば、ルクトさんは頬を赤らめた。


 昨日から私の方が、ルクトさんを照れさせている気がする。ふふ。


 紅茶のカップも片付けを頼んで、私とルクトさんは手を繋いでテラス席を出た。


 視線が突き刺さる突き刺さる。でも気にせず、ルクトさんと並んで歩いた。


 妙に、ルクトさんは静かだ。

 小首を傾げて横から覗き見る。


「あ、あのさ、リガティ」

「はい?」

「……ちょっといい?」


 廊下を歩いていたのに、ルクトさんは急に空き教室のドアを開けて私を引っ張り込んだ。

 ドアを閉めて、黒板の前まで行くと、そこで私と向き合った。


 なんだろう……。目の前のルクトさんは、緊張している様子。


 そこでハッと思い出す。そうだった。


 昨日、ルクトさんはキスのタイミングを計っていた疑惑が!

 もしかして、今!? 今なんですか!? 唐突すぎません!? 心の準備が!


 でも頬をほんのり赤らめているルクトさんはとても真剣な眼差しで見てきていて、無理ですだなんて拒否出来そうにもなかった。嫌だとも思っていない。


 ルクトさんの右手が、私の頬に添えられた。


 ああ、するんだ……。ファーストキス。


 ドクドクと心臓が高鳴る。


 大好きなルクトさんと、初めてのキス。


 何も言えないけれど、拒む気持ちはないと示すために、頬に添えられた右手に私も自分の手を重ねた。


 ゴクリと小さく息を呑んだルクトさんは、意を決して顔をゆっくりと寄せる。


 ルビー色の瞳と見つめ合って、そっと目を閉じた。



 次の瞬間、授業の予鈴の音が鳴り響いたものだから、二人して大袈裟に震え上がる。


 バクバクと心臓が跳ね回ってしまう。お互いビックリした顔をつけ合わせてしまって、どちらとともなく噴き出してしまった。


「んー、残念。授業に遅れないように行こうか」


 ルクトさんは潔く諦めて、私の右頬にチュッと軽くキスをすることに留める。


「そうですね……また」


 ファーストキスをするのなら、ゆっくりしたいものね。残念。


 ふわふわした浮き立つ気持ちのまま、ルクトさんと別れて、教室へ戻った。



 次は、いつ挑戦してくれるのかしら……。


 なんて思いを馳せる。




「義姉上……今、ルクト先輩のことを考えているでしょ」

「え? 口元、緩んでいた?」

「いえ……雰囲気が甘いです……」


 ネテイトと帰宅する馬車の中。指摘されてしまい、気を付けようと気を引き締めた。


「義兄上と呼ぶんじゃなかったの?」と、話を逸らしてみる。


「い、いえっ。よく考えたら気が早いというか、まだ先輩とお呼びした方がいいでしょ」


 ネテイトはあたふたと慌てて言い訳した。

 ふふふ、気恥ずかしいとかじゃなくて?



「リガッティーお嬢様、ネテイトお坊ちゃま。旦那様がお呼びです。そのまま応接室へ」


 出迎えてくれたニコラがすぐに父が呼んでいると知らせてくれる。他の馬車が停まっているから、誰かが来ている様子だし、どことなく雰囲気が張り詰めていた。ただ事じゃなさそうなので言われた通り、荷物はメイド達に任せて応接室へ向かう。


 すると、そこにはなんと、テオ殿下がいらっしゃっていた。


「テオ殿下」

「挨拶は省略しましょう。問題が起こりました」


 私とネテイトが敬意を払って挨拶するのを制止させると、座るように促される。

 肩を並べて座っている母も父も表情が硬い。


 とりあえず、問題とやらを大人しく聞こうと、私もネテイトと同じソファーに腰を下ろした。


「本日、ジュリエット・エトセト子爵令嬢の裁判が行われました」

「「!!」」


 裁判が行われた? 何も聞いていなかったのに。


 私とネテイトが両親の顔を見やると。


「先代王弟殿下のディベット様の計らいにより、リガッティーとネテイトの立会いは免除されたから、言わずに済ませようとしたんだ」と、父がそう答えてくれた。


 私達に知らせることなく、終えようとしたのか。しかし、何やらそこで問題が発生したということ。


 それで昼は早退していったのね。

 よっぽどなことなんだろう。


 一体何があったのか、とテオ殿下に視線を戻す。


「単刀直入に報告すると……ジュリエット・エトセト子爵令嬢は」


 一度言葉を切ると、やるせなさそうに表情で、テオ殿下は告げた。



「――――『聖女』認定されました」



 衝撃的すぎて、声が出ない。


 なんですって? あのヒロインが……? 聖女に認定?


 これは非常事態だ。



 


返り咲くヒロイン!? どうなる! 悪役令嬢vsヒロイン第二ラウンドはもうすぐ!


ファーストキスは、とても悩んでます。

溺愛カップルのファーストキスは初々しい重ねるだけのキスにするのか、ラブラブすぎてディープにするのか。考えるだけで楽しい。何この溺愛カップル。どうするの、ルクト。頑張れルクト。


続きが気になる人も、ファーストキスを応援したい人も、ぜひともいいねをポチッとくださいね! 励みにします!

2024/05/18

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