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74 侍女は優れた才女で自信家。



 優れた補佐を得るなんて、思わぬ収穫。


「では、テオが待っているのでしょう? あの子も忙しいわ。会ってあげてちょうだい」

「はい、王妃様」

「そうしますわ、王妃様」


 王妃様から帰りを促してくれたので、アリエットとともに立ち上がる。

 時間を作ってくれたテオ殿下と会おう。アリエットも、その予定だったのか。


「裁判の立ち会いについても、わたくしは不参加を推すわ。ミカエルに会わせろと騒いでいるから、ミカエルも不参加の予定だし、それならばリガッティー嬢もそうすべきね」


 まだミカエル殿下と結ばれると思っているのか、と眉をひそめてしまう。当事者のミカエル殿下が不参加なら、私も不参加が認められるので、好都合か。

 お願いします、と会釈したあと、王妃様の庭園をあとにした。

 あのグラデーションに並んだ薔薇の庭園も見納めか。でも、しっかりと堪能が出来たので、よかった。


「アリエット様、イーレイと情報共有をしても?」

「はい、リガッティーお姉様」

「まあ。ふふっ」


 廊下を歩きながら、アリエットに確認すれば、ニコニコと愛嬌笑いを見せる。

 テオ殿下から、償いと称して、家族と想っている証明に姉呼びを言い渡した。

 テオ殿下は初めて会った時から、姉様呼び。

 アリエットの方は遠慮して、嫁いだら、姉呼びをしたいと言っていたのだ。


「冒険者活動については、冤罪を晴らすためのアリバイまで聞いたのかしら?」

「はい。知っております。()()()()()()()()()()()()()も、お聞きしています」

「全てを? 伏せている点があるのだけど」

「二人の功績者の名前のことですね」

「その二人が、()()()()()?」

「……。……初耳でした」


 アリエットの後ろの侍女は、新しく支えるためについた人だろう。

 王妃様の侍女はともかく、他にも近衛騎士もついてきているので、ぼかして伝える。


 口元に手を添えて、イーレイは驚きを堪えた。


 アリエットは、目を爛々に輝かせている。


「正しくは、恋仲になったばかりよ。その()()の直前にね」


 そう教えた。

「なるほど……」と一つ頷いたイーレイは、きっと自分の中で消化することに専念したいのだろう。黙った。

 アリエットの方は、歓喜の叫びを上げそうだ。雰囲気だけ。


 そうこうしているうちに、王城大図書室が見えてきた。

 そんな扉の前に、ルクトさんの姿を見付ける。

 彼の前には、オオスカー侯爵様がいた。


 王城勤めの魔術師を統括もしている王室魔術師長であり、オオスカー侯爵の現当主、オリエアス様。

 赤茶髪にアッシュグレーのメッシュがあって、お洒落なおじ様紳士を醸し出しつつも、貫禄のあるシワと面構えの50代の男性。

 後ろには、王室魔術師のローブをまとう部下を二人、控えさせていた。


 ……何かしら。

 一触即発の様子に見えるわ……。


 魔術師に、と望んでいたオオスカー侯爵様が、もしや、ルクトさんと対立している……?

 ディベット大叔父様にも、なんだか牽制されていた。実のお父様よりも先に、立ちはだかれている感じなのだろうか。



「あ。リガッティー」


 ケロッとした様子のルクトさんは、私に気付いて手を上げた。


「ルクトさん。オオスカー侯爵様。ご機嫌よう」

「ファマス侯爵令嬢。キャメロット伯爵令嬢。コリン伯爵令嬢」


 ダンディーな声で、オオスカー侯爵様は名前を呼んで、挨拶に応える。


「廊下でなんのお話を?」

「例の功績について、詳細を尋ねていたところだ。実に興味深いことに、武器召喚の剣を二本、行使したと報告書を読みましてな。しかも、反対属性ときた。なんたる無茶を」

「ああ。あれは、私も目を剥いてしまいそうでしたわ」

「確かに、負担はありましたけど、可能でしたよ」

「いいえ、ルクトさん。ルクトさんだけですよ、可能に出来たのは」

「リガッティーなら出来るでしょ。いや、負担があるから、反対属性はだめだよ」

「いえ、二属性は反対でなくても、嫌ですよ? 二刀流は使えませんし」


 武器召喚の話。

 武器に魔法付与し、【収納】魔法を駆使した特殊な魔法。

 必殺技級の魔法の武器だ。


 そうか。雰囲気が真面目すぎただけで、単に真剣に魔法について話していただけだったのか。

 オオスカー侯爵様は、魔法が大好きな方だものね。


「失礼、リガッティー様。テオ殿下に会われた方がよろしいのでは? 魔法についての歓談ならば、場所を改めるべきかと」


 イーレイの声で、ハッと我に返る。

 ついつい、魔法についての歓談を始めてしまうところだった。廊下ですることではなかったわ。


 ぼかしていても、伏せるべき話だし、廊下ではだめだ。

 ルクトさんの規格外な強さが明るみにもなるので、口を閉じておこう。


「では、そのうち、歓談の場を設けよう。ヴィアンズ君も」

「いいですね、ぜひ」

「楽しみですわ」


 少し残念そうにオオスカー侯爵様は頷いて見せては、部下を引き連れて歩き去った。


「……またもや牽制されているとばかり、思いました」

「オレも王室魔術師にリガッティーをスカウトするかと思った。いい人。リガッティーの攻撃魔法も聞かれたよ」

「世渡り上手ですね」

「リガッティーのおかげ」


 肩をくっつけるような距離で、こそっと話した。


「えっと……テオ殿下の婚約者?」


 振り返りながら、ルクトさんが耳元で尋ねる。

 ルクトさんが目にやるのは、もちろん、アリエット。

 テオ殿下から、予め容姿を聞いていたのだろう。 


「アリエット様、イーレイ。こちらが、ルクトさんです」

「アリエット・キャメロットと申しますわ」

「イーレイ・コリンです」

「ルクト・ヴィアンズです。冒険者です」


 自己紹介し合えるように、私が取り持つ。

 それから、人目を確認してから、ぴとっとルクトさんと肩をくっつけた。


「私の恋人です」


 そっと、二人に打ち明ける。

 ルクトさんは、照れくさそうに、はにかんだ。


 きゃっ。と悲鳴を呑み込んだであろうアリエットが両手で口を押さえて、震えた。多分、飛び上がることも堪えたに違いない。

 翡翠の瞳を、キラキラー、とさせている。熱い。


「ははっ。似ているとは思わなかったな。テオ殿下に、可愛いって聞いたけれど」

「ルクトさん……照れるのでやめてください。私も言いますよ? リガッティー姉様が、可愛すぎるとしか言わなかったこと」

「オレは、いつも言ってるけど? ね?」


 ね? と首を傾げられても。


 テオ殿下が、王城大図書室の扉から出てきた。

 母親譲りの真っ赤な髪。父親譲りの青い瞳。キリッとした目付きながらも、柔らかな雰囲気をまとう優しげな王子。


 二歳下の第二王子。テオ・ディエ・ハルヴェアル殿下。


 アリエットの婚約者。白の王子の正装姿だから、公務の合間に来たのだろう。


「テオ殿下、ご機嫌よう」

「リガッティー姉様。おめでとうございます」


 ニッコニコなテオ殿下は、もうルクトさんから報告を受けたようだ。恋人関係になったこと。

 ルクトさんに尋ねられたら、答えていいかと、予め許可を求められていた。きっと尋ねらるとはわかっていたけど。

 テオ殿下も、アリエットとよく似た愛嬌笑い。本当に可愛いカップルだ。


「ありがとうございます」


 微笑んで答えると、テオ殿下もアリエットも、嬉しそうに笑みを深めた。

 そして、手を繋いで握り合う。

 その手を見て、ルクトさんは物欲しげな眼差しを、私に目を移した。


「おや? コリン伯爵令嬢も?」

「はい。この度は、リガッティー様のおそばに仕えることになりました」

「ああ。そうでしたか。リガッティー姉様の公務も、手伝っていましたね。私が言うのもなんですが、どうぞよろしくお願いします」


 テオ殿下がイーレイに気付いて、私を頼む言葉をかけると深く頭を下げる。


「あれ? 昨日話してた有能な侍女さん?」

「はい。補佐のために来てくれると、志願してくれました」

「よかったぁ。リガッティーの多忙さが心配だったから、すっごい助かります。……ん?」

「……」


 じっと見つめるイーレイに、ルクトさんはキョトンとした。

 イーレイは、どうルクトさんを見るのだろうか。


「あの甘いマンサスの花、一緒に摘んだの。ルクトさんが見付けてくれたのよ」

「なるほど。わかりました」

「んん? 何がかな???」


 キリッとした目付きながらも、満足げに頷くイーレイは、凝視をやめた。

 首を捻るルクトさんに「砂糖漬けが、ご機嫌取りになりました」と教えれば「みんな食べ物に弱いね???」と目を点にする。


 下級ドラゴンのお肉に続いて、ね。

 確かに…………都合がいいなら、よいのでは?


「リガッティー姉様。ルクトさんと『星創世記』の本を読んでいました」

「厳密には、読んでないけどね。ハリーくんと一緒に話ばっかしてた」

「いえ、聞かずにはいられないじゃないですか。()()! ()()()()()()!」

「しぃー。また司書さんに注意されちゃうよ」


 ルクトさん……すっかりテオ殿下にタメ口を……。

 絶対にせがんだのね、テオ殿下が、タメ口で話してくれと。

 ルクトさんなら貴族の身分でもないから、かしこまらなくていいと言えるものね。学園の先輩後輩という口実を押し付ければいい。

 ……でも、王城はやめてくれないだろうか。せめて、正式に入学してからにしましょうよ……もう。


「王室魔術師長も知ってたことを話しただけだよ?」


 私のジト目を、話しすぎと咎めたものだと思ったルクトさんは、そう弁解する。


「あの。お会い出来て光栄です。最速で最年少と優れた肩書きをお持ちだそうで。ぜひとも、リガッティーお姉様とご一緒にお話しを聞きたいですけれど、予定が立て込んでいまして……わたくしもテオ様と同じ新入生となります。学園内でお話をしたいですわ。先ずは、なりそめから詳しく!」

「あ、それテオ殿下にも言われたな。初日は忙しいんだって? あ、忙しいんですよね? キャメロット伯爵令嬢?」

「新入生なので、どうぞ、後輩扱いを! アリエットとお呼びください!」

「じゃあ、学園内では、テオくんって呼ぶから、アリエットちゃんでもいい?」

「いいですね! 構いませんわ!」

「あはは。今年の後輩、可愛すぎない?」


 子犬の尻尾フリフリなアリエットを見て、ルクトさんは笑う。

 アリエットとテオ殿下。さらには、冒険者大好きハリーくんもだろう。テオ殿下の側近で、同じく新入生。

 三人とも身分が高いのに、目をキラキラしてルクトさんに全力で懐いている。


「私よりもですか?」

「え? そう聞くのも可愛すぎるんだけど? リガッティーが、一番可愛すぎるから」


 対抗したわけではないけれど、戯れ程度に首を傾げて見上げれば、ルクトさんが平然と言葉を返した。

 手を伸ばしたけれど、頭を撫でてはいけないと、しぶしぶと手を引っ込める。


「お姉様を! 可愛いと! 仰る!」と両手で口元を押さえるアリエットが、そのくぐもった小さな悲鳴を零す。


 感激で泣きそうになっていない? 大丈夫?


「落ち着いて、アリエット。本当にリガッティー姉様の可愛さを引き出すのは、ルクト先輩だけだから」と、妙な宥め方をするテオ殿下。


「新学期の初日は、新入生はすぐ帰っちゃうけど、他の学年の生徒の大半は居座ってお喋りするんだよなぁ」

「長期休み明けの再会で、なかなか帰りたがらなくなるのですよね。始業日なので、入学式とホームルームで終わりますが、テオ殿下達は公務となるのでしょう? 二日目は、確か初めての授業の説明でしたね。でも、昼休みがありますから、その時にご一緒しますか?」

「はい、ぜひっ」


 ついつい話し込む新学期の初日の賑やかな教室が思い浮かぶ。


 私としては、クラスメイトに詰め寄られるか、気まずげな空気にされるか、どちらになるだろうか……。

 身分の隔てりなしの実力至上主義の学園だとしても、結局は王妃になる高貴な身分としては、近寄りがたいと平民の生徒には遠慮されがち。

 今回の婚約破棄騒動以来の再会となると、やはり気まずいかもしれないわ……。


 ミカエル殿下達は、謹慎処分により無期限停学扱いとなるから、登校していないとわかるなり、私の無罪は知れ渡る。それでも、婚約解消は確実だとわかるから、腫れ物扱いだろう。

 ……気にはしないけど。


「好奇心というか、今後知っておくべきと思う気になることを質問します」

「何?」


 イーレイが、挙手した。


「恋仲関係は、春休み明けには公にするのですか?」


 もっともな疑問。今現在は、人目を気にしてルクトさんも、触れないように堪えているところ。

 新学期の始まった学園では、公にするかどうか。


 全然頭になかったらしいアリエットとテオ殿下が瞠目して、イーレイから私達に目を向けた。

 浮かれすぎですよ……二人とも。


「前日のルクトさん次第です」

「プレッシャー……。アハハ……。まだファマス侯爵夫妻に会えてないんだ。リガッティーの意志は尊重されてるから、あとはオレ次第ってわけ。オレの意志も想いも伝えるから、それを認めてもらえれば、全面協力をしてもらえるってことになってるんだ」


 私がケロッと言えば、ルクトさんは微苦笑を浮かべた。

 けれども、声をひそめて、テオ殿下達に伝える。


「侯爵夫妻に挨拶……今現在の身分だと、かなりのハードルですね。飛び越えなければ、始まりません。くれぐれも、お願いいたします」

「え、プレッシャー? 真顔でプレッシャーを言い放ちます? 頑張りますけど」


 ふむ、と一つ頷いて、イーレイが応援のつもりの言葉をかけた。

 許してあげて……自分にも他人にも厳しいから、彼女。


「何かお手伝いはっ?」

「だめだよ、アリエット。ルクト先輩が自分で越えるべきことだ」

「その通り。リガッティーが先に想いを認めてもらったから、あとはオレが自分で認めてもらわないといけないんだ。大丈夫、任せて。オレは伴侶の隣にいたいから、全力で意志を伝えるよ」


 焦るアリエットの背中を撫でて、宥めたテオ殿下に、ルクトさんはニッと笑う。

 そして、軽く私と肩を触れた。


 テオ殿下達の前で、急に伴侶と言うから、頬が火照る。


「え? リガッティー様? 素で照れてます?」

「指摘しなくていいから……イーレイ」


 気付いたイーレイから隠すように、両手で頬を押さえて顔を背けた。


「お姉様が! 照れる!?」とまたくぐもった小さな悲鳴がしたので、同じ仕草をしているであろうアリエット。

「これは序の口」とか……テオ殿下も、何を言っているのやら。


「テオ殿下も、お忙しいのでは?」

「そうでした……まだお話をしたいですが、五日後のお昼休みでゆっくりお話をしましょう」


 早く解散をしよう。

 テオ殿下もスケジュールが詰まっているはずだ。

 側近のハリーくん。一緒になって残念な顔をしてないで、ちゃんと促してあげて。


「あ、リガッティー姉様。光魔法の件、まだ目ぼしいものは見つかってはいませんが、調べ続けます」

「ネテイトからも聞きましたわ。王妃様にも先程お話をして、裁判の立ち会いの件をミカエル殿下と同じく、不参加に出来るようにしてくださるそうです」

「ああ……兄様にまだ固執しているそうなので、不参加は妥当かと」


 兄のミカエル殿下を失脚させた元凶の令嬢への不快感からか、眉をひそめたテオ殿下。


「ですが、大叔父様にも言われましたので、それ相応の理由を見付けるために続けさせます。姉様の安全のために」

「ありがとうございます、テオ殿下。そうしていただけると私としても助かりますわ。お願いいたしますね」


 手を繋いだまま歩くテオ殿下とアリエット達を見送ってから、私達も王城を出るべく歩き出す。


「裁判、参加しなくて済むの?」

「はい。まだ第一王子殿下に会わせろと騒いでいるそうで……裁判進行の妨げにもなるので、不参加の予定だそうです。それで私も同じ理由で不参加が許されるかもしれないとのことですわ」

「……一番の被害者は、リガッティーなのに」


 第一王子の身の安全が、優先されていることに、ルクトさんは不満げだ。


 死刑確定の冤罪を被せられかけた私が一番の被害者だし、裁判の当日も私が危害を受ける可能性を警戒しているのだから、不満には思う。

 しかし、実際、直接手を出されて怪我を負ったのは、第一王子。本人の王族殺害未遂の罪に関与しているのだから、近付けさせないだろう。

 私が二の次になるのは、仕方ないことだ。



「イーレイ。私達は学園に行くから、先にファマス侯爵邸に行っていて。ネテイトがいるはずだから、話を通してくれれば」

「いえ、おともします。もっとお話が必要ですから」


 王都学園の卒業生でも、学園には前もって手続きをしないと入れない。


 だから、先に家に行っていていいと言ったのに、ビシッと発言。

 ルクトさんと知り合ってもらって、補佐してもらうべきことを把握してもらうべきね……。

 長く待たせるだろうから、その時は先に帰ってもらおうか。


 一緒に、馬車に乗り込んだ。

 私とルクトさんが隣り合って、目の前にイーレイが座る。


「じゃあ、改めて自己紹介をしましょうか。イーレイから」

「はい、では。イーレイ・コリンです。身分は、伯爵令嬢ですが、侍女という役職で仕事の補佐をいたします。どうぞ、名前で呼んでくださって結構です。こちらは、リガッティー様の伴侶になる前提で、ルクト様とお呼びいたします」

「あ、はい。じゃあ、イーレイさんで」

「はい、お好きにどうぞ。サクッとわたしを知っていただくなら……ミッシェルナル王都学園では才女と謳われた成績を遺しました。四年間、筆記試験は全て満点でしたので」

「え!? それは凄いですね!」

「ええ、ええ。我ながら胸を張れる成績です。あ、敬語はなくて構いません。リガッティー様に使わないのならば、わたしにも使わないでいただきたいです」

「あ、うん、そうする」

「そんな才女なので、コリン伯爵家の女当主になろうとは考えましたが、父が頑ななので許してもらえませんでした。よって、後継ぎになる婿を拒否して、後継ぎ問題は妹にあとを任せ、王城で侍女となりました。三年前から、リガッティー様の補佐としておそばにいて、公務の管理を担っていました。書類仕事からスケジュール管理、さらには交渉まで自信がある有能なので、多忙なリガッティー様をお助け出来ます。お任せください」

「お、おぉう……よろしく……」


 キリッとしながらも、胸に手を当てて、えっへんと張るイーレイに、ルクトさんはたじたじ。

 私に目を向けたところで、肯定しておく。


「この自信満々な通りの優秀な才女ですので、頼りになりますよ。私、彼女の才女としての自覚と発揮によるこの態度、好きなんです」

「そうなんだ……。リガッティーの家じゃなくて、リガッティーの周りが面白いんだね?」

「そうですか? あ……否定は、出来ませんね……」


 もう驚かないで、納得した様子で頷くルクトさん。

 個性的で面白い。それもそうだと、私は否定が出来なくなった。


 あんなに冒険者活動に悲鳴や絶叫を上げてはバタバタ倒れて、熱狂して団結して『ダンジョン』行きを全力で止めようとしていたファマス侯爵家に仕える人々が、下級ドラゴンのお肉にコロリと態度を変えて、ルクトさんを歓喜で大歓迎したり。

 実はファマス侯爵家の代々隠れファンの一族のジオン家に、観賞されていたことが発覚したり。

 個性豊かで賑やかだったのね……私の周り。


「まぁ、こんな感じで、やり甲斐ある仕事を忠実にこなしてくれる方です。この馬車の中で、ルクトさんに関して話せることは……まだありませんね。イーレイ、家に帰ったら、詳しいことを話すわ。先ずは、やってもらいたいこと」

「かしこまりました」


 ルクトさんが規格外最強冒険者という情報は、まだ渡さないようにしよう。

 私専属に新しく雇う以上、忠誠は私にあるので、信用は出来る。正式に雇用契約をしてから、話そう。


「予想がついている通り、冒険者活動を続けていくから、事業をいくつか考えているわ。さらに言うと、ファマス侯爵家の意向により、私はルクトさんの最速ランクアップ記録を塗り替えて、お遊びではないと本気を示すことになっているの。だから、学園の成績を上位に維持したまま、冒険者活動をランクアップのためにこなしつつ、事業を進めることになるの。あなたは、全力で才能を振るって補佐してくれるわね?」


 流石にここまでハードだとは思わなかったのが、目を見開いてパチクリさせたイーレイ。

 でもすぐに、握り拳を見せた。


「流石は、リガッティー様。あなたは、最高に素晴らしいお方だと信じておりました! 腕が鳴りますね! 全力でお支えいたします! お任せを!」


 私もイーレイなら、興奮気味に挑んでくれると思ってたわ。

 本当に思わぬ収穫だ。よかったよかった。


「物凄く頼りになりそうだね」


 最強なくらい、頼りになる補佐官です。

 笑うルクトさんに、頷いて見せる。


「実際、頼りになります。明日は、両親が登城して正式な謝罪を受けに行くのだけど、私とルクトさんは冒険者活動に出掛けるから、ファマス侯爵邸に慣れておいて。今後、冒険者活動で留守中は、私宛ての手紙が来たら、対応をお願いしたいの」

「わかりました。先ずは、リガッティー様に届くお手紙を把握させていただきますね。急ぎならば、代わりに返事をする形で対応をお望みですか?」

「そういうこと。あと、具体的な事業は、とはいえ、まだ考案の段階ね。これから王都学園のレインケ教授に会うの」

「もしや、あの魔物愛好家の教授と、ルクト様が冒険者知識で結託するのですか?」

「愛好家じゃなくて、研究者よ」

「失礼いたしました。魔物研究の教授でしたね」

「彼が面白い方向性の研究を進めているから、ルクトさんの知識で活かせる事業はしていこうかと。先に、新薬を完成させたのだけれど、これはディベット様に任せている最中よ。今日お話出来るといいけど……」

「ディベット学園長様と、新薬の事業ですか? かなりの重要案件なのですね」

「そうなの。ディベット様とお話が出来たから、詳しい話は私の家族と一緒に明かすわ」

「はい、かしこまりました」


 イーレイと、スムーズにテンポよく会話が進むから「すこぶる相性がいいんだ?」とルクトさんは、真横で感心していた。


「それもあるでしょうが、イーレイが優秀だからですよ。先回りをして動く、予想把握で素早く臨機応変に対処がいいですよね」

「まぁ、否定は出来ませんね。ですが、リガッティー様が優れているからこそ、わたしも負けまいと実力を発揮しようとしているだけのことです」


 ふふん、と鼻を高くするイーレイ。


「イーレイさんって、ご令嬢の笑みとか作らないんだ?」

「真顔が気になりますか? 貴族令嬢の淑女の笑みは、どうにも作るのは面倒で……侍女という立場なら無理して作らなくていいのです。真顔で仕事していてこそですからね」


 イーレイは、作り笑いをしない。それは時間の無駄だと言わんばかりに、常に真顔でこなす。

 真顔でも胸を張っていて、自信に満ちた輝きを放つ。そんなイーレイの言動、やっぱり好き。


「ところで、もうすぐお昼となりますが、昼食はどこで食べるか、決めていらっしゃいますか?」

「あ、今日は馬車で食べることにしているの。適当に停めてね」

「馬車の中?」

「昨日は公園広場で食べたけれど、ルクトさんが変装してないから、馬車の中でって。あ、下級ドラゴンのお肉を挟んだサンドイッチなのよ。たくさん作ってもらったから、イーレイもどうぞ」

「……かきゅうどらごんのおにく」


 スケジュールを確認しようとするイーレイ。一流の秘書みたいよねぇ。


 まさかの希少な最高級お肉のサンドイッチと聞いて、イーレイは目を点にして呆然とした声でオウム返しをした。


「ええ。もったいないから、出来る限り、私とルクトさんで持って帰ったのよ。【保存】魔法をかけて【収納】の中に、詰め込めるだけ詰め込んだわ。下級ドラゴンのお肉は、とても美味しいもの。たくさんあるから、当分は下級ドラゴンのお肉料理よ。シェフ達も試行錯誤して極上の料理を作りたいって息巻いているの。飽きないようなメニューにしてくれると思うから、大丈夫。どれも極上の美味しさよ」


 そう私は微笑んで教えておく。

 イーレイは、ゴクリと生唾を飲んだようだった。



 

2023/05/10

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