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72 思い出の壁飾りを見つめて。

【今後の更新予定は、あとがきにて】



リガッティー視点。



 ルクトさんの家は、冒険者ギルド会館とミッシェルナル王都学園の中間位置くらいの距離の住宅地区にある。

 最初の一年は、もっと安い集団住宅の建物の部屋で暮らしていたらしい。

 生活費も仕送りも、十分の貯えになったため、もっと、どちらとも通いやすい中間の住宅地区に引っ越したそうだ。


 馬車道から、一本奥の道。

 なかなか静かな地区の中の小さな一軒家だ。


「ん~……。掃除してから出掛けるべきだった」


 苦笑いを零して、ルクトさんは脱ぎ捨てたであろう服を畳み、そしてそのベッドを整える。少しでもキレイに見せたいという行為だろうか。


 多分、今日ワイシャツを着るまで、選び直したのだろうか。

 その想像に、ちょっと小さく笑いながら、ワンルームを見回す。

 きっと家具も、そのまま置かれた部屋を借りたのだろう。

 玄関に入ってすぐには、サイドボード。上には、淡い紫色のマンサスの花が活けてあった。

 左奥の壁際に、そのベッドとタンス。真ん中に置かれたテーブルの向こうに、オープンキッチン。

 統一されたベージュ色の家具と床。間違いなく、借り物の部屋って感じだ。

 テーブルは、机として利用していたのだろうか。課題らしきノートが積み重なっていた。教科書も。二つの椅子の片方には、学生鞄も、制服も置かれている。

 ワンルームアパートのモデルハウスだとしても、生活感があると不思議だ。


 しげしげと見ていれば、後ろから目を塞がれた。


「あぁ~もう、見ないで~」

「ふふ。そんなに嫌がらなくても。ルクトさんが大掃除するとか言うから、酷い光景を想像しましたよ? 綺麗じゃないですか」

「よかった、マシだと思ってもらえて」

「普通に、綺麗に暮らしている部屋じゃないですか」

「ホント? 幻滅してない?」

「これで? 本当にここで生活しているのなら、普通に綺麗ですよね? 私の家では、片付けをしてくれる方がいますが、ルクトさんは綺麗好きですね」


 目元を塞ぐルクトさんの手を外す。


 それから開いたままのドアに立つ騎士とメイドにも、意見を求めた。

 二人とも、同意の頷きをする。


 ホッと、ルクトさんは安堵の息を吐く。大袈裟だ。


「あ。これ。両親のなんだけど、見る?」

「ルクトさんの? わあ」


 テーブルの上に、土台にはめた【一画映像記録玉】を差し出してくれたので、覗いた。

 二組のカップルがいる。白金髪のボブヘアーとピンク色の瞳の女性と、白銀髪と赤色の瞳の男性。

 にっこりと笑って見せる彼らが、ルクトさんの両親。明るい人柄だと伝わる。


「ルクトさんの容姿は、お父様譲りなのですね……ルクトさんがいないのなら、記録したのは」

「うん。オレ。家を出る前のヤツなんだ。流石に、いきなり、一人暮らしは寂しいと思ってさ」

「……そうですね」


 三年前に、記録した両親の映像。

 そのあと、寂しさを悲観する暇もなく、最速でランクアップして最年少Aランク冒険者となった。


 そして、独りに慣れてしまった最強冒険者。


「あ。ルクトさん。マンサスの花の飾り。差し上げます」

「え? いいの? 作ってる最中って言ってなかった?」

「一つは出来ました。それを変身中に箱に入れてもらったのです。どうぞ」


 【収納】から取り出して、手渡した。

 受け取るなり、箱を開けたルクトさんは、目を輝かせた気がする。


「おお。キレー。へぇー。本当に、そのままなんだ?」

「はい」


 マンサスの花の壁飾り。リース型。

 淡い紫色のマンサスの花をひと房、吊るすデザイン。そして、編み込まれたツタを囲うように円形を作り、そこにも一輪一輪と花を差し込んだ。色とりどりの花を、ピンク、黄色、オレンジ色、水色、そんな順番に詰め込んだマンサスの花のリース。


 水属性の魔法でしっかり水を含ませた花を、無属性の【保護】魔法で包み込んだ。

 生け花を、枯れさせないために施したあとに、また保護を維持が出来る魔法薬を垂らして、【保護】魔法の効果を持続させた。その魔法薬は、パーティー会場の花も垂らして、新鮮さを保つ。珍しい花にも、それを垂らして、長く飾り付けるのだ。


「リガッティーが作ってくれたんだよね? 売られているよりも、綺麗じゃない? わあ……ここ、紫にしてくれたのは、オレが好きだから?」

「ルクトさんなら、喜んでくれると思いまして。お見通しです」

「あはは、まさにそうだ。ありがとう。んー、やっぱり、あそこの壁かな」


 嬉しいと笑みを零して、ルクトさんは早速、箱から取り出して、飾り作る。ベッドに膝をついて、その壁につけた。


「……見る度、あの瞬間を思い出して、浸れるね。ありがとう、リガッティー」


 壁のリースをしげしげと眺めると、私を振り返って、改めてお礼を伝えて笑いかける。

 もう浸っているような、感嘆の息をつく。


「花の砂糖漬けまでもらったし、下級ドラゴンのお肉料理ももらえたし、もらってばっかだなぁ……美味しかった、お昼のサンドイッチ」


 頬杖をついて、ぼんやりと、何かを考えるように見えたけれど、私は【収納】から手紙を取り出した。


「もう一つ。思い出の品のために、手紙を渡してもらえますか? ルクトさん考案の【記録玉】をアクセサリーにして持ち歩くものです。ファン店長さんか、冒険者ギルドに」

「おお! ファン店長に渡した方が早そうじゃない? すぐ、渡しに行くよ」


 魔導道具の職人宛ての手紙。

 ルクトさんは、嬉々として受け取った。


 マンサスの花のように、想いを伝え合った日を思い出せる。二人の瞬間的映像、つまりは写真を閉じ込めた玉を、ネックレスに仕上げたりして、持ち歩く。

 私も欲しいから、お願いをしたためた。


「じゃあ……明日はどうしようか? ……登城まで同行は、マズいかなぁ」


 今日のように、まだ令嬢リガッティーとルクトさんが行動しているのは、よろしくない。

 この前は、ネテイトもギルドマスターのヴァンデスさんもいたからよかったけれど、今日そのヴァンデスさんと両親が功績とともに恋仲も冒険者活動も伏せてほしいと頼んだのに、翌日に堂々と歩くとは……。

 婚約解消直後に、なかなか挑発的な行動よねぇ……。


「テオ殿下に会う()()()、とか」


 名案だと目をキリッとさせて、顎に親指と人差し指を立てた手を添えて決めポーズするルクトさん。


「殿下をだしにしないでください……そんなに行きたいですか?」

「いや、リガッティーといたいんだけど? リガッティーは、明日会えなくていいってこと?」


 ぶぅー、とルクトさんは、頬を膨らませて示す。

 クスクスと笑って、その頬を、両側からつついた。


「会いたいですけど……9日目の冒険者活動はもう決めているので、別の日がいいのでしょう? それはまた両親に尋ねておきますね。ほら……挨拶もありますし」

「あー……どっちがいいか、聞いておいてもらっていいかな? 9日目の冒険者活動の前か後かも」

「はい。明日は……そうですねぇ。学園に行きません?」


 朝から出かけて夕方頃には帰る予定を立てているらしいルクトさんの要望に応えるべく、両親に尋ねておこう。

 明日は午前中に登城して、王妃様と会うから、そのあとはどうしようかと考えて、椅子にかけられた制服に目を留めて、提案した。


「学園っていうと……レインケ教授に?」

「はい。まだ新薬については、ありますが……先にルクトさんの冒険者知識で、レインケ教授と新しい開発案を考えてみたらどうかと思いまして。お話を通しておきません?」

「魔物研究者と開発かぁ〜。確かに、あの人、魔物の能力を有効活用したいってことで、()()()()を思い付いたもんなぁー」


 言い当てたルクトさんに微笑んで頷いて見せれば、手を引っ張られて、さっきの馬車の中のように横抱き状態でルクトさんの膝の上に置かれる。


 魔物研究者のレインケ教授とルクトさんの冒険者による知識で何か考えたり、現役冒険者にまた調べてもらって新たな発見をしたり、開拓の話を持ちかけておくといいはず。


 熱中したら止まらない人だから、予告をしておいた方がいいとも思う。


「ドレスで行くんだよね? 王城から、学園へ」

「そうなりますね」

「ん〜……やっぱり、オレも朝から一緒にいていい?」

「登城はちょっと……」

「わかってるよ。馬車の中でオレは待つだけにして、お昼はまた下級ドラゴンのお肉サンドイッチを、食べたいなって」


 ニッと無邪気に笑いかけるルクトさん。

 確かに、下級ドラゴンのお肉サンドイッチも、美味しかった……二日連続でも構わないくらい。


「結構時間がかかると思うのですがね……ルクトさんがそれでいいなら」

「やったー。決まり♪」


 嬉しそうに、ニコニコするルクトさん。


 彼の後ろに見えるマンサスの花のリース。


 初めて見るルクトさんの家。

 一人きりの彼の家に、私との思い出の品がある。

 胸の中が、ポカポカするわ。


「じゃあ、今日は帰りますね。また夜に、連絡します」

「うん」


 ルクトさんの膝の上から退いて、立ち上がる。

 二人揃って、左の耳飾りを撫でるように掌で掬うようにして、見せ付けあった。

 クスリ、と同じ仕草をしたことに小さく笑い合いながら、馬車道に停めた馬車まで歩き、そこで別れる。


 ルクトさんは手紙を届けに向かい、私は帰宅だ。



 ファマス侯爵邸には、他の家族が揃っていた。


「おかえりなさい、リガッティー」

「ただいま帰りました、お母様。どうでしたか?」


 談話室にいたお母様に挨拶。

 許可をもらって、ソファーに並んで座った。


「首尾は上々な手応えよ。陛下にもお目通りしてもらったの。お願いを聞き入れてくださるそう」

「まあ……急遽、国王陛下ともお話が出来たとは」


 口に手を当てて驚く。

 せいぜい、デリンジャー宰相のところまでで、話がつくのかと思った。

 息子の婚約解消や失態のあとで、予定が立て込んでいそうな国王が会うなんて、よほど事態を重くみたのか。


 それは不思議ではないけれど、今後その事態を重くみた功績を、どう丁重に扱うかだ。

 お願いを聞いてくれたのなら、予定通り、私とルクトさんの功績だという部分は伏せてくれるのだろう。


「私達の登城の知らせを聞いて、手隙にお呼ばれしたのよ。婚約解消について、突撃でもしたのかと思われたのかしら。冒険者ギルドからの報告に同行したと聞いて、驚いてらしたわ」


 婚約解消をした相手側の家族の訪問を知り、慌てて対応か。それはそれで、責任を重く感じてくれている証拠だと思うべきだろう。


 ……恋仲相手が出来たと知ったら、どうしたのかしら。


 こちらも浮気をしていた、なんて弱味を握るなんて、メリットはないだろうが、一応、婚約解消直後に、恋仲になったという申告もしておいたのだ。

 さらには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、私が他国へ嫁ぐという危惧は回避されたと、胸を撫で下ろしたかも。


 そうなると、ルクトさんの爵位授与の話も、かなりスムーズに動いてくれる見込みもある。



「あなたは明日、王妃様に呼ばれたのでしょう?」

「はい。他言無用の契約書にサインをする必要がありますので」

「そう。陛下とはその次の日に、正式な謝罪を受けるために、場を設けられることになったの。王妃様が明日がいいというなら、明日がいいのでしょうね。次の日は、改めて謝罪を受ける? あなたの好きにしていいわ」

「明後日、ですか……。出来れば、冒険者活動をしたいです。交際を始めてからの初冒険だからと、連れて行きたい場所を決めているそうで、夕方には帰れるように朝から行きたいと、ルクトさんが仰っていました」

「ふふふ。またロマンチックな計画でも立てているのかしら?」

「どうでしょうか……そんな気もしますね」


 また登城か。婚約解消しても、登城の日々とは忙しない。


 ルクトさんのサプライズは、またロマンチックなものとなるのかどうか。……正直、微妙なところだ。

 序盤を考えると、レベルの高い冒険先に連れて行かれたサプライズがあった。

 でも、告白のために、あんな素敵な場所へ、連れて行ってくれたのだ。

 恋人になったわけだから、ロマンチックな景色のある冒険先かもしれない。


 ……どっちかしら。微苦笑してしまう。


 ロマンチストなルクトさんは、お母様には好評みたいだ。


「ルクトさんは、お母様とお父様に直接挨拶してからがいいのかと質問でしていましたが、予定としては、明後日のお二人の登城中に、9日目の冒険者活動に行ってもいいでしょうか?」

「私はいいわよ。彼の挨拶なら、そのまた翌日にしたら? 次の日は登校が始まるじゃない。その前には、会うべきよ」


 明々後日に、ルクトさんは私の両親にご挨拶。

 次の日は、四月一日。ミッシェルナル王都学園の新学期が始まる。

 濃厚な春休みが終わるのだ。


「失礼いたします。その話をしたいと当主様がお呼びですよ、奥様、お嬢様」


 コンコンと開いたままの扉をノックしたのは、リィヨンだった。柔和に笑いかける。


「リィヨン。王妃様に手紙を渡してくれた?」

「ええ、もちろんですとも。王妃付きの侍女に手渡しましたあと、当主様達と合流しようと向かっていたら、テオ殿下とお会いしました。見かけたので呼び止められたのですけれど。少しお話をしたのですが……リガッティーお嬢様とルクト様についてでして」


 呼びに来たと言っても、すぐに私とお母様が立ち上がらないように、目の前までやってきた。


「あら……どこまでお話を?」

「恋仲ということはもう報告なさることになっていましたし、テオ殿下もルクト様とのこともご存知でしたので、誠に勝手ながら、自分の判断で今日は一緒にいるとだけお答えしました。その程度ですので、支障はないかと」


 情報を制限するべき時だけれど、もうテオ殿下は私とルクトさんのことは、何かある程度の話しかしていなくても、期待をしている。

 私を姉様と呼ぶ彼なら、その程度なら問題ないし、そもそも他言もしないでくれるだろう。


「ただ……明日、お嬢様が王妃様と会いに登城することも、すでにご存知でしたので、ルクト様もどうか、ということです」

「テオ殿下が? ルクトさんを?」

「はい。リガッティーお嬢様が王妃様と面会中は、自分達と『星創世記』について、王城大図書室で調べないか、と」

「彼も忙しいはずでは?」

「それでも、予定を開けておくとのことです。スケジュールの調節は可能だとか。リガッティーお嬢様を慕っているとは存じていましたが、あの様子ではルクト様のこともかなりお気に召したようですね。流石は、お嬢様が選んだお方です」


 ニッコニコと、リィヨンはルクトさんを褒めた。

 その提案は、ルクトさんも喜びそうだけれど……。

 兄の失脚で、テオ殿下だって予定を狂わされて、さらには、公務だって自分の方になだれ込んだはず。大丈夫かしら……。


「『星創世記』? 彼、まさか『星創世記』を調べていたりするの?」

「いえいえ。『星創世記』の遺跡、二ヶ所に行った経験があるだけで、この前に王城大図書室で、ポロッと何か書物はないのかと言っただけですよ」

「二ヶ所も行っていたことが、すでに驚愕なのですけれど……今更ですかね」


 怪訝な顔で首を傾げたお母様に、それほど大袈裟な調べ物をするわけではないと答えておく。


 『星創世記』は、1000年超えたところの今の文明より、さらに昔に存在したかもしれないという古代文明というものを指している。

 そんな文明などないという否定的な声が多い中、今の文明とはまた違うであろう遺跡が各地で発見されているのだ。


 ルクトさんが行ったことがあるのは、この王国の極寒地域にある壁。洞窟の中に発見されたそこに、壁があるだけだけれど、他の『星創世記』と似たような模様が掘られた壁らしい。いや、もしかしたら、扉だという説もある。


 そして、もう一ヶ所は、地図から見て、王国の下。

 小さな隣国の深森(ふかもり)に、遺跡がある。そこには、守護ゴーレムと呼ばれている人型ゴーレムが扉らしき壁を守るために立ちはだかり、広間で侵入者と戦っている。その守護ゴーレムは、どんなに破壊しても自己再生してしまい、延々と侵入者と戦うそうだ。そんな守護ゴーレムは、魔導道具らしき魔力を感知できない。

 つまり、魔法とは別物の何か。

 今の時代では、特定は出来ないし、そんな技術も存在しない。よって、やはり、古代文明があったのではないか。そんな説が捨てきれないのだ。


 そんな世界の巨大な謎に触れたことがあるルクトさんに、驚きを隠せないリィヨンだったけれど、下級ドラゴン11体の討伐功績のあるルクトさんには、驚愕なんて今更。



「テオ殿下が調節までする気でいるなら、行くべきかもしれないわね。そういえば、例のサブマスターとも会ったわ。マッキャン男爵」

「まあ。何か仰ってました?」

「いいえ。腰低く挨拶してきたわ。蛇のような印象は抱くけれど、小心者のようね。『うつろい琥珀石』の話をちらつかせておいたから、好きに利用なさい。目に余るなら、蛇の頭は切り落とすのよ」

「はい。そうしますわ」


 お母様が立ち上がるから、軽く腕を組んで並んで歩く。

 そんな話をしていれば、後ろをついてくるリィヨンが、小さく笑った気配がしたけれど、気にしない。



 ファマス侯爵家の当主の執務室。

 お父様がどっかりとした大きな机に着いている。その机の横に、マーカスが立っている。

 左の手前に置かれた一人がけソファーに座っているネテイトがいて、隣にスゥヨンが立っていた。

 そんなネテイトがソファーを譲ってくれたから、左に置かれた一人がけソファーにお母様が腰かけたところを見てから、私も座らせてもらう。


「話はもう、リカから聞いているだろうが、上手くいった。国王陛下にも話を通したぞ。『ダンジョン』の下級ドラゴンの出没と討伐は、大々的に公表をし、リガッティーとルクト君の名前は伏せてもらう。元婚約者の侯爵令嬢が冒険者活動を隠したい上に、一緒に討伐した冒険者とは恋仲。王命で当分は、名前が明るみにならないように、尽力してくれるさ」


 情報操作も任せて大丈夫という判断か。

 ファマス侯爵家からのお願いは、効果てきめんそうだ。


「ありがとうございます。お父様、お母様」

「うむ。ギルドマスターにも確認したが、彼が調べられても大丈夫なんだな? 表立って調べて、ファマス侯爵家を刺激なんてしないだろうが」

「はい。ルクトさん自身が明るみにしている功績は、下級ドラゴンの討伐6体まで。あとは最速ランクアップで最年少Aランク冒険者という肩書きと、モンスタースタンピードの期待の星としての活躍ですね。去年の夏休みの所在を探られると、オシアスア国に行ったことがわかり、隣の王太子の捜している冒険者だとは発覚してしまいますが……」

「王室側が、去年の夏休みの所在を調べるとは考えられないな。その隣の王太子でもなければ」


 ルクトさんの調べられる実績は、その程度だろう。冒険者ギルドも容易くは、情報漏洩をしない。

 ただ、深く探られてしまうことだ。

 去年の夏休みの所在を調べられたら、隣の王太子のお捜し冒険者とバレてしまう。

 そこを調べる時点で、最早、疑われていることになるわけで、隣の王太子の口説きが始まるわけだ。

 さらには、私も婚約者がいない状態なわけなので、口説く対象は私とルクトさんになる。


「やはり、時間との勝負だ。だが、その前に、ルクト君と会わねば。認められなければ、ファマス侯爵家の動きも変わる」


 ルクトさんと会う。肝心のルクトさんを認めてもらわないと、ファマス侯爵家の全面協力がない。

 せいぜい、隣の王太子の縁談を回避するために利用されるということになってしまうだろう。


「ちなみに、認めてもらわなければ、どうするつもりだ?」

「伴侶を心に決めたというのに結ばれないのなら、深く謝罪して、籍を抜いてもらうつもりでした。平民になって逃げれば、隣の王太子の縁談で、困らせることもありませんしね」


 お父様の問いに、正直に答えた。

 ネテイト達が、ギョッとした顔になるけれど、当然の選択ね、と言わんばかりにお母様はしれっとした顔だ。


「お前が、平民の暮らしを?」

「貴族令嬢には不便でしょうけれど、不可能ではありませんわ。それに、ルクトさんの今までの貯えでも十分贅沢な暮らしが出来るので、養ってももらえます。まぁ、あくまで認めてもらえないなら、そのつもりだという意志表示の一つであって、説得を努力するつもりでしたわ」

「そうか。平民落ちが実現しないことを祈ろう」


 下級ドラゴンの討伐が11体なら、高級素材の売買で、かなりの貯えが予想が出来るだろう。実際は、全部売り払ってはいないそうだけれど、それでもお金には困っていない。むしろ、ありすぎて困ると、笑うほどだった。

 身分が低くなっても、不自由ない生活は、彼には提供が出来る。私も順応能力は高い。不可能ではないのだ。


 そんな具体的な想像が出来ていることに、微苦笑しながらもお父様は乾いた笑いを零す。


「あなた。三日後の春休み最終日にしましょう。明日はリガッティーが王妃教育を本当の意味で終えるために、登城するわ。その翌日には、国王夫妻からの正式な謝罪を受けに私達が登城だから、その間は9日目の冒険者活動に行きたいそうよ。そのまた次の日がいいと思うわ」

「なるほど。春休みが終わる前がいいだろうから、スケジュール的にもそうするべきだな」


 お母様が代わりに話してくれたので、お父様はそれで了承する。


 そのあとも、必要な話を詰めた。


 ルクトさんが認めてもらえる前提の今後の動きの再確認といったところだ。



 それで解散したので、自分の部屋に戻れば、入れ違いになったメイドが、完成した飾りをベッドに飾ったと教えてくれた。



 確認しに寝室へ向かえば、真ん中の位置でベッドヘッドをつけた壁に、マンサスの花のリースが飾られている。


 ルクトさんに渡したものとは違い、中央のマンサスの花のひと房は、淡いピンク色。

 ルクトさんのルビー色の瞳に似せて、それを選んだ。

 それから、ベッドヘッドの縁に沿って、マンサスの花を一輪一輪、紐のように繋げた飾りも置いてもらった。同じく【保護】で加工済み。

 マンサスの花で飾りつけたベッド。



 ルクトさんの家にも、同じように飾られた思い出の品。


 これを目にする度に、あの瞬間を浸れる。同時に、同じように見ているかもしれない伴侶の存在にも、想い馳せられる。


 壁にかけられたマンサスの花のリースを見つめながら、私は左耳の耳飾りを指先で小突いた。



 これから、二人で添い遂げることを、私の両親に認めてもらえるように、初対面の日が決まったことを知らせなくてはいけない。



 いつの日か。

 この思い出の花のリースが、壁に並んで飾られるだろう――――。



 


更新再開です!

とは、いえ。多分、週に何回か、もしくは週一の更新になってしまうかと!

まだ書き上がっていなくて^^;


「新人発掘大賞」に参加して、最終選考まで残りましたが、残念ながら、入賞を逃しました。orz

代わりと言ってはなんですが、「ネット小説大賞」の方へ参加しますので、キーワードであるタグを「ネトコン11」に変更します。


目標としては、「ネトコン」期間が終わるまでに、二章完結ですね。理想的!


二章は冒険シーンが少なくなりそうですが、学園生活が始まり、第二ラウンドもあるので、楽しみです!

みなさんも、ぜひ、お楽しみに!


2023/05/02

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